撮影:中村卓哉

ニッポンの海と文化第2話

山形県 庄内・鶴岡
~美味な魚泳ぐ海に、神秘的な山々。
伝統が息づく街は食の宝庫~

2022年12月に「第1話 広島県 広島湾・宮島 ~豊かな海藻の森に、神の島。すぐに帰りたくなる海~」を公開した「ニッポンの海と文化」。第2話では、水中写真家・中村卓哉さん(以下、卓哉さん)をメインフォトグラファーに迎え、山形県・鶴岡市を起点に庄内の海、そして日本遺産の羽黒山を巡る旅に出かける。さらにオーシャナ代表の河本雄太(以下、河本)と卓哉さんともに初となる「リブリーザー」にも挑戦!果たして、今回の旅ではどんな海に、文化に、人に出会っていくのだろうか。卓哉さんとオーシャナカメラマンの坪根雄大(以下、坪根)の撮りおろし写真と、約17,000字の紀行文で熱くお届けしよう!

  • 撮影:中村卓哉
  • ナビゲーター:河本雄太
  • 撮影・文:坪根雄大
  • 構成・文:中西美樹、山崎陽子
  • デザイン:田中佑季
  • 監修:中村竜也
  • 取材協力:アーバンスポーツ
  • 器材協力:(株)キヌガワ、ワールドダイブ(株)(五十音順)

水中写真家・中村卓哉がとらえる
先人と自然が生み出す山形・鶴岡の姿

鬱蒼と茂る杉並木の奥に佇む羽黒山の五重塔(撮影:中村卓哉)

「日本の海の本当の魅力と価値、そして海から生み出された文化の素晴らしさを紹介していく」という企画「ニッポンの海と文化」。第2話の旅先に河本が選んだのは、日本海に面した山形県・鶴岡市。全国最多となる3つの日本遺産を持ち、その中には今回訪れる羽黒山も含まれている。

取材チームは、まず東京から飛行機で庄内空港へと飛び、その後鶴岡市内まで車で移動。鶴岡市内までは、空港から60分ほどだ。

そして、その鶴岡市にダイビングショップを構えるのは、坪根が過去にリブリーザー講習でお世話になったこともある「アーバンスポーツ」。まずは庄内の海を「アーバンスポーツ」のガイドで、卓哉さんが激写する。同行した坪根カメラマンのレポートで、海の様子から紹介していこう。

東北・日本海の孤島・四島で
ジェッティダイビング

エントリーはジェッティ(桟橋)から行う。はしごが設置されているのでエキジットもラクラク(撮影:坪根雄大)

山形県が誇る日本遺産の出羽三山。そこには、自然信仰を源流とする修験道が、現在まで形を残す唯一の修行がある。そんな日本古来より続く自然信仰が残る山形県第2の都市である鶴岡市に、日本中からテクニカルダイバー(インストラクター)が修行に訪れる「潜水指導の師」がいることをご存知だろうか。

30年かけてこの地に創りあげた、唯一無二の設備と地元漁民との信頼関係。東北・日本海の地で生物調査や撮影協力に勤しみ、最先端のダイビングスタイルを提供する 「アーバンスポーツ」の代表・相星克文あいほしよしふみさん(以下、相星さん) に、自然豊かな庄内の海を案内してもらった。

鶴岡市の沖に浮かぶ「四島よつしま」。留棹庵島りゅうとうあんしま灯標が目印(撮影:坪根雄大)

「地形も群れもマクロも、
なんでも用意できます」

大小4つの岩礁島から成る「四島」は、別名・留棹庵島と呼ばれる。黒と赤の灯標が印象的なこの無人島の周辺に、ダイビングポイントが点在している。ここではビーチでもなくボートでもない日本でも珍しい「ジェッティダイブ」ができる。

人懐っこいマダイやアジの群れなどのワイドから、岩穴から顔を出すコケギンポ、海藻やカイメンを好む多彩なウミウシなどのマクロまで、日本海の多様な水中生物が観察できる。港から船で10分と近いが、豊かな海がそこには広がっている。

マアジの群れは水面近くで遭遇することが多いが、四島では島と島の間の水深20m近い深い場所に突然現れた(撮影:中村卓哉)

ゲストダイバーに合わせて、バックマウント、サイドマウント、リブリーザーと的確な装備でガイドをする相星さん。釣りのメッカである四島は、名前の通り4つある島の間を周ることができるので地形探索が楽しめるポイントだ。柱状節理の岩壁も見られることから、過去に溶岩活動もあったのだろう。

四島周辺ではダイナミックな地形が楽しめる(撮影:中村卓哉)

先導するガイドと併走するマダイという不思議なチームで泳いだ先では、流星のように降り注ぐマアジの群れが眼前を埋め尽くした。卓哉さんは「食べると美味しそうな魚がいる海が好き」と言うが、アジの群れや大きなマダイはまさにそんな魚たち。いろいろな角度からマダイやマアジたちにアプローチして、撮影に熱が入っていた。

「アーバンスポーツ」の相星さんが年月をかけて仲良しになったマダイ。格好のモデルになってくれた(撮影:中村卓哉)

今まで自分は沖縄と伊豆の海をメインに潜ってきたので、日本海では初めて出会う生物もいて、興味をひかれた。一番のお気に入りはイシダイの幼魚たち。縞模様がある稚魚から若魚を「サンバソウ」と呼ぶ。日本の伝統芸能で五穀豊穣を祝い舞う三番叟さんばそうの役者がかぶる帽子に似ていることが、その名の由来のようだ。本州の魚は地味な姿と名称が多いが、淡い黄色に黒のストライプの魚が群れで集まってくるシーンは、南国の海を彷彿とさせた。

イシダイの幼魚の群れは、好奇心旺盛にカメラに寄ってくる(撮影:中村卓哉)

イシダイの幼魚がシマシマなことは知っていたが、こんなに群れでダイバーに近づいてくるのを見たのは初めてだ。ドームポートに寄ってくるような素振りもあり、レンズに映る自分たちの姿を仲間だと思っているのかもしれない。まるで日本海の水中にある幼稚園に来てしまったようなシーンだった。

「マクロはもう十分」と
卓哉さんを満足させた海藻生態系の海

(上段左から右)(上から)ハナイロウミウシ、アカエラミノウミウシ、ダイダイウミウシ(下段左から右)キイロウミコチョウ、シロホクヨウウミウシ(撮影:中村卓哉)

地味な色の生物が多いと言われる日本海の水中において、華やかな色のウミウシは人気があるのだろう。ガイド陣は移動中にずっと海藻や岩場に潜むウミウシを探していた。サンゴ礁の海に慣れた自分の目では、海藻に棲むウミウシの姿はまったく見つけることができない。

一見地味で、色数の少ない印象の庄内の海。限られた撮影時間に、その海の特徴を捉えた写真を撮らなくてはならないプロの水中写真家にとっては、被写体のバリエーションが乏しいのでは?と編集部では余計な心配をしていた。しかしそれは取り越し苦労だった。

「カラフルな海=きれいな海、という価値観を取っ払いたいと、僕はいつも思っているんですよね。沖縄や海外のサンゴ礁の海とはまったく違う、日本特有の美意識である『侘び寂び』を感じられる日本海は、まさに日本の海ならではの魅力にあふれていると思います」と卓哉さん。

庄内の海は海水温が高い夏の間は、岩肌が草原のように短い植物に覆われている。そこには、多彩なウミウシが棲んでいた。食べたもので色が変化する種のウミウシも多く、マクロの世界では派手な海なのだろうと感じた。

ウミウシのほかにも、ホヤやカイメンなどに棲む愛らしい生物たちが見られた。「マクロはもう十分だね」と卓哉さんは満足そうだ。四島でのたった2ダイブで、多くの宝石を撮影することができた。

愛らしいギンポや穴に隠れるオオカズナギ。
見られる魚種も豊富

(上)オオカズナギのペア。上がオスで、下がメス(中央)マダラギンポ(下)アライソコケギンポなど、マクロ撮影に恰好のモデルがあちこちで見られた(撮影:中村卓哉)

伊豆や和歌山、四国など他の地域でも見られるイソギンポやコケギンポは、マクロ撮影によい被写体だ。一見地味だが、穴に隠れる魚で気になったやつがいる。オスがオレンジ色でメスは白っぽい色の「オオカズナギ」だ。漢字では、その姿から名付けられたのか「大数鰻」と書かれている場合と、まるで古事記や日本書紀といった日本の神話に出てくる神様のように「大加須那儀」と書かれていることがある。

喧嘩をする生物は数多くいるが、オオカズナギは相撲のように押し合いの闘争をするという。いつの日か機会があれば大口を開けて争う姿を撮ってみたいと思った。オオカズナギやコケギンポなどの産卵やメスをめぐるオスのバトルは、4~6月頃に見られるようだ。海藻が繁茂する時期でもあるので、厳しい冬が明けて雪が溶ける頃に、マクロレンズを準備してまた山形庄内の地へ訪れてみたい。

四島での撮影を終えて卓哉さんは「日本酒のおいしいところは、海もいい。これは今までの経験で間違いないですが(笑)、庄内の海もその例にもれません」と言う。日本海には対馬海流、親潮が流れ込み、さまざまな生物がやって来る。そして、緑豊かな山々からは、栄養豊富できれいな水(これが日本酒にとって大事)が海へと流れ込んできている。ぱっと見の派手さはなくとも、本当に豊かなニッポンの海を取材チームは体感できた。

取材チームが潜った
ダイビングポイント

四島は、自然に作られた大小4つの岩礁島から成る。港からボートで約7~8分と近く、ここではビーチでもなくボートでもない日本でも珍しいジェッティダイブが楽しめる。生物層は厚く、魚群も多く見られ、ワイドからマクロまでさまざまな生物が観察できる。アーバンスポーツのボス・相星さんがじっくり時間をかけて仲良しになったアイドル、コブダイの「金次郎」とマダイの「ハナタレ」はフォト派の被写体にも最適。7~10月の季節限定ポイント。

今回取材チームが潜って撮影を行ったのは、地図に名前が入っている5カ所。ほかにも合計10カ所以上のダイビングポイントが点在している。

水中写真家・中村卓哉さん、河本が
「人生初のリブリーザー」に
チャレンジ!

ダイビング経験豊富な人でも、リブリーザーを使ったことがある人はまだ少ないのではないだろうか。河本〈左〉と卓哉さん〈右〉も、今回のロケで人生初のリブリーザーダイビングを体験(撮影:坪根雄大)

今回のダイビング取材の大きなテーマの一つが、卓哉さんと河本のリブリーザーダイビングへの挑戦だ。取材のプランを練っていた2022年春、ちょうどダイビング器材メーカーのMares(マレス)から、レジャーダイバー向けのスポーツリブリーザー「HORIZON(ホライゾン)」が発売されて話題に。「テクニカルダイビングの匠・相星さんのところで潜るなら、これはトライしてみるしかない!」ということで、ダイビング取材のうち1日をHORIZONで行うことにした。

ここ20年近く、人にダイビングを教える立場で仕事をしてきた河本。そして水中写真を撮るために、ハードなダイビングを常日頃からこなしている卓哉さん。そんな二人が講習を受けて新しい潜り方にチャレンジするというのは、とても新鮮な体験になりそうだ。

「リブリーザーで潜ると、エアの泡が出ないから生物に寄れるそうですよね。撮影によさそうですが、どんな感じなんでしょうね?」と卓哉さんは興味しんしん。河本も初のリブリーザー体験に、期待に胸を躍らせている。

スポーツリブリーザー
「HORIZON」とは

重さ約12㎏と意外にコンパクトで軽いHORIZON

そもそもリブリーザーとはどんな器材なのか? 通常私たちがシリンダーを使用して潜るスキューバダイビングのシステムでは、充填された空気をレギュレーターから吸い、水中で呼吸する。これは「オープンサーキット」と呼ばれている。これに対してリブリーザーは「クローズドサーキット」に含まれ、「Re Breath(リブリーズ=再呼吸)」の名前どおり、吐いた空気を無駄にせず、再度自分が吸う空気に再利用するシステムのことをいう。

なおリブリーザーには大きく分けて、CCR(クローズドサーキットリブリーザー)と、SCR(セミクローズドリブリーザー)の2種類がある。HORIZONはSCRで、排気の一部を再生し、エンリッチド・エア・ナイトロックスを定量で流して、酸素を補充してくれる仕組みになっている。

オープンサーキットとクローズドサーキットのリブリーザーの大きな違いは、まずは水中で排気音がせず、吐く息の泡がほとんど出ないということ。泡が出ず音もしないので、魚たちがダイバーを警戒せず、近寄りやすくなるという。また空気を再利用するシステムなのでエア持ちが良くなり、長く水中にいられるようになる。ほかにも温かく湿ったガスが供給されるため、呼吸がラクにできるというメリットも。

さまざまなメリットがあるものの、リブリーザーに対応するダイビングサービスはまだ少なく、今までレジャーダイビングではあまり使われてこなかった。しかし、「HORIZON」が登場したことで、一般ダイバーにもリブリーザーがグッと身近になったのだ。

HORIZONについてのより詳しい情報はこちら リブリーザーについてのより詳しい情報はこちら

相星さんのレクチャーを聴く二人の眼差しは、
真剣そのもの

(上)相星さんの話に聞き入る二人。真剣な表情だ(下左)(中央)実際にHORIZONを手にしながら説明してくれるので、とてもわかりやすい(下右)(下)教材をタブレットで閲覧しながら、通常のスキューバシステムとリブリーザーの違いなどを学ぶ(撮影:坪根雄大)

午前中にダイビング取材を終えた卓哉さんと河本は、午後からアーバンスポーツの店舗へ。東北地方随一の施設の充実度を誇るアーバンスポーツは、広々した店内にさまざまなダイビング器材が並び、屋外には本格的なダイビングプールもある。リブリーザーの講習を受けるのに、最高の場所だ。

今回は限られた取材期間でリブリーザー体験をするため、「Try(体験)リブリーザーコース」の内容でレクチャーを受けることに。まずはタブレットを使い、HORIZONとはどんな器材なのか?通常のスキューバダイビングとの違いは?など、基本的な知識を教えていただく。

HORIZONで潜るときにオープンサーキットのスキューバシステムと最も違いを感じるのが、中性浮力のとり方だ。通常のスキューバでは、BCやドライスーツへの給排気や、自分の呼吸で浮力を調整する。しかし、HORIZONではシステムと一体型になっているBCへの給排気で中性浮力をとる。プール講習の前にも、この部分については何となく不安を隠せない河本と卓哉さん。とはいえ、ダイビング経験は超豊富な二人。とりあえず「習うより慣れよ」ということで、相星さんのレクチャーをひと通り聴講した後、プールへ向かった。

プールで講習を受けるのは何年ぶりだろう。
練習の成果は如何に!?

(左)(上)まずはセッティングしたHORIZONを手に、取り扱い方を相星さんがレクチャー(右)(下)いよいよHORIZONを装着してプールへ(撮影:坪根雄大)

アーバンスポーツのダイビングプールは、全長10m、幅5m、最大水深は3m。加えて水深1.2mの足の立つステージ(5m×3m)が設けられているので、まずはここで練習を開始。普段は背中にシリンダーを背負うが、HORIZONではサイドマウントといって、自分の身体の横(左側)に装着する。最初はオープンサーキットとの違いに多少の戸惑いもあった二人だが、少しずつ感覚をつかみ、フィンを動かして泳ぎ出す。

ひたすら泳いでいるうちに、
中性浮力の感覚がつかめるように

(上左)(上)じっくりと水中でのバランスのとり方を練習中の卓哉さん(上右)(中央)河本も相星さんの指導のおかげで、中性浮力がバッチリとれるように(下)卓哉さんはカメラ機材を持ってのバランスもチェック。初めてのHORIZONでの明日の海での撮影に、期待が高まる(撮影:坪根雄大)

今回は1時間ほど、ダイビングプールで練習を積んだ。最初は戸惑いながら泳いでいた二人も、だんだんHORIZONで潜るコツがつかめてきた様子。「呼吸のトリミングのないダイビングを初めて味わってみて、こんなに器材に依存する遊びなんだと実感しました」と河本。

卓哉さんは、中性浮力をとるのが難しいと事前に聞いていたため、実際に使うまで少し不安を感じていたという。「とにかく慣れるしかないと思って、集中してぐるぐるプールの中を泳いでいるうちに、中性浮力のとり方も少しずつわかってきました。時間を費やして、相星さんが丁寧に教えてくれたことに感謝です」。

さすがプロダイバーの二人、限られた時間ではあったが、HORIZONでの潜り方のコツはつかめたようだ。明日の海でのダイビングが待ち遠しい。

魚に近づけて、
狭い水路なども泳ぎやすい
海で機動性の良さを実感

プールでの練習で自信をつけた二人は、翌日「四島ジェッティ」へ。1日目にも潜っているポイントを、今度はHORIZONで潜ってみることに。天気は快晴、流れもあまりなく、透視度もそこそこ良いというコンディションに恵まれ、相星さんと一緒にエントリー。

昨日のプールでの練習の成果か、問題なく海の中を自在に泳ぐ河本と卓哉さん。大きなマダイやアジの群れなどが泳いできたが、通常のオープンサーキットで潜るときより、魚たちは逃げていかないような感じがする。

排気のエアがほとんど出ないHORIZONでは、魚に寄りやすいことを実感。河本が近づいても、マダイは逃げる様子がない(撮影:中村卓哉)

また通常のスキューバのスタイルでは、背中に背負ったシリンダーが狭い水路などを通るときに、ぶつかってしまったりすることがある。サイドマウントのHORIZONでは、スムーズに狭い場所が通れることもメリットのひとつだ。

サイドマウントでシリンダーが自分の身体に沿うように位置しているため、狭い水路なども泳ぎやすい(撮影:中村卓哉)

HORIZONで潜ってみての感想
「五感が研ぎ澄まされる感覚がしました。
水中撮影でのメリットは多い」(卓哉さん)

アーバンスポーツの相星さん(右)のサポートのもと、初めてのHORIZONでのダイビングを行った河本と卓哉さん。今までのダイビングとは違う感覚が新鮮だったようだ(撮影:坪根雄大)

リブリーザーダイビングでは、「サイレントワールドが楽しめる」といわれる。自分の呼吸音がしないため、海本来の音――静寂の中に、魚たちが泳ぐ音やエサを求めて岩をかじる音などが聞こえてくるのだ。

ダイビングを終えて卓哉さんは「生き物に寄りやすいというのは、確かにそうでしたね。1本目はマクロメインだったのであまり感じませんでしたが、2本目はメバル、アジの群れなどがいたんですが、確かに撮影しやすかったです。そしてダイビング中、海の音がよく聞こえました。魚群が近寄ってくる気配、アジがバッと過ぎ去っていく音。海の中の『静と動』が感じられるんです。潜っている間、五感が研ぎ澄まされる感じがしました。撮影にも集中しやすかったです」

リブリーザーを使うと、潜水時間が長くなるうえ、体に溶け込む窒素量を抑えられるため、使い方によっては減圧症のリスクを下げることができる。撮影で長時間海に入ることが多い水中写真家にとっては、メリットは多いのではないだろうか。

「今後機会があれば、HORIZONをぜひまた使ってみたいです。今までと違った写真が撮れるような気がします。特に動画で長い尺を撮らなければいけないときなど、使い勝手がよさそうだなと思いました。泡がほとんど出ないので、ハッチアウトなど海の生き物の生態を撮るのにも向いてそうですね」と、卓哉さんは1日体験をしただけでもHORIZONの良さを体感できたようだった。

「魚と同じ目線でその場にいる感じ。
水中での遊びの幅を広げてくれますね」(河本)

懸念していた中性浮力もバッチリ決まった河本。穏やかな庄内の海は、リブリーザーの練習に向いているのだろう(撮影:中村卓哉)

インストラクターとして長年活動してきた経歴を持つ河本は、HORIZONに新しいダイビングの楽しみ方の可能性を感じたようだ。

「久しぶりのダイビング講習、しかも自分が生徒として受講する側で不思議な緊張感で挑みました。相星さんはとても安心感のあるレクチャーをしてくださるので、学科講習の時からHORIZONを使用するのがとても楽しみに思えました。プールで潜ってみて、空気の移動する感覚や、器材やウエイトの調整で浮力がプラスマイナスするのを感じられたのは、楽しい学びになりました」。

「海では、HORIZONは完全に排気がないというわけではなかったので、たまに聞こえる泡の音がとても新鮮でした。生物に寄れる感覚は、話に聞いていた以上の驚きの経験でしたね。魚と同じ目線でその場にいるって感じで。潜り方のコツをつかむには、プールなどでのトレーニングを積む必要がありますが、オープンサーキットとはまったく別物とは感じませんでした。スキューバダイビングの基本がしっかりあれば十分に扱いこなせるし、水中での遊びの幅が広がると思いました」。

今回、庄内の海でHORIZONを体験できたことは、卓哉さんと河本にとって、それぞれ大きな収穫があったようだ。

アーバンスポーツ

鶴岡市にある2023年4月で創立28年を迎えるダイブセンターで、東北地方随一の施設と、多彩なプログラムを備えている。通常のCカード講習、ファンダイブはもちろん、今回のようなリブリーザーをはじめとしたテクニカルダイビングの講習も盛んに行っている。ダイバー歴44年、インストラクター歴35年という超ベテランの相星克文さんをリーダーに、娘さんの杏奈さんなど実力派スタッフが庄内の海を楽しませてくれる。

山形県鶴岡市伊勢原町26-3
(左)(上)庄内空港から車で約30分、鶴岡駅からは10分足らずとアクセス便利な場所にある
(右)(下)卓哉さん、河本と「アーバンスポーツ」代表の相星克文さん(撮影:坪根雄大)

山全体がパワースポット
古来から信仰が継承される
祈願の聖地・羽黒山

山形の海に魅了された一行が向かったのは、
出羽三山でわさんざんのうちの一つ、羽黒山はぐろさん。出羽三山神社内にある「羽黒山五重塔」が目的地だ。

まず一行を迎えたのは、悠然と構える巨大な羽黒山大鳥居。車の中からでもその存在感に圧倒される。河本も卓哉さんも「これはすごい!」と思わず前のめりに。そして「出羽三山」の3つの山の玄関口とも言える神聖な場所へ近づくにつれ、張り詰めた空気が車の中に流れ始めていた。

(左)(上)羽黒山へ向かう田んぼ道に、突如現れた立派な羽黒山大鳥居(右)(下)高さ22.5mもの大鳥居を真下から見上げる河本(撮影:中村卓哉)

「出羽三山」とは

2016年に山形県で初めて日本遺産に登録される。出羽三山神社(羽黒山)は開運や縁結び、月山神社は航海漁労、湯殿山神社は家内安全と病気平癒、五穀豊穣などのご利益があるといわれている。いにしえより伝わる、山は神そのものであり神霊の宿る聖地と考えられる山岳信仰から、現在の山「羽黒山」、過去の山「月山」、未来の山「湯殿山」の三山を巡る「生まれかわりの旅」が江戸時代に庶民の間で広まり、今日でもその旅は受け継がれている。

我々が訪れた際も、「生まれかわりの旅」に向け白装束を身にまとう人々の姿があった。

神域を歩き、心と体で感じる厳かな一時

河本がくぐるのは、出羽三山神社の入口、随神門ずいしんもん。月山、湯殿山までの広い神域の表玄関とされている(撮影:中村卓哉)

神域に足を踏み入れ、口数少なく歩みを進める河本と卓哉さん。自然も建築物も1400年前から変わることなく受け継がれ、時空を超えタイムスリップしたような場所にいるからなのか、街中から一変したその光景に言葉を奪われていた。

そして、樹齢300年を超えた今も青々しく生い茂る杉並木と、石段が二人を五重塔へと案内する。最初は軽かった足取りも、次第に一歩の重みを噛み締めるようになっていく。まるで己と向き合っているかのような、心を整える時間。滴り落ちる汗も、心なしか清々しい。

(上)生命力向上の御利益があるとされる磐裂神社いわさくじんじゃ。お目当ての五重塔まで、多くの末社まっしゃが姿を表す(撮影:中村卓哉)(下左)(上から二段目)神橋で足を止め一休みする河本と卓哉さん(撮影:坪根雄大)(下中央)(下から二段目)祓川神社で参拝をする河本。後ろに見える須賀の滝は、江戸時代に月山から8kmの水路をひいて作った人工的な滝(撮影:中村卓哉)(下右)爺杉じじすぎの奥から五重塔の先端が姿を現し始める(撮影:中村卓哉)

匠の技が今も息づく 
つつましくも迫力のある「羽黒山五重塔」

石段を歩み続けること約10分、目当ての五重塔が立派に聳え立つ(撮影:中村卓哉)

杉並木の間から姿を現し始めた五重塔は、歩みを進めるにつれて、その迫力を次第に増していく。卓哉さんは、間近で細部までじっくり眺めた後、おもむろにカメラを手に取りシャッターを切り始めた。

この五重塔は元々、明治維新の神仏分離令により取り壊された、瀧水寺の境内にあった。時代の変化を乗り越えた五重塔は、神社の境内に建つ唯一の仏教建築物として注目されている。

訪問地情報

  • 出羽三山神社でわさんざんじんじゃ
    出羽三山神社
    約1,400年前、蜂子皇子はちこのおうじによって開山されたといわれている。 皇子が難行苦行の厳しい修業を行ったという羽黒山は、今も羽黒修験道の地として受け継がれている。鶴岡市内から車で約30分。
    ※写真は、羽黒山頂の中心に建つ、羽黒山、月山、湯殿山の三神をあわせて祀ることができる三神合祭殿さんじんごうさいでん
    鶴岡市羽黒町手向羽黒山33
  • 羽黒山五重塔はぐろさんごじゅうのとう
    羽黒山五重塔
    1372年に羽黒山の別当職、大宝寺政氏が再建したと伝えられる。純和様の建築様式で、塔身には彩色などを施さない素木の塔。総高約29.2m。1966年に国宝に指定された。出羽神社入口から徒歩約10分。
    鶴岡市羽黒町手向羽黒山33-14

明治10年から色褪せぬ
「神社はん」を訪れる

右下に見える「繁」の文字は、酒井家庄内入部400年記念に書かれた、「次の百年に繋(つなぐ)」という意味が込められた書(撮影:中村卓哉)

鶴岡公園内の「鶴ヶ岡城 本丸御殿」があった場所に鎮座する「荘内神社しょうないじんじゃ」。今も地元民に「神社はん」と呼ばれ、慕われているという情報をうけ、訪れてみることに。

「立派な神社だね。この色合いの神社はなかなか見ない」と卓哉さん。確かに、これほどまで綺麗に保たれた神社はあまり見たことがない。

地元民を見守り、愛される4人の藩主

(左)季節の花がいけられる手水舎には、色鮮やかな紫陽花が(右)「一年安鯛」のおみくじ。八代藩主の酒井忠器公が、武芸の衰退を恐れ、磯釣りを奨励した歴史から生まれたそうだ(撮影:中村卓哉)

山形を訪れたのは2022年7月。七夕の願い事が書かれた短冊が境内に設置され、風に揺られる光景が印象的だった。荘内神社には、庄内藩の藩主、酒井家初代忠次公、二代家次公、三代忠勝公、九代忠徳公が祀られており、開運招福・家内和合・産業繁栄のご利益があるという。1時間足らずの撮影の間にも、妊婦さんや仕事着を着た男性などが入れ代わり立ち代わり参拝していく。地元の方が足繁く通い続ける荘内神社には、信仰の習慣が今もなお受け継がれているのを強く感じた。

訪問地情報

  • 荘内神社
    荘内神社
    (撮影:中村卓哉)
    1877年、旧藩主を慕う庄内の人々によって鶴ヶ岡城旧本丸跡に創建された。 創建から120年以上経つ今も、「神社はん」の愛称で、市民や近在の人々の心のよりどころとして親しまれている。庄内空港から車で約20分、JR鶴岡駅からは車で約5分。
    鶴岡市馬場町4-1

郷愁漂う「湯野浜海水浴場」の
隠れ夕日スポット

日本海へと沈みゆく夕日に照らされ、海も空も美しく染まる湯野浜海岸(撮影:中村卓哉)

続いて一行は、鶴岡市の海辺の景色を望むべく、市内から車で約20分、温泉地としても有名な湯野浜海水浴場を訪ねることに。この後、写真家・中村卓哉がプロの嗅覚で探し出した絶景の夕日スポットに出会うことになるとは誰もが予想していなかった。

「波乗り」国内発祥の浜、
江戸時代からマリンスポーツが流行っていた!?

湯野浜流波乗りの体勢をした「波乗り発祥の浜」記念碑(撮影:中村卓哉)

夕日スポットを探して海岸に沿って車を走らせていると、不思議な体勢をした像を発見。「なんだ、あの像は?」「ちょっと見てみますか」と車を止めて見にいくことに。像の横には、「波乗り発祥の浜」と書かれた石板が建てられていた。看板の説明によると、江戸時代に一枚の板で波に乗る「瀬のし」が若者の間で流行っていたそうだ。今のボディボードのルーツとなる水遊びというところだろうか。

そして、1900年には、板を使わずに体だけで波に乗る所謂「湯野浜流波乗り」をまたまた若者たちが完成させ、1965年には日本海で最初のサーフィンが始まったと書かれていた。てっきり、ボディボードやサーフィンは海外のマリンスポーツだと思っていたが、1900年にはすでに波乗りの文化があったなんて。思いがけず、日本の海の文化を知った瞬間だった。

冴えわたる写真家の勘。
雑木林をかき分け見つけ出した夕景スポット

お参りをする拝殿は古びていたが、この鳥居は清々しく立っていた(撮影:坪根雄大)

綺麗な夕日を眺められる場所を求め、旅館が立ち並ぶ国道112号線を一歩入った路地から続く坂を上る。そして道中で現れる湯野浜温泉神社より、さらに標高が高いところにある琴平神社に向かうことに。舗装道路は砂利道、雑木林と、進めば進むほど整備された道がなくなっていく。しかし、卓哉さんの足は止まらない。雑草が生い茂る道を掻き分けひたすら進む。夕陽が沈むベストタイムに向けその歩く速さはどんどんスピードアップしていった。

すると、生い茂る草木の中に琴平神社の鳥居が姿を現した。そして、ふと後ろを振り返ると、そこには夕日と湯野浜の街を一望できる絶景が広がっていた。

これぞ日本海の夕日、
湯野浜のブルーアワーを堪能

「ブルーアワー」とは、日が沈む40分ほど前に出会える、空が濃い青色に染まる時間帯のこと(撮影:中村卓哉)

一心不乱に道なき道を歩き続けた一行。その先で出会ったこの光景には、感動の一言だった。そして、夕日を撮り終えるや否や、「時間との戦いで間に合うか不安だったけど、登ってよかったね!暗くなる前に降りましょう」と卓哉さん。一瞬の感動を胸と写真にとどめ、帰路に向かった。

訪問地情報

  • ● 湯野浜海水浴場
    温泉郷の長い海岸線に広がる、山形県内最大規模の海水浴場。日本最古の波乗りのルーツの地でもあり、サーフィンやシーカヤックなどマリンスポーツが盛んな人気のスポット。鶴岡市内から車で約20分。
    鶴岡市湯野浜地内
  • 琴平神社ことひらじんじゃ
    1842年、四国のこんぴら参りを行った漁民によって、御祭神の来臨を願い、作られたといわれている。船の守護神として漁師たちの間で古くから信仰されている。湯野浜温泉にある宿泊施設「亀や」から徒歩約10分。
    鶴岡市湯野浜地内

鶴岡の食材を引き立てる、
日本酒の楽しみ方を知る

(左)大昔に羽根田酒造周辺の人によって作られた圧搾機。右の機械はもう再現することが難しいそうだ(撮影:中村卓哉)(右)遥か昔から世代を超えて受け継がれてきた酒造りの匂いや空気を感じながら撮影する卓哉さん(撮影:坪根雄大)

吟醸王国である山形。そこで取材チームは、「日本酒」について深掘りしたいと思い、鶴岡市内にある二つの酒造を訪ねた。

最初に足を運んだのは、1592年創業、安土・桃山時代からの歴史をもつ「羽根田酒造」。通常、一般見学は行っていないが、今回は特別に取材させていただいた。出迎えてくれたのは、羽根田酒造17代目と言われる羽根田はねだ成矩しげのりさん。

海は岩牡蠣、陸はだだちゃ豆など特有な食材を使用した郷土料理をもつ鶴岡。羽根田酒造では、その食材の素材や香りを生かし、口に含んだ時お互いを引き立て合うような日本酒造りを目指しているという。

話を伺っていくうちに、羽根田酒造の現社長である成矩さんのお父さんは、その昔ダイビングをされていたことがわかった。卓哉さんが「お父さんがダイバーだったら、海底酒造もできるんじゃないですか」と提案すると、「実はそういう話も前に出たんですが、冬の日本海の荒れ方を見ると大変そうで実現はしなかったです(笑)」と成矩さん。まさか酒造でダイビングの話で盛り上がるとは、訪れたことに運命を感じた。

日本酒好き泣かせのおもてなしに乾杯

歴史の背景が垣間見える文化的な資料や、盃や明治10年以降のラベルなどの芸術品が数多く保管されている(撮影:中村卓哉)

2軒目に伺ったのは、江戸時代の元和年間に創業した「渡會本店わたらいほんてん」。羽根田酒造から目と鼻の先にあり、徒歩約1分で到着。渡會本店に併設している「出羽ノ雪酒造資料館」では、日本酒造りの工程から歴史まで幅広く学ぶことができる。そこで、渡會本店18代目の渡會俊仁わたらい としひとさん直々に案内をしていただいた。

虫食いの穴が空いた書物など、歴史を感じる文献をじっくり見た後には、蔵出し日本酒をおちょこ一杯ずつ試飲ができる、きき酒コーナーへ。すると、取材チームが飲み比べて好みを語り合う横で、じゃんけんをする2人の男性客が。車で資料館まで来てしまったために、どっちが試飲をするかをじゃんけんで決めていた。勝った男性は嬉しそうに大きくガッツポーズ。微笑ましい光景だった。最後に、試飲をして気に入った純米大吟醸 出羽ノ雪「雪女神」仕込みを1本購入し、今日の宿となる「スイデンテラス」へと向かった。

訪問地情報

  • ● 羽根田酒造
    (左)(上)銘柄「志ら梅(しらうめ)」と書かれた羽根田酒造の看板(右)(下)酒造内の庭園。冬は雪景色が楽しめるという(撮影:中村卓哉)
    1592年(文禄元年)創業。鶴岡市にある4つの蔵元の中で最も古い歴史を持つ蔵。創業以来、酒造りの基本を守り、常温で香りと味のバランスがとれた酒を作り続けている。代表的な日本酒は「羽前白梅 俵雪」。
    鶴岡市大山2-1-15
  • ● 出羽ノ雪酒造資料館
    (左)(上)立派な杉玉としめ縄が張られた資料館の入口(右)(下)明治時代から平成までの米の価値を記載した米価暦(撮影:中村卓哉)
    元和年間(1615〜1624年)に創業。伝統技術を守り、時代に合わせた日本酒の新たな価値を日々見出している。資料館には、渡會本店が残してきた日本酒に関する文献が展示されている。看板商品は「出羽ノ雪」。
    鶴岡市大山2-2-8

山形の象徴的な風景
「水田」とともにあるホテル

水田に建物が映り込み、まるで鏡のよう。真ん中の棟にあるレストランは、宿泊者以外も利用できる(提供:スイデンテラス)

海ではダイビングを楽しみ、陸では山形県が誇る神社と夕景、日本酒を堪能。そして、せっかく鶴岡市を訪れたのであれば泊まりたい、鶴岡を象徴するホテル「SUIDEN TERRASSE(以下、スイデンテラス)」を紹介したい。

(上)時間とともに移り変わる風景を楽しめる、共用棟から宿泊棟へ移動する際に通るガラス張りの渡り廊下(下)共用棟ライブラリーの奥に位置するテラスからは、山の向こうへと沈んでいく夕日を眺められる(撮影:坪根雄大)

工場が建ち並ぶ大通りを曲がると、突如現れたスイデンテラス。水田を横切る演出がされたエントランス、木の温もりを感じる共用棟、迷路のようにつながる通路、シンプルかつスタイリッシュな客室。温かい空間でありながら、従来のホテルとは一線を画す斬新な設計は、特筆すべき点と言えるだろう。

「このホテルにいたら、どこにも出歩かず一日中ここで過ごしていたくなるね」と、河本はとてもここが気に入った様子。

(左)(上)泊まりながら、風景を存分に楽しめるような仕掛けが施されている(右)(下)ホテルを囲む水田整備用のトラクター。他のホテルでは見かけない光景だ(撮影:中村卓哉)

まるで図書館のよう。
一日を過ごしたくなる空間

共用棟から客室へと移動する通路にある巨大な本棚(撮影:中村卓哉)

共用棟と宿泊棟のふたつのライブラリーには、ブックディレクターの幅 允孝はば よしたけ氏によってセレクトされたさまざまな本が約2,000冊、カテゴリー別に並べられている。「オトナもコドモ コドモもオトナ」をコンセプトに、絵本や図鑑、洋書、小説などジャンルは多岐にわたる。気に入った本は施設内であればどこでも自由に持ち運び、読むことができる。

ほかにも、サウナや山形のお酒を楽しむスペースがあり、ゆっくりと時が流れ、情緒ある空間は格別だった。もし海外からのゲストに日本のおすすめの宿はどこかと尋ねられたら、ぜひ提案したい宿のひとつだと思った。

館内の灯が水盤に映り込む夜のスイデンテラスの外観(撮影:中村卓哉)

鶴岡での滞在におすすめしたい宿

  • ● 晴耕雨読の時を過ごす田んぼに浮かぶホテル
    SUIDENスイデン TERRASSEテラス
    共用棟と3つの客室棟から構成されるホテル。119部屋の客室はダブル、ツイン、メゾネットなどビジネスからファミリーまで幅広いタイプを揃えている。ビジネスや研修などで利用できる会議室も10室設けている。
    鶴岡市北京田字下鳥ノ巣23-1
    (上)まるで自宅のようにくつろげるキッチン付きの客室「ファミリールーム」(下左)(中央)山形庄内の地酒と県産ワインをセルフで楽しめる「SAKE LOUNGE」(下右)(下)源泉かけ流しの天然温泉とフィンランド式サウナ、露天風呂が堪能できるスパ(提供:スイデンテラス)

今回の主役は日本酒。
ひと手間加えて楽しむ
おつまみ系「NUB飯」

広島に続き、山形でも「NUB飯」(※)で鶴岡の味を楽しむことに。今回は、取材先の酒造で日本酒をセレクトし、これに合いそうな名産品やおつまみ系の土産物を物産館などで買い揃えた。

※「ニッポンの海と文化(Nippon no Umi to Bunka)」の頭文字を取ったネーミング。キッチン付きの宿に泊まり、地元の方が食べているものやお土産として自分たちが買ってみたいと思うものを現地で食べてみよう、という河本の提案から生まれた「ニッポンの海と文化」オリジナル企画。

アーバンスポーツ・相星さん親子と食卓を囲む

相星さん親子と、河本と卓哉さんでまずは乾杯。その後は初めて体験したリブリーザーの話に花が咲いた(撮影:坪根雄大)

ダイビング取材でお世話になったアーバンスポーツの相星さん親子もお招きし、一緒に鶴岡の食を堪能することに。メインのおつまみには、現地の方に親しまれているという取材チーム初見の和え物である山形の「だし」を冷奴にかけたもの、庄内産の生ハムメロン、そして相星さんからお裾分けいただいたカメノテ。ほかにも物産館などで手に入れた漬物や珍味、オイルサーディンを盛り付けただけの、10分もあれば作れる超お手軽なNUB飯が完成。

(左)(上)「生ハムメロンと言ったらこの盛り付け方じゃない?」と、盛り付け方について話し合う河本〈右〉とアーバンスポーツの杏奈さん〈左〉(右)(下)左から、渡會本店で購入した出羽ノ雪「雪女神」仕込み、羽根田酒造の羽前白梅純米大吟醸、月山ワイン ソレイユ・ルバン 甲州シュール・リー(撮影:坪根雄大)

まずは、羽根田酒造の羽前白梅純米大吟醸で乾杯。生ハムメロンを口にして、「別々に食べても美味しいのに、贅沢なおつまみだね」と卓哉さん。頬が落ちそうなほどジューシーで美味しかった。続けて、渡會本店の出羽ノ雪「雪女神」仕込みや月山ワインを味わう。鶴岡の食と酒の相性を楽しみながら、庄内の海の話にも花が咲く。

山形での「NUB飯」
~取材チームが舌鼓を打った簡単手作り料理の紹介~

今回は物産館や相星さんからのお裾分けなどで食材を調達。さすが山形、日本酒に合う漬物やひと手間かけるだけで美味しくいただけるおつまみが揃っていた。

  • ● 山形の「だし」の冷奴
    庄内観光物産館で購入した山形の「だし」。「だし」はきゅうりやナス、ミョウガなどの夏野菜を生のまま細かく刻み、醤油などで味付けしたあえもの。これを冷奴にかける。歯ごたえがあってさっぱりした味だ。
  • ● 庄内産生ハムメロン
    7~8月初旬が食べ頃の鶴岡産メロン「鶴姫レッド」に、庄内産の生ハムをトッピング。庄内観光物産館で購入した2品で贅沢なおつまみが完成。メロンの甘さとハムの塩味がちょうどいい。
  • ● カメノテの塩茹で
    カメノテとは、海辺の岩の割れ目に張り付き生息している甲殻類の仲間。相星さんの奥様に塩茹でしていただき、そのまま食す。貝のようなツルツルした食感だが、蟹のような海老のような、双方のいいとこ取りをしたような味。
  • ● おつまみの盛り合わせ
    加茂水族館で購入した甘辛風味のクラゲ珍味(左下)、庄内観光物産館で購入した、ツーンとカラシのきいた小茄子のからし漬(上)と控えめな塩麹の風味が程よい小胡瓜(右)。酒好きにはたまらない盛り合わせ。
  • ● オイルサーディン
    庄内観光物産館で購入したオイルサーディン。山形県産の菜の花オイルと米油がブレンドされたオイルに、庄内浜近海で獲れたマイワシが漬けられた一品。素材の味を生かしたほどよい塩気がお酒に合う。

旅の終わりに――
「インストラクター時代を思い出し、原点回帰を感じました」(河本)
「 “日本海の色=生命を育む命の色”。その美しさを知ってほしい」(卓哉さん)

初めてのリブリーザーダイビングを終え、記念の1枚(撮影:坪根雄大)

初めての庄内の海を人生初のリブリーザーで潜り、伝統や歴史が息づく鶴岡を堪能した河本と卓哉さん。庄内・鶴岡に来て印象に残ったことを、旅の終わりに振り返った。

「インストラクター時代以来久しぶりに講習を受け、なんだか原点回帰を感じましたね。思うようにコツが掴めなくて、暗くなってもプールで練習したのもいい思い出です。付き合ってくださった相星さんには感謝しかありません」と河本。

「日本海は、美味しそうな魚が泳いでいるとても豊かな海でした。“カラフルで透明な海=綺麗な海”のイメージを持っている人は多いと思うけど、栄養豊富な生命を育む生態系豊かな日本海の美しさも知ってほしいですね。鶴岡の特産物の岩牡蠣も、海に栄養がないとできないんです」と卓哉さん。

「日本人がまだ気づいていない、ニッポンの海の素晴らしい価値を証明する」という思いを胸に、日本各地を旅する連載「ニッポンの海と文化」。山形では、日本中のインストラクターが門を叩くとも言われる、リブリーザーをはじめ、さまざまなダイビングの楽しみ方を基礎から丁寧に教え続けるダイビングショップに出会うことができた。

次の旅先では、どんな出会いが待っているだろうか。
そしてどんな海に出会えるだろうか。
「ニッポンの海と文化」第3話は、2023年4月に公開予定。お楽しみに!

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