中村卓哉 “写真絵本”発売記念インタビュー

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第5回:水中写真の楽しさ・醍醐味とは

いぬたく

その後に東京に戻ってこられて、その時には自分の作品というか、見せたいものがいっぱいある状態なわけですよね。

中村

まずその撮りためた作品を持って、売り込みをしなきゃいけないと思って。いろんな出版社を回りました。
ただ、水中写真で食って行こうというのは、まだ曖昧な部分があったんです。僕は「撮ること」がもともと好きなので、ダイビングに対してもどちらかというと写真から入ったんですよ。皆さんダイバーから写真家になられる方が多いんですが、自分は逆なんです。写真を撮ること自体が好きなんで。海も、その辺の街中の風景も、みんな地球の一部だという考えで。
海の中だけにこだわってっていうのは、その時にはあまりなかったですかね。陸の撮影の仕事もしていましたし。

いぬたく

それは何年くらい前のことでしょうか?

中村

今から5〜6年前ですね。

いぬたく

今は水中写真がメインになっているということで、その水中写真をメインにするきっかけはどういうことだったんでしょうか?

中村

あれもこれもやってると、やっぱり海って感覚が鈍ってくるんですよ、もう正直な話(笑)
こっちで物撮りやって、こっちでスナップ撮って、たまに仕事が入って海に行くと、魚の寄り方も「なんかちょっと正面から撮りにくいなぁ」とか思うことがあって。そういうことから、水中に絞った方がいいな、と。

いぬたく

そこで水中の方を選ぶということは、もちろん中村さんにとって陸の写真よりも海の方が楽しかったからですよね。例えばどういう点が中村さんにとって違うところですか?

中村

海の写真っていうのは、人から何を言われて撮るというものでもなしに、潜るときはいつも孤独なんですよね。

水中写真家・中村卓哉インタビュー

中村

被写体と対峙したり、長時間粘って撮ったりしている時に、自分の呼吸音だけゴボゴボって聞こえてきて。周りに無駄な雑音がない中で自分がここにいるという存在を確認できるというか、そういう世界なんですよね。普通の仕事とは違った感覚・思いで撮れるってことでしょうね。
それから、自分にとっては海の写真って、自分の日記のようなところがあって。

いぬたく

日記ですか。

中村

「あ、この時は大瀬崎でムラサキハナギンチャクばっか撮ってるな」とか、「この時は沖縄ですごくマニアックな生き物ばかり撮ってるな」、「こういう目線で撮ってたのか」とか。そうやって自分の日記のように自分確認ができるというのは、陸上の仕事ではなかったことなんですよ。
よく言うんですけど、写真を撮ることって自分にとって飯を食うことと一緒で、海に入るのもお風呂に浸かることと一緒なんです。それがなかったら、もう死んだも同然だと。そういう感覚が沖縄のときにあったんですね。
それで東京に戻ってきて、都会の中で海が遠くなって、海が恋しい気持ちになったんですよ。スタジオの中で撮ってる時よりも沖縄にいた時はなんて素晴らしかったんだろう、食えなかったけどあの時は最高だったよな、っていう感覚になったんですね。
ですから、気がついたら自分には海に入るっていうのは風呂に浸かるのと同じように大事なものなんだろうと、その時に感じたんです。

いぬたく

それは海が持つ不思議な魅力ですよね。

中村

そうですねえ。

いぬたく

その素晴らしい沖縄での生活から東京に戻って、食べて行くためにもいろんな出版社さんを回られたということなんですが、その時の反応はどういったものだったんでしょうか?

中村

まず、見てもらえるだけでありがたかったという感じでしたね。
もちろんダイビング関係の媒体で取り上げていただくのはすっごく有難いんですけど、海に入ったことがない人に「海ってどういう世界なの?」っていう入り口の部分っていうのを伝えることが自分の役割なんじゃないかなと思ったんですよ。
ダイビングって、自分の人生を変えた素晴らしいスポーツなんです。海っていうのはすごくスケールが大きくて、人間であることを忘れていろんな感覚を思い起こさせてくれるようなもので。こんなに素晴らしいものが、ただ水中で呼吸が出来ないというだけでみんなが体験できない遠い世界になってしまうというのはもったいないなと思っていて。
「海ってこういうものなんだよ、自分もこういう風に逞しくなったよ」と教えられるようなその伝道師的なポジションにいたいなぁって思ってます。まだまだできていないんですけれども。
特にノンダイバー、あと子どもたちに海の素晴らしさを伝えていきたいという気持ちがあったので、水中写真の売り込み先もなるべく一般の週刊誌とか雑誌とかでしたね。ダイバーの方にはあまり目に触れないかもしれないんですが、そういうことをずっとやってますね。

いぬたく

「週刊現代」に記事が掲載されたり、「週刊実話」でも連載を書かれていたり、そういうことですよね?

中村

そうですね。
あともう一つ、自分が是非これからやっていかなきゃいけないことっていうのが、海を体感できるような空間作りなんです。

水中写真家・中村卓哉インタビュー

中村

これまでもコツコツやってたんですけれど、あまり目立たないところでやっていたので。会議室みたいなところを借りて、360°のプロジェクターで海の映像を映すような感じで。リラックスした状態で、例えばヨガの先生に教室でやってもらったりして。ただ、スケールがまだ小さいなぁ、これじゃあまだちょっと海が伝わらないなぁって。
それで、ある時、もうプラネタリウムだな、と。海のプラネタリウムがいいんじゃないかと思って、何回もテストしてるんですけど、まだ実現できてはいないんです。

いぬたく

それ、面白そうですね!

中村

宇宙って遠い世界ですけど、「じゃあ宇宙どんなところ?」と思ってプラネタリウムを見ると、「あぁこういう空間か」って思いますよね。「ここでフワフワ浮いたら楽しいだろうなぁ」というような感覚を味わえるわけですよ。
海も同じような体験できる空間なので、自分はそういう空間を作って、ノンダイバーの人に「ダイビングってこういうものなんだよ」、「海の世界ってこういう風に自分の呼吸音が聞こえてきてね」って、そういう空間づくりをしたいと思ってます。

いぬたく

それは面白いですよね。お話をうかがっていて、なんで宇宙のプラネタリウムはあるのに海はないんだろうって思ってしまいました(笑)

中村

えぇ、そうなんです(笑)
いくつかされてるところがあるんですけど、やっぱりね、海の映像って大きくすると酔っちゃうんですって。そういう部分をなるべく解消するような方法があるんじゃないかとか、今いろいろ手探りでテストしています。

いぬたく

いつか形になるかもしれないと。

中村

はい、形になります、なります(笑)

いぬたく

楽しみにしてます。 6月に行われる写真展は、そちらは純粋に写真の展示ということなんでしょうか?

中村

そうですね、一般ギャラリーで、写真作品を50点あまり展示します。それはプラネタリウムとはまた別ですね。

いぬたく

お話をうかがっていると、写真展をされる時に実際に展示する場に行かれて、写真の配置も含めてその空間づくりを考えるのもお好きなんじゃないでしょうか?

中村

そうですね。
よく「プロのこだわりはどこですか?」という話があるんですけれども、今は一般の素人さん・アマチュアの方も、皆さんカメラマンだと思っていいと思ってるんです。ただ、じゃあプロとどこが違うかって言うと、発表する時にどういう風に見せるかという見せ方のこだわりやスタイルというのがプロカメラマンはあると思うんです。

いぬたく

なるほど。

水中写真家・中村卓哉インタビュー

中村

僕もよく水中写真のフォト講習ツアーをやるんですけど、伊豆とか海外で一緒に潜って、写真教えて、そこで終わってしまうのではなくて、僕がやる時はその後の写真展まで実際にやってるんですよ。みんなで折半してギャラリーを借りて、「テーマは何にしようか」「一人何点か」って決めて、「じゃああなたはどういうカットにする?モノクロにする?」という話や、「照明はどうしようか、どういう風に当てようか」とか、会場の図面までひいて、みんなで色々考えていく。「DM(ダイレクトメール)はどうしよう」とかね。
そういう部分まで一緒にやって、発表してたくさんの人に見ていただいた時に、やっぱりみんなそれに感動するんですよ。「プロじゃないとできないかと思ってました」って。
これだけデジタルカメラが普及してる中で、パソコンの中で楽しむのもいいんですけど、写真っていうのは見せるまでが写真で、そこで何か自分の想いが伝わったところまでが写真っていうものなんですよね。だから、撮って自己満足で終わるのはもったいないですね。

いぬたく

まずプリントして形にするってところで、一つ全く違ったステップになりますよね。

中村

そうですね。

いぬたく

プリントまではよく聞くんですけど、写真展まで一緒に開催するというのはすごいですね。

中村

去年、一昨年かな、フォト講習ツアーをやった中の10人のメンバーの中でもう2人プロのカメラマンになってますよ。

いぬたく

あっ、そうなんですか。

中村

ええ。一人は水中専門で、一人は物撮りとかライターというところからやってるんです。

いぬたく

なるほど、実際にそういう方も輩出されているんですね。

中村卓哉 “写真絵本”発売記念インタビュー

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