3年越しで挑んだ流氷ダイビング。世界遺産・知床の氷下に潜る極寒レポート

こんにちは!!  水中の彩りを撮る写真家、三宅健史(たけちゃん)です。
皆さんダイビングしていますか?この時期になると、南ではホエールスイム、北では流氷ダイビングに行かれる方が目立ちますよね。僕もその一人です。今回はなんと…北の大地、知床へ‼

実は3年前、僕はこの海に入るはずでした。流氷の海として世界的に知られる知床。しかしその年は、2度の大寒波に阻まれ、現地にすら辿り着けないまま計画は静かに終わりました。僕のダイビング器材だけが行って、帰ってきて、ちょっとだけひんやりしていたことを今でも覚えています。

「流氷ダイビング」は、行こうと思えば気軽に行ける海ではありません。流氷の接岸状況、風向き、海況、そして現地サービスの判断——あらゆる条件が揃って初めて実現します。さらに近年は、気候変動の影響もあり、流氷そのものが減少傾向にあると言われています。「行きたい」と思った年に必ず出会える保証はない海。むしろ、年々ハードルは高くなっているのかもしれません。
だからこそ、私はずっと心に引っかかっていました。あの白い氷の下に広がる、静寂の世界を一度でいいから見てみたい。そして今年、ようやくその機会が巡ってきました。3年越しの想いを胸に、私は再び知床の海へ向かったのです。

今回は、ダイビング好きなら誰しもが知っている茂野優太氏にガイドをお願いし、現地サービスとしてロビンソンダイビングサービスさんにサポートいただきました。旅のお供は、鹿児島のダイビングインストラクター兼グルメ担当の高山氏、サメ好きサメ狂いで生粋の海好きな高橋氏、The後輩の鑑でいじられキャラの濱崎氏です。

流氷の隙間からひょっこり現れた水中写真家の茂野氏

流氷の隙間からひょっこり現れた水中写真家の茂野氏

左が高山氏、右奥が濱崎氏、右下が高橋氏

左が高山氏、右奥が濱崎氏、右下が高橋氏

世界自然遺産の海を覆う氷 ―― 流氷の正体とは

そもそも流氷とは、海水が凍って生まれる「海氷」のことを指します。川や湖の氷、あるいは氷河が崩れて漂流する氷山とは異なり、海そのものが凍結して形成される氷です。塩分を含む海水が氷点下まで冷やされることで生成され、時間をかけて結晶化しながら厚みを増していきます。

その発生源は、北海道のはるか北に広がるオホーツク海北部沿岸域です。冬になるとシベリアからの強い寒気が吹き下ろし、海面が急速に冷却されます。さらにアムール川から流れ込む大量の淡水が海水の塩分濃度を下げ、凍りやすい環境をつくります。こうして誕生した海氷は、季節風や海流に乗ってゆっくりと南下し、日本へとたどり着きます。

日本で流氷が接岸するのは北海道東部のみのようです。その代表的な場所が知床です。知床は2005年にユネスコの世界自然遺産に登録されましたが、多くの人がイメージする断崖や原生林といった“陸”だけでなく、実はその周囲の“海域”も含めて評価されています。流氷は単なる冬の風物詩ではなく、この海の生態系を支える重要な要素です。氷が運ぶ栄養塩は植物プランクトンを増やし、それが魚類や海獣、海鳥へと連なる豊かな食物連鎖を生み出します。

近年は海水温の上昇などの影響により、流氷の接岸量や期間の減少が指摘されています。つまり、私たちが目にする流氷は、偶然と自然条件が重なって成立するきわめて繊細な現象でもあるということです。
その氷の下に潜るということは、世界遺産の“海”の核心部に、自らの身を置くということなのです。

びっしり敷き詰められた流氷

びっしり敷き詰められた流氷

いざ流氷ダイビング!の前に宿泊先と事前準備、装備について

お世話になった宿 Kokun Kekunさん

お世話になった宿 Kokun Kekunさん

今回、女満別空港についてから知床ライナーバスで約2時間半ほどで移動して到着したのは、知床の宿Kokun Kekunです。実はこの宿、流氷ダイビングのポイントの目の前に位置しています。移動も楽、すぐに身体を温めることができるのは嬉しい点ですね。

食事会場からは流氷ビュー

食事会場からは流氷ビュー

そして何より滞在中の楽しみのひとつが、宿の食事でした。冷え切った身体で戻ると、食堂には湯気の立つ料理が並んでいます。特に印象的だったのは、毎晩のように提供されるジビエ料理。エゾシカをはじめとした地元食材を使った一皿は、臭みがなく驚くほど繊細な味わい。高タンパクで滋味深い料理は、氷点下の海に向き合うダイバーの身体をしっかりと支えてくれる気がしました。世界自然遺産でもある知床の大地の恵みを、そのまま味わう時間。流氷の海だけでなく、陸の豊かさもまた、この遠征を特別なものにしてくれました。

エゾシカの焼肉とクラシックビール

エゾシカの焼肉とクラシックビール

個人的に初のラム肉お鍋

個人的に初のラム肉お鍋

続いてみんなが気になるであろう事前準備と装備についてです。今回あらためて実感したのは、インナーをけちってはいけないということでした。僕は、靴下をモンベルのメリノウールのもの、肌着としてユニクロの超極暖を着て、その上にフリース、そしてWeezleのドライスーツインナー(エクストリームプラス)、ドライスーツはネオプレーンを着て快適に30分ほど潜れました。また、レンタルで寒冷地レギュレータ、フード、グローブを借りました。参考になれば嬉しいです。

流氷ダイビングは、“潜れるかどうか”以前に、“快適に潜りきれるかどうか”が問われると思いました。装備の選択は、そのまま安全と体験の質に直結すると確信しました。準備の段階からすでに、氷の海との対話は始まっています。そんな偉そうなことを言ったものの、実は、持ってきたシェルドライの左リストが切れて左上半身水没しました。オホーツク海の海は本当に冷たかったです。笑ってあげてください。

流氷下へ潜る前のドキドキしている様子

流氷下へ潜る前のドキドキしている様子

いざ、流氷が覆う世界自然遺産の海へ潜る

いざ、潜りに!と行く前に、当日のカメラの準備にも注意点があります。暖かい部屋から極寒の地にカメラを突然持っていくと、ハウジング内が結露してしまうので、少しだけ寒い玄関口に事前に置いておくなどして慣らす必要があります。

油断して氷の上にカメラを放置しておくと、ボタン周りの水滴が凍り、いざというときにシャッターが切れないなども実際にありました。潜る前にカメラの大事なところにお湯をかけてあげてください。氷の下でしか見られない景色を確実に持ち帰るために、カメラもまた、ダイバーと同じく“寒冷地仕様”の心構えが必要ということですね。

そして、ようやくマイナス2度の海の世界へ。

初めてマイナスの水温をダイコンに刻む

初めてマイナスの水温をダイコンに刻む

まずは水面に顔を付けてゆっくり呼吸する練習と、頬に刺さるような冷たさに慣れる必要があります。
慣れたところでようやく潜水開始します。海面は一面が白く閉ざされ、普段の“青い海”とはまったく別の景色が広がっています。

頭上は白い天井。その下に、青く澄み切った世界が広がっていました。氷の隙間から差し込む光が、水中でゆらめく。波はなく、音もありません。ただ、自分の呼吸音だけが規則正しく響きます。これまで何百本と潜ってきた海とは、明らかに違う“質”を感じます。3年前、入れなかった海。ようやく、この場所にいる。やっと体感できました。

初めて見上げる流氷

初めて見上げる流氷

少しではありますが、私が見た景色を紹介したいと思います。

氷の裏側に息づく生命 ―― アイスアルジー

流氷を下から見上げたとき、私はその“裏側”に目を奪われました。白い氷の底面に、茶褐色から黄緑色を帯びた層が広がっていました。これはアイスアルジーと呼ばれるものです。

肉眼でも色がはっきり違うのがわかるアイスアルジー

肉眼でも色がはっきり違うのがわかるアイスアルジー

アイスアルジーとは、流氷の下面に付着して増殖する微細な藻類(主に珪藻類)を指します。氷が形成される過程で取り込まれた栄養塩と、わずかに透過する太陽光を利用して光合成を行うそうです。極寒の環境下で活動する、まさに“氷の上の一次生産者”だと感じました。

一見すると地味な存在ですが、その役割は極めて大きいです。アイスアルジーは春先に海中へ放出され、植物プランクトンのブルームを促し、それが動物プランクトン、小魚、さらには大型魚類や海獣へとつながります。流氷が「海のゆりかご」と呼ばれる理由のひとつが、ここにあります。

水温−1℃の世界で、氷の天井に張り付く小さな生命。その姿を目の前で見たとき、流氷は単なる氷の塊ではなく、この海域の生態系を支える存在なのだと実感しました。世界自然遺産でもある知床の豊かさは、実はこの氷の裏側から始まっているのかもしれないです。

流氷とガイドの茂野氏

流氷とガイドの茂野氏

氷の海に生きる者たち

流氷の下は、決して“何もない世界”ではなかったです。むしろそこには、寒さに適応した生き物たちの静かな営みがありました。

最初に目を引いたのは、ゆっくりと漂うキタアカクラゲ。半透明の赤みを帯びた傘が、水中でかすかに脈動します。長い触手が流れに揺れ、その姿はどこか幻想的ですね。低水温の環境に適応した大型のクラゲで、冬のオホーツク海では比較的よく見られる存在だといいます。氷越しの光を受けて浮かぶ姿は、この海を象徴する風景のひとつかと思います。

触手が切れてしまっているキタアカクラゲ

触手が切れてしまっているキタアカクラゲ

視線を落とすと、海底には力強く根を張る昆布の群落が広がっていました。冷たい海水と豊富な栄養塩に支えられた昆布は肉厚で、揺るぎない存在感を放っています。流氷がもたらす栄養が、この海藻の成長を促し、それがまた多くの生物の隠れ家や産卵場となるようです。氷はただ冷やすだけの存在ではなく、森を育てる存在でもあると感じました。

色とりどりの昆布と流氷

色とりどりの昆布と流氷

そして、小さな命の代表格がクリオネですね!いやー、一度は是非見て見たかったので念願です。正式にはハダカカメガイの一種で、翼のような足を羽ばたかせながら漂う姿は有名ですね。透明な体にゆったりとした動き。氷の海という過酷な環境とは対照的な、どこか儚い存在感を放っていました。

今回、撮影にこだわったのが35㎜のレンズで小さいものを取りつつも、背景もきちんと取り入れるという点でした。茂野氏に距離感を教わりながらも撮影しました。

クリオネを見つけてくれた茂野氏

クリオネを見つけてくれた茂野氏

35㎜で撮影するコツは、ハウジングのポートぎりぎりまで寄り、スポット1点AF(Canonの場合)で撮ります。クリオネの輪郭を綺麗に出したい場合は、ストロボを使用し、クリオネを両サイドから挟む形で撮影すると綺麗に撮れました。35㎜で撮ると背景に流氷が入るので、撮影環境がよくわかりますよね。欲を言えば、マクロレンズでばちっとクリオネだけも撮りたかったですが、またおいでということですかね。

初めまして!と歓迎してくれている様子のクリオネ

初めまして!と歓迎してくれている様子のクリオネ

ここ流氷の下で出会った生き物たちは、寒さに耐えているのではなく、寒さを前提に生きています。氷があり、水温が低く、栄養が循環する――その環境そのものが、この海の生命線だと目にすることができて貴重な体験でした。

安全のためにバディの高山氏と出口をロープで繋いでいる様子

安全のためにバディの高山氏と出口をロープで繋いでいる様子

憧れの流氷下潜水の旗

憧れの流氷下潜水の旗

寒いはずなのに氷を投げて遊ぶ茂野氏

寒いはずなのに氷を投げて遊ぶ茂野氏

流氷ダイビングは、“寒い”を超えて新しい世界が広がる体験でした。遠くオホーツク海からやってきた氷の下で、世界自然遺産・知床の海に潜る――それだけでワクワクが止まりません。条件が揃わなければ出会えない、ちょっとレアなダイビング。だからこそ、行けるチャンスがあるならぜひ挑戦してほしいです。氷の下には、想像以上に神秘的で生命力あふれる世界が広がっています!!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

\メルマガ会員募集中/

週に2回、今読んで欲しいオーシャナの記事をピックアップしてお届けします♪
メールアドレスを入力して簡単登録はこちらから↓↓

登録
writer
PROFILE

2016年の秋にダイビングCカードを取得。
海嫌いから海好きへと転じた海狂い変わり者。現在は休みの日に伊豆や沖縄に通い、いろどりあふれる海の世界にのめり込んでいる。「ダイビングをしたことない人にも海の彩を通じて伝えられるものがあるのでは」という想いを持って活動を続ける。
海の魅力を広く発信するために、2022年はmic21のアンバサダーモデルを務めた。

  • twitter
  • Instagram
FOLLOW