• 撮影:鍵井靖章
  • ナビゲーター:河本雄太
  • 撮影・文:坪根雄大
  • 構成・文:中西美樹、山崎陽子
  • 監修:中村竜也
  • デザイン:寒川広範
  • 取材協力:天草うみの学校
  • 器材協力:(株)キヌガワ、ワールドダイブ(株)(五十音順)
  • 衣装協力:Ocean Pacific
場所を示す線 日本地図の中の天草の場所 日本地図 天草の拡大地図

オーシャナの連載企画「ニッポンの海と文化」の第3話は熊本県天草へ。ナビゲーターはオーシャナ代表の河本雄太(以下、河本)、メインフォトグラファーは水中写真家の鍵井靖章さん(以下、鍵井さん)。そして、天草の海の案内役は「天草うみの学校」の森俊徳としのりさん(以下、森さん)だ。実は、鍵井さん、河本のそれぞれが森さんが熊本市にいた頃に震災支援や仕事を通して出会っていた。そして、鍵井さんも河本も「取材に行くなら森さんのところへ」と、お互いに思っていたという。そんな人と人との繋がりから始まった今回の旅では、さらに現地で様々な人との出会いが待っていた。

過去連載は第0話からご覧ください。

ニッポンの海と文化 第0話

今回訪れた下天草とは?
熊本県南西部に位置する天草諸島。天草諸島はたくさんの島々から成るが、その中心部は天草上島と天草下島。今回の旅ではダイビングポイントが数多くある下島(下天草)をメインに巡ることに。天草と聞くと、「天草四郎」や「隠れキリシタン」などのワードがまず頭に浮かぶけれど、それくらいという人が多いのではないだろうか? 取材チームが体験した天草の旅では、それ以上の文化と素晴らしい海に出会うことに。

旅の様子をご紹介する前に、案内人である河本がこの旅を通して「天草の海と陸の誇るべきもの」と感じたことを、写真とともにそれぞれご紹介。「ニッポンの海と文化」の視点からみた下天草の魅力を知ることで、一向が歩む旅の価値がさらに見えてくるかもしれない。

「天草の海は、多様性を象徴する海だった」(河本)

「天草の海に初めて潜り、一番驚いたのはロープのような海藻が広がっていた光景です。ダイビングしながら“なんだこれは!”ってなりました。しかも、海藻がサンゴに絡み合って、そこに魚がすんでいて、いろんな生き物が混在していたのが自分の中では新鮮に感じました。これこそが“共存”“多様性”だなと再確認できた個性的な海でした」。

縄状の海藻とサンゴとソラスズメダイのコラボ
牛深の海で出会った、縄状の海藻とサンゴ、そしてソラスズメダイのコラボした光景(撮影:鍵井靖章)

「海遊びのご縁で巡る旅ってやっぱり面白い」(河本)

天草の魅力は海だけに止まらない。「海」を共通点に、さまざまな出会いに繋がったと、河本は語る。

「僕は、旅の面白さの一つに“人との出会い”があると感じています。広島、山形も素敵な出会いがありましたが、天草では奇遇な出会いの連続でした。母と娘で世代を超えてイルカウオッチングと飲食店を営む「天草海鮮蔵」の女将さんを知ったのは、森さんのお店で潜っているダイバーの娘さんとの出会いがきっかけ。この方たちも下天草のキーパーソンなんじゃないかと思うほど、天草への愛が溢れるパワフルな方でした。

また、僕は奄美大島瀬戸内町でダイビングショップの運営や地域活性に関わる仕事をしているのですが、天草でダイビングをご一緒したワインソムリエの方が、まさかの奄美大島の共通の仕事に関わっていたことが発覚して。船の上で話が盛り上がり、天草酒造すごくいいから行ってみたらということで紹介していただきお伺いすることになったんです。『海遊び』が繋げる人との出会いには、仕事や飲みの場での出会いとは一味違うものがあるなと実感する旅でもありましたね」。

「天草海鮮蔵」の女将・野崎多喜子さんと河本と鍵井さん
「天草海鮮蔵」の女将・野崎多喜子さんの話に聞き入る河本(左)と鍵井さん(右)(撮影:坪根雄大)

ここからは、3泊4日の旅のスケジュールに沿って、下天草のダイビング情報はもちろん、観光スポットやグルメ、宿の情報を紹介していこう。レンタカーで巡る下天草の旅では、2ヶ所のダイビングエリアを満喫しながら、エリアごとに陸の観光も効率よく巡れるスケジュールとなっている。

Day1 PM
遠見山桜木展望所から見える牛深の街
遠見山桜木展望所から牛深の街を望む。奥には、ハイヤ大橋と通天橋で結ばれている下須島げすしまが見える(撮影:鍵井靖章)

天草の旅・初日は、空港から天草最南端の街・牛深へ。まずは、県内最大の漁港があるというこの街の全貌を眺めようと、展望所へ向かった。眼下に見える漁港には多くの船が停まっている。「ハイヤ大橋の迫力、やっぱすごいですね」と河本。

明日からの撮影の成功に願をかけて、「遠見山稲荷神社」を参拝。その後、今回海の案内をしてくれる「天草うみの学校」の森さんと会うために居酒屋へ。河本と鍵井さんは森さんとそれぞれ面識があるが、こうして3人集まるのは初めて。「まさかこの2人が揃って牛深にいるなんて不思議な感じです」と森さん。地元で人気の居酒屋「母屋」で牛深名物の刺身や串焼きをつまみながら、久々の再会に話が弾んだ。

訪問地情報 Map

母屋で提供されている料理の写真

母屋おもや
住所: 熊本県天草市牛深町3453-43
営業時間:18:00~22:00(定休日:木曜日)
駐車場:無
お刺身や小料理、串焼きなど、お酒を楽しめるメニューがどれも美味しい。鍵井さんは、九州の焼き豚足をここで初体験。さっぱりとした美味しさに箸がすすむ。駐車場がないので、ホテルから徒歩がおすすめ(撮影:坪根雄大)

遠見山稲荷神社

遠見山稲荷神社
住所: 熊本県天草市牛深町
駐車場:2台(無料)
遠見山を車で登っていると中腹に突如現れる、商売繁盛の神を祭った「遠見山稲荷神社」。取材チームは1度通り過ぎてしまったので、訪れる際はご注意を。鳥居の前に駐車場有り(撮影:鍵井靖章)

Day2 AM
辺り一面に薄紫色のウミエラ
辺り一面に薄紫色のウミエラが点在。最初は咲いていなかったが、2~3回行くうちにこの通り満開に(撮影:鍵井靖章)
サンゴとダイバー
豊かな海藻がある海に、これだけ見事なサンゴが群生している海は珍しい。牛深は海藻とサンゴの縄張り争いの北限かもしれない(撮影:鍵井靖章)
船の上の河本と森さん
ポイントまでの移動中に森さん(右)が海の見どころを説明してくれる(撮影:坪根雄大)

天草でのダイビング初日は、牛深エリアへ。緑豊かな山々を見ながらボートでポイントへと移動。海中公園に指定されている海は、薄紫色のウミエラの群生、スズメダイが群れ泳ぐテーブルサンゴやエダサンゴ、そしてロープのような不思議な形をした海藻や古くから天草の人々に親しまれてきたミルなど、とにかく生物が豊富だ。「ほかの場所でも見られるけど、やっぱりこのウミエラの群生は天草を代表する水中風景。まだ全国的には有名ではないかもしれないけれど、『日本の海』として潜る価値が高い海だと思います」と鍵井さん。「海藻とサンゴが共生する海は珍しい」と河本が言うように、天草の海ならではの風景を2ダイブ、たっぷり堪能した。

縄状の海藻の一種
遠くから見たときは、漁に使う縄か何か?と思ったこの縄状の物体は海藻の一種。周囲には鮮やかなブルーのソラスズメダイが泳いでいた(撮影:鍵井靖章)
真っ赤なソフトコーラル
たっぷり太陽光が降り注ぐ浅場に、ハードコーラルだけでなく真っ赤なソフトコーラルも。牛深の海は、まるで水中水族館のよう(撮影:鍵井靖章)
牛深のダイビングポイントの詳細はこちら
Day2 PM
陶磁器のマグカップ
元禄年間頃から陶磁器の原料となる粘土の鉱石(=天草陶石)が、天草下島で採掘され始めた。その後、天草陶磁器が誕生したという(撮影:坪根雄大)

ダイビング後、ちゃんぽんを食べて腹ごしらえをし、西海岸エリアの文化と自然に触れる旅へ。キリシタン文化が色濃く残る﨑津集落を見学した後、森さんから「天草は、陶磁器の原料になる陶石が日本一採れる場所なんですよ」と話を聞き、更なる情報をも求め「高浜焼寿芳窯たかはまやきじゅほうがま」へと向かった。

工場長の古田寿昭ふるたとしあき(以下、古田)さんから高浜焼の歴史や天草の地形を聞くと、江戸時代から陶磁器には牛深の水中で見た海藻「ミル」が描かれているという。ピンク、青、ゴールド、シルバーなどのカラー展開がある中で「緑色のデザインが一番好きやな」と鍵井さん。

次に一行は西平椿公園のアコウの木(別名:天草のラピュタ)へ。アコウの木に辿り着いた河本は、「バランスの悪い岩の上に育つってすごいな」と不思議そうに見上げる。一方、以前に訪れたことがある鍵井さんは少し離れた場所から、「何度来ても新鮮な気持ちで見られる」とそれぞれの視点でアコウの木を見ていた。公園清掃をしていた地元の方に鍵井さんが話しかけると、「ここから海岸まで、アコウの木の根は広範囲に張っていてね。根を踏むと木が弱るから、自然を大切にする観光客に来ていただきたいです」と、アコウの木を大切にしている地元の方々の思いを聞くことができた。

陶磁器を手に取る河本
天草陶石は、天草下島のみで採掘され、単体で陶磁器を作ることができる世界的にも珍しい鉱石という説明を聞き、陶磁器をじっくりと見る河本(撮影:坪根雄大)
高さ約20mのアコウの木
巨大な岩石の上に立つアコウの木は、高さ約20m。人が並ぶとさらにその大きさが際立つ(撮影:坪根雄大)
「天草ブルーガーデン」のちゃんぽん
「天草ブルーガーデン」のちゃんぽん。諸説あるようだが、天草ちゃんぽんは、長崎ちゃんぽん、小浜ちゃんぽんと並ぶ「日本三大ちゃんぽん」の一つ(撮影:坪根雄大)
港町の中心にある「カトリック﨑津教会」
神社は高台に、教会は集落のど真ん中にあるなど、潜伏キリシタンの文化が残る天草。港町の中心にあるのが「カトリック﨑津教会」(提供:天草宝島観光協会)

訪問地情報 MAP

天草ブルーガーデン

天草ブルーガーデン
住所:熊本県天草市天草町下田北2256-1
営業時間:11:00~18:00(軽食は15:00まで)
駐車場:15台(無料)
鬼海ヶ浦展望所に併設されているレストラン。2023年11月末まで営業中。
(写真提供:熊本県観光連盟)

アコウの木

アコウの木(西平椿公園)
住所:熊本県天草市天草町大江4159
駐車場:60台(無料)
アコウの木が岩にしっかりと根を張り、力強く聳え立つ姿が宮崎駿監督が描いた映画『天空の城ラビュタ』に似ていることから「天草のラビュタ」と言われている(撮影:鍵井靖章)

高浜焼寿芳窯

高浜焼寿芳窯たかはまやきほうじゅがま
住所:熊本県天草市天草町高浜南598
営業時間:9:00~17:00
駐車場:30台(無料)
URL:http://www.takahamayaki.jp/
高浜焼の伝統を守りながら、「ユニバーサルシリーズ」や「復刻シリーズ」を展開するなど新しい取り組みも行っている。また、敷地内にある、高浜焼の元祖である上田家の資料館も見学が可能。事前予約にて、高浜焼の絵付も体験できる(撮影:坪根雄大)

カトリック﨑津教会

カトリック﨑津教会
住所:熊本県天草市河浦町﨑津539
見学時間:9:00~17:00
駐車場:道の駅﨑津・﨑津集落ガイダンスセンター(無料)
URL:http://fukuoka.catholic.jp/ncwj/?page_id=1345
江戸時代の禁教期250年もの間「潜伏キリシタン」として密かに信仰が守られた﨑津集落。2018年7月、長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産として「世界文化遺産」に登録された。シンボルとなる﨑津教会の道内は、国内でも数少ない畳敷き。教会を見学する際は、専用サイトからの事前予約が必要。(写真提供:天草宝島観光協会)

森さんのホームタウン、下田の宿「望洋閣」で疲れた体を癒す

東シナ海の大海原を一望できる抜群のロケーションに立つ「望洋閣」
東シナ海の大海原を一望できる抜群のロケーションに立つ「望洋閣」。ボートダイビングの集合場所まで車で2分と近く、ダイバーにもおすすめの宿(写真提供:望洋閣)

2日目の夜は、白亜紀の地層から湧く天草最古の天然温泉が楽しめる宿「天草下田温泉 望洋閣ぼうようかく」へ。館内を巡ると、熊本の大学生と制作したウォールアートや屋外プールに新しく併設された現代的なバーなど、元々ある魅力を残しつつ、今の時代にあわせた革新的な空間となっている。「レトロな感じもありつつ新しいことを始めていて、なんだかこれからが楽しみな宿ですね」と河本。

ステンドガラスが水面に反射する光景が美しいローマ風大浴場
ステンドガラスが水面に反射する光景が美しいローマ風大浴場。天然温泉に浸かり、1日の疲れを取る(写真提供:望洋閣)
熊本大学の学生が制作したウォールアート
熊本大学の学生が制作したウォールアート。右上の山の風景に馴染むように計算して書かれたトリックアートになっている(撮影:坪根雄大)
カフェ「MAR cafe」
2022年にホテルの屋外プールの横にオープンしたカフェ「MAR cafe」。不定期でイベントも開催しているとか(撮影:坪根雄大)
望洋閣の守護神として祀られている白イノシシの「ジャルディン君」の剥製
生前、お客さまのお出迎えをしていた望洋閣の守護神として祀られている白イノシシの「ジャルディン君」の剥製
温泉宿が並ぶ下田温泉街と夕日
温泉宿が並ぶ下田温泉街と夕日。宿泊だけでなく、日帰り温泉や足湯スポットもあり気軽に天然温泉を満喫できる(撮影:坪根雄大)

訪問地情報 MAP

天草下田温泉 望洋閣
住所:熊本県天草市天草町下田北1201
駐車場:60台(無料)
URL:http://www.boyokaku.jp/
客室数は、和室48室、洋室6室、和洋室3室、特別室5室の計62室。泉質は、ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉。車で約2分のところに森さんが営むダイビングショップ「天草うみの学校」がある。

Day3 AM
幅8mの砂利運搬船の廃船
全長50m、幅8mの砂利運搬船の廃船が沈む「白鶴ヶ浜 沈船」。国内最大級の沈船の存在感は圧倒的だ(撮影:鍵井靖章)
沈船につく無数のソフトコーラル
沈船は無数のソフトコーラルがついているが、鍵井さんが一番印象的だったというのがこのムチヤギ(撮影:鍵井靖章)
砂地に群れるシマアジ
シマアジは中層だけでなく、砂地にも群れている(撮影:鍵井靖章)

3日目には、森さんのダイビングショップ「天草うみの学校」から近い西海岸エリアのダイビングポイントへ。「巨大な象が海を渡っているような景色」と称される「妙見浦みょうけんうら」は、地上の風景のまま水中もダイナミック。洞窟があり冒険気分が味わえる。また巨大な漁礁と化している沈船は、船体に付いたカラフルなソフトコーラルやアジの大群に目を奪われる。「人間が造った沈船と、海が育むムチヤギの群生や魚群。見方によって人工物と自然物、2通りを楽しむダイビングができる」と鍵井さん。さらに「大ヶ瀬」では、おびただしい数のネンブツダイの群れに遭遇。クマノミをはじめ、愛らしいマクロ生物も多く見られ、鍵井さんは忙しくシャッターを切っていた。

見たこともないくらいのネンブツダイの群れ
地形がおもしろい「大ヶ瀬」だが、見たこともないくらいの密度のネンブツダイの群れが登場(撮影:鍵井靖章)
沈船に潜む大きなクエ
巨大な漁礁となっている「沈船」。どっしりと大きなクエも潜んでいた(撮影:鍵井靖章)
沈船の周囲のシマアジの群れ
「沈船」の周囲にはシマアジの群れも登場。見どころが本当に豊富なポイントだ(撮影:鍵井靖章)
イソギンチャクに包まれるクマノミ
マクロ生物が豊富な「大ヶ瀬」。クマノミがイソギンチャクに気持ちよさそうに包まれていた(撮影:鍵井靖章)
西海岸のダイビングポイントの詳細はこちら
Day3 PM
「天草海鮮蔵」の女将さんと鍵井さん
「天草の夕日と海産物は、素晴らしか!」(天草海鮮蔵 野崎さん)
「天草の観光場所を増やしたいという思いで、まずは土産物店としてスタートしたんですよ」と話す「天草海鮮蔵」の女将さん(撮影:坪根雄大)
クイズを出す鍵井さん
「今回のダイビングで一番印象に残っている海はどこだと思う?」と森さんにクイズを出す鍵井さん。答えは近日公開予定のスピンオフ記事で!(撮影:坪根雄大)
天草海鮮蔵の店内
親子で店を切り盛りする母、野崎多喜子のざきたきこさんと娘の亜季子あきこさん(撮影:坪根雄大)

天草で過ごす最後の夜は、海の幸でバーベキューが楽しめる飲食店「天草海鮮蔵」へ。女将の野崎多喜子のざきたきこさん(以下、女将さん)さんは、30年前に天草で初めてイルカウオッチングを始めた第一人者。

「天草は観光地が少なくて、何か目玉になるものを始めたいと思っていたんです。天草の海にはミナミハンドウイルカがたくさんすんでいるので、これを近くで見られたらいいなと思い、イルカウオッチングを始めました」と女将さん。

「イルカは水族館で見るものという概念を覆したい」「地元の人が感動することで、人が集まる」という思いから、女将さん自身イルカについて研究し、地元の漁師さんの協力を得て実現することができたという。「水産資源の観光が何もなかったところから、ここまで作り上げたのはすごいですね」と河本も話に聞き入る。途中、仕事を終えた森さんも合流し、より一層、海の話に花が咲いていった。

海鮮BBQ、アワビ、ヒオウギ貝、イカやサザエ、イワシ丸干し
海鮮BBQでは、アワビやヒオウギ貝、イカやサザエ、イワシ丸干しなど、天草の海の幸を堪能できる(撮影:坪根雄大)
「天草海鮮蔵」のお土産コーナーにある土産物
「天草海鮮蔵」のお土産コーナーにある土産物も購入し、今回は特別に店内で堪能させていただいた(撮影:坪根雄大)
「天草うまかもん」と「ウニクリームチーズ」
(左上)焼くだけ!天草の地魚であるアジとコダイが味わえる「天草うまかもん」(右下)ウニの濃厚な味とクリームチーズが口の中で溶ける「ウニクリームチーズ」(撮影:坪根雄大)

下天草で最初にイルカウオッチを始めた場所

イルカウオッチングの運営を行なっている「天草海鮮蔵」へ向かい早速乗船。天草の海に住むミナミハンドウイルカたちの遭遇率はなんと98%。「観覧船よりも漁船の方がイルカをより近くで見ることができて、ワクワクする」という考えから、イルカウオッチングは漁船で行っていると女将さんは言う。海に出て10分もすると、たくさんのイルカが泳いでいる様子が見られ、河本も「こんなに楽しめると思っていなくて、感動しました」と、子どもはもちろん大人でも楽しめるアクテビティだった。

ミナミハンドウイルカの群れ
イルカウオッチングでは、3群約300頭前後のミナミハンドウイルカの群れに出会える。日本付近では稀な定住するイルカたちで、「根付きのイルカ」と言われる(撮影:鍵井靖章)
間近まで寄るイルカ
イルカは漁船に慣れていて、エンジン音に引き寄せられ、間近まで寄ってくるという(撮影:鍵井靖章)

訪問地情報 MAP

天草海鮮蔵

天草海鮮蔵
住所:熊本県天草市五和町鬼池4733-1
営業時間: 9:00~17:00
駐車場:50台(無料)
URL:http://www.kaisenkura.com/
土産物店、食事処、ウニ丼屋、海鮮BBQと業態を変えながら、現在の土産物&飲食店という形にたどり着く。BBQ席は180席、テーブル席35席、半個室テーブル席12席と広々とした空間で、壁には大漁旗が飾られている(撮影:坪根雄大)

Day4 AM
天草酒造の平下さん
「焼酎造りは年に1度のお祭り行事です」(天草酒造 平下さん)
「ワインやウィスキーのように、その年の気候によって味が変わるのを楽しんでほしいんです」と語る平下さん(撮影:坪根雄大)

ダイビングで出会った方から、「料亭に置ける焼酎は少ししかないけれど、そのうちの一つが天草酒造の焼酎」という話を聞き、「これは絶対に行きたい」と河本。というわけで、最終日は「天草酒造」へ向かった。説明を聞くと、平成18年から天草酒造の代表作である芋焼酎「池の露」を手作業で作る手法を復活させ、毎年一升瓶3万本分(約4トン)もの量を100日間で仕込んでいるという。天草酒造4代目の平下豊さん(以下、平下さん)は、「酒造りは1年に1度のお祭りのような作業で、寝る暇もなく大変だけど楽しみながらやっています」と語る。話を聞き終えたころ、ふと気づくとお土産用にと焼酎瓶を手にしていた河本と鍵井さんであった。

「池の露」を手作業で造る蔵の看板
天草酒造の代表とも言える銘柄、「池の露」を手作業で造る蔵の看板。(撮影:鍵井靖章)
「池の露」の中
平下さんが子どもの頃、父親に怒られてかめの中に入れられたなんて小ネタも。気さくな人柄に、どんどん引き込まれていく(撮影:坪根雄大)
蔵の前に広がる畑を見る鍵井さんと平下さん
「池の露」の酒作りに使うさつまいもは、蔵の前に広がる畑で天草酒造の職人が一から育てている(撮影:坪根雄大)
「池の露 紅はるか 原酒」と芋焼酎「神秘の島」
(左)「池の露 紅はるか 原酒」炭酸で割って飲むとちょうどいい美味しさ(右)平下さんのインスピレーションで人魚の絵が描かれた芋焼酎「神秘の島」。天草でしか手に入らない限定品(撮影:坪根雄大)

訪問地情報 MAP

KANPAI AMAKUSA 天草酒造

KANPAI AMAKUSA 天草酒造
住所:熊本県天草市新和町小宮地11808
営業時間: 11:00~16:00(定休日:水曜日)
駐車場:10台(無料)
URL:https://ikenotsuyu.com/
天草唯一の酒造。2021年より、焼酎の試飲や購入、ランチ、イベントなどができる店舗「KANPAI AMAKUSA」をオープン。コミュニケーション紙「け〜な」(=天草の方言で「おいで」と言う意味)も発行している(撮影:坪根雄大)

「牛深のダイビングでは、小さな街の大きな魅力に出会いました」(河本)
「まだ有名ではないけれど、『日本の海』として潜る価値が高い海」(鍵井さん)
(撮影:坪根雄大)

最後に、3泊4日にわたり天草を旅した河本と鍵井さんへ、印象に残ったことや旅を終えて思うことを聞いてみた。

「初めての天草で、行ってみないとその土地のことって何も分からないとつくづく感じました。牛深では、漁港からボートですぐの場所で、これだけのポテンシャルのあるダイビングポイントをどれだけの人が知っているのかな、と改めて考えさせられました。牛深は人口が1万人ちょっとの街だけど、それくらいの街って生活に必要なものは大体揃っていて、古くからみんなに愛されているお店があり、文化が感じられる。海から上がった後に陸の観光を色々と楽しめるのも、牛深ダイビングの魅力の一つかと思います」。(河本)

「天草は南蛮文化の影響もあってか異国の雰囲気を感じさせてくれて、また違う文化に触れることができたと思います。陸も楽しいし、海のポテンシャルが高くて、海外の海はもう少し先でもいいかもと思っちゃったくらいでした。逆に、海外に行った時に日本の海について話せることが増えて、嬉しくも感じています」。(鍵井さん)

「日本人がまだ気づいていない、ニッポンの海の素晴らしい価値を証明する」という思いでスタートした「ニッポンの海と文化」。今回は、旅での出会いを通し、天草の暮らしを支える文化とその成り立ちについて深く知ることができた。自分の住む街の魅力を知っている現地の方は、みんなパワフルで活気にあふれていた。

記事内で紹介した観光地、食事処、宿、ダイビングサービスなどの場所は、こちらでチェック。
天草を旅する際に、ぜひ活用してください。

ダイビングポイントは、天草下島の海岸線に点在しているが、主に潜られるのは西海岸エリアと南端に近い牛深エリアだ。どちらもビーチエントリーで潜れるポイントもあるので、ビギナーから楽しめる。

天草のダイビングポイントマップ
妙見浦
西海岸の「妙見浦」は、巨大な象のような岩が特徴的。海の中も、ダイナミックな地形が楽しめる
沈船を撮影する鍵井さん
「沈船」を撮影する鍵井さん
牛深の海に広がるサンゴの群生
牛深の海には、見事なサンゴの群生が広がる
海深の海藻
南に位置する牛深は、春には見事な海藻の森が見られる
西海岸エリア

小田床おだところ妙見浦みょうけんうら

小物から回遊魚までを楽しむことができ、年中ダイバーで賑わう熊本のメジャースポット。崖の下まで車で降りて行き、海岸からビーチエントリーできる。水深5mほどの浅い場所を泳いで海底洞窟になっている場所を目指す。天草で最も透明度が良いビーチスポットで、何通りものコース取りで潜ることができるのもうれしい。
ビーチ&ボート 最大水深 20m
小田床、妙見浦
(撮影:坪根雄大)

白鶴ヶ浜しらつるがはま 沈船ちんせん

美しい砂浜の沖合に、全長50m幅8mの砂利運搬船の廃船が漁礁として鎮座していて、魚のすみかとなっている。巨大なソフトコーラルも船体に根付いており、天草の多様な生態が見られる。アジの群れも見ごたえがある。レックダイビングの割には水深も深くなく、水底からの景観をゆっくり時間をかけて撮ることができた。過去にはイルカも目撃されている。
ボート 最大水深 30m
白鶴ヶ浜 沈船
(撮影:鍵井靖章)

西平にしびら大ヶ瀬おおがせ

天草西海岸で一番人気の地形ポイント。ソフトコーラル、ミドリイシサンゴの群生にはキンメモドキを中心とした魚群やナンヨウブダイ、岩場にはスジアラ、イシダイなどがすみ着いている。また通年、アカウミガメ、タイマイなども観察できる。潮の通り道に位置するためか、南方系の魚も見られる。
ビーチ&ボート 最大水深 25m
西平&大ヶ瀬
(撮影:坪根雄大)
ウミガメ動画のサムネイル
ウミガメも登場!(撮影:坪根雄大)
牛深エリア

海中公園かいちゅうこうえん

砂地とサンゴが見どころなポイント。ウミエラの群生地があり、フォト派ダイバーのリクエストも多い。また藻場とサンゴ礁の賑やかな海中には養殖のロープが張られており、そこに海藻のミル類が生い茂っている。ボートで行くエリアには、九州とは思えないほどのエダサンゴやテーブルサンゴの群生が見られる。
ビーチ&ボート 最大水深 25m
海中公園
(撮影:鍵井靖章)
ロープのような海藻動画のサムネイル
ロープのような海藻も(撮影:坪根雄大)
そのほかの天草のダイビングポイント

上天草白涛かみあまくさしらとエリア

ビギナーから上級者まで楽しめる、ウミウシやヒメタツなどが見られるマクロポイント。冬場にはダンゴウオの幼生から成魚まで観察できる。
ビーチ 最大水深 10m

魚貫おにき

8~10月にかけてタコクラゲが湾内に大発生し、ジェリーフィッシュレイクを思わせるような光景に遭遇できる。
ビーチ 最大水深 5m

大島おおしま桑島くわしま

ミドリイシサンゴ、エダサンゴの群生にチョウチョウウオの仲間が生息。砂地ではハゼ類に遭える。
ボート 最大水深 25m

片島かたしま

熊本でナンバーワンの珊瑚群を観察でき、潮通しが良いため、年間を通して透明度が高い海中を楽しめる。また南西部のダイナミックなドロップオフポイントでは、多くの回遊魚に出会う場所もある。
ボート 最大水深 25m

久玉くたま深海ふかみ

不知火海しらぬいかいと外洋エリアの境目の場所で、 内湾に住む生物と外洋から来る回遊魚を楽しむことができる。漁礁が点在しており、人工造形物と自然の調和が面白い場所。
ビーチ 最大水深 20m

新和しんわ

不知火海エリアで年間を通して穏やかで潜りやすい。砂泥にはミジンベニハゼやイッテンアカタチなどフォト派ダイバーがじっくり撮影したくなる生物も。
ビーチ 最大水深 25m

沈船やウミエラやサンゴの群生など、ワイドな景観に目を奪われがちな天草の海。しかし温帯と亜熱帯の海の生き物が混じり、マクロ生物も見どころのひとつだ。鍵井さんが撮影した写真で、天草の海の生き物たちを紹介しよう。(撮影:鍵井靖章)

クマノミ
クマノミ
大ヶ瀬
先端が丸いのが特徴のサンゴイソギンチャクにすみ着いていた、クマノミの幼魚。体長は2~3cm程度。
サラサエビ
サラサエビ
妙見浦
岩の隙間を覗くと潜んでいたサラサエビ。体にある更紗模様が名前の由来。
スナイソギンチャク
スナイソギンチャク
沈船
砂地に怪しく揺らめいていたスナイソギンチャク。48本の太い触手があり、刺胞は毒が強いので、要注意だ。
アカオビハナダイ
アカオビハナダイ
沈船
淡い赤色が美しく、オスの体側には写真のような赤い横帯がある。メスはケラマハナダイのメスに似ているが、尾ビレの先端だけが赤い。
キンチャクダイ
キンチャクダイ
大ヶ瀬
岩礁域にすむ普通種のキンチャクダイ。幼魚は黒っぽいが、成長するにつれて、青い縦縞模様が浮かんでくる。
ウツボ
ウツボ
沈船
沈船の隙間から頭を出していた。顔は愛嬌があるが、大きく鋭い歯をもつので、うかつに近づかないようにしよう。
シマキンチャクフグ
シマキンチャクフグ
大ヶ瀬
後頭部に1本、体側に3本の鞍状の黒色帯があるのが特徴。皮膚から毒を分泌するので、要注意だ。
イシガキダイ
イシガキダイ
妙見浦
石垣のように見える体側の模様が特徴。老成したオスは口の先が白くなることから俗に“クチジロ”と呼ばれる。
イラ
イラ
沈船
丸い頭が特徴的な大型のベラ。物おじしない性格なので、ダイバーが近づいてもあまり逃げない。
ミナミハコフグ
ミナミハコフグ
妙見浦
黄色地に黒の水玉が愛らしいミナミハコフグの幼魚。成長すると模様はがらっと色が変わってしまう。
ミノカサゴ
ミノカサゴ
妙見浦
胸びれが美しく、フォト派ダイバーの被写体として人気。美しい姿に似合わず、獲物を丸飲みする。
フウライチョウチョウウオ
フウライチョウチョウウオ
妙見浦
付着藻類やサンゴのポリプ、底生の小動物などまで食べる雑食性。熱帯~亜熱帯に広く分布する普通種。
カンパチ
カンパチ
大ヶ瀬
背ビレ前方から眼を通り、上顎まで暗色の斜めの帯が入り、これを背中から見ると「八」に見えることが名前の由来。
ヨコスジフエダイ
ヨコスジフエダイ
沈船
体色は赤褐色で、鱗が黄色い。眼の上から体側中央を通る縦帯が特徴。食用魚としてよく利用される。
クマノミ
サラサエビ
スナイソギンチャク
アカオビハナダイ
キンチャクダイ
ウツボ
シマキンチャクフグ
イシガキダイ
イラ
ミナミハコフグ
ミノカサゴ
フウライチョウチョウウオ
カンパチ
ヨコスジフエダイ