20年ぶりの大改訂でPADIオープンウォーターダイバーコースはどこが変わるのか

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年明けの最初のコラムに相応しい題材を、ということで、昨年の秋に改定が発表された「PADIオープン・ウォーター・ダイバー・コース」について取り上げたいと思います。

セブ島の魚の群れ(撮影:越智隆治)

今回の改定告知は、世界各地でPADI社員が開催する「PADIメンバー・セミナー」や、メンバー向けに配布されるコースやダイビング情報を伝達する「トレーニング・ブルティン」と「アンダーシー・ジャーナル」、またマーケット(この場合のマーケットとは、PADIの直接の顧客であるPADIプロフェショナル、PADIダイブ・センター、ダイブ・リゾート、ダイビング器材メーカー、ダイビング・ツアー会社やダイビング・メディアなどですが)に対しては、昨年の11月にフロリダ州オーランドで開催された、ダイビング産業内向けで最大の国際見本市といわれる「DEMA SHOW」で、ダイバー用マニュアルとインストラクター用教材を公開リリースする形で始まりました。

現在、英語版ではありますがすでに入手可能です。

ところで最初に皆さんにお断りしなければならない事があります。

それは私が、私のダイビング・インストラクター・キャリアーがPADIインストラクター資格からスタートして、加えてPADIでエクザミナーとトレーニング・ディレクターとして職務を得た経歴があり、もちろん今も現役のPADIインストラクターとインストラクター・トレーナーで(その間、いくつかの他のテクニカル・ダイビング教育機関のダイバー認定とそれらのインストラクター資格も得ていますが)、さらに始末の悪い事に、PADIのトレーニング・プログラムの欠点までも含めて「まいったなぁ」と苦笑いしながら正面から受け止めてしまう(ご注意:受け入れてしまう、ではありませんよ)、まるで“アバタもエクボ”の、“惚れた女がいい女”と開き直るような、根っからの「PADI好き」であることです。

したがって、ダイバー認定数が多いことから、良くも悪くも世界のダイビング教育に大きな影響を与える「PADIオープン・ウォーター・ダイバー・プログラム」の改定に関するこの小論が、「公平な視点」や「学術的な中立性」に欠ける、と指弾を受けても困るのです。

もともとこの論考が、今回の改定がいかに良い形で世界の今後のダイビング教育に影響を及ぼすだろうか、ということを検証する試みなのですから。

60年代なかばに誕生した「PADIオープン・ウォーター・ダイバー・コース」は、時代の変化と市場の拡大に伴って、この50年の間に何度かの改定を経て進化してきましたが、最近の大きな改定は1990年代中盤でした。

独立していた「体験ダイビング」をコースの一部としてリンクさせ、ダイビング・プロフェショナルの監督下だけでダイビングを楽しみたい、という需要層に応えられるように、コースの途中で「条件付き認定」をする「スクーバ・ダイバー」というランクが設けられました。

またウェブ上でダイビングの基礎理論を事前学習する「eラーニング」の準備が始まったのもちょうどこの頃でした。

さて20年振りの今回の大改定では、なにがどのように変化したのでしょうか?

ダイバー・マニュアルのデザインと内容、写真、イラストや図表が刷新されたのは当然ですが、じつはコースの構造そのものに大きな変更はありません。

PADIの新しいオープンウォーターマニュアル

もちろん幾つかの用語の再定義、例えば深度下でのダイバーの“酔い”の原因が「窒素」だけではないことから「ガス酔い(Gas narcosis)」と表現が変わり、またダイビング・スキル開発の最後の場面では、習得したスキルを総合的に使ってプールで現実のダイビングをシミュレートする「ミニ・ダイブ」が新たに設けられ、スキルの開発面では「トリム」と「中性浮力」の強化をこれまで以上に言及しています。

またマニュアルの最初の章ではコースの目的や概要、構造だけでなく、何を使い(教材)どのようにコースが進められるか、より具体的に解説され、他の同様のコースと比較や違いの説明がしづらい「ダイバー教育」と言う「役務商品」を販売する側の”手抜き”をしにくい工夫があります。

もし私が、ダイバーの能力到達度の向上に関心がなく、安くて短い日数でただコースを販売したいだけの志の低いダイブ・センターの経営者であれば、最も省いてしまいたい章である事は間違いありません。

さて、これらの新しい変更点と追加された項目の解説と広報はPADIの仕事に任せるとして、私の役割は、今回の改定の背後にあるその理由に“妄想”を馳せる事にあります。

言い換えると、前回の改定からこの20年の間に、レクリェーション・ダイビングの世界に何が起きて、何が今回のオープン・ウォーター・ダイバー・プログラムの改定に影響を与えているのかを推論する事です。

次回のこのコラムは、変化の中核に焦点を当て、その背景を探る旅に出ることにしましょう。

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PROFILE
DIR-TECH Divers' Institute を主宰し、東京とフィリピンの拠点を往復しながらダイビング・インストラクション活動を行なう。
「日本水中科学協会」および「日本洞穴学研究所」所属。
 
最近の主な監修・著作に「最新ダイビング用語事典」(成山堂書店)、連載「世界レック遺産」(月刊ダイバー)、「遊ぶ指差さし会話帳・ダイビング英語」(情報センター出版局)など。
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