泣きながら抱き合いました〜私の漂流体験記〜
潜水事故防止の最初の一歩は事故に学ぶことですが、
事故はなかなか表に出したがらないものです。
そんな中、「事故防止に少しでもお役に立つのであれば」と
シースラッグの女性オーナー・酒井美佐さんに貴重な漂流体験を語っていただきました。
【漂流事故の流れ】
2000年1月。マレーシアのカパライ・マブールの海を潜ったときのことです。
その日は、「くもり・風強し・波やや高し」といったコンディションでした。
メンバーは、私、友人ダイバーA(300本は潜っていた)、
友人インストラクターB、リゾートマネージャーCの4人。
割と経験を積んでいるメンバーだといえるかもしれません。
(グループの安全装備)
エアホーン2人、シグナルフロート1つ、フラッシュライト、カメラのストロボ
午後一で、カパライのすぐ目の前のポイントでドリフトダイビング。
しかし、潜ってみたものの、視界も良くなく、かつ、流れがかなり速く、
60分くらい潜る予定でしたが、20分程度で切り上げてエグジットすることにしました。
大幅に予定を短縮したためか、浮上した私たちにボートが気づきません……。
エアホーンを鳴らしてみましたが、強風のため、
風下から風上にいるボートに音はまったく届かない様子。
フロートを上げるも、波が高くてやはり気づいてもらえません。
あっという間に隣のマブール島近くまで流され、
最初は「マブールでエグジットですかね」なんて笑い話程度に話していました。
まだまだ、このときは心に余裕がありました。
しかし、そのうち、マブールから外洋に流されていることに気が付き、
次第に焦り始めました。ここで、いよいよ漂流の準備のための話し合いです。
(話した内容と判断)
1.ウエイト捨てるか?
→ウエイトがないと立ち姿勢が取りにくいかもしらないとの判断で捨てない。
2.タンク捨てるか?
→エアホーンはタンクが必須。しかもエアはたくさんあったので捨てない。
3.手をつなぐか?
→最初はBCを持つなどしたがやってみると結構疲れる。
また、波があり、お互いがぶつかるので、たまにだけつなぐことにする。
ただし、声がけは事あるごとにすること。
4.誰かがスノーケルでマブールまで泳いで助けを呼びに行くか?
→水面も流れあるので、ひとまずやめておくことに。
ダイビングボートが見える気配はなく、
たまに遠くに見えるのは地元民の小舟だけ。
フロート上げたり、派手なフィンを手に持って振る、
エアホーンを鳴らすなどしてみますが、
波に阻まれ、まったく気づいてもらえません。
そのうち、1人が波酔い。
私も薄手の3ミリスーツだったため寒くなってきて、
しかも、スノーケルなしだったので水をたくさん飲んでしまいました。
次第に辺りが薄暗くなってきて、「探してくれているのか?」と不安は募り、
くわえて、私は寒さで震え始めてきました。このままではピンチ。
夜に備え、フラッシュライトやストロボを使うことなどを確認し合いました。
そんな不安が恐怖への変わる寸前、
遠くにダイブクルーズ用の大きい船が見えたのです!
ここぞとばかりに全員必死でフロート、フィン、手を振り、
エアホーンを鳴らし続けると、ついに見つけてもらい、
漂流からおよそ6時間後、やっと救助してもらうことができました。
救助されてリゾートに戻ると、安心感からか涙がポロポロ。
現地のスタッフさんたちと泣きながら抱き合ったあのシーンは今でも目に浮かんできます。
あの時にあのエリア(違うサービスも含め)にいた方には
ご迷惑をお掛けして申し訳なかったです。
実は、この漂流体験のことは、ごく親しい方以外には何年も黙っていました。
なぜなら現地のみなさんの評判に迷惑がかかるといやだったからです。
流された全員とも、とても現地サービスには感謝していますし、
私は今でもそこに通い続けています。
ただ、今回は、こうした体験が少しでも事故防止のお役にたつならと思い
お話することにしました。
すべてのダイバーが安全に楽しくダイビングができますように。
【後で聞いたこと】
○ロスト判明後、すぐにあのエリア全てのサービスのダイビングボートが捜索に参加
○サバ航空のセスナも飛んだらしい
○なかなか見つけてもらえなかったのは、予想外の場所に流されていたらしい(外洋へ流された)
○クルーズ船にもロスト連絡が入っていて、見張りがアッパーデッキから見てくれたこと
○見えたのはシグナルフロート(BBCの長いの)だったらしい
【反省・教訓になったこと】
○全員がフロートを持っていたのに、器材置き場に置き去りで結果1個しかなかった
○シグナルフロートで本当に助かるんだと実感できたこと
○全員がほぼ黒いスーツで、波があったら見えにくいこと
○酒井が薄いウエットスーツで、寒くてヒートロスになりかけたこと
→厚手のスーツの2人はまったく寒くなかったらしい
○酒井はスノーケルなしだったため、水面で水をかなり飲んだこと
→スノーケルは必要だ
○手をつなぐより、バディラインの方が欲しかった
→両方がナスカンで、5メートルの細めのラインを編んで
短め(2メートルとか)にしたものをシグナルフロートにつけておく
○スピードボートは低いので、ダイバーを見つけにくい
【漂流以来変わったこと】
○あれからずっとスノーケルを常備
○バディライン付きシグナルフロート携帯
○リゾートでも暖かいスーツで潜っている
予防は、事故を体験して始めて強く実感できるものですが、
取り返しのつかない事故は起きてからでは遅く、その先に待っているのは後悔だけ。
酒井さんの体験記を自分の体験と置き換えて、
ぜひ、事故予防に役立ててください。
過去、漂流体験をした人が語った以下のような予防策を、
酒井さんも同じように挙げたことが印象的でした。
「南の島でも保温対策を」
「スノーケルはエマージェンシーグッズとして必携」
「見つけてもらえる対策を」(レーダーフロートなど)
シースラッグ代表・酒井美佐
【ダイビング歴】 21年 5000本以上
豪快な姉御キャラに思われがちだが実はそうでもないと本人談。
水中でよく喋り、アクションも大きく熱い人。
ダイビングは意外にも?小さな生物をこの上なく愛していて、
小さければ小さいほど萌えるらしい。
本人は水底から太陽や月を眺めるのも大好きと言うが果たして周りの納得が得られるかどうか…笑。
伊豆ダイビングをこの上なく愛している人。