「東北の海のためにダイバーができること」三陸ボランティアダイバーズ特集

第5回:留意している点2:漁師・漁協との関係

復興に向けて踏み出せるまでの時間

潜水作業での安全面と同じく、くまちゃんと早乙女が重要に考えているのが、現地の漁師・漁協との接し方だ。

震災の直後は、まず自分たちが行動することによって彼らを奮い立たせることから始まった。
「やっぱり廃業するしかないか…」
現地の漁師たちがそう考えるのも無理もない。彼らには仕事道具も、家もないのだ。
これから先、どうやって生きる糧を見つければいいのかが分からない状態だった。

そんな中で、くまちゃんが彼らの財産である釜などを引き揚げていくと、漁師の心にも希望の灯が点るようになった。
その後もくまちゃんらが「いいっすよ、僕らがやりますから」と率先して動いて、瓦礫だらけだった場所が次第に整備されていった。
漁師たちもそれを見て、徐々に行動ができるようになってきた。

三陸ボランティアダイバーズ

震災後、その第一歩が踏み出せるまでの時間というのは、おそらく誰にでも必要なものなのだ。
「お前らそんなにやってくれるんだったら、俺ら重機出すわ」スイッチの入った漁師たちは、僅かに残っている漁船を出し、くまちゃんらはそれに乗って沖合いの漁場の調査などを協力するようになった。

ボランティア作業を行っているのは、海だけではない。
もともとくまちゃんは鮭の遡上を観察するサーモンスイムを毎年秋に行っており、そこで世話になった川の清掃も行っていた。
その川からも漁師の商売道具がたくさん引き揚げられ、それを見た漁師たちは「俺たちがやらないわけにいかない」と一緒に川の清掃を行うようになった。

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専ら海を仕事場としている漁師たちが川に入って掃除をしている光景というのは、今までは考えられなかったことである。
くまちゃんとサーモンスイムという活動が、近いようで遠かった漁師と川とをつなげたのだ。

ダンゴウオってなんだ?

第3回(被災地の海中での活動へ)でも書いた通り、東北地方というのはもともとダイバーと漁師との関係が良くない。
レジャーダイビングが根付いていなかったこともあり、「ダイバー=密漁者」というイメージを持っている漁師も未だ多い。
だが、その関係の良化にも、三陸ボランティアダイバーズは貢献できている。

ある日、いつものようにくまちゃんが潜水作業をしていると、偶然ダンゴウオを見つけ、その写真を陸で待っていた漁師に見せた。
彼らの顔は不思議そうな笑顔に変わった。「なんじゃこれ。こんなちっちゃな魚、見たことねえ」
くまちゃんが「ここの海にいるんですよ」と言っても、漁師にとって興味があるのは食べられる魚・貝・海藻だけだ。

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「漁師さんたちはホタテやアワビで飯を食ってると思うんですが、僕たちはこれで飯を食ってるんですよ」

ぽかーんとしていた漁師の顔も少しは納得したようだった。
「へぇ〜、こんなちっこいのでいいんだ」
「僕らダイバーはそういうことをしているので、今後もできれば潜って楽しみたいんです」
「そうかそうか、いつでもおいでよ」
繋がりときっかけがあるだけで、時として話はとてもスムーズに進むものだ。

三陸ボランティアダイバーズでは、6月からチャリティダイビングを始めた。
一般ダイバーも参加できるように安全な海域で行われるそのダイビングは、フィーの中に地元の漁港への寄付分を含めて地元に還元する形で開催している。

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