初めて会ったバディって意味あるの?ソロ・ダイビングのススメ

世間には昨日まで、「そんなの常識でしょ」とか「あたりまえだろう」と広く信じられてきたことが、一夜明けるとそうでもないことが明らかになるということがあります。

古くは、世界は「平面で」、「太陽が地球の周りを回り」、「たった4つの元素で」成り立っているなどですが、21世紀にそんなことを信じている人など何処にもいません(と思います…)。

セブ島のフォト派ダイバーのシルエット(撮影:越智隆治)

レクリエーショナル・ダイビングの世界では、「スキン・ダイブもできない輩がスクーバなんて無理」から始まって、「吹き上げが起きるBCDやドライスーツは危険」で、「訳の分からないダイブ・コンピューターも危険」で、「ナイトロックスなんて得体の知れないガスは危なく」て、ましてやレクリェーショナル・ダイバーごときが「サイドマウントやホグ・ループなんてとんでもない」などと言おうものなら、博識あふれる周りのダイバーから「エメット・ブラウン博士にお願いして、デロリアンに乗っけてもらって30年前に行ってね」と優しく諭されること請け合いです。

ということで、今回はダイビングの黄金ルールである「バディ・システム」の対立テーマ、「ソロ・ダイビング(単独ダイビング)」に置き換えて少し考えてみましょう。

ダイバーの黄金律“バディ・システム”はどこにいったの?

さて、どの認定教育機関のコースであるかにかかわらず、ビギナー・レベルの認定コースでは「常にバディ・システムを遵守しなければなりません」と教えられます。

「バディ・システム」は「浮上中は息を止めてはなりません」と同じくらいに、スクーバ・ダイビングの「黄金律」だと教えられるはずです。

ところが、ダイバーとなってその後ダイビング経験を重ね、いろいろなシチュエーションや現実に遭遇すると、実は現場でのバディ・システムの運用はけっしてそうでもない事を知るに至ります(もちろんそのような、不動の黄金律から外れた現実に遭遇しない方が幸せですが)。

かように申す私も、残念ながら「バディ・システムはどこに行ったの?」という経験をダイバーとしてする事がありますし、正直に言えば、ダイビング・インストラクターという職業上の立場と役割、置かれた状況から、ソロ・ダイブをせざるを得ない場合もあります。

例えば、皆さんにはこんな経験はありませんか?

ひとりでダイブ・ツアーに参加すると、その日初めて面識を得たダイバーとバディを組むようにダイブマスターやガイドからブリーフィングで指示される。
軽く会釈を交わし、または幸運にも社交的な相手であればダイバーとしての経験を少し含んだ自己紹介をして、いよいよ準備が始まる。

しかし器材を着けて、さぁこれからバディ・チェックをするかと思いきや、相手にはそんな気配がない。
私のホグ・ループしたロングホースの使い方のご確認もない。

しょうがない私は、わがバディのコンフィグレーション(編注:器材構成)を目で追って、使い方が不明なものがないか一通り確認し、セルフ・チェックで自分の器材の作動確認を済ませ、エントリー(あらら、潜降のサインもくれないで、先に行っちゃったよ…)。

まじめな私は、バディ殿とサイド・バイ・サイドで定位置をキープして、すぐ傍に、手の届く範囲、または一蹴りで接触できる範囲で移動するように距離を保っているのだが、相方はまったくこっちのことはおかまいなし。
自由気ままにポジションを変えてくれる(はぁ…)。

さらにカメラを持った我が愛すべきバディは、魚の群れにまっしぐらに向かって遥か彼方へ…

私のことなど眼中になく、ほとんど向こうからは目を合わせていただけない。
たまたま目が合って、一応確認のための「OK」サイン、つまりコマンド・シグナルを出しても応答が無い。

よく観察すると、どうやらバディ氏を含めてこのチームの皆さんは、それぞれのバディよりもガイドさんの方を意識している模様(こりゃ“長良川の鵜飼い”システムだな…)。

かようにバディがいてもいなくても関係ない「名目上のバディ・システム」としてそのダイビングが終わる(結果としてソロ・ダイビングとたいして変わらんじゃないか…)。

むしろ、ソロ・ダイビングの方が安全!?

あるいは、いつもの気心の知れたバディとボート・ダイビングに参加する。

水面も穏やか、流れも無いダイビング・ポイントに係留した船上で、ダイブ・ブリィーフィングが始まる。

エントリー直前にダイブ・ガイドさんから「水深12mの係留ブイの下で集合して下さぁい。水底で集まったら私が先導しまぁす」(あのぅ、主語がよく分からんのですが…)。

水面で集合した我々は、バディ・システムを維持した状態で、係留ラインに沿って水底に向かう。
見上げると、あっちこっちからバラバラと一人ずつダイバーが降ってくる(皆さん、主語を“バディ”じゃなくて、“ダイバー”って解釈したのか…バディ・チェックをミスして「バルブの開け忘れ」なんてしてたらどうすんだろ…)

物は壊れる“かも”しれない、人は間違える“かも”しれないどころじゃなくて「物は壊れるもの、人は間違える動物、状況は刻々と変わるもの」を前提にダイビングを捉える用心深い私の「妄想」(ただの心配性か?)をよそに、かくして「楽しい」水中ツアーが始まる(これって、ガイドさんの指示でバディ・システムを崩壊させてるじゃないの?)。

そんなこんなの経験が度重なって、「技量の貧弱なダイバーや危険なダイバーとバディを組むより、あるいは危機管理の甘いダイブ・ガイドの指示に従うより、自分にとってはソロを前提にダイビングをした方が安全なのではないか」という価値観が醸成される事に相成ります。

「ソロの方が安全」ではなく、バディ・システムの運用の問題

しかしちょっと冷静に、そして論理的に考えてみると「ソロの方が安全」という思考に至る原因は、バディ・システムという手続きに問題があるのではなくて、本来の意図から外れた「バディ・システムの運用の問題」から生まれるものです。

また、これまでのダイビング死亡事故事例をみると、事故が起きた時点で、はぐれ、見失いなど、バディの存在が無いケースを少なくない数で見受けます。
その直接の原因、または背後にある理由は様々でしょうが、ダイバーが水面または水中で致命的なトラブルに陥ったその時、頼りになったはずの自分のバディがその場にいなかった、つまりバディ・システムが機能しなかったということになります。

状況が事故当事者のバディの技量、経験、能力を超えていて、結果として救えなかったかもしれないとしても、例えわずかでも救命可能性の存在を想像すると、残念な事です。

一方で、経験を積んだ、正直なダイバーからは「ソロ・ダイビングは無条件に、絶対的に、危険か?」という議論もあるでしょう。

さらに、少し特殊な条件ですが、インストラクターや映像撮影など職業としてダイビングを行なうダイバーは、ソロ・ダイビングを選択する、またはせざるを得ない事もあります(今回の論考を複雑にしないために、このテーマは機会があればまたあらためて)。

ソロ・ダイビングができるほど自立したダイバーであり続ける

話を戻しましょう。
例えば、ダイビング教育機関のSDIには「ソロ・ダイビング・コース」があり、PADIにもこれに似通った「セルフ・リライアント・ダイバー・コース(自立ダイバーコース、とでも日本語に訳せましょうか)」があります。

これらのコースに共通する目的は、実のところ「ソロ・ダイビング」を奨励するではなく、自己依存のダイビング・スキルを磨き、バディまたはチームでより強いパートナーとなる「自立したダイバー」を育成するものです。

加えて、その参加条件はPADIの場合、ビギナー・レベル以上の認定と少なくとも100ダイブ以上の経験証明ができること、そしてポニーボトルやサイドマウント、ツイン・シリンダーなど独立した予備呼吸源など要求します。
これは明らかにテクニカル・ダイビングの「リダンダンシー(冗長性)」の考え方です。

しかし、コンフィグレーション上のリダンダンシーは、追加器材と予備の装備、充分なガスの携行量で解決できますが、ソロ・ダイビングでは自分の「身体」は一つしかありませんから(当たり前か…)、判断力や身体機能が阻害された場合の危機に対応する事が出来ません。

このように見てくると、やはりソロ・ダイビングができる技量、経験、装備を備えているとしても、やはり「バディ・システム」と、または「チーム・ダイビング」は、ダイビングを安全に運用する黄金律であり続けます。

丁寧に表現すると、「バディ・システム」は、個々のダイバーが自立したダイバーで、一方が「他方に依存」するのではなく、対等に「相互補完」できる関係を理想としている事です。

もちろん誰もが、とりわけビギナーにとっては、すぐに簡単に出来ることではないのですが、少なくとも日頃から「自分の始末は自分で出来る」スキルと知識を身につけ、それを錆つかないように維持し、さらに向上させようとすべきでしょう。
そして、ここに継続教育コースに参加する価値と正しく経験を積むことの重要性を見いだす事になります。

ここまでを整理すると、「ソロ・ダイビングができるほど技量のあるダイバー」つまり「自立したダイバー」が、「バディ・システムを」目的に沿って「運用する」と、「危機回避の機会と精度が増す」、つまり安全度が上がり、充分にダイビングを楽しめるということになります。

したがって、このコラムの表題は少し(かなりか?)舌足らずだったようです。正確には「ソロ・ダイビングが出来るほど“自立したダイバーであり続けること”の薦め…」とすべきでした。

どうやら地球が平面ではなくて球体である事が証明されても、ダイバーにとっては、バディ・ダイブやチーム・ダイブに比較して、ソロ・ダイビングは危険、あるいは危険度の高いダイビングであることはそう簡単に覆りそうにありません。

writer
PROFILE
DIR-TECH Divers' Institute を主宰し、東京とフィリピンの拠点を往復しながらダイビング・インストラクション活動を行なう。
「日本水中科学協会」および「日本洞穴学研究所」所属。
 
最近の主な監修・著作に「最新ダイビング用語事典」(成山堂書店)、連載「世界レック遺産」(月刊ダイバー)、「遊ぶ指差さし会話帳・ダイビング英語」(情報センター出版局)など。