日本でフリーダイビングのトレーニングをするなら鹿児島・錦江湾に一度は行くべきな理由
鹿児島県は桜島の麓に広がる「錦江湾」。ここは、いま日本でもっとも熱いフリーダイビングスポットのひとつだ。最大深度150mという、日本一の深さに挑戦できる国際大会が開かれ、トップ選手が集まり、トレーニング環境も整っている。実際に現地で潜ってみると、その人気の理由がよくわかった。

桜島の麓に広がる錦江湾でトレーニング行うフリーダイバー
今回は、自身もフリーダイバーであるオーシャナ編集部・スイカが実際に体験した「錦江湾でのフリーダイビングトレーニング&大会参加」をもとに、錦江湾がなぜ全国のダイバーに愛されるのかを紹介したい。
錦江湾ってどんな場所?
フリーダイビングに向いている理由
錦江湾は、約3万年前の火山活動によって生まれた巨大カルデラ地形で、桜島を中心に薩摩・大隅の両半島に囲まれた内湾。正式名称は「鹿児島湾」だが、その美しい景観から「錦のような海」を意味する「錦江湾」の名で広く親しまれている。最大水深は約230m、平均水深は約100mと深く、外洋の影響を受けにくいため、波や潮流が穏やかで安定した環境を保っているのが特徴だ。

桜島を望める釣り場としても多くの方に愛されている錦江湾
風や波の影響が少ないということは、天候さえ良ければほぼ毎日トレーニングができる。実際、9月の半ばに10日ほど滞在したが、雷雨でトレーニング開始時間が遅くなった日が一日あっただけで、他は抜群の環境でトレーニングができた。「今日は潜れるかな?」という心配が少ないのは、フリーダイバーにとって大きな魅力だ。

トレーニングの拠点となる8m×4mの大きさのプラットフォーム
ポイントは港から船で5分程度。今年からは、最大3本のラインが設置できるプラットフォームも常設され、練習しやすい環境が整った。ソナー、カウンターバラスト(現在は1本のみ)、AED設置といった安全対策も。さらに、何かあればヘリで2分ほどで鹿児島市内の病院に搬送も可能。チャンバーもあるので万が一減圧症の症状が現れても、すぐに対策できるのは安心だ。

下村避難港。ここから船でプラットフォームまで5分ほど

カウンターバラストありのカウンター
実際に潜ってみた
今回はバディトレーニングで参加した。前日に潜りたい深度を運営に申告すると、深度の近いダイバーとチームを組んでくれる。80m以深の場合はセーフティ付きトレーニングとなり、もちろん希望に応じてコーチングも可能だ。
プラットフォームからは桜島がキレイに見える。一時期は噴火が激しかったようだが、私の滞在期間は終始穏やかで、噴煙も降灰も見られなかった。6月から滞在しているオーストラリアのダイバーは7月に大きな噴火を目の当たりにしたそうで、なかなか見られないものを見られた喜びを語ってくれた。

桜島を望みながらのトレーニングができる
プラットフォームの上は太陽が照り付け暑かった(屋根は今後設置予定)が、ボートよりも広々と使えるためストレスが少ない。このプラットフォームは、地元の養殖漁業を営む漁師さんたちからの、生簀の作りや組み立てをヒントに作られている。確かにポイントに向かう途中にも、プラットフォームと似たような形をした浮きに囲まれた生簀がいくつも海に浮いていた。

養殖漁業から着想を得て作られたプラットフォーム
錦江湾の海は緑色。決して透明度が高くキレイな海ではない。普段トレーニングをしている沖縄の高い透明度に慣れているため、潜る瞬間までは、濁りのストレスがあるだろうと覚悟をしていた。
ところが、あら不思議。潜ってみると沖縄と変わらないほどの透明度。サーモクラインも思ったほど激しくない。それなのに流れをまったく感じない。ぬるま湯にゆっくりと溶けていくような感覚で水深40mほどまで落ちていく。流れがないことがこれほどまでにストレスフリーで心地よいものなのかと感動した。

2025年9月上旬のある日のトレーニング 思った以上に青くて透明度が高かった
水面の温度は30度近く。さすがに-40mまでいくと25度くらいまで下がったので少しひんやりした。-100mを潜る台湾の選手によると、その日の-80mあたりは水温16〜18度とのことだった。水温の変化が大きいので慣れるまでは普段のパフォーマンスが出しづらいかもしれない。
私の滞在期間中がたまたま透明度も高く、サーモクラインもほぼないという素晴らしい海況だったそうで、普段はもっと濁っていて、サーモクラインもはっきりしているらしい。こればっかりは運としかいえないが、すぐに深さが取れて流れのない環境ではあるので、安定してトレーニングができることは間違いない。
プールあり、飯あり、温泉あり
充実した陸上生活
充実したトレーニング環境は海だけに留まらない。滞在の拠点となるのは、船が出る下村避難港(5番避難港)のある桜島や垂水市内が多いが、車で50分ほど行った霧島市にはプールもある。レーン予約ができ、フィンやウエットスーツ、ウエイトを着用しての練習もできるため、フリーダイバーにはうってつけだ。空いていれば予約なしでもOK。

フリーダイバーも訪れる桷志田泉健康プール(霧島市民国分総合プール)

屋外プールは50m。この日は人も少なく予約なしで練習できた

屋内にも25mプールが
食事はなんと言っても海鮮。栄養豊富な錦江湾で育ったおいしい魚が地元のスーパーですぐに手に入る。特にカンパチが絶品だった。滞在期間中は大会の運営メンバーや選手たちと7名ほどで共同生活をしており、ほぼ毎日台湾の選手がおいしい手料理を振る舞ってくれた。スーパーで地元の食材を選び、時には目の前の錦江湾で釣ってきた魚を調理してくれ、大満足の食生活だった。遠征では外食が増えがちだが、長期滞在であればキッチンのあるところに泊まって、地元の食材を使って料理することもおすすめしたい。外食であれば、名物のカンパチを使った漬け丼を楽しめる「海の桜勘」や、こちらも名物の黒酢や野菜を使用したスムージーを提供する「マミーズカフェ」にはぜひ一度行ってみてもらいたい。

滞在中に何度も飲んだマミーズカフェの「黒酢ミックス」
そして、活火山・桜島のある鹿児島は温泉天国だ。県内の至る所に温泉があり、だいたい400〜1000円前後で入ることができる。シャンプーなどは持参スタイルも多く、地元の方が日常利用しているところも多かった。桜島を望む温泉から町の銭湯のようなところなど、ほぼ毎日のように温泉に足を運んでしまった。
大会前日にも、耳が抜けづらかったので、耳を温めるという名目で温泉へ行き、当日はバッチリ良いパフォーマンスをすることもできた。

道の駅たるみずの日帰り温泉の露天風呂は桜島が目の前に見える。サウナもあり
大会で広がるフリーダイバーの輪
トレーニング期間を無事終え、9月18日〜9月23日に開催された「VOLCANO CUP2025」にも選手として出場してきた。この大会に合わせて国内外からさまざまなフリーダイバーが大会前から集まってきていた。

開会式が行われた旧改新小学校にて
自分よりもレベルの高いフリーダイバーがたくさん集まっており、そのダイバーたちと繋がることができたのが、ここにきて良かったと思う一つの理由でもある。トレーニングの話やどの海が良いか、安全の話など話題が尽きない。ずっと同じ場所で同じメンバーで練習しているだけだとわからなかったことや、深度を伸ばすための改善点など、学びになることが多々あった。

大会時の様子

大会時の様子 桜島を背にホワイトカードをゲット
開会式やチェックインなどの拠点になっているのは、普段から座学が行われている旧改新小学校。下村避難港まで徒歩5分の場所にある。港では地元のスポンサーである「坂元のくろず」から黒酢ドリンクが振る舞われるなど、地域に密着した大会となっていたのが印象的だった(ダイブ後の黒酢ドリンク最高でした)。

普段座学などが行われている旧改新小学校の教室

大会スポンサーの「坂元のくろず」より黒酢ドリンクが港で振舞われた
大会運営には地元の漁師や市民の方々も協力しており、地域とフリーダイバーの距離が近いのもこの地の魅力だ。海を共有する人たちの支えがあるからこそ、錦江湾はフリーダイビングの拠点として成長している。
フリーダイビングをするなら一度とならず
何度も行きたい錦江湾
錦江湾は、アクセスの良さ、安定した海況、安全な環境、地域の温かさと、すべてがそろった日本随一のフリーダイビングスポットだ。深度を伸ばしたいダイバーはもちろん、これから始めたい人も、体験コースやライセンスコースも行われている。トレーニングにも大会参加にも最適な環境が整うこの海で、ぜひ新しい体験を味わっていただきたい。

Volcano Cup2025表彰式にて
Special Thanks:VOLCANO CUP

