【プレゼントあり】『神秘的で美しい海の生きもの図鑑』茂野氏&石野氏に インタビュー

海にすむ280種ほどの生きものたちを厳選して紹介した『神秘的で美しい海の生きもの図鑑』が好評発売中だ。水中写真家の茂野優太氏と石野昇太氏の共著である本書は、いわゆる図鑑とは一線を画した「写真集的な楽しみ方」もできる一冊となっている。2人の写真家がどのようにアイデアを出し合い、1冊の本を作り上げていったのだろうか? 茂野氏と石野氏に、制作裏話やこだわり、この本の楽しみ方などをじっくり伺ってみた。
茂野優太氏が語る――図鑑×写真集のハイブリッドな本として楽しんでほしい
一緒にやるなら、昇太さんしかいないと思った
オーシャナ編集部(以下、――)
『神秘的で美しい海の生きもの図鑑』を拝読させていただきました。「図鑑」とタイトルにありますが、写真の見ごたえもあって、海の生きものの魅力を伝えるのにとても完成度の高い一冊だなと思いました。
茂野優太氏(以下、茂野氏)
ありがとうございます。こういった本は初めて作ったので、わからないところもたくさんあったのですが……。嬉しいです。
――まずはこの本を出されることになった経緯について、教えていただけますか?
茂野氏
僕のInstagramを見てくださった、ナツメ社の編集さんから声をかけていただいたのがきっかけです。この本の前に神秘的で美しい石図鑑、星図鑑、花図鑑というラインナップが出ていて、今度は海の生きものでということで、『神秘的で美しい海の生きもの図鑑』というタイトルは先に決まっていたんです。
ただ、図鑑となれば掲載する種数を多くしなくてはいけないし、浮遊系生物も入れたいということで、僕一人では厳しいかなと思いました。他の水中写真家の方の名前も候補に上がっていたのですが、ちょうど石野昇太さんが写真をメインにやっていくと宣言されていたので、応援の気持ちも込めて一緒にやってほしいとオファーしたんです。
――そうなんですね。石野さんと茂野さんとはCONTRASTでも共に活動されていますから、最高の相棒ですよね。
茂野氏
女性向け、癒しをテーマに、明るい雰囲気の写真を多く使いたいという要望が編集者からあったので、メインは僕の写真を多めに、生態写真については昇太さんの写真でという感じで担当を決めました。

図鑑ではあるが、美しい茂野氏の水中写真が映える構成になっている
――全体の構成は、どのように考えていかれたんですか? 一冊をまとめていくまでに、いろいろな苦労があったのではないでしょうか?
茂野氏
構成は編集者と昇太さんと僕の3人でかなり話し合いましたね。なかなかこの本の執筆だけに専念できないので、結局1年半くらいかかってしまいました……。
――写真を選ぶだけでも大変そうですが、文章もすべて書かれたんですね⁉
茂野氏
はい、書きました! でも僕は昼間撮影で潜っても、夜に書く時間があったのでそんなに大変ではありませんでした。昇太さんは夜も潜っていますから、かなり大変だったと思います。それぞれの生きものの説明を決まった文字数で書かなくてはならないので、そういう作業に僕は慣れていなくて苦労しました。最終的には監修の井田齊(ルビ ひとし)先生がしっかりと見てくださったので安心でした。
自分にオファーがきた意味を出せるように、写真選びにはこだわった
――この本は、とてもメリハリが効いた写真の見せ方をしているなと思いました。その辺りは特に意識されていたんですか?
茂野氏
制作を進めていくうちに、学術的な方向に構成が引っ張られていくことがすごく多くて。もともと編集者が僕に依頼してくれた理由は「いわゆる図鑑を作るということではなかった」と思い直して、そこはこだわって考えました。
例えばハナダイの紹介のページでは、キンギョハナダイを入れたら、アカオビハナダイ、サクラハナダイとよく見られる種から順番に入れていったほうがいいのか? それともきれいなものを選んで入れたほうがいいのか? そんなふうに悩んで進まなくなってしまったときには、本質に立ち返って考え直しました。結果的に僕と昇太さんができるだけ見せたい生きものを載せようという感じになりました。誌面構成については、デザイナーさんの力も大きかったですね。

茂野氏が撮影した伊豆・土肥のファンタジックなソフトコーラルの森の写真が巻頭を飾る
――「神秘の海への誘い…」というプロローグで、トップの写真が西伊豆・土肥のソフトコーラルだったのには、感動しました。あ、茂野さんらしい写真だなと思って……。
茂野氏
図鑑だけど写真集の要素も入れたいなと思っていたので、巻頭では一回読者の方たちに、海の世界に入り込んでもらう場所を作りたかったんです。カラフルなソフトコーラルから始まって、北から南までいろいろな海の写真が続き、さらに昇太さんの気候変動の原稿が入ってきて…。2人で話して考えてまとめていくので時間はかかりましたが、一人じゃ思いつかないようなことができたなと思っています。
――石野さんと意見が割れたりはしなかったんですか?
茂野氏
常に割れていましたね(笑)。僕はフランクな方にどんどん寄っていって、昇太さんはどんどん学術的なほうに寄っていく。どっちつかずになる恐れもありましたが、面白いものができたのではないかと思います。
「この生きもの、見てみたい!」と思って、海に潜るきっかけになれば嬉しい
――この本の面白いところが「海のアイドルたち」「個性的な形の生きもの」「謎に満ちた浮遊生物」「特徴的な生態行動」「群れる魚たち」「海の強者とスター」という6つの章に分かれているところだと思うんですが、この構成はどのように固まっていったんですか?
茂野氏
最初に編集者から「どういう構成でいきたいですか?」と聞かれたときに、僕は水中の世界を伝えたいということと、やはりダイビングをみんなにしてほしいということが頭に浮かびました。
自分が海に潜っているときに楽しいなと感じることを、生きものを軸に考えてみると、かわいい生きものや変わったやつがいて、生きものの面白い行動も見られて、群れや見たこともないような大きな生きものと出会って……と。そんな要素を章立てしていったらいいんじゃないかと思ったんです。
――まさに、ダイバーが楽しめるフィッシュウオッチングの楽しさを凝縮した本ですね。この本をどんな人に手に取ってもらいたいと思いますか? また特に見てほしいところはありますか?
茂野氏
僕はやはりダイバーの方々に読んでいただきたいと思っています。ものすごく潜っている人には内容としては薄いかもしれないので、どちらかというとダイビングを始めたての方や、始めたけれど楽しみきれていない方に手に取っていただきたいですね。この本を読んだことで「この生きもの、見てみたいな」と思って、海の生物に興味を持ったり、海に潜るきっかけになったりしてくれたら嬉しいなと思っています。