ダイビングガイドの新局面。 急激に増す、ガイドという職業の法的リスクとは?

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取材・構成・文/寺山英樹

1.ダイビングの在りかたを変えるかもしれない、消費者庁でのニュース

“ダイビングガイド”という職業のリスクが近年どんどん増しているように感じます。

問題意識のあるダイビングガイドさんたちは徐々に気が付いて行動に移しつつありますが、ほとんどの方々がそのことに無自覚であることが何より問題だと感じています。

つい先月、2013年4月のこと。
とあるニュースを目にして、大げさに言えば、「ガイド付きのダイビングそのものの意味が変わるほど、新たな局面を迎えたのではないか」と思いました。
近年、懸念し続けていたことが決定的になったという印象です。

消費者庁が消費者安全調査委員会 事故調査部会を立ち上げ、その専門委員に中田誠さんが就任したのです。

消費者安全調査委員会というのは、以下のような案件に対応する委員会です。

消費者安全調査委員会は、消費生活上の生命・身体被害に係る事故の原因を究明するための調査を行い、被害の発生又は拡大の防止を図ります。他の行政機関等によって調査等が行われている場合は、これら調査等の結果の評価を行い、必要に応じて意見を述べ、あるいは調査委員会自ら調査を行います。

消費者安全調査委員会 | 消費者庁

調査の結果、内閣総理大臣や関係行政機関の長に勧告や意見を述べることもあるとされています。

僕は、このニュースを、尊敬の念を抱きつつ、同時に危機感を持って受け止めました。
このニュースが意味することを理解するには、まずは、近年変わりつつある、ダイビングの法的リスクと責任について見ていく必要がありそうです。
主にダイビングのガイドという職業の視点から見ていきたいと思います。
(中田誠さんがどういう方であるかも、後述します)

ダイビングガイドを守ってくれずはずの“自己責任”論の矛盾と危機

ファンダイビングで事故が起きたとき、当然、「誰の責任なの?」ということになります。
責任の所在、もっと俗的に言えば、“犯人”がいないことには、やはり収まりがつかないんです。

ここで、出てくるのが“自己責任”という言葉。

自分の行動の責任は自分が負う、自己の過失には自分で責任を負うというごく当たり前の話です。
裏山にピクニックに行って、崖から落ちてケガをしても基本的には誰も責められません。

では、ガイド付きのファンダイビングはどうでしょうか?

エントリーレベル(指導団体によって、オープンウオーターだったり、スクーバダイバーコースだったりするのでこの呼び方に統一)のCカードを取得したダイバーは、バディと二人で潜れるだけの、いわゆる“一人前のダイバー”で、自らリスクを理解したうえで潜っており、その水中活動は基本的にはダイバー自身の責任。

ガイドとしては、自分たちだけで潜れるレベルのダイバーに、海の案内をし、フィールドのリスクはお伝えしても、自分のことは自分でしてね、という理屈です。
個人的には、この考え方を支持しますし、ひとつの理想だと思います。

海に限らず、アウトドアというレジャーにリスクが伴うのは当然です。
そのリスクをしっかりわかっていただいた上で、そのリスクに対処できるダイバーを生み出すのがCカード講習であり、指導団体もそう謳っています。

しかし、十分にリスクを伝えず、“一人前のダイバー”を生み出せていない講習がある、つまり、言っていることとやっていることに嘘があるかもしれないということが問題になっています。

ダイバーとしても、よくわからないうちに一人前のダイバーの称号を与えられ、はい、自己責任で潜ってね! と言われても困惑するばかりでしょう。
そこで、彼ら未熟なダイバーをケアするのが、現地ガイドになるわけです。

※講習の問題は、ダイバーの多様化する価値観や価格競争などの話が絡んでくるのですが、それだけで膨大に語れるテーマなので、こちらはいずれじっくりと。

もちろん、多くのダイビングショップ・インストラクターはきちんと講習をしているのでしょうが、そうではないショップもあり、そうした評判がどんどん大きくなっていて、お上の耳にも入っているということです。
業界の人間であれば、肌感でその風潮をほとんどの人が感じているのでは? というのが僕の肌感です。

この記事では、指導団体や講習を非難したいわけでなく、自己責任論を主張するだけの講習が提供できていなくなっているという現状認識のもと、ガイドのリスクについて考えていきます。

ダイビングガイドの新局面。 急激に増す、ガイドという職業の法的リスクとは?

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