ファンダイビング中の死亡事故から見えるバディの法的リスク

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セブ島の魚の群れ(撮影:越智隆治)

ファンダイビングでのロスト死亡事故

今回は、ガイドとはぐれたオープンウォーターダイバー(タンク本数50本)が、ロストから3時間程後にテトラポットに吸いこまれるなどして死亡したファンダイビング中の事故のケースです。

この時のゲストは事故者とダイブマスター資格を有するダイバーの2名でしたが、両名とも事故のあったポイントで何度も潜っており、ガイドとも顔馴染みでした。

ガイドは前日も2人を連れて同じ場所で潜っており、また、そのポイントでのコースはほぼ決まっているものであったため、事故当日は特段のブリーフィングはしませんでした。

エントリー後、最初はガイドが先頭で進んでいたのですが、ゲストが魚群を見つけて先に行ってしまったため、途中からゲストが先頭を泳ぎ、ガイドが後についていくようになっていたようです。

いつもより少し沖の方まで来てしまったところで一旦3人は泳ぐのをやめ、ガイドはそろそろ岸まで戻ろうと思いました。

ガイドから1.5メートルくらい離れたところにいた事故者がガイドの方を見ていたため、ガイドは頷いてアイコンタクトを送りました。

事故者はいつもガイドの後をついてきてくれていたので、ガイドは自分が泳ぎ始めれば事故者はついてくるだろうと思い、戻るために向きを変えて泳ぎ始めました。

もう1人のゲスト(Aさん)も海底を蹴って動き始めたので、戻ることに気付いたのだろうと思いました。

20メートルくらい進んだところで、ガイドはゲストがついてきていないことに気付き、すぐに先ほどの場所まで戻ると、ダイビングベルの音が聞こえました。
少し移動しながらゲストを探しましたが見つからず、7~8分するとダイビングベルの音もしなくなりました。

浮上をしたのかもしれないと思って、海面も探しましたが、見つかりませんでした。
その後、再度、海中を探しましたがダイビングベルの音が途絶えてから10分以上経過していたため、既にこの付近にはいないと判断し、岸まで戻ることにしました。

なお、ガイドがゲストをロストした場所は、岸から100メートル程度の場所で、当日の透明度は約12メートルから約15メートル、水底のうねりは軽度、潮はほとんどなかったようです。

ロスト後のゲストの行動

それでは、ガイドとはぐれた2名はどうしていたのでしょうか。

Aさんの調書によると、ゲスト2名はガイドが岸の方に戻り始めた地点で、逆に沖方向に進んでしまったようです。

そして少し進んだ地点で、ガイドがいないことに気付いてダイビングベルを鳴らしたが、ガイドと会えなかったために、自分達だけで戻ることにしたようです。

Aさんは海面の波が少し荒く感じたため、海中を泳いで戻ることを決め、コンパスを見ながら進み、途中で2回ほど海面まで浮上して位置も確認したが、流されてしまって岸には着けず、タンクのエアがなくなったため海面で助けを待っていたが、波で事故者と離れ離れになったとされていました。

ガイド側の主張

ガイドとしては、自分が岸の方に戻ろうとしていたのを事故者は見ていたのに、どうして反対の方向に進んでしまったのだろうという疑問がありました。

また、「ロスト」と言っても、浮上すればエントリーした岸が見える場所で、ゲストのダイビング能力からすれば独力で岸まで戻ってくることは間違いなくできたはずで、事故になるような所ではないという気持ちもありました。

ロストをして直ちに事故が発生したものでもなく、事故はゲストの不適切な行動が原因と考えられました。
コンパスで戻る方向を確認したということですが、進んだ方向は誤っており、エントリーした岸からどんどん離れた方向に進んでいました。

また、海中で迷子になった場合の1分間ルールも守られていませんでした。
ロストをしたことと事故は因果関係がないということを主張しました。

裁判所におけるやりとり

裁判所においても、この事故はガイドとはぐれたダイバーが海中で迷子になってエア切れを起こしたというような事案ではないことを強調しました。

裁判所も本件事故が特殊なケースであることは理解されたようですが、事故者と共に行動したゲスト(ダイブマスター)はガイドではなく、ロストと因果関係がないとまでは言いきれないだろうなどという話がありました。

ただし、事故者側の行動も加味した和解案が提案され、和解となりました。

同行者(バディ)の責任について

本件では、ガイドがロストをした後に事故者を誘導したゲストへの求償を検討しましたが、事案の長期化などが考えられため、行いませんでした。

ただし、明らかに不適切な行動をとって損害(事故)を発生させた場合には、ゲストであっても賠償義務の追及を受けたり、あるいは損害賠償義務を履行したガイドが求償をすることも考えられると思います。

ガイドやインストラクターの責任、あるいは事故者の責任という2方向で検討することが多いダイビング事故ではありますが、場合によっては同行者(バディ)の責任も考える余地があるように思います。

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PROFILE
近年、日本で最も多いと言ってよいほど、ダイビング事故訴訟を担当している弁護士。
“現場を見たい”との思いから自身もダイバーになり、より現実を知る立場から、ダイビングを知らない裁判官へ伝えるために問題提起を続けている。
 
■経歴
青山学院大学経済学部経済学科卒業
平成12年10月司法修習終了(53期)
平成17年シリウス総合法律事務所準パートナー
平成18年12月公認会計士登録
 
■著書
・事例解説 介護事故における注意義務と責任 (共著・新日本法規)
・事例解説 保育事故における注意義務と責任 (共著・新日本法規)
・事例解説 リハビリ事故における注意義務と責任(共著・新日本法規)
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