密漁とは?どこからが密漁になるの?弁護士さんに聞いた密漁のアレコレ

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潮干狩り

夏の風物詩である潮干狩りは密漁ではないのに、他の海岸で同じ貝をとったら密漁になるの?もりでの魚突きはアウトでも‟やす”ならセーフなの?といった具合に、密漁の線引って意外と知らないもの。今回は、なんとなくあやふやに思われる密漁のボーダーラインを弁護士の新居裕登さん(以下、新居さん)に直撃質問!そして、よくあるケースを例にとって、法律の観点から紐解いていただいた。

密漁とは。密漁の定義

まず、「密漁」の定義を確認しておこう。新居さん曰く、どうやら明確に定義された法律はないとのこと。それを踏まえたうえで、水産庁等の然るべきホームページを参照したところによると、漁業法、漁業調整規則、水産資源法といった法令規則によって禁止されている漁を行うことは、一般的に密漁と解釈した方が良さそうだという見解に至った。

また、公人私人の指定もなく、営利目的か否かも関係ないため、法令規則を破れば、誰しもが密漁を犯してしまう危険性がある。次に、法令規則についても確認していこう。

《各法令について》

■漁業法
国が定めた法律。‟漁業の総合的な利用による漁業の発展を目的とする法律”とあるので、漁業を生業にしている人を保護する目的もある。ただし、定義の範囲が広かったり、抽象的だったりするので、実際に何をどんな方法で捕ると密漁であるのかといった具体的な部分に関しては、各都道府県にゆだねる形をとっている。

■漁業調整規則(47都道府県)
漁業法をベースに定められた法令で、47都道府県ごとに存在する。内容もそれぞれに異なる。

■水産資源保護法
漁業法の目的とはまた異なり、水産資源の保護を目的とした法律。

基本的にはこの3つの法令を遵守していれば、密漁を犯す心配はないだろう。もっとも、専門用語などを用いているため、法律に詳しくない方にとっては、どうしても読みづらいものにはなっている。

ただ幸いなことに、漁業法も水産資源保護法も密漁に関する記載箇所は全体の中で少ないので、すべてに目を通す必要はなさそうだ。

そして、漁業法の密漁に関する大部分は漁業調整規則にゆだねているので、各都道府県のホームページからPDFなどのデータで確認できるし、水産資源保護法では、川を登っている最中のサケを捕ると違法、ということ以外特に目立った密漁に関する記載はない。

水産庁の公式ホームページに各都道府県の漁業調整規則へ誘導するリンクがあるので、そちらから確認するか、信頼性のあるブログなどから情報を収集することでも密漁予防には有効かと思われる。

「これって大丈夫?」実際のケースで確認しよう

ケース1、水中銃やもりでの魚突き、見釣り

本ケースを確認する前に、密漁のパターンについて押さえておきたいポイントが2つほど。

2つのポイント

:捕る「生物の種類」によっては、いつ、いかなる場所で、どんな方法で捕っても密漁になるパターンがある。(例:アワビなど。主に漁業法で定められている。) 

:捕る「方法」・「時期」・「場所」などによって、密漁になるパターンがある。漁業調整規則で具体的に定められている(例:カサゴなど)

上記のポイントを押さえた上で、今回のケースは2つ目の漁業調整規則を確認する必要がある。確認したところ、水中銃やもりは、どの都道府県でも一切許可はされていなかった(ただし、手から離れない‟やす”ならOKの県もあり)。

見釣りに関しては特に記載は見られなかった。ただ、捕る方法としては‟やす”に近いため、‟やす”がよい県では合法な気もする。しかしながら、静岡県をみると、‟やす”の使用は認めてはいるものの、水中眼鏡の使用を禁止しているため、現実的には見釣りの使用も厳しいかもしれない。実際に使用する際は、都道府県に確認するのが安全だ。

都道府県漁業調整規則で定められている遊漁で使用できる漁具・漁法(水産庁)▼
https://www.jfa.maff.go.jp/j/yugyo/y_kisei/kisoku/todo_huken/

ケース2、陸上や船上からの釣り

こちらも、ケース1と同様の考え方で、漁業調整法を確認していく。基本的にどの都道府県でも釣りは許可されていたが、条件付きのところも。たとえば東京都だと、照明器具の使用や、撒き餌(まきえ)は禁止となっている。つまり、東京都で撒き餌釣りやサビキ釣り、フカセ釣りをすると密漁となる。無論、東京都といっても広く、釣りのメッカでもある伊豆七島や小笠原諸島も含まれていることを考えると、知らずのうちに密漁をしてしまっているケースもあるのかもしれない。ただ、個人間で行うものだと規模が小さく、社会的に密漁として罰則を受けるまでに至っていないのが現状のようだ。

それにしても、なぜ撒き餌が禁止になっているのか。調べてみると、どうやら撒き餌の成分が関係しているようで、かつて使用されていた撒き餌には赤土が含まれていたという歴史が関係しているらしい。赤土は、水に溶けず海底に沈殿してしまうため、海洋汚染につながることから、いまでもその名残で禁止となっているようだ。東京都以外では、撒き餌を許可している場所も多いので、使用したい方は確認してみてほしい。

なお、これは言うまでもないことかもしれないが、定置網の中やタイの養殖場などの漁業権が発生する場所で釣りをしてしまうと、密漁のほか窃盗にもなってしまう。釣りを楽しむ際は、釣る場所にも十分気をつけたいもの。

ちなみにトローリングは、ほとんどの都道府県で禁止とされているが、条件付きで認められているところもある。

ケース3、網または素手で貝類や海藻、海草とり

このケースでは、押さえておきたいポイントの1つ目‟いつ、いかなる場所で、どんな方法で捕っても密漁”に該当するため、「対象物の種類」を規制している漁業法を確認する必要がある。

漁業法の中には以下3つの漁業権が設定されており、本ケースは、共同漁業権の侵害に当たることになる。

3つの漁業権

定置漁業権:定置網を使って漁業を営む権利
区画漁業権:海の中で養殖場を作る権利
共同漁業権:ある一定の海面に定着する水産動物を捕っていい権利

とはいえ、どこに漁業権が発生しているのかは、海を見ただけでは分からないため、各都道府県の漁協が発表している漁場マップ等をみて確認するのが良いと思われる。

また、共同漁業の中に設定されている第一種共同漁業と呼ばれるものは“藻類や貝類、または農林水産大臣の指定する定着性の水産動物”のことを指しているため、一見すると海草は含まれていないように思われがちだが、「藻類」または農林水産大臣からの下りに含まれていると思っておいた方が無難のようだ。どうしても捕りたい場合は、こちらも各都道府県への確認を推奨したい。

よくありがちなケースとして、現場の海で漁協組合員と思われる人に許可を取ったから、よいと思って水産動物を捕ってしまった場合に、実はその組合員に判断権はなく、密漁に該当してしまったということもあるので注意していきたい。

いきもの注意報:ナマコ密漁禁止サイン

一方で、漁業権が発生しない場所であれば、何を捕ってもいいのかといえば、けっしてそうではない。2020年12月に新設された漁業法132条では「特定水産動植物(アワビ、ナマコ、シラスウナギ等の)採捕の禁止」とあり、何人も特定水産動植物の採捕をしてはならないとしている。これは、漁業権に関係なく適用されることを覚えておきたい。

もしも採捕しまった場合は、3年以下の懲役または3000万円以下の罰金。特に3000万円以下の罰金というのは、個人が行った犯罪に課しうる最高額に値する。

このような厳罰が与えられた背景として、特定水産動植物を狙った組織的な犯罪が横行していることが挙げられる。水産庁が各都道府県を通じて取りまとめた調査結果によると、平成30年における全国の漁業関係法令違反の検挙件数は1,569件(うち海面1,484件、内水面85件)となっている。

もちろん、個人がアワビ1匹を採捕して、3000万円の罰金を課されることは考えにくいが、金額の多寡に関わらず、少額でも罰金がつけば前科になってしまうので侮れない。

潮干狩りについては、漁協が許可している場所であれば問題ない。潮干狩りとは、砂浜で貝を捕ることではなく、特別に許可された場所で貝を捕ることだったのだ。

密漁をしない、密漁にならないために押さえておきたい確認ポイント

こればかりは、各エリアの漁協の規則を遵守することにつきる。つまり、漁業調整規則に違反しないこと。採捕禁止期間や漁法に関する規定は、都道府県の漁業調整規則に詳しく記載されているので、実際に海に行く前には確認しておきたい。

密漁を見つけたら

まず、直接声をかけるのはトラブルになるので避けておきたい。見かけた場合は、漁業権侵害は犯罪なので、警察に通報(110番)するのが無難。ただ、通報した場合は、目撃者として警察の事務所等で事情聴取を受けることもある。間接的な関わり方として、漁協に伝えるのも一つの方法なので、状況を踏まえて判断するのが望ましい。

難しい法令を分かりやすく丁寧にご教示いただいた新居さんに大変感謝するとともに、密漁をしない、ならないためにこれくらいの基礎知識は押さえておくのが、海遊びのマナーだと痛感。情報のアップデートも積極的に行う必要がありそうだ。

※オーシャナでは、ダイビング中の魚との接触は原則、推奨しておりません。海面エリアでの海遊びを楽しむ際は、海洋資源を持続可能にするためにも、法令を遵守するのはもちろんのこと、ローカルルールも尊重し、地元の方々との気持ちの良いお付き合いができるよう願っています。

記事監修:新居裕登さん

新居裕登さん
東京の中規模法律事務所に勤務する弁護士。大阪府出身。
幼少期にスキューバダイビングのライセンスを取得し、現在も趣味としている。
海に関わる人、生活、生物・環境のために法律家として何かできることはないかと日々考えながら活動している。

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PROFILE
アウトドアレジャー予約サイトの取材ライター出身。いままでに取材した日本全国のアウトドアカンパニーは130社ほど。ネットワークを活かした記事作りが得意!?かもしれない。一番好きなアクティビティはダイビング!とは言い切れないかもしれない。
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