姿を消した、北のイルカたち – バハマドルフィンクルーズ2013 week1

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バハマドルフィンクルーズ(撮影:越智隆治)

フロリダからバハマへ向かうドルフィンクルーズ船「Dolphin Dream号」に乗り込み、キャプテンのスコットと3月のタイガーシャーククルーズ以来の挨拶を交わした。

バハマドルフィンクルーズ(撮影:越智隆治)

そこで、聞かされたのは、「去年の12月くらいから、ホワイトサンドリッジのイルカたちの9割が姿を消した」ということだった。

僕が船をチャーターしてドルフィンスイミングを行なっているクルーズ船がいつも訪れる場所は、バハマ連邦のグランドバハマ島北部に広がる、リトルバハマバンクと呼ばれる水深5m〜10mほどの白砂の海底が広がる浅瀬。
そのバンクの北西端近くにあるホワイトサンドリッジというのは、バンクの中でも水深が浅く、美しいバハミアンブルーの海水をたたえ、白砂の海底が広がっているエリア。

クルーズは、ここに棲息しているフレンドリーなタイセイヨウマダラルカたちの群れと泳ぐわけだ。
ここには、50〜60頭のグループが棲息していたのだけど、そのほとんどが、6ヶ月も前から一度も確認されなくなってしまったというのだ。

「まったくいないわけではなくて、5頭くらいは確認しているけど、それ以上多くは、その期間見ていないんだ」とスコット船長。
「何か理由があるの?ハリケーンが直撃したとか」と聞くと、「それは無い。はっきり理由はわからないけど、もしかしたら、シャチに追われてどこかへ集団で逃げてしまったとか、あるいは死んでしまったのかもしれない」という。

自分にしてみれば、船長の「シャチ説」はあまりに突拍子も無い仮説なのだけど、それくらい不思議な出来事なのだ。
「35年間この海でイルカと泳いでいるけど、こんな事初めてだよ」と船長。

自分も20年近く通い続けているけど、2004年に3つのハリケーンが直撃して、個体数が大幅に減った時でさえ30頭くらいになった程度(しかも数年後には、いなくなった何頭かが戻ってきた)で、6ヶ月間で最高5頭しか見られていないというのは初めての話だ。
その5頭も、この海域に棲んでいたイルカたちであるかの確証も無い。

それよりも、これから4週間、ドルフィンクルーズを開催するのに、ゲストの皆にどう説明すればいいのかと正直途方に暮れた。
それでも、にわかには信じられなくて、「とにかく様子を見てみないとわからないよね」と訪ねると、船長は弱々しく苦笑いした。

北のイルカたちがいなくなったとは言っても、通称「ドルフィンサイト」と呼んでいるエリアには、タイセイヨウマダライルカの南のグループ、それにハンドウイルカの群れも棲息していて、まったくイルカたちがいなくなってしまった訳ではない。

これは、今回一番一緒に遊んだハンドウイルカのグループ

これは、今回一番一緒に遊んだハンドウイルカのグループ

ゲストには、事情を説明して、ハンドウイルカとタイセイヨウマダライルカの南の群れをメインに探して泳ぐ事に。
僕らの前のクルーズも、同じように、このハンドウイルカの群れをメインに泳いでいたという。

ただ、御蔵島では、このハンドウイルカと泳ぐのがメインだけど、このバハマでは、正直タイセイヨウマダライルカよりも格段にフレンドリーさが低い。
回転しながら泳ぐと、身体を密着してしまうかのように泳いでくれるタイセイヨウマダライルカと比べて、比較的距離を置いて泳ぐ。

初めて来た人にしてみれば、こんなに青い海で、イルカたちと一緒に泳げただけで感動ものなのだけど、リピーターたちからすると、贅沢かもしれないけど、やはり「物足りない」。

バハマドルフィンクルーズ(撮影:越智隆治)

そうは言っても、今は彼らに頼るしかない。

ハンドウイルカたちが棲息しているのは、北のタイセイヨウマダライルカたちの棲息するホワイトサンドリッジエリアより少し南にある、サウスバーと呼んでいる浅瀬。
水深はホワイトサンドリッジより若干深く、平均で8mくらいだけど、ここも透明度が高く、奇麗なバハミアンブルーの海水をたたえている。

初日、2日目と、ここでハンドウイルカたちと泳ぐ。
2日目には、1組のタイセイヨウマダライルカの親子に遭遇したが、バウライドはするものの、エントリーするとあっという間に泳ぎ去ってしまった。

3日目、なかなかイルカたちの姿が見つからず、ダメ元でホワイトサンドリッジエリアまで足を延ばす。
海は穏やかだったのだけど、結局この日は1日中船を走らせ続けたけど、1頭のイルカにも遭遇できずに終わった。

5年越し、93日間(1クルーズで5日間)続いていた、日中のイルカと一緒に泳げた連続記録は、94日目にして、終わってしまった。

その翌日も、サウスバーでハンドウイルカを探す。
捕食を繰り返す群れと4時間以上一緒に泳ぎ続けた。

その後、ナイトドルフィンをしてみようと、北へと移動の途中、なんと12頭のタイセイヨウマダライルカに遭遇。
母親と子どもたちのグループだ。
時間は6時を回っていたけど、泳げるギリギリまで泳ぎ続けた。

バハマドルフィンクルーズ(撮影:越智隆治)

6ヶ月間、姿を見せていなかったと言われていた、北の群れとの遭遇。
ほとんどのゲストは「いなくなってしまった」事の異常さにはピンと来なかったと思うけど、自分としては、かなり悩んでもいたところでの遭遇だったので、本当に嬉しかった。

結局、この日は、6時間もの長い時間、ハンドウイルカとマダライルカと泳ぎ続けた。
マダラたちは、親も子どもたちもフレンドリーで、身体を密着するかのように近くで泳いでくれて、皆も感動していた。

バハマドルフィンクルーズ(撮影:越智隆治)

しかし、正直なところ、自分が見慣れたイルカたちがいた訳ではなかった。
なので、撮影し終わった写真を、スコット船長が過去に個体識別のために撮影していたイルカたちの写真と比較してみることにした。

結果、この写真に写っている2頭の母親は、右が、カラバッシュ、左がパウパウと名付けた、南のグループの個体と判明した。

右がカラバッシュ、左が、パウパウと名付けたメスのイルカたち

右がカラバッシュ、左が、パウパウと名付けたメスのイルカたち

最終日、この日も、ハンドウイルカに遭遇して泳ぎ、5日間で4日間イルカたちと泳いで、week1のドルフィンクルーズを終了した。

来週は、戻ってきてくれているだろうか・・・・。

バハマドルフィンクルーズ(撮影:越智隆治)

week1のゲストの皆さん。お疲れさまでした〜。

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PROFILE
慶応大学文学部人間関係学科卒業。
産経新聞写真報道局(同紙潜水取材班に所属)を経てフリーのフォトグラファー&ライターに。
以降、南の島や暖かい海などを中心に、自然環境をテーマに取材を続けている。
与那国島の海底遺跡、バハマ・ビミニ島の海に沈むアトランティス・ロード、核実験でビキニ環礁に沈められた戦艦長門、南オーストラリア でのホオジロザメ取材などの水中取材経験もある。
ダイビング経験本数5500本以上。
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