【著者インタビュー】科学的な視点で海の生き物を解説『ふしぎ?なるほど! 海の生き物図鑑』
科学ジャーナリストとして海洋生物の取材を続ける山本智之氏の新刊『ふしぎ?なるほど! 海の生き物図鑑』が海文堂出版より発売された。進化のふしぎ、新種の発見、深海の謎、光る生物たちをキーワードに、超レアな「アミダコ」や不老不死のクラゲ、深海のエイリアン「タルマワシ」など、多彩な生物が登場。山本氏に本書の見どころを伺ってみた。
連載コラムを目にした編集者から書籍化の依頼を受けた
オーシャナ編集部(以下、――) 今回の書籍は、山本さんが毎月連載されている科学コラム「山本智之の海の生きもの便り」から生まれたものとお聞きしました。書籍化された経緯を教えていただけますか?
山本智之氏(以下、山本氏)
2021年5月以降、月1本ずつこちらの連載を書いてきました。水中撮影機材の販売会社である株式会社アンサーの社長・野本実さんから、「海の生き物のコラムを書きませんか?」と声をかけていただいたのが始まりです。そして、コラムをご覧になった海文堂出版の編集者・岩本登志雄さんから、書籍化の依頼をいただきました。連載の中から、21本の記事をピックアップしてまとめたのがこちらの本になります。
――いろいろな出会いから生まれた書籍なんですね。本書には個性あふれる生物が続々と出てきますが、特に印象的なものはありますか?
山本氏
まずは巻頭で紹介している、海を漂って泳ぐ「アミダコ」ですね。めったに会う機会がありませんが、水中撮影を続けているとこういう珍しい生物にも会えるんだと感動しました。
――透明でクラゲのように見えますが、正体はタコの一種なんですよね! 不思議な生き物です…。ほかにありますか?
山本氏
もう一つは「アオイガイ」です。ダイビング中に、目の前を突然ピンポン玉のようなものがスーッと横切ったので、慌てて追いかけて撮りました。貝の仲間ではなく、タコの一種です。貝殻がアンモナイトに似ていたので、アオイガイはアンモナイトの子孫なのか? また、今生きているオウムガイはアンモナイトと関係があるのか? など、アオイガイと出会ったことで取材のテーマが広がっていきました。研究者の方に取材を行いましたが、結局アオイガイはアンモナイトの子孫ではありませんでした。しかし、そういった系統関係などを取材で調べていくプロセスが、すごく楽しかったですね。
「海が好き、水中撮影が好き」という気持ちがあるから、楽しく取材が続けられる
――本書で紹介している21のテーマのほかにも、たくさんの海の生き物について、連載コラムでは書かれてきています。毎月のテーマはどのように決められているんですか?
山本氏
自分が海で出会って書きたいなと思うものもありますし、最新の科学研究の成果でこれは早めに皆さんに紹介したいなというものは、研究者の方にお話を聞いて書くようにしています。
――山本さんは朝日新聞社の記者ですが、忙しい時間をやりくりして、海へ行き撮影を続けることは大変だと思います。そのフットワークの軽さは、どこからきているんでしょうか?
山本氏
海が好きなので、土日祝日の休みの日に時間を使って、水中撮影をしたり原稿を書いたりしています。自分にとって楽しいことなので、続けてこられているのだと思います。
――水中撮影を始めて約30年とお聞きしていますが、最初はどこの海で撮影を始められたんですか?
山本氏
当時は新潟支局にいたので、佐渡の海の生き物を撮るようになったのが始まりです。1991年、大学院在学時にスキューバダイビングのライセンスを取得したんですが、ウエットスーツなどのダイビング器材を揃える前に、ニコノスⅤで水中撮影を始めていました(笑)。就職したら、ダイビングや水中撮影をする時間はなくなってしまうだろうなと思っていました。当時の新聞記者は全員ポケベルを持たされて、いつ呼び出されるかわからない状態だったので…。
そんな折、新潟で大きな事件があり、朝日新聞社の写真部の先輩カメラマンが、東京から新潟にしばらくいらっしゃったんです。そして「ダイビングや水中写真が好きなんですが、記者になったら自由に潜れないですよね……」と話したら、「潜りたかったら、潜ればいいんだ!」と言ってくださって。その先輩のひと言で、踏ん切りがついた気がします。
――その先輩カメラマンの方は、山本さんの恩人ですね(笑)。その後、埼玉、東京を経て、今は北海道にいらっしゃるんですよね? 北海道で撮影してみたい被写体がいっぱいあるのではないでしょうか?
山本氏
そうですね。来てみるまで北海道の海についてはあまり知りませんでした。今は、仕事で潜ることが多いので、プライベートでも潜ってみたいと思っています。
――ぜひ、北海道ならではの生き物をたくさん撮影して、コラムなどでご紹介していただけるのを楽しみにしています。ありがとうございました。
本書のページをめくっていくと、山本氏が海洋生物へ科学的にアプローチして、その謎に迫っていく過程がつぶさにわかり、さらに興味が深まっていく。ダイバーはもちろん、生き物に興味のある方にもぜひ手に取って読んでみていただきたいと思う。