メキシコ湾原油流出事故はジンベエザメにどんな影響を与えたか
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当サイトでもいくつか記事をアップしているメキシコ湾の原油流出事故。
周辺の環境・生物への影響が懸念されますが、今回はジンベエザメに与えている影響の記事をご紹介します。
この原油流出事故により、メキシコ湾のジンベエザメが減少している恐れがあるようです。
Photograph by Colin Parker
先日のメキシコ湾原油流出事故では、これまでに約78万キロリットルという途方もない量の原油がミシシッピ・デルタ南部に流れ込んだと推測されています。
それと同時に、メキシコ湾北部の1/3を占めるこの海域で、奇しくも近年ジンベエザメの目撃情報が相次いでいます。
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(この地図の上部、ルイジアナ、ニュー・オーリンズ付近がミシシッピ・デルタです)
「ジンベエザメにとって最悪の場所とタイミングだ」
南ミシシッピ大学の湾岸研究所(Gulf Coast Research Laboratory)で同種を研究している生物学者エリック・ホフマイヤー氏はこう語ります。
ジンベエザメは日に7〜8時間ほどは水面付近でエサを求めて回遊することがわかっていますが、浮かぶ油膜によってえらが詰まって窒息死してしまう危険性や、エサが汚染されてしまう恐れがあります。ただ、まだ死骸の発見例はありません。
ホフマイヤー氏は、こう語っています。
「エサを獲りながら原油を飲み込んでしまったと考えると、命を落とした後に海底に沈んでいる可能性が高い。現時点では、個体数減少の実態は把握できていない」
また、他の研究者によれば、ジンベエザメがプランクトンを飲み込む際に汚染物質を吸い込んでいることは間違いないようです。細胞が汚染され健康状態に悪影響が出る恐れがありますが、今は確かなことは分かっていません。この流出原油が結果的にジンベエザメにどのような影響を与えたのか、正確なところは数年経たなければ分からないようです。
その一方で、研究の一環で発信器をつけられたジンベエザメは、既に生息地を変えたという報告もあります。
この夏はフロリダ州湾岸付近の大陸棚でジンベエザメが目撃された例がきわめて多く、汚染のないクリーンな海域に移動してきた可能性もあるようです。なお、通常は湾岸ではなく、遠く離れた沖合いで目撃されることが多いとのことです。
確かなことは分からないものの、流出原油から逃れるために東へ移動した可能性があるようです。
また、生息地に関しては、それを次々と変えるジンベエザメの動きを研究してみると、事故の影響が予想以上に広範囲に及ぶ危険性もがあることも分かってきたようです。
野生生物保護協会(WCS)のオーシャン・ジャイアント・プログラム(Ocean Giants Program)に携わるサメ研究の第一人者、レイチェル・グラハム氏は「ジンベエザメは全体で1つの大きな個体群を構成している」としながら、こう語っています。
「カリブ海から中央アメリカ、メキシコ湾にまたがって生息するジンベエザメの個体群は、外見的な特徴こそ異なるが互いに密接な関係にある。流出事故のあった湾北部の海域に生息する個体群が、移動先に影響を及ぼす可能性がある」
「体が大きいこのサメはエサの量も膨大だ。魚卵などを嗜好するが、摂取時期が限られており分布海域も狭い。いろいろ考え合わせると、複数の海域のジンベエザメ全体を維持するエサが、確保できなくなる可能性もある」
現在は数百〜数千頭単位の個体が研究対象とされていますが、グラハム氏は本当の影響を調べるにはもっと大規模な調査が必要としています。
ただ、「しかし悪い知らせばかりではない」と前出のミシシッピ大学の生物学者・ホフマイヤー氏は言っています。
「複数の目撃例があるということは、メキシコ湾北部のジンベエザメの数は思ったより多いのかもしれない。流出事故の影響は未だ計り知れないが、この点は前向きにとらえていいと思う」
いずれにせよ、メキシコ湾の原油流出事故がジンベエザメに影響を与えているのは間違いなさそうですが、それがどの程度のものかを正確に把握するには数年がかりの大規模な調査が必要ということです。
また、ここではダイバーにも馴染みの深い生物としてジンベエザメを採り上げていますが、大切なのはこれはジンベエザメに限らず全ての生物に関わる話ということです。全ての生物と環境はお互いに密接に関わり合っている以上、一つの生物だけに限った話ではない、ということもぜひ覚えておいてください。
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