中性浮力をとって中層にピタッと止まりたいのですが…(後編)
前編はこちら。
前編では、浮力を安定させるために
安全停止などで中層にピタッと止まろうとするとき、
「深くゆっくりの呼吸をしなくていい」と言った。
では、そもそもCカード講習で、
なぜ「いつも深くゆっくりの呼吸を意識しましょう」と言われるのか?
結論を出す前にダイビングにおける〝呼吸〟の役割を整理する。
まず、呼吸は、簡単に言うと「体のため」と「浮力のため」の2つ目的がある。
体のためというのは、深くゆっくりの呼吸をすることによって肺の換気量を増やし、
ストレスや疲労を軽減する、言いかえればリラックスする役割。
浮力のためというのは、伸縮し続ける肺の浮力を安定させ、
中性浮力をコントロールする役割だ。
「深くゆっくりの呼吸」というのは、基本的には前者のための言葉。
特にCカード講習でうんざりするほど言われるのは、意識付けの意味が大きい。
無駄な動きが多く、ストレスも大きい初心者はどうしても呼吸が乱れがち。
そこで、深くゆっくりの呼吸を意識させてストレスを取り除きリラックスさせるのだ。
また、呼吸を止めたまま浮上し、肺を傷つけてしまう(エアエンボリズム)ことを
防ぐためにも常に呼吸を意識させるのだ。
しかし、中性浮力のためだけを考えれば、深くゆっくりの必要はまったくない。
浮力が安定していればよく、極端に言えば息を止めたっていいのである。
では、体のため(換気)と浮力のための呼吸を両立させるにはどうしたらいいか?
結論は、「泳いでいるスピードで呼吸を使い分ける」である。
体のためには、泳いでいるときは運動量が増すのに比例してより換気が必要となる。
つまり、ダッシュするようなときこそ、意識的に深くゆっくりの呼吸が必要なのだ。
逆に、止まった(運動していない)状態では普通の呼吸で事足りる。
そして、前編で言ったように、止まった状態では、肺の浮力がそのまま浮沈に反映されるが、
泳いでいるときは前に進む力に引っ張られ、スピードと比例して浮沈も小さい。
つまり、止まった状態では深くゆっくりの呼吸でないほうがいいし、
ときに呼吸を止めた微調整もありだろう。
※初心者のころは呼吸を止めたまま浮いてしまうのを防ぐために
「止めないように」と言ったほうがいい場合もある。
つまり、先述した結論は、体のための呼吸、浮力のための呼吸、
双方の利害が一致しているのである。
より具体的に言えば、
「泳ぐスピードが増すにつれて、意識して深くゆっくりの呼吸。
止まっている時は中性浮力が取れる程度の呼吸」が正解ということになる。
以下、余談。
以上のようなことを踏まえて、初心者のうちは呼吸を意識させて、
経験を積んできたら「常時、普通の呼吸でいい」、「そんなに気にしないでいい」
という意見のガイドさんも結構いる。
もちろん、それもありだと思うが、元ストレスダイバーだった自分としては、
ストレスを取り除くのにずい分と深くゆっくりの呼吸にお世話になった。
そして、今では深くゆっくりの「深呼吸しっぱなし」の遊びとしてのダイビングを気にいっている。
水中で深くゆっくりの呼吸をして過ごしていると、体も連動してゆったりとしてきて、
どんどんリラックスしていく感じが個人的には大好きだ。