むらいさち写真詩集「ALOHEART」発売記念インタビュー

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「海カメラマンむらいさち」ができるまで

いぬたく

むらいさんはけっこういろんな方の写真展に行かれてますよね?それはやっぱり写真が好きっていうことでしょうか?

むらいさち

そうですね、僕、写真大好きなので(笑)
今までほんとに何にも続くものがなかったんですけど、唯一写真だけが続いて。だから飽きないんですよね。

いぬたく

写真を撮り始めたのっていつぐらいなんですか?

むらいさち

たぶん10年前くらいですね。27歳とか28歳とか。

いぬたく

それまでは何をされてたんですか?

むらいさち

20歳から24歳まで沖縄でインストラクターをやっていて、その後はフリーターとか写真屋さんでバイト。沖縄から帰ってきてからの半年くらいですごく考えたんですよね。何を今後やっていこうかって。皿洗いながら、そういえば写真とかちょっと興味があったなぁっていうのを思い出して。それから写真のスクールに通い始めたりとか、写真屋さんにバイトで入ったりとか。

いぬたく

そうなんですね。もっと早くから写真に触れられてるのかと思っていました。

むらいさち

そこがスタートで、写真を仕事にしたいなぁって思い立ったのが25~26歳くらいの頃です。
昔から写真をやってたわけじゃないですし、ダイビングガイド時代なんてカメラ持ったこともないですから、普通の広告カメラマンの助手で化粧品撮ったりアシスタントしたりしてました。

“うみカメラマン”むらいさち

いぬたく

ガイド時代は水中写真を撮ってなかったんですね。

むらいさち

仕事的にはぶっちゃけガイド時代が一番楽しかったかもしれないですね。写真も当然楽しいんですけど、やっぱり目の前で喜んでくれる人と接する仕事って楽しいじゃないですか。写真は雑誌に出てしまうと見てる人の表情が自分は見えないから、実際はどう感じてるんだろうっていうのがわかんないので。そういうのがダイレクトに分かるガイドの仕事ってほんとに楽しかったですね。心の支えでもありますね、あのときの楽しかった時間っていうのは。

いぬたく

ガイドを辞めてから、カメラマンを志すことになったんですね。

むらいさち

ただ、写真を始めた時は紆余曲折いろいろあって(笑)。
最初は夜の歌舞伎町へ写真を撮りに行ったりして、寝てるホームレスを撮ってたりとか。

いぬたく

おお、ジャーナリスティックですね。

むらいさち

はい。もともと最初に好きになったカメラマンは戦場カメラマンのロバート・キャパだったんです。彼が撮る戦場での子どもの写真がすごく好きで。戦場カメラマンになりたい時期もあったりして。

いぬたく

その志望からだいぶ変わりましたね(笑)なんで今の位置に至ったんでしょうか。

むらいさち

わかんないですねぇ(笑)僕、けっこう簡単にブレちゃうんで。
自分の方向性を見つけるまでに時間がかかったんですよね。10年前に撮ったハワイの写真なんて、観光的な写真ばかり撮ってて、今だと全く使えないんです。

“うみカメラマン”むらいさち

いぬたく

むらいさんから「戦場」っていう言葉が出るとは思わなかったです(笑)

むらいさち

「地雷を踏んだらサヨウナラ」っていう本と映画が大好きで。

いぬたく

ああ、浅野忠信の。

むらいさち

はい。

いぬたく

戦場には結局は行かなかったんですか?

むらいさち

行ってないです。結局チキンなんで(笑)。
行く勇気は全然ないんだけど、行きたいなっていう気持ちはありました。

いぬたく

行く前に、「ちょっとこの方向じゃないな」って思ったんでしょうか。

むらいさち

今の作品の方向性になったのはほんと最近ですよ。最初はやっぱり自分が強くて、今はもうちょっと引いてるっていうか。
いろいろやってる中で、ここがいいのかなっていう感じになったんでしょうね。

いぬたく

今って、肩書きとしては「うみカメラマン」ですよね。

むらいさち

はい。ただ僕ってもともと写真自体が好きでカメラマンになったタイプなんで、水中が撮りたくて写真を始めたわけではないんですよね。だから被写体を限定していなくて、山でも海でも川でも何でもいいんですよね。ただ、海はすごく好きなので、自分の大切なひとつのもの、という感じです。

写真詩集「ALOHEART」

いぬたく

今年1月に写真展をやったときの寺山さんのインタビューで、「メッセージは特にない」って言ってたのが印象的だったんです。

むらいさち

ああ。

いぬたく

むらいさんはよく「ちょっと優しい気分になってほしい」とか「ほっこりしてもらいたい」っておっしゃってるんですけど、それってたぶん現代の特に働いてる女性が求めてるものだと思うんですよね。むらいさんがそこに興味が湧く、そこに役に立ちたいと思う原動力というのは何なんでしょうか?

むらいさち

僕って、もともとダイビングガイドを沖縄でしてたんですよ。ガイドの仕事ってすごく楽しくて、基本的には自分の好きなものを見せるわけじゃないですか。自分で海を案内して、自分の好きなコースをたどって、自分がかわいいと思う魚を指して、それでお客さんも喜んでくれるっていう、すごくいい商売じゃないですか(笑)。

いぬたく

はい、僕もガイドの経験が少しあるので、分かります。

むらいさち

自分が見せたものに対してお客さんが喜んでくれるのを見るのが楽しいんですよね。そこがベースにあるんです。そのダイビングガイドがカメラマンになった感じで、自分の写真を見て誰かに喜んでもらいたいって思うんです。自分のために自分の作品を撮ろうっていう熱い想いもないわけじゃないんですけど、それよりは、この風景に出会った時に、きっとこれを僕が写真に撮って見せたら喜んでくれるだろうなぁっていう想いで写真を撮ってるんで。そのへんが原動力ですね。
撮る時に、絶対喜んでくれるなとかそういうワクワクした気持ちで写真を撮ってるので、アウトプットも自然とこういう形になってくるんじゃないかなって思いますね。

写真詩集「ALOHEART」

いぬたく

なるほど。むらいさんの写真が好きな人ってやっぱり女性が多いですよね。

むらいさち

そうですね。

いぬたく

「これを撮ったら絶対喜んでくれるな」と思ったときに、イメージする人ってある程度決まってるんですか?20~30代くらいの人っていうイメージがあるのか、それとも、男でも女でもおじさんでも子どもでもいいや、っていう感じなんでしょうか?

むらいさち

うーん、具体的に誰かにというのはないですね。自分が「わぁ、きれい」と思ったから、たぶんみんなも喜んでくれるかなっていう感じです。
僕って、すごく一般人なんですよ。変な言い方ですけど、バランス感覚はそんなに悪くないと思ってるので、そういう人間がたまたまカメラマンになっちゃってるから、自分が喜べばある程度みんなも喜んでくれるんじゃないかなって思ってるんですね。
だから自分は全然アーティストだと思ってないんです。自分が感動したものは、たぶんみんなも喜ぶんじゃないかな?って感覚ですね。

いぬたく

その時に、むらいさんの文章や写真の節々からは、今の世の中の人がトゲトゲしてたりとか疲れてたりとか、マイナスの状態が前提になっている感じを受けるんですね。僕もその感覚は同意で、むらいさんの場合はご自身の写真でそれをプラマイゼロかちょっとプラスにしたいっていう風に思ってらっしゃるのかなとよく感じるんですけど、それってガイド時代に感じたことなんでしょうか、いつ頃から感じてらっしゃるんでしょうか?

むらいさち

たぶんもともとがそういう人間なんでしょうね。自分の写真でなんとかしたいとかはあまり思ってないんですけど、なんかそうなってくれたら嬉しいなくらいの感覚ですね。

いぬたく

今の世の中の人がけっこう疲れてるんじゃないか、っていうことは感じます?

むらいさち

それは普通に感じますね。震災以降は特に。
だからってそれを中和したいとか、大それたことは思ってなくて、基本、自分が好きなものを撮ってるだけなんですが、それを見てくれた人の反応がそうだったから味を占めてる部分もあるのかもしれないです。

いぬたく

そういう声が届くこともけっこうありますか?

むらいさち

そうですね、やっぱり写真展の会場でだとか、あとこの写真集もまだ見てる方は少ないんですけど、3人くらいから「涙が出ました」っていうメールをもらったりとか。
自分がそこまで考えてなくても、見た人がいろんなことを考えてくれるのが写真の楽しさでもありますね。
自由に、好きなように楽しんでもらいたいですね。こだわりの強いラーメン屋みたいに食べ方があるわけじゃなくて(笑)。

いぬたく

なるほど。これでちょっと腑に落ちたんですけど、じゃあむらいさんはやっぱり根がすごく女子なんですね。

むらいさち

あぁ、そういうのはあると思いますけどね。けっこうかわいいものはかわいいって言っちゃうし。

いぬたく

はい。それほど計算がなくてこういう写真をずっと撮られてるっていうのは、根が女子なんでしょうね。

むらいさち

乙女入ってます、はい。見かけはおっさんですけど。

いぬたく

見かけもだいぶ女子っぽいと思いますけど(笑)

“うみカメラマン”むらいさち

むらいさち

僕のことを女性と思ってる人は多いんですよね。

いぬたく

たしかに。名前からもそう見えますもんね。

むらいさち

そうそう。名前と写真だけ見て、写真展でお会いしてびっくりっていうパターンが多いですね。

いぬたく

これって本名なんでしたっけ?

むらいさち

本名は違います。「さちお」なんです。

いぬたく

なんで「さち」にしたんですか?

むらいさち

くだらないんですけど、独立するときにネットの姓名判断で調べたら「大凶」って出たんです。凶じゃなくって大凶って、もう死ぬぐらいのことが書いてあって(笑)。
いやいやいや、と。親も名前付ける前に考えろって話なんですけどね。
ちょっと嫌だなって思って、漢字を変えたりいろいろやったんですけどどれも悪い結果で、唯一まぁまぁだったのが「むらいさち」だったんです。
僕、親から「さち」って呼ばれてるんで、「さち」って女性っぽいっていう感覚が全くなかったんですよ。だから「じゃあむらいさちでいいや、わかりやすいし」と思ってつけたら、実は女性っぽい名前なんだっていう流れです(笑)。

いぬたく

なるほど、そうだったんですか。この件って書いちゃっていいですか?

むらいさち

問題ないです。だから、「本名はさちおです」っていうと、男ですねぇって。

いぬたく

たしかに。

むらいさち

でも逆にそうやってインパクトがあってよかったなって、覚えてもらいやすいっていうの。その女性に間違えられるから、だいたいこっちだと思われてることが多くて、会うと「普通に男性なんですね」ってけっこう言われることが多いです。

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むらいさち写真詩集「ALOHEART」発売記念インタビュー

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