ダイビングガイドの新局面。 急激に増す、ガイドという職業の法的リスクとは?

3.キャスティングボードを握る中田誠さんの功罪

そうした背景の中、ダイビング事故に対する発言権を増しているのが、1ページ目の冒頭で紹介した中田誠さんです。
まずは、中田誠さんとはいかなる人なのか。

以前、著書の紹介と共に、中田誠さんについて書いた記事がありますので、まずは、ぜひお読みいただければと思います。
話題のダイビング本「リキッドエリアの幸福」と著者・中田誠さん | オーシャナ

記事から抜粋して、中田さんを簡単にご紹介すると、中田さんは、自身がダイビング事故に遭い、その時の対応に憤りを感じたことが、ダイビング事故の追究、そして業界の追及へのきっかけとなります。
その後、実に20年近くもの間、私財を投じ、独自に取材、調査、研究、そして出版を続けています。

※中田さんの著書

中田さんにお会いしたとき、そのモチベーションはどこから来るのかたずねると、
「それこそ家一軒買えるほどお金を使いましたが、自分がやめたら誰もしなくなる。終わってしまうからです」とおっしゃっていました。

中田さんが問題視するのは、「ダイビング業界が本当のリスクを開示しない」こと。

本の中でも、「ダイビングビジネス品質の改善をしようという気概を持つ業者がごく少数」で手抜き業者が横行しているとし、メディアに対しても「ダイビングビジネスにある問題を勉強せず、何か聞くときにもダイビング業界やそこに取り込まれている人が関係した所に聞くことで、用意されているか調整されていた回答を聞くだけ、という取材の仕組みになっている」と手厳しく、率直に耳が痛いと認めざるを得ない部分があります。

しかし、「誰だよ、あなた」「業界外の人がおかしなこと言って騒いじゃって」と、業界は中田さんをスポイルしました。
中田さんの著書を拝見すると、一見ダイビングの入門書であっても、その根底に流れるのは強烈な業界批判の精神ですが、こうした対応への憤りもあるのかもしれません。

こんなことを言うと、「ほれ、見たことか」的でいやらしいのですが、ずっと持っていた問題意識をお伝えするのに大事なことなので書きます。
1年半前の記事で僕はこう言っています。

おそらくダイビング業界随一の事故や訴訟のデータベースと知識、そして革命的視点を持つ中田さんの声に耳を傾けるのは、とても有意義なことであることは間違いない。そうでなければもったいない。
また、あえてダイビング業界側に立つなら、中田さんの潜水事故訴訟のエキスパートとしての地位を知っておいたほうがいい。
これだけの事故関連の著書と立場がある方。業界が無視しても、その発言は効きますよ、いろいろ。

話題のダイビング本「リキッドエリアの幸福」と著者・中田誠さん | オーシャナ

そして、冒頭の中田誠さんが消費者庁の事故調査部会の専門委員に就いたというニュースにつながるわけです。

初心者ダイバーにはマンツーマンのガイドが義務付けられる!?

中田さんが提案することは、現状のダイビングスタイルを根底から覆すほど厳しいものです。

最も象徴的な例を挙げれば、講習はマンツーマンであることを徹底的に主張しています。
ファンダイビングでも初級者であればマンツーマンとしており、現状の価格や収益モデルでは到底なりたないでしょう。

「そんな主張が通るのか?」とお思いでしょうが、裁判とは紙の文化。
本の権威はまだまだ健在です。

これだけ法的リスクや事故に関する著書があり、賛否はあるとしても、どの著書も科学的な根拠を示そうする姿勢が貫かれています。

講習はまだ指導団体の作った基準があるので、“民間基準の不適切さ”と糾弾する中田さんと議論する余地がありますが、ガイド付きファンダイビングには基準すらないので、何をかいわんやです。

実際の裁判でも中田さんの意見は影響力を持っています。
被害者が中田さんの著書を持ってきて、「ほら、マンツーマンって書いてあるじゃない!」と言えば、ダイビングを知らない裁判官は何と思うでしょうか。

件の弁護士の先生も、「なんとか、ダイビング業界でガイドラインを作ってほしい。そうでなければ、中田さんのガイドラインが基準になっていまいます」と繰り返しおっしゃっています。

今回、中田さんが事故調査部会の専門委員になったということは、国(消費者庁)の消費者安全調査委員会として、ダイビング事故に対して極めて厳しい判断が下される流れになると言っていいでしょう。
中田さんは、「厳しいのではなく、当然」とおっしゃるでしょうが……。

ダイビングガイドの新局面。 急激に増す、ガイドという職業の法的リスクとは?

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