あの、僕のパンケーキはまだですか?

マーシャル諸島で撮影を行っていた頃の話。

マーシャル諸島でのパンケーキの話(撮影:越智隆治)

前に、ちょっと漂流した話を書いたのだけど、マーシャルにいると、あまりせかせかするのがどうでもよくなることが多かった。

南の島ののんびりさ加減を表現する上で、「〜タイム」ということがある。
沖縄時間とか、グアムタイムとか、ハワイタイムとか。とにかく日本みたいに時間にきっちりしてない島々の生活のリズムを、良い意味でも、諦めた意味からもそう表現しているのは、皆さんご存知だと思う。

マーシャルも、ご多分にもれず、マーシャルターイム!な島国だった。

ある日の朝の事、ボートダイビング出発前に朝食を食べようと、レストランに入った。
店内は、僕以外にはお客さんはいなくて、そこで働く太ったマーシャル人のおばちゃんが、新聞を読んでいるだけだった。

出発は30分後、ということだったので、簡単にできるパンケーキをオーダーした。

新聞を読んでいた太ったおばちゃんは、面倒臭そうに厨房に入って行き、しばらくすると戻ってきて、また新聞に目を通した。

僕は、厨房にいるコックさんに、オーダーを伝えに行ったものと思い、特に気に止めず、一人殺風景な店内をきょろきょろしながらパンケーキが来るのを待っていた。

15分待ったが来ない。
「まあ、マーシャルタイムだからね」と自分に言い聞かせ、また店内をきょろきょろしながら待つ。
太ったおばさんは、まだ新聞を読み続けていた。

30分経過、もうボートが出る時間だ。
しかし、まだパンケーキは来ない。

「さすがマーシャルタイムだな」と思いながらも少しそわそわ。
太ったおばちゃんは、まだ真剣な顔して新聞を読んでいた。なんか話かけづらい。

45分が経過。まだパンケーキはやってこない。
僕以外、客も来ない。

僕しかいないのに、パンケーキだけでこんなに時間かかるのか・・・。
さすがにマーシャルタイムとは言っても、これ以上は、ダイビングショップに迷惑かけるし・・・。

そう思って、太ったおばちゃんを見ていると、やっと新聞を読み終わった彼女と目があった。
「今しかない」そう思った僕は、「あの、僕のパンケーキはまだですか?」

その質問に、一瞬きょとんとするおばちゃん。
ひと呼吸おいて、おばちゃんが信じられない言葉を発したのだ。

「あ、いけない、忘れてた!」
・・・・「え〜〜〜!」

「今作るから待っててね」
・・・・・「そりゃないぜよベイビ〜」

おばちゃんは新聞をテーブルに置き、半笑いしながら、厨房に駆け込み(彼女はきっと駆け込んだと思っていると思うけどそんなに急いだ風ではなかった)、十数分後、パンケーキを持ってやってきたのだ。
「はい、おまちどうさま」

「お前が作るんだったのかよ!ずっと目の前にいたじゃん!」と思ったのだけど、あまりにも愛嬌のある笑顔で持って来るものだから、「まあいっか」と諦めて、「す、すみません、これ持っていきたいので、包んでもらえますか」と訪ねると、「あら〜冷めたら美味しくないわよ。ここで食べていきなさい」とまったく悪びれもせず言うもんだから、「冷めたパンケーキを食べなきゃいけないのも、おばちゃんのせいやん!」と思ったけど、「あ、すみません、ダイビングボート待たせてるから」と丁重にお断りして、パンケーキを持って店を出て、ダイビングショップへ向かったのでした。

その後、ダイビングショップでの出来事は、ほとんど記憶にありません。

マーシャル諸島でのパンケーキの話(撮影:越智隆治)
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PROFILE
慶応大学文学部人間関係学科卒業。
産経新聞写真報道局(同紙潜水取材班に所属)を経てフリーのフォトグラファー&ライターに。
以降、南の島や暖かい海などを中心に、自然環境をテーマに取材を続けている。
与那国島の海底遺跡、バハマ・ビミニ島の海に沈むアトランティス・ロード、核実験でビキニ環礁に沈められた戦艦長門、南オーストラリア でのホオジロザメ取材などの水中取材経験もある。
ダイビング経験本数5500本以上。
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