• 撮影:中村卓哉
  • ナビゲーター:河本雄太
  • 撮影・文:坪根雄大
  • 構成・文:中西美樹、山崎陽子
  • 監修:中村竜也
  • デザイン:寒川広範
  • 取材協力:ダイビングサービス熱海
  • 器材協力:(株)キヌガワ、(株)タバタ、ワールドダイブ(株)
  • 衣装協力:Ocean Pacific、HELLY HANSEN
  • (五十音順)
場所を示す線 日本地図の中の天草の場所 日本地図 天草の拡大地図

海を望む温泉地として、長い歴史をもつ熱海。昭和にはハネムーンの旅先として人気を誇り、そして令和になってからは、小洒落たスイーツ店や快適なリゾートホテルなどが充実してきたこともあり、若者や外国人観光客から再び注目を集めている。
そんな変遷を遂げてきた熱海の「本当の魅力」を知るべく、水中写真家・中村卓哉さん(以下、卓哉さん)とオーシャナCEOの河本雄太(以下、河本)たちが取材に訪れた。海の案内人は、「ダイビングサービス熱海」の豊嶋康志さん(以下、豊嶋さん)。そこでは新旧入り混じる多様な文化、そして、ダイナミックな海が待っていた。

過去連載は第0話からご覧ください。

ニッポンの海と文化 第0話

今回訪れた熱海とは?
熱海の最大の特徴は、海岸線沿いに多くの温泉施設があること。ビーチリゾートと温泉地の両方を一度に楽しめる場所は、世界的にも珍しい。そして、アクセスのよさも大きな魅力。東京から車ならば約1時間半、電車利用では東京駅から新幹線でわずか約45分(こだま利用)、特急踊り子号でも約1時間20分の近さだ。しかも沈船や魚群、ダイナミックな洞窟と、何度でも訪れたくなる魅力的なダイビングポイントが揃っている。
海側から見た熱海の風景。海沿いに宿が並び、すぐ後ろには緑豊かな山々がそびえている(撮影:中村卓哉)

熱海の海、そして陸の見どころを紹介する前に、ナビゲーターである河本が「熱海を久しぶりに訪れて感じたこと」をお伝えしよう。「ニッポンの海と文化」の視点から見た熱海の魅力とはどんなものだったのだろうか。

昔と変わらない海の中や、新しくなりつつも郷愁感を感じられる陸の魅力を伝えたい

一本路地裏に入ると、レトロな雰囲気の建物や施設に出会う(写真:中村卓哉)

「熱海」と聞いて、その地名を知らない人はあまりいないと思うんです。それぐらい観光地として有名ですが、では「熱海といえば何が有名?」と聞かれたら、すぐに何が有名かは思い浮かばないかもしれません。でも、僕たちダイバーは「熱海といえばダイビング」と思い浮かびますが、そもそも熱海の海がどんなふうなのかは知らない人が結構多いのでは? 今回の「ニッポンの海と文化」では、そこをちゃんと出したいと思いました。

僕がダイビングを始めたのは、和歌山県の白浜町ですけど、白浜町といえば、昭和の時代では熱海と並んで”二大新婚旅行のメッカ“でした。熱海が観光地として栄え始めたのは、今から50~60年前。まさに僕らの父親世代にとっては、ハッピーな旅先の象徴のような場所で。その後、世の中の変化とともに熱海も一時は観光客が減りました。しかし、今は復活を遂げて、今回訪れてみて、観光客に若い世代が増えたなということと、街並みが随分変わったなと感じました。

しかし、ダイビングに関しては器材のセッティングからエントリー、エキジットまで、昔と変わらない。「沈船」は少し崩れている部分もありましたが、正面から見ると圧倒的な迫力で。以前と同じように存在感がありました。

やはり「すごく変わっていく陸」と「変わっていない海の中」を感じました。でも、西武園ゆうえんちなどが昭和感ただよう街並みを再現し郷愁感を誘う場所として流行っていますけれど、熱海はそういうものもリアルに探せる場所ですよね。例えば建物が文化財になっていたり、源頼朝が北条政子にプロポーズしたという伊豆山神社が残っていたりして、ただ観光するだけでなく歴史を実感できました。

四季に応じていろいろな自然が楽しめる熱海は海外の観光客にもおすすめしたい

最初の取材は、3月末。熱海城の周辺では、ちょうど桜が満開だった(写真:河本雄太)

今まで「ニッポンの海と文化」で紹介してきた旅先は、熊本県の天草や北海道の知床など、行くのに少しハードルが高い場所でした。しかし、熱海は首都圏に住んでいる方なら、本当に行こうと思ったらすぐに行ける近さです。しかも海の中は、沈船あり、洞窟あり、四季によって様々な魚が見られて、ダイビングの魅力がすべて揃っている。日帰りでも十分ダイビングは楽しめますが、すぐに帰らないほうがいいです(笑)。1泊は必ずしてほしい。春は桜、夏は海水浴、秋は紅葉、そして温泉は冬がやっぱりいいですし。

海外の観光客の方が日本に期待しているものが、すべて詰まっている街だと思うので、インバウンドの旅先としても最適です。熱海で体験したことを、もっと掘り下げるために日本各地に行ってもらうのもいいと思います。

「沈船」は魚たちが集まる漁礁になっている。サクラダイの群れが花びらが舞うように泳いでいた(撮影:中村卓哉)

熱海のダイビングといえば、最もよく知られるのが「沈船」。そして、ダイナミックな地形が楽しめる「小曽我こそが洞窟」だ。卓哉さんがこの2スポットを撮影。卓哉さんの視点で切り取った熱海の海、果たしてどんなシーンが見られるのだろうか⁉

日本最大級の「沈船」は、船のスケール感とソフトコーラルと魚群が圧巻

取材チームが最初に潜ったのは、熱海で最も人気があるダイビングポイント「沈船」。1986年に沈んだ砂利運搬船「旭16号」は全長81mもの大きさで、ダイビングで見られる沈船としては国内最大級だ。甲板付近にはソフトコーラルがビッシリとついていて、周囲にはサクラダイをはじめ、たくさんの魚たちがすみついているという。
「ダイビングサービス熱海」の豊嶋さんからブリーフィングを受けて、いざポイントへ!

「沈船」までは、港からボートで約5分。熱海のホテル群を見ながら、ポイントへと進んでいく(写真:坪根雄大)

ロープをつたって潜降していくと、水深30mあたりに鎮座する沈船がだんだん見えてくる。
ライトを照らす豊嶋さんと比較すると、どれだけのスケール感の沈船かがよくわかる。深度を下げていくと、沈船の周りに様々な魚群が!

沈船にはソフトコーラルがついている。近づくにつれて、その全容がだんだん見えてくる(撮影:中村卓哉)
背に黄色い帯が入るタカベの数えきれないほどの大群が泳いできた(撮影:中村卓哉)
甲板部分にはウツボが! 沈船を探検する楽しさにプラスして、いろいろな生き物に会えるのが楽しい(撮影:中村卓哉)

「とにかくスケールが大きな沈船で、観光地として賑わう熱海から、ボートでわずか10分足らずの場所にあるというのが素晴らしいですね。ソフトコーラルが見事なので、絵になります。また、サクラダイが見られる時期なら、サクラダイの撮影だけで1ダイブしてもいいと思ったくらいです。また沈船は砂利運搬船とのことですが、この船にどんな歴史があるのかも興味深いですね」と卓哉さん。

実は、今回の熱海編では「沈船」に春と秋の2回、撮影に行っている。水の色がブルーに抜けているのが、秋に撮影した写真で、緑がかっているのが春の写真だ。
卓哉さんいわく「青く抜けているほうが写真としてはきれいに見えるかもしれませんが、緑っぽく見える写真もこの海の色」。

ソフトコーラルやヤギには無数のクロホシイシモチやネンブツダイが群れ泳ぐ(撮影:中村卓哉)

季節によって、コンディションによって変わる海の色も、楽しんで潜れるようになりたいものだ…と筆者は卓哉さんの懐の深さに感動した。

伊豆屈指のダイナミックポイント
「小曽我洞窟」のエントリーポイントへボートが近づくと、次第に胸が高鳴ってくる(撮影:坪根雄大)

伊豆屈指のダイナミックポイント

「沈船」と双璧をなす熱海の人気ポイントが、11月から4月の期間限定で潜れる「小曽我洞窟」だ。先ほど春と秋に撮影に行っていると言ったが、その理由はこのポイントをどうしても潜りたかったからだ。最初に3月下旬に訪れたときは、残念ながら潜ることができなかった。そのため、コンディションが安定していることが多い秋に再度チャレンジしたのだった。

「小曽我洞窟」の定番カットといえば、太陽光が差し込むこんな風景だ。

洞窟の中央から入口の方向を振り返ると光が差し込み、とても美しい。ガイドの豊嶋さんとネンブツダイなどの群れ(撮影:中村卓哉)

こちらの写真でも、十分洞窟のスケール感が味わえる。が、卓哉さんが撮ったのは…。

まるで絵画のような雰囲気の写真だ(撮影:中村卓哉)

なんと、今まで見たことがない半水面での「小曽我洞窟」!! 幸い、2回目に訪れた撮影では、透明度もまずまずだったので、卓哉さんはこんな構図を思いついたらしい。

「伊豆のダイビングポイントで、こんなふうに地形を楽しめるところはあまりないですよね。洞窟の中は奥行きがあって、ネンブツダイなどがビッシリと群れていて、それだけでも被写体としては申し分ないのですが、いろんなバリエーションをつけて撮ってみたいと思いました」と卓哉さん。

洞窟の中から湧きあがってくるかのようなクロホシイシモチなどの魚群(撮影:中村卓哉)
洞窟から出口に抜けていくあたりの風景。巨岩が織りなす景観が迫力満点だ(撮影:中村卓哉)

「小曽我洞窟」は海の状況によっては、潜れないこともある。できればコンディションのよい時を狙って、ぜひ実際に潜って、このダイナミックな伊豆屈指の地形ポイントを楽しんでみていただきたい。

毎週土日に開催される「華の舞」の様子。右の3名が地方(三味線等の演奏)、中央の5名が立ち方(踊り)と言われ、演奏も踊りも芸妓さんによって作り上げられている(提供:熱海芸妓置屋連合組合)

熱海へ行ったら、芸妓さんに会ってみたい。そして、話を聞いてみたい。そう思った取材チームは、熱海芸妓置屋連合組合へ取材を依頼し、現役の芸妓である小笠原亜紀子さん(以下、小笠原さん)に話を伺う機会をいただいた。取材へ赴いたのは、毎週土日に芸妓たちの踊りを観賞できる熱海の街中にある「熱海芸妓歌舞練場」。

芸妓文化の始まりは明治時代
バブル崩壊後、訪れる人は減ってしまった

熱海芸妓歌舞練場に到着すると、小笠原さんが笑顔で取材チームを出迎えてくださった。早速、小笠原さんに熱海の芸妓文化の歴史について、お話を伺った。

熱海の芸妓は、明治時代から約100年以上もの間受け継いできた文化です。遊芸師・坂東三代吉ばんどうみよきちが長唄や三味線、踊りなどの東京の芸ごとを、熱海の方に伝えていったのがきっかけです。明治維新以降に、芸で食べていこうと思ったらしいです。

昔から熱海は、温泉や自然などの癒しの場所として訪れる人が多く、次第に宿泊施設も増えていきました。また、元内閣総理大臣である大隈重信や伯爵など、財閥の人が熱海に目をつけたことで別荘が増えていき、その方たちの趣向として踊りや芸を楽しむ文化があり、芸妓がお座敷に呼ばれる機会も増えていきました。

さらに電車が開通した大正15年頃から、第1次熱海ブームが始まりました。「山もあって海もあって温泉もある、憧れの熱海」に新婚旅行などで訪れる人が増えました。そして、人が集まることで、働き口として芸妓さんが人気の職業になっていきました。

昭和になってからは、会社の社員旅行で訪れる第2次熱海ブームが起こりました。交通の便が良くなるとお客さんも増えて、昭和40年頃には芸妓さんは1,000人位いたらしいです。宴会場や大きいホテルだと1回で芸妓が50名ほど借り出されて大忙しだったようです。
バブル崩壊後の平成になってからは、個人のお客様が増えてきました。また時代の変化とともに街にキャバクラが増えていきました。平成の最初はバブルの名残がありましたが、平成20年頃から熱海の観光客は、減少の一途をたどることに。

古き良き文化をどう今の時代に残して行くのか、熱海芸妓見番の取り組みについてもお話を伺った(撮影:坪根雄大)

令和からは若者が増えてきた
多くの方に芸妓文化に触れてほしい

小笠原さんのお話に、河本も卓哉さんも興味津々。質問も飛び交った(撮影:坪根雄大)

令和に入ってからは、熱海には、若者が増えてきました。コロナの影響で近くの観光地に行く流れに乗って、人が増えてきた感覚です。原宿に行く層の子たちが熱海にまるまる移動してきた感じがします。最近はインスタグラムを見てくる若い方も3分の1ぐらいいます。芸妓遊びは敷居が高いイメージがあると思いますので、それを変えて若い方へ気軽に楽しんでもらえるように考えています。

ということは、芸妓遊びの文化が親兄弟で受け継がれていないということですよね。僕はバブル崩壊後に熱海を知りました。熱海の芸妓文化の成り立ちを知りませんでしたが、この企画を通していろんなお話を聞いていると、芸妓文化は今後も残すべきとても大事な部分だと感じました。ただ、芸妓さんとどのような遊び方ができるのか、あまりよくわかっていません。

ホテルの場合は「三味線(地方)と踊りのお姉さんを呼んでください」というと、芸妓さんが来ます。何回か来たことがある人は指名ができるようになります。どこでも行くと言ったらおかしいですが、呼ばれたら和食や洋食屋さんへも行きますよ。踊るとなるとスペースがある場所が必要ですが…。

そこで、芸妓を知らない方でも気軽に楽しんでもらえるように、新館で芸者体験ができるように進めています。お座敷遊びの入り口を広くしたいので、お昼と夜の時間帯で体験でき、値段もお手頃にする予定です。何も知らないままではなく、是非一度は体験してみていただきたいです。文化の継承と、若い方に芸妓世界に入ってきてほしいという思いが、私たちにはあるので。

芸妓世界では、10年経ってようやく一人前。いい文化を継承していくには18歳ぐらいから育てていく必要があります。昭和の時代に活躍していたお姉さんたちはお座敷での遊び方も一流。おもしろおかしく遊ばせるのが上手で、場面を見ながらいろんな芸の引き出しを開けていくんです。

また、芸妓世界の名前が被らないようにする文化もおもしろいですよ。昭和41年にはハイカラが流行り、バンビ、ピンク、オカメちゃんなどのカタカナ名が多かったです。王道だと、前組合長の松千代まつちよ姉さん。いい名前は2代目が見つかるまで止め名することもできるんです。

今の離職率のことを考えると、10年って長いですね。厳しい世界かもしれません…

稽古は厳しいですが、お客さんに披露する場面もあって自分の成果がはっきり出るから楽しいです。お客さんも頑張った分だけ応援してくださいます。

お客さんの年代も上がっていますか?

そうですね。なので、若い方にも来ていただきたいので、システムをわかっていただいて、古風な遊び方に興味を持っていただく必要があるかなと思います。

日本の伝統文化である「芸妓」に初めて触れる卓哉さんと河本(撮影:坪根雄大)

お座敷に出られるようになるまでの、レベルや試験などはあるんですか?

稽古をしてから半年に一回試験があります。師匠がOKを出さないと試験も受けられないんです。まずは2曲の振り付けを覚えないといけませんが、1曲目の「熱海とろりこ」は扇子は使わないけど4番まであって難しいです。2曲目の「熱海名所」は扇子を使います。2曲の振り付けを覚えるのは大変で、半年で覚えるのも難しいです。

お給料はお座敷に出られるようになったら支払われます。稽古は先生にお金を払って受けます。見習い期間がとても大事で、そこから芸妓になるか地方(じかた:踊りではなく三味線や歌を歌う担当)になるかを決めます。

芸妓は自分に投資する職業。お稽古で自分の身に投資するだけでなく、着物から何まで自分で揃えます。着物だけでも、お稽古着、お座敷着、日本髪用の着物があり、さらに春夏秋冬によって使い分けも必要です。

お話をお伺いした熱海芸妓置屋連合組合の組合長の小笠原さんは、佐賀県出身。お母様が熱海に来て芸妓の仕事をして置屋もやっていた。お父様の都合で小笠原さんはお母様とは離れて東京の練馬に住み、学校で千葉に行き、就職もしていたが、お母様から家業を手伝ってと言われて二十歳過ぎにこの職業に就いた。元々佐賀では三味線やお琴をやっていて、着物も好きだったので馴染みがあったこともあり、芸妓の世界はとても華やかで楽しいと言う。

最後に小笠原さんに「熱海のいいところはどんなところですか?」と聞いてみた。

海があって山があって気候もよく、人柄もよく、芸者文化を街の人が受け入れてくれているという独特な世界観があります。日本髪で歩いていても「いつも頑張っているね」と声をかけてくださいます。今や古き良き時代であった昭和の名残があるところが好きです。

稽古の様子を拝見。この令和の時代、なかなかできない貴重な体験(撮影:坪根雄大)

訪問地情報

熱海芸妓見番
住所:静岡県熱海市中央町17-13
URL:https://www.atami-geigi.jp/
初川の通りに位置する「熱海芸妓見番」。普段はお稽古の場所であるが、「華の舞」や「熱海をどり」が開催される際は一般の方も観覧で入ることができる。最近では、新館「芸妓茶屋」がオープンし、誰でも気軽にお座敷遊びが体験できるコンテンツもスタートしている。

町のスーパーや市場、土産物屋でNUB飯※の材料を買い出し。熱海の景色を一望できるコテージで豊嶋さんも一緒にNUB飯を食す。伊豆下田産の金目鯛のしゃぶしゃぶ、しらすのピザ、熱海の魚市場で購入した魚と、気づいたら魚ばかり購入していたが、さまざまな食べ方で熱海の土産物を楽しんだ。お酒は、熱海の酒屋さんのお母さんおすすめの静岡蔵の純米吟醸 新米新酒「喜平」と熱海ビールをチョイス。

※NUB飯とは:「地元の方が食べているものやお土産として自分たちが買ってみたいと思うものを現地で食べてみよう」という河本の提案で始まった、現地調達でその土地の食材を楽しむ食事のこと。

熱海駅から車で約20分のところにある、キッチンやBBQセットがあるコテージへ移動。ダイビングのガイドをしていただいた豊嶋さんと3人で乾杯(撮影:坪根雄大)
大の日本酒好きである卓哉さん。カメラを向けると純米吟醸 新米新酒「喜平」を持ってこの笑顔(撮影:坪根雄大)
富士箱根の天然水から製造された酪農王国オラッチェの「熱海ビール」。 右から、「みやび(レッドエール)」、「浪漫ろまん(ペールエール)」、「きらめき(ピルスナー)」。ジャケットには、熱海の名所などが描かれている(撮影:坪根雄大)
ダイビング取材中は緊張感があったが、熱海の美味しい食材とお酒を食べながら話しているうちにガイドの豊嶋さんも笑顔に。この時話していた内容については、のちに公開される対談記事で掘り下げていく(撮影:坪根雄大)

熱海のダイビングや観光は東京近郊からなら、日帰りや1泊で楽しむ人も多い。しかしせっかく行くのなら、ディープな熱海の魅力も存分に味わってほしい。ということで、ニッポンの海と文化の取材チームがおすすめする2泊3日の熱海のプランをご紹介。

2泊3日で熱海の新・旧を楽しむ その1

熱海の旅の楽しみの一つが、文化に触れられるスポットを訪ねること。商店街や神社、歴史的建造物などのおすすめスポットを紹介しよう。

熱海駅前平和通り商店街(魚とや、温泉まんじゅう)

熱海をはじめとした、静岡の名産品や土産物を販売するお店が立ち並ぶ商店街。温泉まんじゅうや魚のすり身を揚げた伊豆揚げなどの飲食店があり、食べ歩きスポットとしても人気。商店街の路地にもびっしりと飲食店が立ち並び、平日でも行列ができるほどの賑わいを見せる。熱海駅の目の前というアクセスの良さも魅力。

静岡県熱海市田原本町

(撮影:中村卓哉)
(撮影:坪根雄大)

起雲閣きうんかく

約100年以上前に建築され、1999年までは熱海の高級旅館として太宰治など数多くの文豪たちに愛されていた近代建築。現在は、熱海市指定有形文化財に登録され、日本庭園と大正・昭和の浪漫あふれる名邸を当時のまま公開している。

静岡県熱海市昭和町4-2

(撮影:中村卓哉)
(撮影:中村卓哉)

來宮きのみや神社

来福・縁起の神として古くから信仰されている。神社内にあるご神木(大楠おおくす)は樹齢2千年を超え、1992年度の環境省の調査で全国2位の巨樹の認定を受け、国指定天然記念物に選定されている。

静岡県熱海市西山町43-1

左・右上(撮影:中村卓哉)右下(撮影:坪根雄大)

伊豆山神社

強運・天下取りの神として信仰されている。神社の手水舎や本殿に描かれている赤白二龍せきびゃくにりゅうは、赤龍は火、白龍は水の力をつかさどり、二龍の力を合わせて温泉を生み出すと言われている最強の守護神で、夫婦和合や縁結びの象徴とされている。

静岡県熱海市伊豆山708-1

左・右下(撮影:中村卓哉)右上(撮影:坪根雄大)

走り湯

海に向かって横に吹き出す日本でも珍しい横穴式源泉で、日本三大古泉の一つ。 今から約1300年前に発見され、山中から湧き出した湯が海岸に飛ぶように走り落ちる様から 「走り湯」と名付けられた。

静岡県熱海市伊豆山604-10

(撮影:中村卓哉)

熱海城

名勝地・錦ヶ浦が眼下に広がる、高台にそびえる観光施設。熱海の街が一望できる天守閣展望台をはじめ、江戸体験コーナー、日本城郭資料館、武家資料館、浮世絵美術館などがあり、見どころ満載。歴史的に実在した城郭ではなく、昭和34(1959)年にもともとは宿泊施設として建てられた。

静岡県熱海市熱海1993

(撮影:中村卓哉)
(撮影:坪根雄大)
2泊3日で熱海の新・旧を楽しむ その2

熱海にはたくさんの温泉宿や快適なリゾートホテルなどが立ち並ぶ。そんな数ある宿の中で、取材チームが「ここは一度は行くべき」と思った、昔ながらの温泉宿の雰囲気を残す宿をご紹介。

竜宮閣

1938年に創業した宿で、当時のまま建物が残っている貴重な宿。掛け流し温泉があり、温泉好きの間でも人気スポットとなっているという。2階には花火を眺める専用席があったり、入り口にある下駄箱も当時作られた専用の棚があるなど、至る所に懐かしい古き時代の名残を感じる。

静岡県熱海市田原本町1-14

(撮影:中村卓哉)
上・左下(撮影:中村卓哉)、右下(撮影:坪根雄大)
2泊3日で熱海の新・旧を楽しむ その3

昔ながらの遊技場や魚のおいしい小料理屋、小洒落たバーなど。熱海の夜を仲間と一緒に楽しむのに最適なスポットをピックアップしてみた。

ゆしま遊技場

1951年創業、懐かしのスマートボールや射的で遊べる遊技場。店内に入った瞬間、まるで昭和時代にタイムスリップしたかのようなレトロ感満載な空間。用意されている景品もレトロなアイテムが多く、ここまで当時のままの遊技場は日本国内を見ても珍しいかも。

静岡県熱海市銀座町5-9

(撮影:坪根雄大)
(撮影:中村卓哉)

村越魚店

糸川遊歩道沿いにお店を構える昔ながらの魚屋さん。熱海の海で獲れた地魚が並び、それらの新鮮な魚の刺身やお寿司も販売している。ニッポンの海と文化の旅では、刺身を購入し、宿泊するホテルでお酒と一緒に美味しくいただいた。

静岡県熱海市中央町7-4

左(撮影:中村卓哉)右(撮影:坪根雄大)
(撮影:中村卓哉)

かさご

糸川遊歩道の路地を入ったところにある創業1977年の居酒屋。熱海に板前がいないからと20代の頃に3ヶ月だけ来る予定が、もう57年になるという。カニ味噌和えや桜海老の塩辛、魚料理など、日本酒のあてにぴったりな料理が堪能できる。

静岡県熱海市中央町8-7

(撮影:坪根雄大)

BAR dr. smuggler(ドクタースマグラー)

創業1979年、糸川遊歩道沿いにあるオーセンティックバー。400種ほどの世界中のお酒が楽しめ、ボトルがずらっと並ぶ店内はまさに大人の空間。珍しい樽出しウイスキーやワインセラーがあるなど、お酒好きの人なら抑えておきたい大人の隠れ家。

静岡県熱海市銀座町2-12

(撮影:坪根雄大)
「旧と新のコントラストがすごくある街でした」(卓哉さん)
「取材で出会った方たちが、熱海の価値そのもの」(河本)
(撮影:坪根雄大)

最後に、熱海の旅を終えた卓哉さんと河本に、印象に残ったこと、旅を終えて思うことなどを聞いてみた。

「今回取材させていただいた竜宮閣の方や熱海芸妓組合の小笠原さんの話を聞いて、次の時代に文化を受け継いでいく人の大切さを改めて感じました。また、バブルやブームがあり、廃れ、それでも辞めずに引っ張ってきた人たちは本当にすごい。熱海の地に対して誇りを持っている方が多く、そこもまた魅力の一つなんだろうと思いましたね。ただ、ずっと古いものを大切にするだけでなく若者の時代に変わることも大事で、旧と新のコントラストがすごくある街でした」。(卓哉さん)

「20代前半のよく来ていた時に今回の旅のような感覚を持っていたら、もっと楽しかっただろうなと思いました。熱海で遊び慣れているって通な感じがしますし。あと、熱海をリードしている人が熱海の地元出身ではない方も多く、外から来た人への受け入れ態勢があり、人が循環していて、時代継承のヒントが見つかる街だと感じましたね。もちろん、外から来た先駆者は、地元の方との付き合いをちゃんとしてきていたんでしょうね。あと、ダイビングにも通ずるところで、サービス業側の素晴らしさを感じられる場所でもありました。この取材で出会ってきた方たちが価値そのものだと思います」。(河本)

「日本人がまだ気づいていない、ニッポンの海の素晴らしい価値を証明する」という思いでスタートした「ニッポンの海と文化」。昔から温泉地として馴染み深い熱海だが、海には国内屈指の沈船ポイントがあり、陸には伝統を大切にしながら、新しい旅の楽しみ方も提案してくれるおもてなしの精神にあふれた地元の方たちと出会うことができた。

記事内で紹介した観光地、食事処、宿、ダイビングサービスなどの場所は、こちらでチェック。熱海を旅する際に、ぜひ活用してください。

今回の取材で中村卓哉さんが撮影した「沈船」「小曽我洞窟」のほか、「ソーダイ根」「ビタガ根」など、熱海の主なダイビングポイントと潜り方を紹介しよう。

地形や魚群など見どころ満載! ダイビングポイント情報

➀国内最大級の沈没船を潜る
沈船ちんせん

ダイビングで楽しめる沈船としては国内最大級で、熱海で最も人気のダイビングポイント。水深30mを超える砂地に、全長81mの巨大な沈船が鎮座している。この船は1986年に沈んだ砂利運搬船「旭16号」。中央付近で真っ二つに折れているが、ウインチや階段などの設備はそのまま残っている。船全体が巨大な魚礁になっていて、ソフトコーラルに覆われた甲板付近には、数えきれないほどのサクラダイが舞い泳ぐ。

  • ●ボートで熱海港から約5分
  • ●最大水深:30m
  • ●経験本数:24本以上でブランクがないこと。アドバンス以上が望ましい
沈船
サクラダイの群れがダイバーを出迎えてくれる(撮影:中村卓哉)
どっしりと鎮座する沈船は、迫力満点(撮影:中村卓哉)
ワイドな地形が楽しめるポイントだが、ハナダイなどのフィッシュウオッチングも楽しい(撮影:中村卓哉)

②ダイナミックな地形に魅了される
小曽我洞窟こそがどうくつ

11~4月の期間限定ポイント。全長40mほどのトンネルを水中ライト片手に進んでいくと、中にはネンブツダイなどの視界を覆うほどの魚群が。広々とした洞窟の天井は水面より上にあるため、顔を出すことができる。光の差し込み方でいろいろなブルーのグラデーションが楽しめる。

  • ●ボートで熱海港から約10分
  • ●最大水深:12m
  • ●経験本数:オープンウォーター取得直後から潜れる
沈船
コンディションが良ければ、ビギナーから冒険気分が味わえる(撮影:中村卓哉)

③大小の根にたくさんの生物がすむ
ビタガ根

ソフトコーラルに覆われた2つの根を中心に、大小の隠れ根が点在している。20m以上落ちるドロップオフなど、地形の豪快さも見どころ。ネンブツダイやイサキの群れのほか、カエルアンコウや甲殻類などマクロ生物も充実。「沈船」と隣接しているので、エア持ちがいい人は1ダイブで2ポイントを楽しめる。

  • ●ボートで熱海港から約5分
  • ●最大水深:30m
  • ●経験本数:10本以上が望ましい

④伊豆屈指のソフトコーラル天国
ソーダイ根

潮あたりが良く、ソフトコーラルが見事なポイント。トサカ類が繁茂し、サクラダイやイサキが一年を通して群れている。すり鉢状の砂だまりやドロップオフなど地形も楽しめる。オキノスジエビやシロオビハナダイといった深海性の生物も登場。

  • ●ボートで熱海港から約8分
  • ●最大水深:30m
  • ●経験本数:8本以上が望ましい

ボートダイビングで快適に潜れる ダイビングのスケジュール

熱海では、大型の漁船を利用したボートダイビングが主流。各ダイビングポイントまでは5~10分なので、船酔いの心配はほとんどない。今回の取材でお世話になった「ダイビングサービス熱海」は、熱海港の目の前に位置して、広々とした施設で使い勝手がとても良い。

取材チームのブリーフィング風景。左が「ダイビングサービス熱海」の豊嶋さん(撮影:坪根雄大)
大型の漁船を利用するので、ポイントまで快適に移動できる(撮影:坪根雄大)

1日のスケジュールは、朝ショップに集合後、昼までに2ダイブできる。そのため、ダイビング後は熱海の観光やグルメをじっくり楽しめる。

  • 9:00
    ショップに集合。受付後、更衣室で着替え、港でダイビング準備
  • 10:00頃
    1ダイブ目のボート出船(ポイントまでは5~10分)
  • 11:00頃
    港へ戻り、港やショップで水面休息
  • 12:00頃
    2ダイブ目のボート出船
  • 13:00頃
    港へ戻り、器材の片付け、ログづけをして、精算後に解散
    ※上記は目安で、30分ほど前後することあり