潜水事故訴訟でダイビング指導団体を訴える言い分は認められるのか

ダイビングガイド(撮影:越智隆治)

ダイビング指導団体を訴訟の当事者にした裁判ができるか

ダイビング事故が発生した場合、その事故の際に講習やガイドを行ったインストラクターやガイドのみならず、当該インストラクターやガイドが所属するダイビング指導団体まで、訴訟の当事者として訴えた裁判を何回か見たことがあります。

事故者側の言い分としては、
「ガイドやインストラクターの指導が適切ではなかったから事故が起きた。このようなガイドやインストラクターを有資格者として認定したダイビング指導団体がけしからん。事故の原因はダイビング指導団体にもある」
などというものです。

この事故者側の言い分は認められるでしょうか。

損害賠償では、損害発生の直接原因が問題になる

損害(結果)発生までに、複数の原因が存在する場合、損害賠償義務は誰が負うのでしょうか。

この点、複数の原因が時間の経過とともに存在し、最終的に損害(結果)を発生させた場合は、損害(結果)の発生の直接原因となったもの(最終過失)が責任を負うことが原則になります。

例えば、Cカード講習で受講生をロストした、あるいはCカード講習の際に受講生のタンクのバルブを開け忘れたなどで事故が発生した場合、インストラクターには監視義務を怠った、あるいは受講生の器材のチェツクを怠ったという過失があり、これらの過失が事故発生の直接の原因です。

そして、このインストラクターの指導者としての技量が著しく低かったとしても、ダイビング指導団体はインストラクターを認定したというだけでは賠償責任は負いません。

事故の直接の原因はあくまでもインストラクターやガイドにあるからです。

ダイビング指導団体がインストラクターやガイドを認定したことが、事故の直接の原因になることはなかなか考えられません。

私が知りうる限り、ダイビング指導団体を被告として訴えた裁判では、裁判官が事故者側に「ダイビング指導団体は被告から外した方が適切だろう」などの訴訟指揮を行い、ダイビング指導団体に対する訴訟は取り下げられています(インストラクターやガイドに対する裁判はそのまま継続します)。

もっとも、ダイビング指導団体のマニュアルが決定的に誤っており、それが原因で事故が生じたと言える場合(例えば、浮上速度について明らかに医学的に問題があるような数値で規定し、そのマニュアルに沿った浮上したらダイバーがエアエンボリズムになってしまったなど)には、ダイビング指導団体のマニュアルに誤り(注意義務違反)があり、そのマニュアルの誤りで事故が発生したのであるから、ダイビング指導団体が責任を負うことになります。

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損害賠償義務が発生するためには「相当因果関係」が必要

賠償義務違反が認められるためには注意義務違反と結果(事故)との間に「相当因果関係」が存在しなければなりません。

「因果関係」とは、あれがあったからこれが生じたという関係で、行為と結果の間が事実としてつながっていることです。

しかし、損害賠償義務を負担するためには「因果関係」では足りず、「相当因果関係」となります。

「相当因果関係」は、社会生活上の経験に照らして、その行為からその結果が発生することが一般的と言えるという関係をいいます。

ダイビング指導団体がインストラクターを認定し、その認定したインストラクターが事故を起こしたということは事実としてはつながっています。

しかし、ダイビング指導団体がインストラクター認定行為をしたことによってダイビング事故が発生したということを、社会生活上の経験から一般的と言うことはできません。

ダイビング指導団体は、一定の基準をもってガイドやインストラクターを認定しています。その認定でインストラクターになった者が片っ端から事故を起こしているようであればともかく、そうではなく、ごく一部のインストラクターが事故を起こしたというのであれば、ダイビング指導団体の認定行為と事故発生との間に相当因果関係は認めることはできません。

損害賠償義務の要件は満たさないことになります。

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指導団体は認定後の監督や認定の見直しも必要性

事故が発生した際に、ダイビング指導団体の責任を問うべきだろうという声は聞かれますが、現行の過失論を前提にする限り、ダイビング指導団体に賠償責任を問うことはなかなか困難だろうと思います。

もっとも、ダイビング指導団体が、何度も不注意な事故を起こすなど、明らかにインストラクターとして不適切な者について認定を取り消すことなく放置するなどした場合は、認定を取り消さなかったという行為と事故発生の間に相当因果関係が認められることになり、ダイビング指導団体も責任を負う可能性があると思います。

ダイビング指導団体は認定をするのみならず、認定後もガイドやインストラクターが認定基準を保持しているかなどについて監督し、必要があれば認定を見直すことも必要です。

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PROFILE
近年、日本で最も多いと言ってよいほど、ダイビング事故訴訟を担当している弁護士。
“現場を見たい”との思いから自身もダイバーになり、より現実を知る立場から、ダイビングを知らない裁判官へ伝えるために問題提起を続けている。
 
■経歴
青山学院大学経済学部経済学科卒業
平成12年10月司法修習終了(53期)
平成17年シリウス総合法律事務所準パートナー
平成18年12月公認会計士登録
 
■著書
・事例解説 介護事故における注意義務と責任 (共著・新日本法規)
・事例解説 保育事故における注意義務と責任 (共著・新日本法規)
・事例解説 リハビリ事故における注意義務と責任(共著・新日本法規)
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