サメについて詳しく解説!世界の海で出会えるサメ15種

サメと聞いて「危険な生き物」「海で会ったら怖い…」などとネガティブなイメージを抱く人は多いかもしれません。しかしサメが人間に危害を加えることはまれで、映画『ジョーズ』の強烈なイメージが「サメ=危険」という印象を作り上げているのかもしれません。この特集ではサメの生態や体の仕組み、ダイバーが会える世界のサメ15種など、サメについて徹底紹介します。

サメの組写真

サメとはどんな生き物?

サメの基本的な特徴

サメはエイとともに板鰓類(ばんさいるい)という軟骨魚類に分類されます。カツオやウナギ、チョウチョウウオやハゼなどほとんどの魚は硬骨魚類。その名の通り軟骨魚類の骨格は軟骨で、硬骨魚類では骨格のほとんどが硬骨であるという点が最も大きな違いです。

●軟骨魚と硬骨魚の識別ポイント

䚡孔(えらあな)の数 ヒレ 皮膚
軟骨魚類(エイ・サメ) 基本は5対 肉質 見た目ザラザラ
硬骨魚類(一般の魚類) 1対 鰭条に薄い膜 基本的に透明なウロコあり

●サメとエイの見分け方

同じ軟骨魚類であるサメとエイはどこが違うのでしょうか? 「平べったいのがエイ」とは限らず、平たいサメも存在します。
最もわかりやすいポイントは䚡孔の位置。サメは左右の体側に5つずつあり、エイは腹部に位置するためひっくり返さないと見えません。また、ほとんどのエイは胸ビレと腹ビレが繋がって円盤状となっています。

カスザメ
トンガリサカタザメ

平べったいエイのようなサメ・カスザメ()と“サメ”と名前がついているが、実はエイの仲間のトンガリサカタザメ(

●サメとイルカの見分け方

サメは魚類、イルカは哺乳類ですが、その姿はよく似ています。分類的に異なる動物グループの生き物が似ることを収斂(しゅうれん)進化といい、よく似た環境で同じような生態を持つ場合にしばしば見られます。
最も簡単な見分け方は䚡孔の有無。イルカは哺乳類ですからエラはなく、頭部に噴気孔という鼻の穴があります。尾ビレの形も異なっており、サメは他の魚類と同じく垂直、イルカは水平です。形状の違いは泳ぎ方にも繋がり、サメは左右に体を振りますが、イルカの泳ぎ方は哺乳類の走り方と同じで上下運動。いわゆるドルフィンキックですね。

では、水中ではなくボート上からの識別は可能でしょうか。サメの場合、べた凪で水面直下を泳いでいれば背ビレと尾ビレ上葉の2つのヒレが見える可能性があります。ただ、サメの体勢や種類によっては確認しづらいでしょうし、体長数mもある大きな個体では背ビレと尾ビレの距離が遠くなり見落とす可能性があります。イルカの場合、上下運動による泳ぎ方なので背ビレだけではなくしばしば背中が見え、ときに潮吹き(呼吸)もするでしょう。また、たいてい仲間と一緒に行動しているのでしばらく見ていればわかります。

ボニンブルーの海を泳ぐミナミハンドウイルカ
モルディブのグレイリーフシャーク

ハンドウイルカ()とメジロザメの仲間()。海の中で遠目に見ただけでは、判別できないような気がする

サメの体形とサイズ

サメの仲間は多様性に富んでいます。体形にしても様々で、流線形の美しいボディを持つメジロザメ科やネズミザメ科などもいれば、トラフザメのようにずんぐりした体形、カスザメのように平たいサメもいます。
基本的にサメは肉食ですが、食性の相違によって頭部や口の形も様々です。プランクトン食のジンベエザメは大きく広がる口と寸詰まりの顔を持ち、貝類を割って食べるネコザメは丸い頭に頑丈なアゴがあります。

また体の大きさはかなり幅があります。ウバザメや最大の魚類ジンベエザメのように10mを超える種類もいれば、成魚でも20cm程度のツラナガコビトザメなどもいます。

サメの感覚:磁場や電流も感知する

サメの嗅覚は非常に優れており、一滴の血や体液を100万倍以上に薄めても感知できるほどと言われています。またツマグロはサバとイカに、ドチザメはエビやアジに強く反応するという水槽内での実験があり、獲物の種類も嗅ぎ分けているようです。嗅覚以上に興味深いサメの感覚は、磁場や電流を感知する電気受容感覚でしょう。ロレンチーニ瓶という独特の感覚器官があり、地磁気を利用することで広い海を回遊したり、筋肉運動から生じる電流を感知して獲物を探ったりできるのです。ロレンチーニ瓶は頭部や口元周辺に多数あり、小さな点々に見えるのがその開口部です。

ハンマーヘッドシャークの顔の先端にあるロレンチーニ瓶

ハンマーヘッドシャークの顔の先端にある黒点のようなものがロレンチーニ瓶

サメの皮膚:シャークスキン

硬骨魚類がもつ透明な薄いウロコは、サメの皮膚には見当たりません。その代わりブツブツしたものが密生しており、これが楯鱗(じゅんりん)というサメのウロコです。
楯鱗には方向性があり、尾→頭の方向に撫でるとザラザラしています(腕やすねなどがガサガサとなった皮膚の状態を鮫肌という理由)。強くこすれば血がにじむほどで、静岡県などでは鮫皮がワサビおろしにも利用されています。一方、頭→尾の方向に触れたときはなめらかで、遊泳時に水の抵抗を受けない構造となっています。
楯鱗は外側からエナメル質、象牙質、(づい)という3層構造となっており、これは歯と同じ構造なのです。

サメのヒレ:フカヒレと交接器

ヒレの種類は背ビレと胸ビレ、腹ビレ、尻ビレ、尾ビレで、硬骨魚類と同じですが、構造は異なります。サメのヒレは肉質で、内部に輻射軟骨があり、ちょうどウチワの骨のようにヒレ全体を支えています。この輻射軟骨がフカヒレの原料です。
サメのヒレで興味深いのは腹ビレでしょう。ダイビングや水族館で注意して観察してみると、しばしば腹ビレ部分に棒状のものがある個体に気づきます。成熟したオスで、腹ビレの一部がクラスパーという交接器となっているのです。哺乳類でいうペニスの役割を果たしますが、腹ビレは1対あるのでサメの交接器は2本です。また、同じ軟骨魚類であるエイも同じで、表層を泳ぐマンタでは比較的簡単に確認できます。

サメの生息地: 極海から深海まで

サメの仲間は世界で約550種が確認されています。高度に進化を遂げ、様々な環境に適応しているため海ならばどこにでもいるといっても過言ではないでしょう。オオメジロザメのように、淡水である河川を遡上するサメまでいます。
あたたかい海はもちろんのこと、北極や南極のような極寒の海にもサメは暮らしています。たとえば大きさ7m以上にもなる大型種オンデンザメや、高緯度海域でよく見られるウバザメなどは冷たい海を好むサメの代表格。
また深海にもヘラツノザメ(水深400~900m)やユメザメ(水深400~1500m)など多くの種類が生息しています。北大西洋の水深4500m地点からはカラスザメの仲間が確認されています。反対にツマグロのように背が立つほど浅いラグーンに入り込む種類もいます。

ダイバーが出会う世界のサメ15選

ジンベエザメ:世界最大のサメ

ジンベエザメ

最大20mに達するという超大型種。世界最大のサメであり、かつ最大の魚類として知られています。動物性プランクトンを主食とし、世界中の熱帯から亜熱帯海域に分布。ダイバーが出会うのは表層ですが、700~1000mの深海まで潜ることも観察されています。メスは8m以上になると成熟し、60cmほどの仔ザメを1シーズンに300尾以上出産するというから驚きです。

ハンマーヘッドシャーク:T字の頭が目印

ハンマーヘッドシャーク

頭部が左右に張り出す奇妙な体形で知られ、その姿から和名でもシュモクザメ(鐘木鮫)。世界に8種ほど確認され、最も有名なのはダイビングでよく見られるアカシュモクザメです。アカシュモクザメは大きさ2~4mで、大きな群れをつくって季節回遊することが知られています。また、最大種は世界中の熱帯海域に分布するヒラシュモクザメで、大きな個体は5m以上にもなります。

トラフザメ: 親子で模様が異なるサメ

サンゴの上に美しく斑点が入ったトラフザメ

インド-西太平洋のサンゴ礁で見られる、ずんぐりした体型のサメ。海底にいることが多く、性質はおとなしくてダイバーが近寄ると逃げいきます。一見ジンベエザメと雰囲気が似ていますが、大きさは2~3m程度で、主に貝類やエビ・カニなど海底の小動物を食べています。成魚は「虎斑(とらふ)」という和名の通りですが、幼魚は淡い黄色に黒の縞模様とまったく模様が異なります。

シロワニ:小笠原で一年中会えるサメ

小笠原の沈船 特殊潜航艇の周りを泳ぐシロワニ(サメ)

鋭い歯がいつもむき出しという強面とは裏腹に性質はおとなしい。世界中の温帯・熱帯海域に分布しますが、コンスタントに会えるのは小笠原くらいです。夜行性のため、昼間は洞窟やケーブなど暗がりに潜んでいます。大きさは3~4mほど。繁殖は食卵と呼ばれるタイプで、子宮内で最初に孵った仔ザメが他の胎児や卵を食べて育ち、100cm前後と大きく成長してから生まれてきます。

オナガザメの仲間:尾ビレを使って狩りをする

オナガザメ

オナガザメの仲間であるニタリとハチワレ、マオナガは非常に長い尾ビレが特徴的で、その長さは体全体の半分にもなります。小魚の群れを見つけると長い尾を使って群れをまとめ、タイミングを見計らって尾ビレを強く振り上げ、傷ついた獲物を捕食します。よく知られたニタリは大きさ3mほどで、オナガザメの仲間では最も小さい種類。インド-太平洋の外洋表層に生息しています。

モンツキテンジクザメの仲間:歩くサメたち

モンツキテンジクザメ

英名エポーレットシャーク(Epaulette shark)でも知られ、「歩くサメ」として注目を浴びています。昼は隠れていますが、夜になるとヘビのように細長い体をくねらせながら、胸ビレや腹ビレを使って海底を器用に歩き出します。大きくても1m前後で、西部太平洋のサンゴ礁に生息するマモンツキテンジクザメなど8種ほどが知られています。

ネムリブカ:背ビレ先端が白いサメ

ネムリブカ

ホワイトチップ・リーフシャークという英名の通り、背ビレと尾ビレ上葉の先端が白く、サンゴ礁の浅瀬に生息しています。夜行性のため昼間はケーブや岩陰に隠れているのが和名の由来。大きさは1~2m、スマートで華奢な印象ですが、イタチザメと同じメジロザメ科に分類されます。インド-太平洋の熱帯域に広く分布し、ダイバーが最もよく見るサメでしょう。

ツマグロ:リーフ内や浅瀬が大好きなサメ

浅瀬のブラックチップ・リーフシャーク

名前の通り背ビレや尾ビレの先端が明瞭に黒く、英名はブラックチップ・リーフシャーク。インド-太平洋のサンゴ礁に広く分布し、脚が立つほどの浅瀬やリーフ内にもよく表れます。むしろ深場には少ないため、スキューバダイビングではあまり会えないかもしれません。最大2mほどになり、メスは1m前後で成熟して繁殖期には2~4尾の仔ザメを出産します。

オグロメジロザメ:ダイバーにはお馴染みのサメ

オグロメジロザメ

パラオ「ブルーコーナー」やタヒチ、フィジーなど海外の有名ダイビングエリアでよく出会うため、グレイ・リーフシャークという英名でも知られています。最大2.5mほどになり、潮通しのいい沖合で見られます。流線形の美しい姿と悠々とした動きは「これぞメジロザメ科」という貫禄。世界の熱帯・亜熱帯海域に分布しますが、日本では見られません。

カスザメ:エイのように平たいサメ①

エイのように平たいカスザメ

南日本や朝鮮半島、中国北部などに分布し、伊豆半島などの砂地や砂礫の海底でよく見られます。平べったい体で砂中に潜み、近寄ってくる小魚などを捕食する待ち伏せ型ハンターです。静かに行動すれば間近に寄れるので水中写真の良い被写体となりますが、サメの頭上で手や機材を不用意に動かすと、獲物と勘違いして噛みついてくることがあるので注意。大きさ1~2m。

オオセの仲間:エイのように平たいサメ②

エイのように平たいカーペットシャーク

その姿から英語圏ではカーペットシャークとも呼ばれています。日本近海では大きさ1m前後のオオセという種類だけですが、オーストラリア北部からニューギニアにかけてはアラフラオオセ、オーストラリア南西部にはメイサイオオセなど世界に10種以上知られています。いずれも海底に静かに潜み、周囲の環境に擬態しながら獲物を待つ待ち伏せ型ハンターです。

ネコザメ:「サザエ割り」とも呼ばれるサメ

ネコザメ

巻貝やエビ・カニなどを、固い殻ごとバリバリと割って食べることから「サザエワニ」と呼ぶ地方もあります(ワニはサメの異称)。歯はうす状を呈し、メジロザメの仲間のような鋭い歯はありません。南日本の太平洋岸では岩礁や砂地で普通に見られ、大きくても1m程度。らせん状の不思議な形をした卵を岩の間などに産み付けます。また、背ビレ前縁に鋭い棘があるので注意。

ドチザメ:南日本の「サメ穴」の主

ドチザメ

北海道以南の日本各地で見られ、内湾や河口域をはじめ浅い岩礁でよく見られます。夜行性で昼はケーブや岩穴に潜んでおり、伊豆半島などで「サメ穴」と呼ばれるダイビングポイントの主はたいていドチザメ。大きさは最大1.5m程度で、小魚やエビ・カニなどの底生生物を捕食します。春から夏にかけて、10~20尾の仔ザメを出産することが知られています。

イタチザメ:人を襲うこともある危険なサメ

バハマのイタチザメ(タイガーシャーク)

世界中の熱帯から亜熱帯海域に分布し、日本では本州以南に生息します。成長すると5mを超える大型種で、主にウミガメやサメ類を含む大型魚類などを捕食しています。体側の模様は若い個体ほどはっきりしており、英語圏ではタイガーシャークと呼ばれています。胎生で、60cm前後の仔ザメを大型のメスでは80尾ほど出産することが知られています。

ホホジロザメ:映画『ジョーズ(JAWS)』のモデル

グアダルーペ島のホホジロザメ

最大7mに達する大型種で、人を襲うこともある危険なサメ。世界中の熱帯から寒冷海域に分布していますが絶滅も懸念され、南アフリカやオーストラリア、カリフォルニアなどでは保護の対象となっています。アシカなどの海産哺乳類やサメ類を含む大型魚類などを捕食しますが、鯨類の死体なども食べています。メスは1.5mほどの仔ザメを2~14尾出産することが知られています。

サメと人間の関わり

水産資源としてのサメ

「サメを食べる」と聞いて真っ先に頭に浮かぶのは中華料理のフカヒレではないしょうか。日本でもカマボコなど練り製品の原料としてサメは欠かせませんし、ネズミザメは「モウカザメ」という名で流通しており、唐揚げや煮付けなどで食べられています。新鮮なものは刺身もOKで、心臓の刺身は三陸地方で特に好まれているそうです。
また、深海に暮らすツノザメやカグラザメの仲間は浮力調節のため大きな肝臓をもっています。肝臓には大量の良質の油やスクアレンが含まれており、健康食品や化粧品、医薬品など幅広く利用されています。サメは水産資源としても重要なのです。
ただし、乱獲や混獲などサメ漁には難しい問題もあります。絶滅危惧種も少なくありませんし、持続可能な漁業を目指し、資源量保護のためのルールや規制を考えていく必要があります。

フカヒレ

中華料理などで重宝されているフカヒレ

《宮城県・気仙沼》モウカの星《サメの心臓》

宮城県気仙沼の郷土料理、ネズミザメ(モウカザメと地元では呼ばれる)の心臓の刺身

サメによる事故:被害者の行動

シャークアタックは件数としては少なく、遊泳中など水遊びの事故で死亡する人のほうが圧倒的に多いでしょう。しかし「サメに襲われて片脚を失った!」などというニュースは衝撃的で人の記憶に残りやすく、「サメは危険」と思い込む人が多いようです。実際、イタチザメやホホジロザメ、オオメジロザメなどでは死亡例もあります。でも、ほとんどのサメは積極的に人を襲うことはありません。

国際サメ被害目録(International Shark Attack File)によると、
近年サメに襲われたときの被害者の行動はサーフィンと海水浴で9割を占め、ダイビングは1割(作業潜水や漁業を含む)程度にすぎません。海中から見上げたとき、サーファーや遊泳者のシルエットは、ウミガメやアシカなどによく似ています。そのため、ホホジロザメやイタチザメは「これは獲物だ」と判断したのでしょう。
また、1960年代では潜水時の被害割合は現在より多く、全体の2割強でした。おそらくスピアフィッシングが流行していたことが原因ではないかと言われています。

日本では1992年、瀬戸内海で潜水夫や漁船が大きなサメに立て続けに襲われた事件が有名です。同年3月にタイラギ漁中にダイバーが襲われ行方不明となり、6月には漁船が襲われました(漁師は生還)。残された歯などから、「犯人」は体長5m前後のホホジロザメとされています。

まとめ

サメについて詳しく紹介した本企画、いかがだったでしょうか? ダイビング中にサメと遭遇したり、水族館で見る機会があったりしたら、ぜひじっくり彼らの姿や行動を観察してみてください。サメは怖い存在ではなく、魅力深い生き物であることを感じていただけたら嬉しいです。

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PROFILE
東京水産大学(現東京海洋大学)在学中、「水産生物研究会」でスキンダイビングにはまり、卒論のサンプルであるヤドカリ採集のためスキューバダイビングも始める。『マリンダイビング』『マリンフォト』編集部に約9年所属した後フリーライターとなり、現在も細々と仕事継続中。最近はダイビングより弓に夢中。すみません。
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