[スピンオフ連載]ニッポンの海と文化(第7回)

【第2話 山形 スピンオフ企画】
「アーバンスポーツ」相星さん親子×卓哉さん×オーシャナ河本が庄内の海、リブリーザーについて語り尽くす

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「ニッポンの海と文化」第2話で、水中写真家・中村卓哉さん、オーシャナの河本雄太と坪根雄大が潜ったのは、山形県鶴岡市沖の日本海。そして今回取材チームをアテンドしてくれたのは、その鶴岡市で最先端のダイビングスタイルを提供するダイビングショップ「アーバンスポーツ」。

特集記事本編では卓哉さんの撮りおろし水中写真で庄内の海の魅力、そして卓哉さんと河本の初リブリーザー体験の様子を紹介した。そしてダイビング取材の後に「アーバンスポーツ」のオーナー相星克文(あいほしよしふみ)さんと娘さんでスタッフの相星杏奈(あいほしあんな)さん、卓哉さん、河本で座談会を行い、それぞれが感じたことや思いを語っていただいた。

四島にて、オーナーの相星克文さん(右)とスタッフの相星杏奈さん(左)、卓哉さん(中央右)、河本(中央左)

対馬暖流に乗っていろんな生物がやってくる、庄内の海の成り立ち

河本雄太(以下、河本)

そもそも、相星さんが山形でお店をオープンしたきっかけはなんだったのですか?

相星克文さん(以下、相星さん)

私は岩手県盛岡市出身なんですが、自分でダイビングショップをやりたいなと思った当時、東北6県どこにも全国に知られるようなダイビングスポットがなかったんです。そこで、仕事の休みを使いながら岩手、福島、青森、秋田、宮城などを転々と潜って山形にたどり着きました。

河本

一念発起して山形でやるぞ、となったわけですね。山形の海のシーズンはどんな感じですか? 

相星さん

一年中潜れるんですが、どうしても冬の訪れが早くて季節風が11月ぐらいから吹き始めて大しけになってしまいます。最初は11~2月の間もやってたんですが、結局潜れなかったら意味ないよねということで、今ではこの時期は冬休みにしています。

河本

冬はお休みなんですね。今回潜らせていただいた四島(よつしま)の海の特徴はなんですか?

相星さん

一番の特徴は対馬暖流が流れていること。そして、四島は火山によってできた島なので、火山活動できた柱状節理(ちゅうじょうせつり)(※)があります。そんな作りですから、高低差があり、すごく起伏の激しいビーチです。

※柱状節理とは、節理と呼ばれる両側にずれの見られない規則性のある割れ目を持つ地質構造のこと。岩が冷えて収縮すると形成される。

 

四島の柱状節理(撮影: 坪根雄大)

中村卓哉さん(以下、卓哉さん)

伊豆大島も南部のビーチポイントは、同じような地形をしていますね。流れはそんなにないですか?

河本

僕は日本海って、すごく流れが強い印象があります。

相星さん

ある時は結構強いです。今回のポイントも川のように流れて進めない時もあります。ですが、最近はだんだん流れなくなりまして…。自然環境の変化でしょうね。マグロが年がら年中いたりして、なんか変だなって思います。

卓哉さん

秋口には、いろんな南方系の生き物たちも入ってくるんですか?

相星さん

入ってきます。

卓哉さん

それもまたいいですよね。

相星杏奈さん(以下、杏奈さん)

海の中でも四季を感じることができます。

相星さん

春は対馬暖流の流れが弱まることで、山形より北側に生息する北方系の海洋生物が南下してきます。夏になると、今度は対馬暖流の流れが強くなり、温暖な地域から流れてきた南方系の海洋生物をたくさん見ることができます

アーバンスポーツ代表の相星克文さん(左)と娘でスタッフの杏奈さん(右)

卓哉さん

それを探すのもいいですよね。色があるエビとか、普段庄内では見られない変わった生き物が出てきたりとか、たまにはカエルアンコウなんかもいたりして(笑)。

色が少し濃い!? 日本海ならではの海洋生物に注目

相星さん

生き物については、特にこれっていうのはないですけど、それぞれが魅力的でフレンドリーなやつらが多いというか。たとえばマダイの「ハナタレ」なんかは、もう25〜26年の付き合いで、そんなに長生きするんだなと思って。多分トータル40年ぐらいは生きてると思います。チャガラなんかも小さいのがいますが、太平洋で見るものより色が濃くないですか?

卓哉さん

濃いですね。なんか、オレンジっぽいというか黄色っぽい。

相星さん

ですよね。ありきたりの生物ですがジーッと見てると、あれ、色が濃いなとか思いますね。

卓哉さん

キヌバリはいるんですか?

相星さん

いますよ。線の数が一本少ないです。

卓哉さん

そうですよね。同じハゼでも太平洋側のものと全く違うし、北の海とは微妙に違うところがあって、そういう生き物の違いを見るのも自分の中では楽しいなと思いました。

河本

僕は、庄内の海を初めて潜ってみて、気候や漁港の雰囲気が、21歳の頃、大阪のダイビングショップで働き始めた時によく潜っていた越前の海を思い出させました。あとは、日本各地で磯焼けで海藻が減ってしまっていると言われてますけど、ここには海藻がまだありました。また海藻が豊かなシーズンに来たいなと思いました。

でも、やっぱり今回はアーバンスポーツさんに終始感動していました。さっきも卓哉さんと話していたんですが、日本のダイビングショップを今まで見てきた中でも、こんなにすべての設備やサービスのクオリティ、チームワークやお店から海の距離感など、いろんなことが考えられているところはないですよ。

オーシャナ代表・河本雄太

卓哉さん

こんなにすべての条件が揃っているところないですね

相星さん

本当ですか! ありがとうございます。

卓哉さん

自分は、「2022年秋、新企画『ニッポンの海と文化』スタート! 「日本の海の本当の魅力、文化の素晴らしさを証明したい」 鍵井靖章×中村卓哉×河本雄太 特別座談会」の対談で、“この企画でどんな写真を撮りたいですか”、“日本らしさを感じる水中シーンは”という話になった時にも言いましたが、日本人ってカラフルで透明度が高く、色数が多い海=綺麗というイメージが強く、ある種、南国への憧れみたいなのが結構あると思うんですよ。ただ、今回の企画で自分が日本の海のどこを伝えたいかって言うと、海が豊かなところなんです。栄養分が多い水のことを「命のスープ」と言ってるんですが、今回潜った庄内の海もまさに栄養豊富な色をしていました。こういう海こそが「豊饒の海」なんです。

水中写真家・中村卓哉さん

卓哉さんが語る、「命のスープ」の色をした庄内の海(撮影:中村卓哉)

卓哉さん

だからこそ「日本の海はどこがいいの?」と聞かれた時に、「この緑色の海が綺麗」っていう価値観を少しでも伝える人がいないといけないと思っています。まさに最初の対談で自分が話していたのは、こういう海のことなんですよ。

杏奈さん

私たちもそう思っています。

卓哉さん

だから海外と比較するといっても、きっと比較するところが違うんですよね

河本

僕たち日本人が、それをわかってないっていうところがありますよね。

卓哉さん

たとえばアメコミと違って日本の漫画って繊細じゃないですか。日本海はそういう繊細な表現が生きる、光と海藻のシルエットとか、色数が少ない分そういうトーンで見せるような海なんですよね。今回潜った海は、透明度がすごく高いわけじゃないかもしれないけど、日常の風景なんだろなって思い、それが自分の中で心地よかったです。

そして今回はリブリーザーも試すことができて、浮いてるだけで気持ちいい、「何もなくてもこれだけでいい」という最初に中性浮力がとれた時の感覚を思い出せました。

河本

その気持ちすごくわかります。ダイビング中の泡と光、空気が可視化されてる感覚というか。水中で呼吸ができただけで素晴らしい。そこを忘れない無邪気なインストラクターでいたいなって僕は思っています。

卓哉さん

いやー、本当に思い出しましたよね。これなんだ、ダイビングを始めて最初に感じた時の感動はってね

河本

はい、その感動を今回思い出せたのがリブリーザーでしたね。20年以上ダイビングやってきた人たちが、改めてダイビングやって「面白いですね」とはなかなか言わないわけじゃないですか(笑)。

リブリーザーが魅せる、水中の新しい世界観

河本

卓哉さんは、リブリーザーをやってみていかがでしたか?

卓哉さん

講習の時に「サイレントワールドへようこそ」って言われて、最初はワクワクとドキドキの半々だったんですけど、正直言うとプール講習の時、「これちゃんと使えるかな?」と思ってしまいました。浮力の調整の仕方やバランスのとり方、可動域の範囲の違いなどが気になったんです。また普段はワイドを中心に撮影しているので、魚との距離の詰め方などもどんな感じになるのかなと。

でも海へ行ったら、意外にストレスを感じませんでした。器材の使い方に慣れてきたこともあるのかもしれません。「海の中の音が聞こえてくるというのはこれなんだ」というのがわかりました。

杏奈さん

アジの泳いでくる音が聞こえたっておっしゃってましたよね?

卓哉さん

アジの音は、「バババババッ!」という感じでしたね。静と動のコントラスがくっきり分かれてました。普段写真を撮る時は、実際に魚が泳ぐ音は聞こえませんが、目で見て動きがあった時に音を感じて、シャッターを押していました。今回は実際に魚の動きを音で聞き取ることができて、とても感動しました。

音を立て卓哉さんの目の前を横切るマアジの群れ(撮影:中村卓哉)

卓哉さん

海の中を動画で撮っている時も、ほとんど自分の呼吸音しか聞こえていないので、本当の海の音を伝えるにはどうしたらいいんだろうと迷っていました。
しかし今回リブリーザーを体験してみて、たとえば流氷の「キュッキュ」ときしむ音や、魚群の散っていく音など、リアルな海の音が映像と一緒に表現できるのではないかと動画での表現に新しい可能性を感じました。

相星さん

そう言っていただけて嬉しいです。

卓哉さん

普段撮影するときは潮の流れに逆らうと魚が見やすいので、上から回り込んで寄ってくんですが、リブリーザーでは、回り込まなくてもこっちを向いてくれるのでその必要がありませんでした。もしかしたら向こう(魚)がこっちに興味あるのかなって。アプローチの仕方も変わるし、新鮮でしたね

河本

たとえば、クジラの声を聞きたい時にリブリーザーを使ってみたらどうかなとか。どういう場面で使ったら、より面白くなるだろうかと考える楽しみができました。食わず嫌いはダメですね。

卓哉さん

何事も一回は経験しとかないと。

相星さん

そうなんですよね。

卓哉さん

一方で、自分は0歳の時に肺炎で手術をしたり、小児喘息があったりして、呼吸に対するコンプレックスがありました。そんな中10歳の時に慶良間の座間味島へ家族旅行に行った際に、父(水中写真家の中村征夫氏)からダイビング器材を渡されて初めて潜ったんです。そのときに泡がボコボコっと浮いた瞬間、「あ!呼吸が目で見えて、追えて、触れて、音で聞こえるんだ。五感で生き、呼吸を感じているんだ」って思いました。リブリーザーを体験して、その時のことを思い出しましたね。

河本

僕は、「インストラクターの価値を証明する」って大事なことだと思っているんですが、そういう観点から見ても、相星さんの学科講習がすごくよかったです。「自分が作った教材ですけど」と相星さんがiPadを見せてくださった時に、その内容が素晴らしくてやっぱりインストラクターとしての価値は自分で上げていくことが大事なんだなと感心しました。あと、アーバンスポーツのショップで僕が一番好きなのは講義室です。いろんな要素が詰まっていて、遊びを究めていくところなんだろうなと思いました。

講習のために、解体されたタンクやギアの模型などが置かれているアーバンスポーツの2階にある講義室(撮影:中村卓哉)

相星さん

講習については、言葉で説明するだけではわからない部分も多いので、大事なポイントを押さえて、あとはそれぞれの感性でいろいろやってみてほしいんですよ。そこで、壁に当たった時に助言してあげられるのがインストラクターなのかなと思っています

質問されてないのに話し出すのがあまり好きじゃないというか、お客さんから質問されたことに答えるのが好きです。

河本

僕たちの先生からの評価を聞きたいです。

相星さん

それはもう先ほど拍手したじゃないですか(笑)。

一同

相星さん

浅場でのセーフティーストップの時にお二人を見ていて、昨日の夕方プール講習をやっただけなのに「はー、すごい。大したもんだ」と思いました。

河本

褒めていただきましたけど、中性浮力はうまくできていましたか?

相星さん

ブレ幅は個々にあるんですが、河本さんは全然動いてないと思いました。卓哉さんなんて、カメラ持って止まってましたからね。

卓哉さん

スキューバダイビングの時は、カメラのコントロールはその都度肺でのトリミングで調整しないといけないけれど、リブリーザーは一度カメラありきでバランスをとればそんなに変わらないので、違和感がなかったです。

河本

相星さんは、普段スキューバダイビングをするんですか? 勝手にどんな時でもリブリーザーなのかなと思っていて。

相星さん

もちろんスキューバダイビングもしますよ。その話で言うと、実は日本のスキューバダイビングは法令などの関係で一概には言えないですが、海外と比べて10年ぐらい遅れてるんです。主流のスキューバダイビング(オープンサーキット)のところがおそらく9割9分ぐらいじゃないですか。

ダイビングにはサイドマウントなどいろんな楽しみ方があるのに、なぜそれに執着するのかなって私はずっと思っています。たとえば、コロナの前は、韓国や台湾のダイバーは大体サイドマウントを持ってきて、沖縄県恩納村あたりを潜ってるんです。でも日本人ってそういういろんな楽しみ方を知ってるダイバーが少ないと思います。本当はさまざまなダイビングのスタイルがあって、いろんな遊び方ができるのに教えている場所が少ないから、知らない人が圧倒的に多いもどかしさを感じています。

ダイビングで実際に使用したリブリーザー「HORIZON」

河本

今までの遅れを取り戻すには、ダイビング業界だけでなく、ダイビングというものをツールに地域活性をしたい行政だったり、環境教育をしたい上場企業だったり、そういう人たちと一緒にやっていくことで一気に日本を押し上げることができると思うんですよね。そういう意味で、その土地の方以外の人が地元のことを教えていただきつつ、現地の方たちが近すぎて気づいていないその場所ならではの魅力を伝えること、それが今オーシャナがやりたいことですね。

「ニッポンの海と文化」第2話 山形編はアーバンスポーツで取材をさせていただいたことで、日本海の海の魅力に加えて、リブリーザーの楽しさを紹介することが十分にできたと思う。アーバンスポーツの皆さん、ありがとうございました!

山形・鶴岡で潜るならこのダイビングショップ
Urban Sports(アーバンスポーツ)

さまざまなダイビング器材が揃った店内(撮影:中村卓哉)

ショップに併設されているプールにてリブリーザー講習を受けた際、記念に1枚(撮影:坪根雄大)

鶴岡市にある創立28年目を迎えたダイブセンターで、東北地方随一の施設と、多彩なプログラムが揃っている。通常のCカード講習、ファンダイブはもちろん、今回のようなリブリーザーをはじめとしたテクニカルダイビングの講習も盛んに行っている。ダイバー歴44年、インストラクター歴35年という超ベテランの相星克文(あいほしよしふみ)さんをリーダーに、娘さんの杏奈さんなど実力派スタッフが庄内の海を楽しませてくれる。

住所:山形県鶴岡市伊勢原町26-3

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PROFILE
奄美在住。高校生の時にブラジル留学を経験。泳ぐのが苦手で海とは縁がない人生だと思っていたが、オーシャナとの出会いを通じてOWD(BSAC)を取得。オーシャナを通じ、環境問題や海のことについて勉強中。
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