「東北の海のためにダイバーができること」三陸ボランティアダイバーズ特集
第4回:留意している点1:水中での安全の確保
被災地の海の劣悪なコンディション
ゴールデンウィーク、25人のダイバーが岩手県に集まった。その時期に潜水作業を行っていたのは、岩手県大船渡市の東にある綾里漁港という港だった。
くまちゃんと早乙女ら運営側が最も気をつけたのが、潜水作業時の安全面である。
もし万が一この作業中に事故やトラブルが発生したら、ボランティア自体が存続できなくなってしまう。しかも、被災地の海中は通常のダイバーがレジャーダイビングで潜る海とは環境が全く異なる。陸上から流された瓦礫が散乱し、海底に積もっている土砂は少しの作業でも舞い上がりあっという間に視界ゼロの世界となってしまう。
水温は5月上旬でも7,8℃で、通常のファンダイビングではあり得ない寒さだ。
最初にプロ(インストラクター)レベル以上のダイバー4,5人で調査ダイビングをしてみたものの、「一般のファンダイバーに作業をしてもらうのは危険」という判断を下した。海中で作業をするのはその4,5人に限定し、残りのメンバーは陸上でのサポートに回ることとなった。
現在も「被災地の海で潜りたい、海の中の様子を知りたい」という要望がくることもある。
そういったダイバーに対しては「あくまでボランティアなので、『潜りたい』ということは優先順位を下げてもらえませんか」という対応をするようにしている。運営側としては、その点のリスクを理解してくれたボランティアに来てもらうことにしている。
また、ダイビングは「プロ」と言っても名ばかりの資格であるケースも少なくないため、プロの資格に加えて「ダイビングショップでの就労経験をもつ」という条件も設けることにした。また、ボランティアの中に保険会社に勤める者もいたため、万が一の場合の保険も整備できた。
こうして、安全の確保を最優先課題としながら、三陸ボランティアダイバーズの体制が確立されていった。
水中だけでなく、陸上でできること
一言で「陸上のサポート」と言っても、海の中からの引き揚げ作業の手伝いのほか、被災地でやれることは無限にある。
引き揚げ作業に協力する陸上メンバーが漁船の上で潜水メンバーとのコンビネーションを高めていく一方で、避難所を訪れて被災者と交流するメンバーも多かった。
お茶会を開いて他愛もない話をしたり、持って来た救援物資をバザーのように並べながら炊き出しを行ったり…。
沿岸部の避難所には、漁業関係者の身内が多い。そこでありがたかったのは、「いつもありがとうね。旦那から聞いてるよ」というような声だ。
避難所では、部外者がいきなり入って行ってもなかなか輪に入れるものではない。そんな中で、現地に密着したくまちゃんたちの活動はしっかりと被災者の間に知れ渡っていた。 また、テレビなど一般メディアで取り上げられた効果も大きく、他の漁港に行った際も「ああ、こないだテレビで見たよ。協力してくれるんだろ」と話を聞いてくれることも多かった。
ゴールデンウィーク中、1週間〜10日間にわたり避難所では様々な交流を行った。ボランティアが帰らなければいけない時には、多くの被災者・ボランティアの目に涙が浮かんでおり、まさに“涙の別れ”となった。
最初は塞ぎ込みがちだった被災者も、女性ボランティアに「嫁に来ないか?」とまで話せるぐらいの元気を取り戻していたというエピソードもある。そのプロポーズへの返答がどうだったのかは、まだ取材できていないのだが。