サイドマウントは水中撮影に有効か?パラオでマクロからワイドまで試してみた結果

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今回取材を行っているDay Dream Palauのガイド陣の多くが、サイドマウント・スタイルで潜っている。

サイドマウントでガイドするDay Dreamガイド(撮影:越智隆治)

サイドマウントでガイドするDay Dreamガイド

サイドマウントとは、元来がテクニカルのケーブダイビング用に開発されたスタイルで、狭い穴を通り抜ける場合に有効。
これが、海中のオープンフィールドで使用する場合にも、水中水平姿勢(トリム)が安定し、ストレスが少なく、簡単に使えるし、タンクを2本持って入れるからエアの消費が激しい人でも安心。など、様々なメリットがある。

サイドマウントに関しては、オーシャナでも何度か取り上げている。

Day Dreamがファンダイビングにサイドマウントを取り入れたのは、2013年の6月から。
現在パラオで、通常のファンダイビングのガイドでサイドマウントを取り入れているのは、今のところDay Dreamだけ。

現在、PADIでは、テクニカルダイビングを導入するにあたって、英語のカリキュラムを和訳し、現在の講習カリキュラムの大幅な改訂が行われている最中だ。
オープンウォーターコース取得時に、バックマウントではなくて、サイドマウントを選択して講習を受ける事も可能になる。

すでにバックマウントでオープンウォーター以上のCカードを有しているダイバーも、サイドマウントスペシャリティーを受講することで、サイドマウントで潜ることができるようになる。

Day Dreamには、現在、サイドマウントスペシャリティーを行なえるスタッフも3名いて、すでにサイドマウントを始めたゲストもいる。

Day Dreamのクルーズ船「龍馬」のサイドマウントスペシャリティー講習担当・神村誠一さん(撮影:越智隆治)

Day Dreamのクルーズ船「龍馬」のサイドマウントスペシャリティー講習担当・神村誠一さん

サイドマウントスペシャリティー講習をしてもらった、Day Dream Palauの加藤栄一さん(撮影:越智隆治)

今回、サイドマウントスペシャリティー講習をしてもらった、Day Dream Palauの加藤栄一さん

ということで、取材に訪れて、ガイドたちが使っているサイドマウントが気にならないはずも無く、水中撮影での使い勝手はどうなのかを検証してみたくて、取材期間中に、サイドマウントにチャレンジさせてもらうことにした。

最初は、本来の取材目的では無かったし、数本「体験」だけしてみようと思っていたのだが…。

体験していくうちに、サイドマウントの面白さと、撮影での有効性を感じ始め、「スペシャリティー受講してもいいですか?」とDay Dreamに懇願し、取材の合間合間で講習を受けることにした。

サイドマウントの講習(撮影:遠藤学)

ブルーコーナーで、サイドマウントスペシャリティーを受講中

そして、最終的には、サイドマウントBCDまでパラオで購入して帰ることに!
と、こんなにハマるとは思っていなかったのに、ここまで入れこんでしまったその理由をあげていこう。

通常のダイビングスタイル(バックマウント)とサイドマウントの違い

まずは器材。
サイドマウントを始めるに当たって、新たに手に入れなければいけないのは、サイドマウント用のBCDと、タンク底部に装着するバックル。
これは、通常セットで販売されている。

これ以外は、すでに使用しているバックマウント用の機材で代用できる。
中には、バックマウント用のBCDでサイドマウントを行なう人もいるそうだが、水中での安定性、操作性など考えると、やはりサイドマウント専用のBCDを使用する方が望ましい。

テクニカルダイビングにも使用できる本格的なBCDもあるが、ファンダイビング用に開発された、軽量コンパクトな浮力体を持つBCDもある。
今回はそちらのBCDを使用した。

使用したのは、HOLLIS社製のs.m.s 50 sport
写真で見てもわかるように、浮力体が背中側にあるだけで、身体にピッタリフィットしてしまう。

サイドマウント専用のBCD(撮影:遠藤学)

バックマウントBCDと比較して、身体へのフィット感は半端無い

サイドマウントを装着して、実際に潜ってみた

エントリー時にサイドマウント用のBCDをつけて海に入り、ボート上からタンクを渡してもらい、フックで固定してみた。

アルミのタンクを2本つけているからなのか、通常自分が11リットルのアルミタンク1本つけてバックマウントで潜る場合は4kgのウエイトを装着しているのに、ウエイトを装着しなくても、簡単に潜降することができた(最終的には、もっとも安定させるには1kgのウエイトが必要となった)。

サイドマウントでのダイビング(撮影:遠藤学)

海に入ってからタンクを渡してもらい、装着するので、楽。エキジット時も、同様に水面でタンクを外し、ボートクルーに渡せるので、腰への負担が少ない

サイドマウントでの海中姿勢(トリム)は、サイドに装着したタンク同様に水面にほぼ水平の姿勢で中性浮力を保つ。
狭くて暗いケーブで、着底して泥を巻き上げてしまわないために考案されたスタイルなので、サイドマウントでは、着底することは想定されていない。

両脇下でしっかりタンクを固定し、バランスがしっかり取れていれば、この姿勢がとても安定していて、慣れてしまうと、とても楽ちん。

水中でのトリムは流線型。
水抵抗の最も少ない体勢で、安定した中性浮力が取れて、移動もなんか、す〜〜〜って感じで滑らか。この安定感は病み付きになりそうだ。

サイドマウントだと、潜降と同時に自然と流線型の体勢になる。
当然の事ながら、水抵抗をもっとも少なくできるので、慣れてしまえば、被写体を見つけた時に、いち早くその近くまで接近する事が可能であり、かつ、ダッシュをしてもエアの消費が少なくて済む事がわかった。

ペリリューのロウニンアジの群れ(撮影:越智隆治)

ペリリューで、ブルーウォーターに飛び出してロウニンアジの群れを追いかけて撮影する場合にも、バックマウントより早く群れに到達できるし、エアの消費も少なくて済む

実際に、バックマウントよりも、サイドマウントの方がエアの消費が少なくなる人が多いようだ。

激しく動き回って撮影すると、それだけエアの消費も多くなる。
そんなときに、一緒に潜っている皆と同じタンクを装着しているだけだと、エア切れで先に浮上しなければいけない状況があるが、サイドマウントの場合、タンクを2本つけているわけだから、その不安も軽減される。
不安が軽減される事による安心感からか、呼吸が安定して、よりエアの消費が少なくなっているようにも感じる。

長く潜っていられるということは、それだけシャッターチャンスにも恵まれるということだ。

また、平行の姿勢のまま、ゆっくりと同じスペースで浮上、潜降を行なう感じになるので、「あ、あれ撮りたい!」と思って、無茶な潜降、浮上を行なうことを抑制してくれる。

サイドマウントはマクロ撮影にはどうなのか

以前サイドマウントで潜っているダイバーにクルーズ取材で一緒になったときに、「横にあるタンクが邪魔だったり、着底し辛いのでマクロ撮影には不向き」と聞いていた。

たしかに、そのときは、ピグミーシーホースなどの撮影だったので、身体をしっかり固定しないと撮影は難しそうだった。
しかし、今回、撮影環境や被写体によっては、有効な場合もあると感じた。

砂泥地や着底できないサンゴの上などでの撮影

砂泥地でのハゼの撮影など、バックマウントだとやはりどこかに着底して身体を固定させなければ、撮影するのは難しい。

当然どれだけ気をつけていても、徐々に砂泥が舞い上がり、周囲の視界が失われてしまうことも多い。
だが、ホバリングの姿勢が取り易いサイドマウントであれば、海底に身体を着底させる事なく、マクロ撮影も可能になる。

実際に、高さの低いサンゴの中に潜む、ベニハゼの仲間を撮影してみた。

写真奥のバックマウントの人は、着底しているために、気をつけてはいても、砂泥が巻き上がってきてしまっている。
しかし、サイドマウントを装着した自分は、撮影中、一度も砂泥にも、サンゴにも触れる事無く、ほぼ同じ位置をホバリングでキープして、撮影することができた。

サイドマウントでのマクロ撮影(撮影:遠藤学)

バックマウントで潜る奥のダイバーの足下で砂泥が巻き上がっているが、ホバリング状態で撮影できるサイドマウントの場合は、その心配が軽減された

サイドマウントで撮ったベニハゼ(撮影:越智隆治)

ホバリング状態で、ベニハゼ等の小さな生物が、ちゃんと撮影ができるのかを検証してみた。慣れるまでは難しいかもしれないが、ご覧のようにしっかり撮影できた

ただ、モニターを見ながらの撮影であれば、多少カメラを下に下げての撮影でも問題ないが、やはり完全に身体をべったりつけての撮影の方がハゼと同じ目線で撮影できるので、一眼レフカメラでの撮影の場合は、45度のビューファインダーを装着して撮影するのが望ましいだろう。

マクロの撮影では、やはり絶対的に身体をどこかに固定しなければ撮影が難しい状況も多い。
しかし、ホバリングで撮影するということは、砂泥を巻き上げて撮影環境を悪くすることを避けるだけでなく、いくら気をつけていても、撮影によって多少破壊してしまう可能性のある海中環境を守るという意味でも有効だと感じた。

サイドマウントで撮影する越智隆治(撮影:遠藤学) サイドマウントで撮影する越智隆治(撮影:遠藤学)

例えば、タイなどのダイビングディスティネーションでは、海中での環境保護に過激なほどに厳しい欧米系ガイドが目につく。

マクロ撮影などで、どうしても身体を固定するために、砂地にちょっと着底したり、岩をちょっと掴んでいたりするだけで、欧米系ガイドに頭を叩かれたり、強引にフィンを引っぱられたりする事もある。

そんな海でいつ頭をはたかれるか心配しながら撮影しなくて済むのにも、有効だなと感じた。

ワイドでは、左右方向の被写体に弱い。
どうしてもサイドにタンクがあるために、両脇にある被写体を急に撮影するのには不向き。

例えば、横からマンタやジンベイザメが突如として姿を見せたときとか。ガイドが指差しで教えてくれたとしても、体勢を替える事で撮影は可能だけど、バックマウントの時よりも、多少タイムラグが出てしまう感じがする。

また、水面を仰ぎ見る撮影の場合、このサイドマウントだと、同じ位置で仰向けになった状態でもほとんど動かずにホバリングするのが簡単な事がわかった。

サイドマウントで仰向けで撮影する越智隆治(撮影:遠藤学)

特にスキル練習しなくても、仰向け姿勢でも同じ位置でピタっとホバリングできるところが凄い

パラオの水面と太陽光(撮影:越智隆治)

まあ、バックマウントでも撮影できないわけではない写真だけど、当然ホバリングして安定しているわけだから、こういう水面を仰ぎ見る写真を撮影するのも、身体が安定し、エアの消費が少なくて済むようになる

今回使用したBCDは浮力体の小さいサイドマウント入門者向けのもの。
身体にフィットしていて、軽量。
毎回エキジット時に、水面からタンクをボートに受け渡しすると、とても身軽になる。

「まるで、ウエットスーツだけ着て、何も付けないでスキンダイビングしてるみたい」と感じたので、ちょっとその状態で実際に少しスキンダイビングで潜ってみることにした。

すると、ほとんど抵抗も無く、するすると潜降ができてしまった。これはいい!

サイドマウントBCDでのスキンダイビング(撮影:遠藤学)

サイドマウント用のBCDを装着したまま、簡単にスキンダイビングができてしまった。ウエットスーツは3mm、ウエイトはタンクを装着したときに必要な1kgをそのまま付けて潜っている

本当はダイビング直後のスキンダイビングは良くないので、あまり勧められないが、もしそのような状態で、突然イルカなどの大物海洋生物が出てきたりしたら、咄嗟に行動が取れてしまう。

瞬時の判断、瞬時の準備でシャッターチャンスを逃すか逃さないかが決まる大物生物の撮影ではとても有効かもと感じた。

しかも、この状態で泳ぎ疲れて水面で休息したい場合、吸気バルブから自分の呼吸で浮力体を膨らませると、仰向けになっての楽な休息姿勢が取れる。
で、また元気になったら空気を抜いて撮影!なんて使い方も(笑)。
まあ、一般ダイバーの方は、あまりこういう状況にはならないとは思うけど。

サイドマウントBCDでのスキンダイビング(撮影:遠藤学)

「まるで陸で撮影してるみたい」と言われた程、BCDの装着感を感じない写真

今回もユウカクチャネルでグルグルマンタを撮影したが、1本目と2本目のダイビングの合間に、スノーケリングでも撮影を続けさせてもらった。

もちろん全部装備を外す方が良いとは思うけど、撮影後に、またタンクをつけて撮影したくなったときにも、水面にいて、ボートからタンクを渡してもらい、ダイビングに変更なんて事も可能だ。

上記した撮影に関しての検証は、サイドマウントでの撮影を行なった上での、僕の個人的感想だ。
サイドマウントスペシャリティーコースとはまったく関係無い事だけ、最後に付け加えさせて頂く。

結局、取材の後半では、ほとんどサイドマウントを使用して撮影を行なっていた。
状況によっては、タンク1本だけ装着して潜ることも可能だから、その海がどういう海なのか、今の潮の流れの状況はどうか、被写体が何なのか、などを加味しながら、ガイドと相談し、バックマウントか、サイドマウントか、タンク1本か2本かを選択して潜る事もできた。

そのうち、パラオに来るファンダイバーの多くが、ボートからサイドマウントでブルーコーナーへ潜る光景が見られるようになるだろうか。

ただ、ちょっと気になったのが、大多数がサイドマウントになった場合、フォローするボートクルーの数も増やさなければいけないのではという事。
ヘッドファーストで潜降しなければいけないときには、やはりボートでタンクをつけて入るのが望ましかったりするので、その辺は今後の課題か。

パラオでのサイドマウントスペシャリティーに関してはDay Dreamへお問い合わせ下さい。

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writer
PROFILE
慶応大学文学部人間関係学科卒業。
産経新聞写真報道局(同紙潜水取材班に所属)を経てフリーのフォトグラファー&ライターに。
以降、南の島や暖かい海などを中心に、自然環境をテーマに取材を続けている。
与那国島の海底遺跡、バハマ・ビミニ島の海に沈むアトランティス・ロード、核実験でビキニ環礁に沈められた戦艦長門、南オーストラリア でのホオジロザメ取材などの水中取材経験もある。
ダイビング経験本数5500本以上。
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