ダイバーにおなじみのあの言葉が消える!?~2014年ダイビング界の大きな流れと小さな話~

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今ごろは、アメリカ・フロリダ州オーランドでDEMA SHOW(デマ・ショー)2013が開催される季節でしょう。

翌年以降のダイビング界の傾向が分かるわけですが、昨年はPADIがリクリエーション・ダイビングから大きくテクニカルダイビングのほうへ踏み出したのが話題でありました。

しかし、テクニカルダイビングの世界へのスライドは、器材面、トレーニング面そしてダイバーの経済面でのネックもあって、そう簡単には、ハイ!みんなそろって今日からテクニカルダイビングですよって、わけにはいきません。
あくまでもリクリエーション・ダイビングの領域が広がる期待感先行といったところでしょう。

やどかり仙人コラム

2014年、ダイビングは自己責任の原点回帰へ!?

ところで、今年2013年のDEMA SHOWの話題の1つは、やはりPADIのオープンウォーター・プログラムの大改訂でしょう。

いずれ続々と詳しいことが日本国内でも発表になるはずですが、ひと言で言うと、“ダイバーたちの自主性の回復”といったところが、その改訂の基本理念のようです。

プールワークや限定水域での練習のときから、それまでに学んだ知識やスキルを元に、自分たちのダイビング・プランを立てる。
当然バディとの共同作業が不可欠になりますな。

やや乱暴な言い方でありますが、インストラクターの言うがままの練習、あるいはぞろぞろとインストラクターの後をくっついて歩く、オープンウォーター・ダイブに、生徒ダイバーの自主性が反映されるといったところです。
いや要求されるといった言ったほうが正しいかもしれません。

ダイビングは自己責任という、原点への回帰のきっかけになればよいと、このヤドカリ爺は思っております。

ヨスジフエダイ(撮影:越智隆治)

NDL(減圧不要限界)が消える!?

そうなれば当然、学習用のテキストやビデオも改訂になるはずです。
その中で、小さな改訂が目に留まります。

No-Decompression Limit(NDL)、皆さんご存知の、というより誰もが知っている日本語なら減圧不要限界と呼ばれている用語が消えそうであります。

減圧不要限界、もちろんアメリカ海軍のダイビング・マニュアルにある、No-Decompression Limitの直訳であります。
いかにもどこかのお医者さんか工学の先生あたりが、1960年代に訳されて以来、連綿と受け継がれております。

その訳語は、リクリエーション・ダイビングにはかたくるし過ぎるだけでなく、インストラクター仲間の中でも、浮上はすべて減圧プロセスなのだから、減圧不要という言い方はおかしいとかなり不評でありました。

正しくは、あえて言うなら、減圧停止不要限界であります。
減圧不要ではなく減圧停止不要というべきであります。
まさにお説ごもっともであります。

もっともアメリカ海軍マニュアルのNDLの定義として、”減圧停止をせずに水面に直接浮上できる限界の時間”と定義しておりますから、はなからNo-Decompression Stop Limitとしておいてくれれば、問題は起きなかったのであります。

実際には、すでに10年も前から、日本語でいう減圧不要限界にあたる、No-Decompression Limitが、少しずつ違う言葉に置き換えられるのが目立つようになりました。
No Stop Limit、No Stop Time、No deco stop Timeなど、「Stop・ストップ」が強調される用語が多くなりました。

PADIなども、基本的にリクリエーション・ダイブ・プラナーという、アメリカ海軍のダイブテーブルをルーツに持つその発展型のダイブテーブルを採用していますから、No-Decompression Limit、日本語訳では減圧不要限界を使っております。

ついに今度のオープンウォーター・ダイバー・コースの改訂にともなって、No-Decompressionの代わりにNo Stop-ノーストップという表現になるようです。
減圧不要限界に比べれば、ずいぶんとかわいげな、ノーストップではありますまいか。

それでも妙に大げさな減圧不要限界などに比べれば、いかにもリクリエーション・ダイビングに向いておると、このヤドカリ爺は思うのであります。

どこかのお役所から、勝手に用語を変えるなといった突っ込みもありそうですが(過去には当時の通産省が、スキューバではなく、スクーバに用語統一したから、PADIのテキストをみな直せなんて、無茶なこと言われたこともございます)、それはさておき、今後は徐々に減圧不要限界なんてダイビング用語は消えていくはずです。

あくまでもこれはPADIの使用する用語が変わるという話に過ぎませんが、今やマーケットシェア60%だの70%などといわれるPADIでありますから、他の指導団体も右に倣えということになるでしょう。

まあ、これからはノーストップ・タイムというようにしましょう。
分かりやすくて、そのまま言えば外国でも通用する、便利な用語ではありませんか。

大きな流れの中のちっちゃな話題でありました。

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PROFILE
1964年にダイビングを始め、インストラクター制度の導入に務めるなど、PADIナンバー“伝説の2桁”を誇るダイビング界の生き字引。
インストラクターをやめ、マスコミを定年退職した今は、ギターとB級グルメが楽しみの日々。
つねづね自由に住居を脱ぎかえるヤドカリの地味・自由さにあこがれる。
ダイコンよりテーブル、マンタよりホンダワラの中のメバルが好き。
本名の唐沢嘉昭で、ダイビングマニュアルをはじめ、ダイビング関連の訳書多数。
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