• 撮影:中村卓哉
  • ナビゲーター:河本雄太
  • 撮影・文:坪根雄大
  • 構成・文:中西美樹、山崎陽子
  • 監修:中村竜也
  • デザイン:寒川広範
  • 取材協力:エバーブルー屋久島
  • 器材協力:(株)キヌガワ、(株)タバタ、ワールドダイブ(株)
  • 衣装協力:Ocean Pacific、HELLY HANSEN
  • (五十音順)
場所を示す線 日本地図の中の屋久島の場所 日本地図 屋久島の拡大地図

鹿児島市から南へ約130㎞、島の約90%を森林で覆われた世界自然遺産の島・屋久島。縄文杉などの屋久杉をはじめとした豊かな植物、ヤクシカやヤクシマザルなどの動物たち、そして黒潮が流れ込む透明度の高い海では、ウミガメや魚群など見どころが盛りだくさん。
一度の旅で、どれだけの海と陸の自然に出会えるか、水中写真家・中村卓哉さん(以下、卓哉さん)とオーシャナCEOの河本雄太(以下、河本)たちは屋久島へと取材に向かった。そして今回、協力いただいた「エバーブルー屋久島」の前田豊さん(以下、前田さん)が案内してくれた海ではどんなシーンに出会ったのか? 圧倒的な自然が広がる山や滝を目の前に、何を感じただろうか?

過去連載は第0話からご覧ください。

ニッポンの海と文化 第0話

今回訪れた屋久島とは?
屋久島は面積約504.88平方㎞、ほぼ円形をしていて、九州地方の最高峰である宮之浦岳(標高1936m)をはじめ、多くの高山がある緑豊かな島。1993年にユネスコの世界自然遺産に登録され、島の約21%が世界遺産エリアに含まれている。縄文杉や白谷雲水峡など、壮大な陸の自然を目当てに訪れる観光客が多いが、暖かな黒潮の影響を受け、ウミガメや回遊魚などがやって来るダイビングポイントとしても魅力あふれる島だ。
屋久杉をはじめ、陸の観光では圧倒的な自然のパワーを感じることができる(撮影/中村卓哉)

屋久島のダイビング、陸の自然の素晴らしさを紹介する前に、ナビゲーターである河本が「屋久島を訪れて感じたこと」をお伝えしよう。「ニッポンの海と文化」の視点から見た屋久島の魅力はどんなものだったのだろうか?

海と陸、どちらも最高の観光資源
さらに豊富な水資源はエネルギーとしても活用

屋久島というと世界自然遺産の陸を目的に訪れる人が多いと思いますが、ダイビングをしてみて「海も世界クラス」なんだと感じました。世界に誇れる山が目の前にあって、そこからダイビングに行けるというのは、すごいことです。屋久島町の役場の方たちと話していたら、実は地元の方々は「山は登るのが大変じゃないですか」と言われていて(笑)、山遊びより釣りやシュノーケリングなどの海遊びをしている方が多いんです。

屋久島にはウミガメが産卵に来るビーチがあって、とてもきれいです。そして、海水浴場も整備されています。離島で海水浴場にライフセーバーを置いているところは珍しいのではないかと思います。

また、屋久島は「ひと月に35日雨が降る」と言われるほど降雨量が多いのですが、その豊富な水資源を利用して、電気の99.6%が水力発電で作られているそうです。離島でエネルギーを自分たちで作れるというのは大きな強みだと感じました。

海は透明度が高く、魚影が濃く、見どころ豊富
いろんな楽しみ方ができる

魚影の濃い「ゼロ戦」を取材中の河本(右)と卓哉さん(撮影/坪根雄大)

ダイビングで印象的だったのは、流れが強かったこと(笑)。黒潮が流れ込んできているから、回遊魚やマンタやジンベエザメなどの大物と遭遇できるチャンスがあるんですね。今回は残念ながら会えませんでしたが…。

またガンガン流れているだけでなく、穏やかでリュウモンサンゴの群生がとてもきれいな場所もあります。また「ゼロ戦」にはたくさんの魚がついているので、そういうポイントでゆっくりフィッシュウオッチングも楽しめます。

今回、川でのサップ(SUP)も体験しましたが、山のコンテンツ、海のコンテンツ、そして川のコンテンツと、すべてが世界トップクラスのクオリティだということを、多くの方に知ってもらいたいですね。インバウンドのお客さんに「海は沖縄、山は富士山を目指すかもしれないけれど、屋久島はすべて揃っていますよ」とお伝えしたいです。

ここからは、3泊4日で屋久島の海と陸の自然を満喫して、現地のグルメや文化を体感できる旅の様子をレポート。ダイビングを中2日の午前中に楽しみ、あとの時間は屋久杉や滝、川でのサップ(SUP)など、陸の自然とアクティビティを堪能。食事も島ならではの食材をいただく、まさに「屋久島満喫プラン」となっている。

Day1 AM
ヤクスギランドにある「千年杉」。高さは40mにも及ぶだろうか? 圧倒的な存在感に目が釘付けになる(撮影/中村卓哉)

初日、屋久島空港に集合した取材チーム一同は、まずは「屋久島といえば、屋久杉を見ておかなければ」ということで、「ヤクスギランド」へ向かった。本来ならば「縄文杉」を見に行きたいところだったが、今回は取材日数の都合上、手軽に屋久杉の森が体感できるこの場所を訪れることにした。

より深く、屋久杉のことを知りたいということで、事前に現地ガイドを予約したのだが、担当していただくことになった松本たけしさんは、なんと以前はダイビングショップに務めていらっしゃったとのこと。このことがわかり、一気に卓哉さんや河本と距離が縮まった。

ガイドの松本毅さん。屋久島出身ではなく、Iターンで屋久島で仕事を始めたという(撮影/坪根雄大)

ヤクスギランドは標高1000mのところにあり、空気は冷たく湿度があり、あたり一面に苔蒸している。山の中を何時間も歩いて辿りつく縄文杉とは雰囲気は違うのかもしれないが、下界とはまったく違う空気感だ。

ガイドの松本さんと一緒に回ったこともあり、コースの中で出会う特徴のある屋久杉をじっくり観察することができた。また、昔の人はどうやって伐採した屋久杉を運んでいたのか? なぜ屋久島には杉が多いのかなど、屋久島の自然や歴史について深く学ぶことができた。

訪問地情報 Map

ヤクスギランド
住所:鹿児島県熊毛郡屋久島町荒川
駐車場:40台(無料)
URL:https://y-rekumori.com/
安房から約16km、標高1000~1300mに広がる自然休養林。270.33haの広大な森に5つのコースがあり、気軽にトレッキングや森林浴が楽しめる。

絶品のトビウオのひつまぶしでランチ

「ヤクスギランド」での取材を終えた一行はランチへ。屋久島は、黒潮の影響もありトビウオ漁が盛ん。ということで、トビウオのひつまぶしが堪能できるという定食屋「かたぎりさん」へと向かった。

トビウオの白身がさっぱりとしていて、出汁と一緒に食べるとあっという間に完食。体を動かした後にはちょうどいいボリューム感だった。

ふっくらとしたトビウオがたっぷりのっている(撮影/坪根雄大)
大葉、梅干し、わさび、海苔などの薬味も添えられていて、いろんな食べ方が楽しめる(撮影/坪根雄大)
最後は、あご出汁をかけてお茶漬け風に(撮影/坪根雄大)

訪問地情報 Map

かたぎりさん

かたぎりさん
住所:鹿児島県熊毛郡屋久島町安房540-62
URL:https://katagirisan.com/
トビウオのひつまぶしやパスタなど、地元食材を活かした料理が食べられる食事処。キッズスペースがあり、子連れでも利用しやすく、アットホームな雰囲気だ。

Day1 PM
トロ―キの滝
モッチョム岳を背景に、トローキの滝の撮影に成功! 一瞬のタイミングでとらえた奇跡の1カット(撮影/中村卓哉)

昼食を終えた取材チームは、日本に2箇所にしかない珍しい滝「トローキの滝」へと向かった。何が珍しいかというと、通常の滝は、多くの滝は、山からいくつもの川と滝を隔てて海に流れるが、この滝は山から直接海に落ちている滝なのだ。屋久島の標高差の凄さを実感できる滝でもある。このような滝は、「海岸瀑」ともいうらしい。

温暖湿潤気候という土地柄、多雨な屋久島。モッチョム岳を背景にいい写真を狙いたいが、なかなか天候が安定しない。やきもきしていた取材チームだったが、卓哉さんが発した「自然は1秒1秒違う顔を見せる。そして、同じ表情は決して見せない。だから、最高の1枚を撮影するには人間が自然に合わせないといけない」という言葉で、トローキの滝の撮影ポイントに少し滞在して撮影することに。すると曇りの中、一瞬晴れたその数分の間を狙ってこんな写真が撮れたのだ!

訪問地情報 Map

トローキの滝 展望台
住所:鹿児島県熊毛郡屋久島町麦生
駐車場:なし
壮大な滝を間近で眺められる絶景スポット。トローキの滝の近くにある「ぽんたん館」の前が展望台の入り口。

夜は屋久島ならではの海鮮料理に舌鼓を打つ

屋久島最初の晩御飯は、地元の食文化を味わうべく島内でも飲み屋などが多く連なっている宮之浦エリアへ。屋久島は、家飲み文化が今でも根強く、飲食店は他のエリアに比べると少ない印象。通りを歩いて店をあれこれ覗いた末に、地元の方らしきお客さんが多い「食事処 さっちゃん」へ。

この店では新鮮な刺身から焼き魚、すり身まで屋久島ならではの魚料理が楽しめる。その他にも、黒板に手書きで書かれたメニューの中から、唐揚げなどの居酒屋メニューも選ぶことができる。

その日に仕入れた新鮮な地魚の刺身盛り合わせ(撮影/坪根雄大)
屋久島では飛魚のつけ揚げが主流。お酒のつまみにぴったり(撮影/坪根雄大)
脂の乗った鯖の塩焼き。身がホロッととれて箸がすすむ(撮影/坪根雄大)

訪問地情報 Map

食事処さっちゃん
住所:鹿児島県熊毛郡屋久島町宮之浦196-1
駐車場:なし(周辺のパーキングに駐車)
URL:https://www.instagram.com/sachan.yakushima
地元の新鮮な食材を使った料理が楽しめる居酒屋で、お座敷の席でゆったり過ごせる。

Day2 AM
温帯性のカゴカキダイと亜熱帯性のヨスジフエダイやロクセンフエダイの群れが混ざりあう。温帯と亜熱帯の海が交じり合った屋久島ならではのシーンだ【撮影ポイントお宮下】(撮影/中村卓哉)
数えきれないほどのニザダイの大群がやって来た【撮影ポイント横瀬】(撮影/中村卓哉)

ダイビング1日目は、島の北部に位置する「一湊」で潜ることに。ここのすごいところは、ボートで港からわずか15分以内のエリアにたくさんのポイントがあること。しかも、どこのポイントも魚影が濃く、被写体豊富なのだ。

「ゼロ戦」には、アザハタがすみ着き、クロホシイシモチなどの群れを捕食する迫力あるシーンが観察できる(撮影/中村卓哉)
のんびり岩陰でお休み中のウミガメに遭遇【撮影ポイントタンク下】(撮影/中村卓哉)

愛おしいマクロ生物たちも、目が離せない

ダイナミックなワイドの景観に目がいきがちだが、マクロ生物たちの豊富さも屋久島の大きな魅力と言えるだろう。

ヤギに擬態していたピグミーシーホース【撮影ポイントお宮下】(撮影/中村卓哉)
屋久島の名前がついたヤクシマキツネウオ。警戒心が強く、撮影にはなかなか手間がかかった(撮影/中村卓哉)
ハゼ好きダイバーなら見逃せないホタテツノハゼも登場(撮影/中村卓哉)
ヤクシマカクレエビは擬態上手。白いサンゴに隠れていて、何度も見失いかけながらも撮影に成功(撮影/中村卓哉)

この通り「一湊」では、実にたくさんの生物たちと出会い、撮影することができた。 今まで、屋久島で水中撮影をする機会がなかったという卓哉さんだったが、「もっと早くから来ていればよかった」と思うほど、このポイントが気に入ったようだった。

水中写真家・中村卓哉を唸らせたリュウモンサンゴの群生

一面に広がるリュウモンサンゴ。穏やかな時間が過ぎる、こんなポイントがあるのも屋久島の海の魅力だ【撮影ポイントトンネル下】(撮影/中村卓哉)

卓哉さんが一番印象的だったというのが、「一湊」の西に位置する「吉田地区」このリュウモンサンゴの群生。
「港のすぐ近くで、これだけのサンゴの群生が見られるというのが、まず驚きでした。この光景を見たとき、よく撮影に行っているパプアニューギニアのようだなと思いました。日本の屋久島にもこんなサンゴの群生があることに感動しました」。

サンゴがこれだけ元気なのも、屋久島の豊かな森の自然が関係している。河川から栄養豊富な植物プランクトンが流れ込み、しかも透明度が高く、美しくブルーに抜けたサンゴの絶景は、卓哉さんの格好の被写体となったようだ。

Day2 PM

芋焼酎の銘酒・三岳みたけの産地としても有名な屋久島。2日目の午後は、ウイスキーの製造も行っている「屋久島伝承蔵 本坊酒造」のお酒造りの様子や新しい試みを見学させていただいた。本坊酒造では、酒作りの過程の見学体験も受け入れており、インバウンド向けのテイスティングルームも用意している。

左から、芋焼酎「水ノ森」、芋焼酎原酒「屋久杉」、芋焼酎「屋久杉 Yakushima Jisugi Cask Aging」、芋焼酎原酒「無何有(むかう)」、ウイスキー「駒ヶ岳」、ウイスキー「MARS The Y.A. #01」(現在生産終了)(撮影/中村卓哉)
本坊酒造の敷地内にある「マルス屋久島エージングセラー」(撮影/中村卓哉)
芋焼酎、芋焼酎原酒、ウイスキーなど屋久島の自然の恵みによって作られたお酒をテイスティング(撮影/中村卓哉)

到着後、まずは焼酎作りの工程を見学させていただいた。目の前で焼酎作りをしているため、職人さんのリアルな姿を見ることができるのが、興味深い。また「マルス屋久島エージングセラー」というウイスキーのセラーもあり、中に入るとウイスキーの独特な匂いが漂っていた。最後には試飲ができるので、焼酎やウイスキーなどが好きな方にはぜひおすすめしたい、大人旅にぴったりな体験コースだった。

芋焼酎の生産工程を見学。説明を聞いていると焼酎が飲みたくなってしまう(撮影/坪根雄大)
ウイスキー原酒の一部を熟成している(撮影/坪根雄大)

訪問地情報 Map

屋久島伝承蔵 本坊酒造
住所:鹿児島県熊毛郡屋久島町安房2384
駐車場:あり(普通3台・バス1台)
URL:https://www.hombo.co.jp/
屋久島の自然の恵みを活かした焼酎を製造する酒蔵。伝統的な製法で作られた焼酎づくりの見学や試飲も楽しむことができる。

焼酎に合いそうな魚介類のおつまみやカレーで自由に、
屋久島ならではの「NUB飯」を楽しむ

酒造を取材した後は、屋久島のお土産ストア「やくしま市場」で屋久島の土産物をチェック。今日の夕食は「ニッポンの海と文化」恒例のNUB飯だ。自分がもらって嬉しい土産物や、その土地ならではの食材を各自が選び、キッチン付きのコテージで調理して、皆でいただく。

河本は、大好きなカレーを購入。卓哉さんは、焼酎に合いそうな焼き魚やおつまみ系をチョイス。どれも焼くだけ、茹でるだけ、あえるだけで、ぱっと調理しただけで食卓が華やかに! お店で外食もいいけれど、一日ぐらいはコテージで暮らすように過ごすのもありだと思える。

※NUB飯とは:「地元の方が食べているものやお土産として自分たちが買ってみたいと思うものを現地で食べてみよう」という河本の提案で始まった、現地調達でその土地の食材を楽しむ食事のこと。

左下から時計回りに屋久島海と森のカレー、屋久島フィッシュカレー、トビウオのつけ揚げ、冷奴、焼きそば、鯖スモークとタマネギをマヨネーズであえたおつまみ、カクテキ、豚しゃぶサラダ、屋久とろ、トビウオのラーメン(撮影/坪根雄大)
トビウオのミンチボールが入った「屋久島海と森のカレー」(撮影/坪根雄大)
サバの一夜干しをオーブンでじっくり焼く卓哉さん(撮影/坪根雄大)
本坊酒造で購入した焼酎「水ノ森」とジャパニーズジン「和美人」で乾杯する河本と卓哉さん(撮影/坪根雄大)

トビウオのラーメンは出汁が効いていて、思わずスープもすべて飲み干してしまうほど優しい味。麺もツルツルしていて、お土産にもぴったりの一品だった。また「屋久島海と森のカレー」は、トビウオのミンチボールが入っているスパイスカレーで、さっぱりした味わい。
サバのおつまみは、スモークされたサバとスライスしたオニオンマヨネーズの相性が抜群。

屋久島産の魚介類などをつまみに、地元のお酒をいただくひとときは、最高の時間となった。

Day3 AM
エアが横に流れるほどの潮流に面喰いながらも、大物を待つ【撮影ポイント永田灯台下】(撮影/中村卓哉)

ダイビング2日目は、ジンベエザメやマンタなどの大物が登場することもあるビックスポット・永田エリアへ。エントリーしてすぐに、強い流れを感じる。「過去に経験した中でも1、2位を争う流れ」と卓哉さんが言うほどのかなりタフなコンディションだ。

ギンガメアジやイソマグロなどの回遊魚を狙うが、カメラを構えることも難しいほどの激流だ。通常のゲストを案内する場合は、この流れだとポイントは変更するそう。しかし、数々の修羅場を潜り抜けてきた水中写真家・中村卓哉さん、そしてインストラクターとしても豊富な経験を持つ河本とオーシャナカメラマンの坪根雄大。ここは、潜らずに帰るわけにはいくまい…。

数少ないシャッターチャンスで、卓哉さんがとらえたイソマグロ。激流をものともせず、悠々と目の前を通り過ぎていった(撮影/中村卓哉)
山勝ちな屋久島は、海の中にもダイナミックな景観が広がる【撮影ポイント永田観音崎】(撮影/中村卓哉)

今回は限られたロケ日程で、これ以上の撮れ高はさすがの卓哉さんをもってしても難しかった。しかし、卓哉さんはこんな感想を述べてくれた。

「思うように写真が撮れなかった悔しさはありましたが、潮の流れを全身で感じられたのは、いい経験でした。それに、いろんな経験をしているはずの自分でもこんな激流を潜るのは緊張しましたが、ガイドの前田さんがいい具合にボートの上で冗談を言ったりして、リラックスさせてくれるんです(笑)。ワクワクドキドキしながら、貴重な経験ができたと思います」。

移動中のボートの上では、前田さんのトークで皆が自然と笑顔に(撮影/中村卓哉)

今回は思うような写真が撮れなかった悔しさも残るが、「また撮影に行きたい」と卓哉さん。今後、屋久島で撮影した新たな作品をどこかで目にできるチャンスがあるかもしれない。

Day3 PM

ハードなダイビングを終えた取材チームは、軽く昼食をとり、島を一周する形で夜の飲食店に向かいながら観光スポットを巡る。撮影の前日まで西部林道が通行止めだったが、運良く解除された。

最初に、屋久島の固有亜種・ヤクシマザルやヤクシカが生息する道を通る。毛繕いをしているヤクシマザルや、食事中のヤクシカ、体を木にこすりつけるオスのヤクシカなどに遭遇。ニッポンの海と文化第4話、知床で遭遇したエゾジカに比べると2分の1くらいの小さいサイズ。

サルだけかと思ったら後ろからヤクシカがのぞいていた(撮影/中村卓哉)
食事中のヤクシカ。卓哉さんがカメラを向けるとじーっと見つめてカメラ目線(撮影/中村卓哉)
角は立派だが、白い斑点がまだ残っている大人になりかけの雄ジカ(撮影/中村卓哉)

その後、屋久島最大級の滝、「大川の滝」へと移動。頭上88mから落ちてくる滝は、見学者の方に水飛沫が飛んで濡れるほどの迫力だった。観光客の方が行き来する中、卓哉さんは大川の滝の目の前に立って、滝と向き合うこと数分、虹がかかっているショットを撮影。

縦にも横にもスケールの大きな「大川の滝」(撮影/中村卓哉)
水のしぶきで虹が現れた瞬間を撮影(撮影/中村卓哉)

最後に、標高300mのところから眺める千尋せんぴろたきの展望所に向かう。海底で発生したマグマが冷えて固まった花崗岩かこうがんの一枚岩が印象的。花崗岩のV字谷を滝が流れている。これは、海にもつながっていて、ダイビング中は水中でも目にすることができる。千尋の滝の反対側にある展望所からは、屋久島の安房・麦生エリアとその奥に広がる海を眺めることができる。

周りの山の標高が高く滝が小さく感じるが、標高300mのところに位置する(撮影/中村卓哉)
まるでコンクリートのような断面をした花崗岩かこうがん(撮影/中村卓哉)
千尋の滝の反対側には、屋久島の平野と海を一望できる展望台がある(撮影/中村卓哉)

滝や山が織りなす地形を見ていく中で、屋久島の海が豊かな理由に結び合わせて話が盛り上がっていく河本と卓哉さん。標高差がある屋久島の山で育つ杉や、苔植物、いくつもの代表的な滝の役割を知り、いろいろな条件が揃っているからこそ、山と海の豊かな自然循環の環境が成り立っているということがよくわかった。

訪問地情報 Map

西部林道
屋久島の西側、屋久島灯台入口から大川の滝周辺を結ぶ約17kmの沿岸道路。照葉樹林の森が続き、ヤクシマザルやヤクシカなどの動物に出会えて、壮大な景観を満喫できる。

大川の滝
住所:鹿児島県熊毛郡屋久島町栗生
駐車場:5台
高さ約88mから水が一気に流れ落ちる景色は圧巻。横幅が広く、周囲の緑とともに自然の雄大さを体感できる。

千尋の滝
住所:鹿児島県熊毛郡屋久島町麦生
駐車場:25台
高さ約60mから水が岩壁を一本線で流れ落ちる景観はとても美しく、屋久島の地形の成り立ちを目で見て感じ取ることができる。

最後の夜は前田さんと一緒に「若大将」で杯を重ねる

屋久島最後の夜は、2日間ダイビングでお世話になった「エバーブルー屋久島」の前田さんと乾杯。いつも元気で明るい前田さんから「お客さんを連れて日々潜っているけど、今日はどんな海に出会えるんだろうと毎日ワクワクするほど、海は日によっていろんな景色を見せてくれる」と屋久島の海の面白さについて教えていただいた。詳しい内容は、スピンオフ記事にてお届けするので、お楽しみに。

そして、屋久島特有の交通事情も知ることに。夕食後にタクシーで帰る場合は、夕方までに事前にタクシーに予約の連絡を入れておかなければならない。ということは、2時間飲むのであれば、終了時間を予測してタクシーの予約をしなければいけない。これは、登山など朝早く起きて行うアクティビティが多いことも関係しているという。

ハードなコンディションのダイビング取材を経て、一気に仲を深めた卓哉さん、前田さん、河本(撮影/坪根雄大)
サバ、トビウオ、メダイ、アオハタの刺身盛り(撮影/坪根雄大)
見た目の迫力も味もすごい、オジサンの姿揚げ(撮影/坪根雄大)
海鮮料理とつまみメニューが豊富で地元の方からも観光客からも愛されている(撮影/坪根雄大)

訪問地情報 Map

若大将
住所:鹿児島県熊毛郡屋久島町宮之浦79
駐車場:なし(周辺のパーキングに駐車)
前田さんおすすめの居酒屋。地元の新鮮な魚介や郷土料理が楽しめて、活気にあふれた店。入り口の大きな赤提灯が目印。

Day4 AM
安房川の下流から上流に向かって進み、ひと休憩。この日はマラソンイベントがあり、頭上の松峯大橋は封鎖されていた(撮影/坪根雄大)

今回のロケの計画を立てている時に屋久島のアクティビティを検索していたところ、川でサップ(SUP)を行っているショップを発見。しかも、サップの上でコーヒーが飲めるとか。登山の印象が強い屋久島で川サップができるのはとても興味深く、チャレンジすることにした。

ガイドをしてくれたのは加藤 朗史あきふみさん。埼玉出身の加藤さんは、2011年の東日本大震災後に屋久島に移住し、海、川、山をフィールドにガイドをしている。

集合場所に到着すると、とても気さくで明るい加藤さんが登場。河本は海と山を繋ぐ川でのアクティビティに胸を躍らせていた。しかし、一方の卓哉さんはずっと苦笑い。なぜか聞いてみると、「サップって落ちて濡れるの? 落ちて濡れたくないな〜。バランスを保つのが苦手だから自信がないな〜」とのこと(笑)。大丈夫かなと思いながらも、加藤さんのブリーフィングがスタートして、サップの上に立つところまで進んでいた。

今回体験するのは、安房川の下流から上流に向かい、コーヒー休憩を挟み、また下流まで戻ってくるコース。下流から見送り、戻って来るのを待っていると、卓哉さんが満面の笑みで到着。服もずぶ濡れだったが、「すごく楽しかった! やっぱりやってみないと楽しさはわからないものだね。一回サップから落ちて濡れたらどうでも良くなったよ」と。

大人でも、自然体験でこんなに楽しめるんだと、自然のパワーを感じた瞬間だった。

サップの上に立ち、快調に進む卓哉さんだが…(撮影/坪根雄大)
いつの間にか、全身川の中に水没!(撮影/坪根雄大)
笑顔で立ち上がる卓哉さん。撮影中の表情とは別人⁉(撮影/坪根雄大)

また、加藤さんは子ども向けに自然体験が学べる活動をしていきたいという話を聞き、「“遊び”を通して学ぶ」というキーワードがきっかけで、河本と意気投合。加藤さんが屋久島に移住して学んだ屋久島(=日本)の自然の豊かさ、海と山のつながりについて、それぞれが今までに見てきて、学んできた観点からの意見や考えを交換した。また、ニッポンの海と文化の旅をきっかけに新しい人との出会いへと繋がった。

加藤さんのサップガイドでは、オリジナルサービスとしてサップの上でコーヒーを作ってくれる(撮影/坪根雄大)
木陰でサップに寝っ転がりリラックス(撮影/坪根雄大)
安房川の半水面。透明度が高く、川の下まで透けて見える(撮影/坪根雄大)
「旧と新のコントラストがすごくある街でした」(卓哉さん)
「取材で出会った方たちが、熱海の価値そのもの」(河本)
(撮影:坪根雄大)

川サップを終えた卓哉さんと河本に、今回の3泊4日の屋久島での旅で気づいたこと、印象的だったことを聞いてみた。

「苔に滴る雫、川、プランクトンと、水の物語を改めて感じる旅でした。黒潮と森の恩恵を受け、両方が生きていて、どちらかが欠けると崩れちゃうんじゃないかと思うほどの儚くもあるバランスの良さで屋久島の海と陸は成り立っていますね。自然環境の循環モデルの理想がこの島なのではないかと思いました。また、陸に近い海の部分は澱んでいることが多いですが、屋久島では陸の近くの海もとてもきれいで、他の海に比べるとゴミも少ないのが印象的でした」。(卓哉さん)

「Iターンの方などの移住者が山や海のメインガイドになっている状況を見て、次の世代に屋久島の観光が受け継がれていくんだろうなと感じました。屋久島は山と海の両方に、サステナビリティがすべて詰まっている島だと思います。また、屋久島の海の魅力を見つけに行こうと思って潜ったのですが、そんな必要はなく、ワイドを撮るなら屋久島の海はトップクラスだと感じるほど衝撃的な海でした。あと、99.6%が水力発電ということを知り、これにも驚きました」。(河本)

「日本人がまだ気づいていない、ニッポンの海の素晴らしい価値を証明する」という思いでスタートした「ニッポンの海と文化」。屋久島では、圧倒的な自然の魅力を目の当たりにし、そしてその素晴らしさを伝えるために尽力している情熱的な人々との出会いがあった。

記事内で紹介した観光地、食事処、ダイビングサービスなどの場所は、こちらでチェック。 屋久島を旅する際に、ぜひ活用してください。