たった6分間の潜水で減圧症!? 急浮上速度が原因と考えられる減圧症事例

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宮古島・八重干瀬のサンゴ(撮影:むらいさち)

池間島の北約5~22kmに位置する八重干瀬(やびじ・やえびし)は、南北約17km、東西約6.5kmという広大さ

前回は最大水深が24mと、それほど深くなく、しかも無減圧潜水の範囲内で潜っていたのに、平均水深が深くて潜水時間が長かったことによって、減圧不足を生じて発症したと思われる事例をご紹介しました。

今回は、さらに最大水深が浅くて、体内窒素量が少なくても、浮上速度違反によって減圧症が発症したと推測される典型的な罹患例をご紹介します。

このケースは5~6年前に減圧症罹患者同士の情報交換サイトを運営されていた方から、まとめて分析を依頼された25人くらいの罹患者潜水データの中にあったものです。

潜水時間が短くて、体内窒素量が少なくても
発症要因となる浮上速度違反

まずは頂いたデータをご覧ください。

20150709-罹患ダイビングデータ(撮影:今村)

このデータを見て、減圧症が発症した10月15日は1本目と2本目の間の水面休息時間が62分と短いものの、平均水深×潜水時間の観点から、2本とも浮上速度違反をしなければ問題ないダイビングだと私は判断しました。

そして、最初から怪しいとにらんでいたのが、実は前日の6分間のダイビングです。

「えっ、15日のダイビングではないの?」と思われる方もいるかもしれませんが、減圧症は当日すぐに発症する場合もあれば、翌日以降に発症する場合もあります。

このケースの場合は、翌日は朝から身体に違和感がありながらのダイビングだったということなので、もしかしたら、初日に発症して翌日に悪化したのかもしれません。

ですから、もしも連日のダイビングで少しでも身体に違和感がある場合は、ダイビングはそこで中止するべきだと私は考えます。

20150709-急浮上グラフ

さて、最大深度20m、平均水深15.7m、潜水時間6分という情報から作ったシミュレーションでは上記のような潜水軌跡になりました。

平均水深が深いので、潜降後にほぼ水深20mの位置に留まっていたのではないかと推測できます。

また、何らかの原因で潜水を中止して浮上したことも推測できました。

そこで、このデータを提供していただいた方に、「この方は器材トラブルか何かでダイビングを中止したのではないですか?」とお聞きしたところ、確かカメラのハウジングが水没(かドライスーツが水没)してやむを得ず浮上したというお答えでした。

浮上速度違反警告は出さなかったということですが、おそらくかなりの速度で浮上し、ダイブコンピュータの機種の違いによっては警告が出たのではないかと思われます。
※実際にこのシミュレーションだとTUSAのダイコンでは浮上速度違反(赤い部分)になります。

そして、潜水終了時の体内窒素量は以下の通りです。

20150709-最大体内窒素圧

最大値で左から一番目のハーフタイム5分のコンパートメントの30%と、潜水時間6分だけに全く問題はありません。

20150709-浮上時体内窒素圧

ダイビング中の最大値でもハーフタイム5分のコンパートメントが34%程度で、体内窒素量的に危ない領域に行ったわけではもちろんありません。

潜水時間が極めて短いので当然のことです。

しかし、この方の減圧症発症の要因はこのダイビングにあったと確信を持った私は、データ提供者の方に、「この方は完全Ⅱ型(神経系)の減圧症ではないですか?」とお聞きしました。

そして、返って来た答えは、やはりその通り完全Ⅱ型の減圧症でした。

なぜ、そう推測したかというと、体内窒素量的には少ないものの、窒素の吸排出の速い組織だけに窒素を溜めた状態で急浮上しているので、この場合はほぼⅠ型の要素は出ないのではないかと思ったからです。

これにはデータ提供者の方も「何故分ったんですか?」とビックリされていました。

と、Ⅰ型、Ⅱ型といった難しい話は別にして、以上の事から、体内窒素量が少なくても、急浮上を行うと減圧症は発症すると考えられます。

私が以前読んだ文献によると、オープンウォーターの講習中にスクーバで軽く潜った後に緊急スイミングアセントの練習をして発症した例もあるそうです。

20150709-二大要因

前回の記事でもご紹介しましたが、体質や体調などの生理的要因を別とすれば、浮上速度違反は減圧症発症の非常に大きな要因となります。

浮上速度はできるだけゆっくり!
安全停止の後こそ特にゆっくり!!

ですから、まずダイバーが身につけなければならない技術は、何よりも的確な(特に浅場での)浮力コントロールだといえます。

特に、10 メートルより浅い場所での浮力コントロールが苦手なビギナーダイバーに対し、重めのウエイトを装着することが推奨されているのは、潜降のしやすさというよりも、急浮上を防ぐためだと言えます。
 
ここでCカード取得時の各潜水指導団体の講習や、理科の授業でも出てきた水深と圧力の関係を思い出してみましょう。

地上は1気圧、水深10mで2気圧、水深20mで3気圧、水深30mで4気圧と、水深が10m深くなる毎に1気圧ずつ変化していきます。

水深10mでは地上にあった空気は2気圧の影響を受けて1/2の体積になります。
同様に水深20mでは1/3、水深30mでは1/4となります。

水深30mから20mへ浮上すると4気圧から3気圧への変化となり、体積は4/3倍に膨れます。
一方、水深10mから0mへ浮上すると、体積は2倍に膨れます。

つまり、水深の浅い場所での深度変化の方が、同じ10 メートル浮上したとしても気体の体積が大きく変化するのです。

このことからも、水深が浅くなれば浅くなるほど、浮上速度をよりゆっくり落として、注意深く浮上しなければならないことが分かるはずです。

以前海外でボートダイビングをした際、水深5mでアンカーロープにつかまって安全停止をした後に、ガイドさんが次々にお客さんに浮上をするよう指示を出していたのを見たことがあります。

お客さんはその指示に従って全速力でラダーめがけて浮上していました……。

ここまで読めば、水深5m から水面まで一気に浮上することが、いかに危険なことかということが理解できましたよね。

安全停止の後こそ、むしろ更にゆっくり浮上するように心がけましょう。

アンカーロープなどがある場合は必ずつかんで一握りずつ浮上、砂地であればほふく前進でゆっくりゆっくり浮上して行く心がけが必要なのです。

カッコ良く中性浮力を決めるのではなく、ガイドやインストラクターの方がカッコ悪く模範を示す姿勢が大切だと私は強く思います。

おそらく、統計データはないものの、安全停止後に減圧症に罹患した事例はかなりあるのではないかと私は推測しています。

さて、今回はここまでです。

次回はまた違う減圧症罹患事例を取り上げて解説しますね。

★今村さんが書いたダイバー必読の減圧症予防法テキスト

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PROFILE
某電気系メーカーから、TUSAブランドでお馴染みの株式会社タバタに転職してからダイビングを始めた。友人や知人が相次いで減圧症に罹患して苦しむ様子を目の当たりにして、ダイブコンピュータと減圧症の相関関係を独自の方法で調査・研究し始める。TUSAホームページ上に著述した「減圧症の予防法を知ろう!」が評価され、日本高気圧環境・潜水医学会の「小田原セミナー」や日本水中科学協会の「マンスリーセミナー」など、講演を多数行う。12本のバーグラフで体内窒素量を表示するIQ-850ダイブコンピュータの基本機能や、ソーラー充電式ダイブコンピュータIQ1203. 1204のM値警告機能を考案する等、独自の安全機能を搭載した。現在は株式会社タバタを退職して講演活動などを行っている。夢はフルドットを活かしたより安全なダイブコンピュータを開発すること。
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