岡田裕介インタビュー「写真家としてのこれまでとこれから」

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第4回:「今しかできないことをやる」ということを教えてくれた同級生

いぬたく

第3回までは岡田さんの遍歴などのお話をうかがってきました。では、これからのことをうかがいたいと思います。
岡田さんが今後やっていきたいことはどんなことでしょうか?今は写真一枚の価値が落ちてきてしまっている時代ですが、そのあたりで思うところはありますか?

岡田

去年の3月に屋久島に行ったんですよ。宿のカレンダーを「どっかで見たことある写真だなあ」と思って眺めていたら、僕の写真で構成された企業カレンダーが飾られてたんです。宿の人に「これ撮ったの僕なんですよ」って言ったら、その人は「すごく気に入っていていつも見てるんだよね」って話をしてくれて、僕はそれがすごく嬉しかったんですね。写真を撮り始めてからこんな嬉しいことはなかったっていうぐらいで。僕のことを何も知らない人の日常に僕の写真があって、その人の生活の中に溶け込んでるのがすごく嬉しくて。「俺がやりたいのってこういうことなのかな」って思いました。

いぬたく

それは嬉しいですよね。

岡田

自分のオリジナルプリントを販売することを目標に、人の日常に僕の写真があることですね。日本だけだと厳しいかもしれないので、海外でも将来はギャラリーを持ってやっていきたいなと思っています。そのためには写真を撮らないといけないし、お金も稼ぎながらやっていきたいですね。

パラオのジェリーフィッシュレイク(撮影:岡田裕介)

いぬたく

ギャラリーや写真展で人に見せたいと思う写真って、やはり動物やネイチャーものがいいという気持ちが強いんですか?

岡田

はい、もちろんそうです。それが一番ですね。

いぬたく

そこまで気持ちは自然写真にどっぷりなんですね。

岡田

もうネイチャー以外は考えられないですね。

いぬたく

アドレナリンが違うんですね(笑)。

岡田

そう、アドレナリンが(笑)。まだ発表してないんですけど、最近アラスカやフォークランドに行ったのも大きなターニングポイントかなと思ってます。その時に「ちょっと俺、これ死んだかな。天国来ちゃったか。」みたいな凄い体験をしてしまって。やっぱり自然は大きくて深いなと改めて感じました。

写真家・岡田裕介インタビュー

岡田

星野道夫さんがよく言っていた言葉で「僕らが普段生活しているこの時間でも、アラスカではクジラが…」ってね。

いぬたく

僕もその言葉大好きなんですよ。
編注:原文は、「ぼくたちが毎日を生きている同じ瞬間、もうひとつの時間が、確実に、ゆったりと流れている。日々の暮らしの中で、心の片隅にそのことを意識できるかどうか、それは天と地の差ほど大きい。」(「旅をする木」より)

岡田

うん、僕もすごい好きで。例えばフォークランドのペンギンの子育てを見ていても、それが子どものためなのか本能なのか分からないんですが、怪我をして血を流しながらも、子供に餌を届ける為に必死に山を登ってるペンギンがいて、そんな姿をみるとやっぱり感動してしまって「俺、もっとこの世界でしっかりやって、これをちゃんと伝えなきゃだめだな」って思いますね。

いぬたく

うんうん。

岡田

それでこないだフォークランドから越智さんにメールして、トンガのクジラに行くことにしたんです。クジラもいつまで撮れるか分からないじゃないですか。今は世界中でどんどん規制がかかってきていて、これでトンガに規制がかかって撮れなくなったら死ぬほど後悔するなと思って。

石垣島のマンタ(撮影:岡田裕介)

岡田

一度しかない人生ですからね。今でも夢に見ることがあるんですけど、高校ラグビー部のキャプテンだった同級生が癌で死んじゃったんですよ。27歳の時かな。当時彼は社会人のトップリーグの現役選手だったんですが、癌が肺にまで転移して絶望的な状況だったんです。でもそいつはものすごく前向きだったんですね。現役に復帰することしか考えてなくて、「その時は絶対写真撮ってくれよ」って言われてて写真を撮る状況やアングルや発表媒体なんかも2人で考えたりして。週に何度も見舞いに行ってたんですけど、男同士、酒も飲まずに病室で3~4時間もいろんなことをしゃべりっぱなしで。亡くなる直前まで彼の思いをずっと聞き続けていたんで、亡くなった時は本当に悔しくて。そいつの分までやりたいことやらなきゃダメだなとすごく思ってるんです。

いぬたく

そんなことがあったんですね。

岡田

彼と病室で過ごした半年間っていうのはすごく大きいんですよ。彼の思いを引き継いだと思っています。さっき話した、社会人で仕事があるのに1ヶ月間フィリピンで潜りっぱなしだったりっていうのも、やるからにはとことんやろうって思うからなんです。もちろん家族の理解もあるんですけれど。

いぬたく

その時の好奇心に素直に従って動く、っていうことですね。

岡田

はい。僕は自分の写真で人を癒したいとか特に思ってるわけじゃないんですけど、そうやって自分の好奇心を元に撮った写真で誰かの心に何かを与えられればなと思ってます。

沖縄・慶良間諸島の海中(岡田裕介)

岡田

2012年にあまり作品を発表できなかったのは、2011年にあまり撮影に行かなかったからなんですね。やっぱり震災もあって、嫁にも「あんまり行かないで」って言われて、子どもも二人いるし、何か起こった時にすぐ迎えに行けなかったら嫌だなと思って。でも最近はいろんなところに行けているので、これからがっつり発表したいなと思ってます。

いぬたく

分かりました。今後の作品、楽しみにしています!

岡田裕介インタビュー「写真家としてのこれまでとこれから」

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