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「ダイバーは地球で一番面白いところを潜っている」ダイビングリーダーのための海洋生態学(前編)閲覧無制限

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ダイビングリーダーのための海洋生態学 前編

JCUEカフェ(ほぼ)全文書き起こし
「ダイバーは地球環境の中で一番面白いところを潜っている」

2013.11.10 風呂田利夫

■協力/JCUE(日本安全潜水教育協会)

※JCUE会員になると、JCUEカフェは無料で参加できます。

目的でなく手段
海を観るための道具としてのダイビング

みなさんこんばんは、風呂田といいます。
私がダイビングインストラクターになったのが、1978年か9年でして。
だから、もうかれこれ30年以上潜っています。

紹介にあったように、東邦大学の理学部で生物学を教える教員をしていました。
ダイビングインストラクターで、専門も海洋生物の生態学です。

JCUE CAFE講演「ダイビングリーダーのための海洋生態学」風呂田利夫

海の中を直接自分で観察するための道具として、ダイビングは一番いいんです。
とにかく、研究というのは現場で自分の目で見て、自分で観察して、自分でデータを集める、というところから始めないと意味がないんです。

自己体験として色んな情報を集めることは重要なことです。水中でそれを可能にするダイビングを研究に使わない手はありません。

欧米では、研究のためにダイビングを“しなければいけない”という考え方も定着して、
ダイビングは、目的じゃなくて手段なわけです。

そんな、多くの方に研究で使われるダイビングの“観察法”についての指導がないことは非常にもったいないことだと思っています。

要するに、いい研究者になる、いい科学の進展、より環境への理解のために、海を観るための道具としてダイビングが使えるんじゃないかと、私はずっと考えてきました。

ダイビングは、魚を紹介するだけで止まらず、水中環境を観るプログラムに

私は大学では、“研究者向け”のダイビングの指導をしていました。

もっと海を観察するにはどうしたらいいか?

単に潜るのではなく、潜ったときに目の前に広がっている空間の中で、生物や環境が、どういった構造をしていて、どのように作用し合って、どうしてそのような生物が住んでいるのかということを観る目を教えるきっかけになればと、大学でも12、3年、授業をしていました。

今現在は、ダイビングをインタープリテーションの世界に持って行けないだろうか、ということを考えています。

インタープリテーションとは、例えば山に登って、環境や生物を人に紹介するような“自然の代弁者”ということです。

本来、ダイビングインストラクターとは、“水中環境の代弁者”であるほうが面白いんじゃないかと思うんですね。
多くの方は魚を紹介しますけど、そこで止まっている方が多いんじゃないかと思います。

ダイバー、インストラクターはもっと水中環境を観るプログラムとしてダイビングを扱っていいんじゃないかと、それで新しい世界が展開できるんじゃないかと、そう思っています。

今回は学生を教えた経験と自分の思いを合わせまして、こういうやり方で、これから皆さんと一緒に考えていけませんか、という紹介をさせていただいて、皆さんの新たなダイビングスタイルのきっかけになればなと思います。

JCUE CAFE講演「ダイビングリーダーのための海洋生態学」風呂田利夫

気体の世界から液体の世界へ
まずは、陸と海の違いを意識する

最初に考えなければいけないことは、自分が今からどういう特性がある場所に潜ろうとしているのか、ということです。
最初は“海岸(ダイビング空間の特性)”からスタートしていきます。

潜ってみて最初にわかることは、当たり前ですけれど、陸上と海中が全く違う空間である、ということです。

呼吸ができないということや水温が冷たいということだけではなく、生物の生息環境が全然違います。
それは、気体の世界から液体の世界に入っていくということです。

私たちはこの陸上で、空を飛ぶことができませんから地面という二次元平面の世界を生きています。
だから人間は、上を意識することはあまりないんですよ。

だけれど、水中では上を見ると魚やプランクトンがいます。
そして、潮に流されてしまう動く世界ですので、同じところにに留まることは難しい。
多くの陸上の生き物と違い、海中の生き物がある一点に留まっていることは少ないんですね。

そういう違和感が本来あるにも関わらず、私たちは潜ると、その違和感を見過ごしてしまうんです。
まず、海中とはそういう世界なんだということを認識していただきたいです。

陸の地面に相当する海底は、私たちが普段見ている地上の世界と似た動かない世界です。その上に、動く世界がずーっと広がっている。

この二つの世界の違いに注意していると、色んなことが見えてきます。

生態学の知見で好奇心を育てる
エコツアーとしてのダイビング

ダイビングがエコツーリズムというビジネスになればいいよね、という話があります。

水中のエコツーリズムをもっと開発していくことで、単純にダイビングトレーニング、写真を撮る、珍しい生き物を見る、という段階から、更にエコツアーとして、ダイビングが使える、というように考えることです。

そのために、講習として、環境と生物を生態学視点で見る好奇心、を育てようということです。

生態学的というのは別にかた苦しい意味で使っているわけではなく、今まで見ていなかった新たな視点で、好奇心を拡大していこう、ということですね。

で、ビジネスとして、この生態学的な好奇心を取り上げていくことができるんじゃないか、と思っています。
そのために必要な知識がいくつかあります。

まず、その地形がどうやってできているのか、噴火・隆起・侵食・堆積などの要素からなる地形に成立ちの知識。
次に、環境と生物の相互作用の知識。
そして、寄生や共生のような、生物間の相互作用の知識、です。

これらをダイバーが身につけることで、新たな発見をして楽しむことができ、それが成り立つにはこういう環境が必要なんだと理解することが大切です。

社会的な面の話をすると、環境の理解者としての人材を、それも普通の人として、ダイバーを育てていくことになればいいと思います。

要するに、ダイバーが生態学的観察する能力を持つことで、好奇心を育て、エコツーリズムの発展とインタープーリターの育成につながるようになれば、ということですね。

ダイバーが潜る場所は
地球環境の中で一番面白いところ

まず、これは学生の実習でも最初に話すことなんですけれど、私たちが潜れる環境っていうのは深くても30~40m。
その空間というのは海全体の中で特別なところなんですね。

なぜかと言うと波は崖を削る、崖から土砂が落ちてくる、川の流れが土砂を運び海岸で平らに均す。
こうして海岸沿いには浅い空間ができるんです。

その空間が、生物の進化や、生物間の相互作用において非常に重要なところなのです。
太陽の光も当たりますから、生物も集まります。

はっきり言って、地球環境の中で浅い海岸は一番面白いところです。
ここに多様な生物が住んでいることについてはいろんな説がありますが、地球で一番、生物が発展してきた場であることは間違いないです。

地球上で一番ダイナミックな場で、私たちはダイビングできるんです。このことをぜひぜひ多くの方に紹介していってほしいですね。

次に、大気中と水中は全く違う空間ですよね。
大気は、1気圧で、窒素、酸素や二酸化炭素の気体の世界で、水中は水の世界。
塩分もたくさん溶けていて、圧力のかかり方も大気中とは違い大きな圧力差があります。

大気中だと、空中には鳥や虫が飛んでいたりするくらいですが、水中には栄養塩類、有機物、酸素が溶けているので、海底から水面まで、たくさんの生物がいます。

陸上生物の生息空間が二次元空間的なのに対し、海洋生物の生息空間は三次元空間的なのです。
水は常に流れています。ある空間が同じ状態を保つことはほとんどありません。生物は安定せず、浮き、水と一緒に運ばれます。

水は重くて動く、空気とは全く違う水中の世界が楽しめるわけですね。

また、環境が変化する“移行地帯”環境が変わりやすいため、生物の生息の仕方やお互いの関係が複雑なので、いろいろな発見があります。

例えば、潮間帯はたった1.5mほどの変化で、たまにしか潮をかぶらない地帯と、たまにしか潮が引かない地帯が存在します。
水中かそれとも空中かは大きな変化です。
満ちないと行けない、引かないと行けない場所もありますからね。

水面という境界から、生物相の変化をとおして環境激変域のドラマがそこでは繰り広げられているわけです。
ものすごくドラマチックな世界が広がっている、そのことに気付けばもっともっとダイビングが楽しめるようになると思います。

繰り返し観察することによりつかめる生態という概念

次は、ダイビングでの生態学的観察に役立つ概念、というものを紹介します。

実はですね、生態学というものは、どちらかというとやっかいな科学です。
なぜならそれは、生態学が概念の世界で成立っているからです。

ペットボトルは見ただけでそれがペットボトルだとわかりますよね。
だけれど生態学では、透明なプラスチックでできた、四角い500mlの容器の、蓋が白いネジ型のもの、というように構造を言葉で認識しなければいけないからです。

例えば、クラゲや、イセエビ、アジといった名前は種分類と言われます。
これは聞いたことあるでしょう。
ところが、生態分類になると、プランクトン、ベントス、ネクトン、などと呼ばれるようになり、こうなってくると、だんだん何を指しているのかわからなくなってきますよね。

その生物種の生態学的特徴を指して、キーストン種、アンブレラ種、基盤種、外来種、レッドデーブック種、というように、決められた概念によって分けられてきます。

生物種間の相互作用にも種類があります。
共生、寄生、競争、ニッチ、捕食と被食、食物連鎖と食物網、住み込み、間接効果と直接効果、などです。
こういった概念も繰り返しの観察の中で構築できるのが現場観察です。

魚が黒潮に乗ってやってくるけど寒くなったら死んでしまう、というような死滅回遊、生物が一生を通してどのような生活を送っているのかというような生活史などの生活の特徴もあります。

次に、生態学的階層という概念ですが、この中で一番大きなものが生態系、と呼ばれる概念でしょう。
これも概念の最たるもので、生態系とは何なのか、だれも説明できないのではないでしょうか。
けれど、何度も繰り返し観察することで、それを自分なりに掴んでいくわけですね。

(以下、後編に続きます)

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