海に生きる爬虫類、ウミヘビ~ユニークな生態や日本で見られる種類、遭遇時の対処法まで~

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ウミヘビ

(写真/堀口和重)

ウミヘビは、サンゴ礁など暖かい海ではシュノーケリングでもよく出会うポピュラーな生き物です。しかし「気味が悪い」「咬まれたら怖い」という方が多いかも? でも、食わず嫌いはもったいない! ウミヘビは実に面白い生き物なんですよ。

ウミヘビの基本情報

ほとんどのウミヘビはコブラ科!

ウミヘビ
ウミヘビ

ウミヘビは多くの種類がよく目立つリング模様で、その体表は陸棲のヘビ類と同様、ウロコで覆われている。目の前にある穴は鼻孔で、右側は空気の泡が出ているようだ

爬虫類にはカメ、ワニ、ヘビ・トカゲという3つの大きなグループがあります。このうち海に進出を果たしたのはウミガメとウミヘビ。イリエワニなどは海で観察されることもありますが、本来の生息地は河川や湖などの汽水・淡水域です。

さて、世界に2700種以上いるとされるヘビの仲間のうち、ウミヘビ(英語圏ではMarine snake)は3科60種ほど確認されています。このうち2科(ナミヘビ科、ヤスリヘビ科)に属する10種ほどは、河口域やマングローブ地帯などの汽水域に生息しており、沿岸から離れることはあまりないそうです。

それ以外の約50種がいわゆるウミヘビ(英語圏ではSea snake)で、インド-太平洋の熱帯・亜熱帯海域に生息しています。すべてコブラ科に属しており、下記の2系統に大別されます。

コブラ科
ウミヘビ亜科 エラブウミヘビ亜科
日本で確認されている種類 イイジマウミヘビ
クロガシラウミヘビ
マダラウミヘビ
クロボシウミヘビ
トゲウミヘビ
セグロウミヘビ
ヨウリンウミヘビ
エラブウミヘビ
アオマダラウミヘビ
ヒロオウミヘビ
生活の場 海中 メインは海中だが、しばしば陸にも上がってくる
繁殖スタイル 胎生
海中で子ヘビを生む
卵生
上陸して卵を産む

コブラの仲間といえば、強い神経毒をもつ毒ヘビとして知られています。ウミヘビも例外ではなく、ほとんどの種類に毒牙があり、咬まれれば死に至る危険があります。

こうした有毒生物は、自らが強力な武器を有することをアピールするため、派手な模様を呈することがよくあります。これを警戒色(警告色)といい、ウミヘビによく見られる帯状のリング模様も同様と考えられています。
ただし、リング模様をもたない種類もいます。

セグロウミヘビ

セグロウミヘビ

日本近海にも生息するが、外洋性のためダイビングで会うことはまずない。しばしば海岸に打ち上げられる(写真)。長さ50~80cm

オリーブシースネーク

オリーブシースネーク

グレートバリアリーフなどでよく見られる種類で、他のウミヘビのような目立つ模様は特にない。成長すると長さ1~2mになる

日本で見られるウミヘビたち

日本ではウミヘビは主に南西諸島(奄美大島や沖縄本島、宮古島、石垣島や西表島など)で見られ、その辺りが分布の北限とされています(日本で確認されている種類は上の表を参照)。
浅場にも多いため、シュノーケリングでも見られますね。よく出会う種類はイイジマウミヘビ、エラブウミヘビやアオマダラウミヘビなどです。

イイジマウミヘビ

イイジマウミヘビ

沖縄などのサンゴ礁で普通に出会う。丸っこく小さな頭部をもち、クリクリした眼がかわいらしい。暗色の帯は周縁がギザギザに見える。毒牙、毒腺ともに退化し、ほとんど無毒。長さ50~90cm

エラブウミヘビ

エラブウミヘビ

成長とともに模様が変化し、幼体の地色は鮮やかな青色だが徐々にくすんだ褐色となる。大型個体では横帯も不明瞭で金色っぽく見える。沖縄ではイラブーと呼ばれる伝統食材。長さ70~150cm

アオマダラウミヘビ

アオマダラウミヘビ

比較的よく見られる種類。眼の上と口元が薄い黄色で、英語圏ではYellow lipped sea snakeと呼ばれる。地色は青灰色。エラブウミヘビと同様、陸にもよく上がる。長さ50~150cm

ウミヘビのユニークな生態

集結しているエラブウミヘビ

与論島の水深10mほどの海底に集結していたエラブウミヘビ。撮影者によると時期は6月、目視だけで50尾以上はおり人に寄ってくる個体もいたとのこと。むらがっていた理由はよくわからない(写真/堀口和重)

海中で出産 or 陸上で産卵?

ヘビの仲間の多くは卵を産みますが(卵生)、マムシなど一部の種類は子ヘビを産みます(胎生)。
ウミヘビの場合も両方のタイプがあり、ウミヘビ亜科のグループは胎生で、海中で子ヘビを出産します。出産する子ヘビの数は、クロガシラウミヘビの場合は夏から秋にかけて4~5尾、イイジマウミヘビでは2~4尾、マダラウミヘビでは3~15尾という記録があるそうです。

エラブウミヘビ亜科の仲間は卵生で、陸に上がって産卵します。イラブー(エラブウミヘビ)漁で有名な沖縄の久高島(くだかじま)では、9~11月頃になると産卵のため多くのウミヘビが海岸の洞窟に上陸してきます。長さ9~10cm、重さ約56gという大きな卵を3~7個ほど産み、飼育下の記録では140日ほどで孵化したそうです。
また、エラブウミヘビ亜科の仲間は、繁殖時期以外でもしばしば海岸などに上がってきます。

エラブウミヘビ亜科の仲間は、地面を進むために必要な腹部のウロコ(腹板)が大きく、陸上も器用に這うことができる。ウミヘビ亜科の腹板は小さく、体のウロコの大きさとたいして変わらない

海面に急浮上してくる理由

「ウミヘビが襲ってきた!」と言う人がたまにいます。「シュノーケリングをしていたら、海底から一直線にウミヘビが向かってきたんだ!」と。
しかし、多くの場合これは誤解と思われます。爬虫類であるウミヘビは肺呼吸。水中では呼吸できないため、しばしば海面に浮上するのですが、その先にたまたまシュノーケラーがいたのでしょう。

ただ、2021年8月、《Scientific Reports》にオリーブシースネークを対象とした面白い研究論文が発表されました。このウミヘビはしばしばダイバーに近づいてきて、チロチロと舌を出してにおいを嗅いだり、フィンに巻き付くといった行動が見られるそうです。これらは求愛行動や繁殖行動に関連しているのではないか、というのです。詳しくはコチラの記事へ。

なお、ウミヘビは一回呼吸をすると、その後は30分ほど潜り続けることが可能。1時間以上海中にいたという観察もあるそうです。
これほど長く潜れる理由としては、爬虫類のため基礎代謝量が低いことが挙げられます。また、ウミヘビは陸棲ヘビ類に比べると皮膚呼吸能力が発達しており、潜水中の酸素消費量の1/5をまかなえるそうです。

ウミヘビは何を食べるのか?

ウミヘビは陸棲のヘビ同様、肉食のハンターです。小魚などを捕食する種類が多いのですが、中には大変興味深い食性のものがいます。

例えば、魚の卵ばかり専門に食べるイイジマウミヘビ。スズメダイやハゼ、ギンポの仲間などは岩やサンゴなどの表面に卵を産み付けていますが、それをこそげ取って食べるのです。そのためクチビルのウロコが硬く、大きくなっています。鋭い歯は不要のため、毒牙はもちろん毒腺も退化しており、ほとんど無毒といっていいほどです。

アナゴの仲間を好んで食べるクロガシラウミヘビという種類もいます。頭部は黒く、胴体後半に比べるととても小さい印象のウミヘビで、砂地の海底に頭を突っ込み、砂中に潜んでいるアナゴの仲間を引きずり出して食べてしまいます。このとき、砂地に倒立するような姿勢になることもあります。
また、琉球列島の調査では、ヒロオウミヘビとアオマダラウミヘビはウツボやアナゴなど細長い魚を好む、という結果があるそうです。

2021年、沖縄本島の国頭村で1.7mにもなる巨大ウミヘビが捕獲 されました。今まで日本では記録がなかった学名Hydrophis stokesiiという種類で、ヨウリンウミヘビと和名が提唱されました。
さて、この個体の胃内容を調べたところ、ハリセンボンの仲間が丸飲みされていたそうです。ウミヘビの食性はいろいろ調査・観察されていますが、ハリセンボンの仲間を捕食したという例はなく、これが世界初の事例となりました。

ウミヘビと人の関わり

ほとんどのウミヘビは積極的に人を襲うことはない。ただ、咬まれると致命的な猛毒をもつので、触れたり掴んだりはしないこと。撮影時にはウミヘビの行動には細心の注意を!

毒の強さはハブの50~70倍

コブラ科に属するウミヘビは、口内に毒牙と毒腺を有しています。魚類などを捕食するとき、獲物を弱らせたり反撃を防止したりするのに役立っているのでしょう。その神経毒は非常に強く、マウスの半数致死量で比較した実験では、ハブやマムシなど陸棲ヘビ類をはるかに上回ります。
エラブウミヘビから抽出された毒はエラブトキシンといい、神経・筋伝達作用を阻害し、運動神経を麻痺させます。具体的な症状としては、筋硬直や麻痺、筋肉の痛み、脱力感、口や舌のしびれ、目瞼(がんけん)下垂など。重症の場合は呼吸麻痺や心不全によって死に至ることもあります。

ウミヘビにも「性格」がある!?

猛毒だからといって無闇に怖れる必要はありません。咬症の多くは、好奇心やイタズラ心からウミヘビに手を出したとき、または漁師が作業中に誤ってつかんでしまったときなどに発生します。ウミヘビから積極的に人を襲って咬みついた、というケースはほとんどありません。ただし、咬傷が生じてしまった場合の死亡率は高く、50%を超えるので注意するにこしたことはありません。

また、同じウミヘビの仲間でも種類によって気性の荒さに傾向があるようです。イボウミヘビやクロボシウミヘビは最も攻撃的なタイプで、マレーシアのデータでは100例ほどの咬症のうち半数がイボウミヘビだったそうです。しかし、ラッキーなことにどちらも日本の海ではあまり見られません。クロガシラウミヘビとマダラウミヘビも、比較的攻撃的と言われています。

その一方、エラブウミヘビやアオマダラウミヘビ、ヒロオウミヘビ、魚卵食性のイイジマウミヘビは穏やかな性格です。スキューバダイビングやシュノーケリングで出会っても、まったく問題ありません。

とはいえ、ウミヘビは特徴的なリング模様の種類が多く互いによく似ているため、目視による種の識別(同定)は難しい。どのウミヘビに対しても、原則「手出し無用」の姿勢でのぞみましょう。

ウミヘビ遭遇時の対処法と安全対策

気性の荒い種類もいることはいますが、基本的に人間からちょっかいを出さない限り、ウミヘビから積極的に咬みついてくることはありません。

海中でウミヘビと出会ったら、まずは慌てないこと。好奇心からか単なる偶然かはわかりませんが、ウミヘビからダイバーに近寄ってくることもあります。そのときも急に動いたり、捕まえようとしたりせず、ゆっくり離れましょう。

また、素肌の露出が多いと万一咬まれてしまったとき、毒が体内に入りやすい。ウエットスーツやラッシュガード、マリングローブなど装着していれば安心かつ安全です。

不幸にも咬まれてしまったときの対処法は次の通りです。

①決してあせらないこと。たとえ咬まれても、毒が注入されず何も症状が出ないことも多い。
②ただし、症状が現れるまで15分~数時間かかる。ダイビングやシュノーケリング中なら中止し、すぐ陸に上がること。
③症状が出ていなくても(ウミヘビに咬まれても痛みはほとんどなく、患部も腫れない)、必ず病院に行くこと。

琉球王朝から続く伝統食材~イラブー

イラブーの燻製

沖縄の市場で売られているイラブーの燻製。渦巻き状(写真)と棒状の2タイプがある

イラブー汁

イラブー汁。燻製イラブーを水で戻してぶつ切りにし、昆布や豚肉、鶏肉、大根などと一緒に煮込む

エラブウミヘビは沖縄ではイラブー、エラブウナギなどと呼ばれ、伝統的な琉球料理の食材です。同じエラブウミヘビ亜科のヒロオウミヘビ、アオマダラウミヘビも同様に食され、主に夏の夜、磯や海岸の洞窟などに上陸してきたところを捕獲します。

ウミヘビ漁は宮古島や八重山諸島でも行われていますが、特に産地として名高いのは久高島。琉球王朝の時代、ウミヘビ漁と燻製加工は神聖な行為とされ、久高祝女(のろ)(神事祭祀を司る久高島の神女)たち数人にしか許可されていなかったほどです。

イラブー料理は滋養強壮の薬膳として知られ、琉球王朝時代は上流階級の人しか口にできませんでした。特にイラブーシンジと呼ばれる濃厚なスープは珍重されたそうです。

出雲大社の神遣い~龍蛇さん

ウミヘビとしては奇抜な模様のセグロウミヘビは、出雲大社において「神の遣い」とされています。神在月(旧暦10月)、全国から八百万の神々が出雲の国にやって来ますが(出雲以外では神無月)、そのとき開催される「神迎(かみむかえ)神事」で先導役を担う「龍蛇」、その正体がセグロウミヘビなのです。

なぜセグロウミヘビが「龍蛇」として崇められるようになったのでしょう。
ひとつには、セグロウミヘビは神在月の時期に出雲地方の海岸に漂着する傾向があること。その黄と黒という奇抜な模様が「天は黒く地は黄色」を意味する「天地玄黄(てんちげんこう)」を体現し神聖視されたこと、ウロコの模様が出雲大社の御神紋の亀甲に似ていることなどが考えられています。

また、日本では古来、神は海の彼方の常世(とこよ)という神域から現世(うつしよ)に渡り、再び海を渡って帰って行くという思想があり、海岸に漂着したセグロウミヘビを神の遣いとして尊重したという説もあります。

ちなみにセグロウミヘビは遊泳能力が非常に高く、北海道まで回遊することもありますが、陸上は大の苦手です。這うための腹板が非常に小さいため、打ち上げられると身動きがとれず死んでしまうようです。

魚類のウミヘビたち

魚類にもヘビのように細長い体形のものがいます。例えば、食べると美味しいニホンウナギやマアナゴ、関西で珍重されるハモ、一部地域で珍味として知られるウツボ。これらはウナギ(もく)に属し、それぞれウナギ科、アナゴ科、ハモ科、ウツボ科に分類されていますが、ウナギ目にはウミヘビ科というグループもあります。

それが魚類のウミヘビたち。砂に潜って頭だけ出しているホタテウミヘビや、顔の模様がサイケデリックなイレズミウミヘビなどは水中写真の被写体としても人気ですね。そのほかダイナンウミヘビやホオジロゴマウミヘビ、変わった名称のモンガラドオシなどは南日本のダイビングでもよく見かけます。

ホタテウミヘビ

ホタテウミヘビ

背ビレや尻ビレ、胸ビレ(〇)などのヒレがあり、吻端には鼻管(↑)が目立つ。いずれも魚類のウミヘビの特徴で、爬虫類のウミヘビにはない(写真/堀口和重)

イレズミウミヘビ

イレズミウミヘビ

巣穴から体を乗り出してきたところ。ホタテウミヘビ()も本種も、ふだんは砂底に身を潜め顔だけ出している。胴体は意外にもこんな帯模様

同じウミヘビという呼び名でも、爬虫類と魚類ですから違いはたくさんあります。外見的にはヒレや鼻管の有無などが挙げられますが、行動でも見分けられます。

魚類のウミヘビはエラがあり水中でも呼吸可能。砂中に身を潜めたり、海底近くで行動しています。中層に泳ぎ出たり、水面まで浮上することは通常はありません。でも、爬虫類のウミヘビは肺呼吸です。水中では呼吸できないため、定期的に水面まで浮上する必要があります。

魚が蛇のマネをする⁉

魚類のウミヘビ
爬虫類 のウミヘビ

シマウミヘビ(写真)はインド-太平洋に分布し、日本でも沖縄などに生息している「魚」です。ウナギ目ウミヘビ科に分類され、大きさは50~70cmほど。細長い体に白黒の縞というよく目立つ模様は、爬虫類のウミヘビ(写真)そっくり。

これは無害な生物が有害な生物に似ることでメリットを得るベーツ型擬態と考えられています。猛毒をもつ爬虫類のウミヘビのマネをすることで、無力なシマウミヘビは外敵や捕食者の目を欺き、身を守っているようなのです。

今回は嫌われ者のウミヘビを紹介いたしました。海で出会ったら速攻で逃げたりせず、少し観察してみてください。この生き物がもつ新たな魅力に気づかされるかもしれません。

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PROFILE
東京水産大学(現東京海洋大学)在学中、「水産生物研究会」でスキンダイビングにはまり、卒論のサンプルであるヤドカリ採集のためスキューバダイビングも始める。『マリンダイビング』『マリンフォト』編集部に約9年所属した後フリーライターとなり、現在も細々と仕事継続中。最近はダイビングより弓に夢中。すみません。
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