水中写真家・上出俊作氏が世界的フォトコンIPA2024で1位&複数部門で入選!  今、思うことを聞いてみた

9月下旬に嬉しいニュースが飛び込んできた! 水中写真家・上出俊作氏が、IPA(International Photography Awards TM)2024のプロフェッショナル部門ネイチャー・マクロカテゴリーで1位を受賞したという。オーシャナの記事でも度々素晴らしい作品を提供してくださっている上出氏に、早速喜びの声をお聞きしようとインタビューを敢行。なぜフォトコンに応募したのか、受賞してどんなことを今思うのかなどをざっくばらんにお話ししていただいた。

まわりの方たちに祝福されて、初めて受賞の実感がわいた

オーシャナ編集部(以下、――) この度はおめでとうございます! 受賞の知らせが届いてから少し時間が経っていますが、あらためて今、どんなお気持ちでしょうか?

上出俊作氏(以下、上出氏) 

はい。受賞はしたけれど、そんなに大きなことだとは思っていなかったんで、報告しなくてもいいかと思っていたんです(笑)。しかし、今までお世話になった方たちへの感謝を表す意味で、報告するかと思ってブログやSNSに投稿をしたら、多くの方からお祝いのメッセージをいただけて、じわじわと喜びを感じています。

――パリ五輪の金メダリストのアスリートの方が「周りの方たちの喜びの声を聞いて、初めて金メダルをとったことを実感した」と言われていたのを思い出しました。そもそも、以前お話を伺ったときに「フォトコンに出すことにそれほど意義を感じていない」とおっしゃっていたのを思い出して、今回なぜ応募されたのかをお聞きしたいと思うんですが、教えていただけますか?

上出氏

前にもお話ししたと思うんですが、自分で作品に価値をつけていくのがプロの写真家だと思うので、フォトコンテストに作品を出して評価されるということには興味はありませんでした。しかし、今年の5月にお世話になっている写真家の方から「海外のフォトコンに作品を出してみたら? きっと上位入賞できますよ」と言っていただいたことがあり、興味がわいてきたんです。

また、国内のフォトコンテストで審査員を務めさせていただく機会も増えて、今年は日本水中フォトコンテストの審査員を務めさせていただきました。そんなこともあって、世界のフォトコンテストの基準(ルール)やレベルはどんなものなのか、また世界ではどんな作品が評価されているのかを知りたい。さらには何だかんだ言って受賞歴が一つくらいあった方が、写真家として箔が付くかなと思い、今回応募しました。

――そして、すぐに結果が出たわけですね。素晴らしいです!!

小さな魚たちの写真で、世界と勝負がしてみたかった

――今回、プロフェッショナル部門ネイチャー・マクロカテゴリーで1位を獲得された作品について伺いたいと思います。「ザッツ上出ワールド」なマクロ作品の組み写真なんですよね?

上出氏

そうですね。どんな作品を出そうか考えたときに、やはり自分が今まで撮影してきた「小さな魚たちの写真で、世界と勝負がしてみたい」という気持ちがあり、こちらの10点を組み写真にして「Underwater Portraits」というタイトルで応募しました。

プロフェッショナル部門ネイチャー・マクロカテゴリーで1位の発表ページはこちら 

上出氏

こちらの作品は、2022年に開催された写真展「陽だまり レンズ越しに見つめた10mmの海」、写真集「陽だまり」で発表したものと同じテーマです。たくさんの作品の中から、この10点を選ぶのには苦労しました。どれも思い入れのあるかわいい子たちなので…。流れやバランスなどを考えて組んでいく作業は大変でしたが、結構そういう作業は好きなので、時間をかけて取り組みました。

――私はこの一連の上出さんの作品は本当に魅力的だと感じて、以前に撮り方を伺う記事を書かせていただきました。自分も惚れ込んでいた作品が世界的に評価されて、心から嬉しく思いますし、やはり本当にいい作品は万国共通に評価されるのですね。

フォトコンテストに作品を出すことには、多くの学びがある

――今回、こちらの作品のほかにも、プロフェッショナル部門ネイチャーカテゴリー・水中カテゴリーで3位と佳作を、単写真で受賞されています。

The White House(単写真):3rd Place / Nature/Underwater
Escape from the underworld(単写真):Honorable Mention(佳作)/ Nature/Underwater

上出氏

そうなんですが、受賞した作品はすべてマクロなんですよね…。自分の中で、自信を持って応募したクジラとマングローブのワイドの作品は受賞を逃したので、ちょっとへこんでいます(笑)。

――とはいえ、これだけの評価を受けたことは、すごいことなのではないでしょうか⁉ 今回の受賞が、何か今後の上出さんの活動に影響を及ぼすことはありますか?

上出氏

それはありませんね。評価されることに嬉しい気持ちはありますが、前にも述べたように自分の写真に価値をつけていくのが、プロの写真家だと思うので。ただ、今回1位をいただきましたが、ネイチャー部門の1位ではなかったので、次にフォトコンテストにチャレンジするとしたら、グランプリを目指したいですね。

そもそも僕が水中写真を撮るのは、表現したいという欲求よりも、自然をそのままキャプチャーする、そんな感覚です。水中の生き物は、美しくもあり、かっこよくもあり、そのままで十分魅力的です。その魅力が損なわれないように撮っているだけで、それは僕にとってはクジラもマングローブも小さな魚たちも一緒で、主役は自分ではなく、生き物たちなんです。今、自分がネイチャーフォトグラファーであることを再認識しています。

――以前お話を伺ったときにも「自然に負荷をかけない撮影をしたい」とおっしゃっていたのが印象的でした。その姿勢はずっと変わらないんですね。

上出氏

変わったのは、フォトコンテストに肯定的になったことですかね(笑)。

――いや、それは素晴らしい変化です(笑)! 最後にオーシャナ読者の中には、水中写真を撮られていて、フォトコンテストに応募したいと思っている方もたくさんいると思います。そんな方たちにメッセージをいただけますか?

上出氏

フォトコンに作品を出そうかどうか迷っていたら、出したほうがいいと思います。作品を選んで応募する過程には絶対に学びがありますし、応募するならグランプリを狙うくらいの気持ちで、真剣に取り組んでほしいですね。

フォトコンによって、主催者の意向がありますが、どういうフォトコンなのかを理解したうえで、自分の水中写真にいくつかあるテーマやコンセプトから、どういうふうに作品を選んで、組み写真ならば組み立てるか。こういう作業をすることで、自分の作品を客観的に見るきっかけになります。受賞できればいいですが、できなかったとしても、多くの収穫があると思います。だから僕はフォトコンに対して、否定的ではないですよ(笑)⁉

今回、上出氏にじっくりお話を伺ってみて、フォトコンテストに応募すること、そして受賞することの意義、素晴らしさを実感できた。今後の上出氏のさらなる活躍を、心から応援したいと思う。

上出俊作Profile

水中写真家 陽だまりスタジオ代表

1986年東京都出身。大学4年生の冬にダイビングと出会い、卒業後はノボノルディスクファーマ株式会社に営業職として入社。働きながら週末は伊豆、連休は沖縄に通い、ダイビングと水中写真にのめり込む。「沖縄の海の近くに住みたい」という夢が抑えきれなくなり、会社を退職。2014年沖縄本島に移住をする。その後、沖縄県名護市を拠点に水中写真家としての活動を開始。「水中の日常を丁寧に切り取る」というテーマで、沖縄を中心に日本各地の海を撮影し、ダイビングメディアでの執筆活動や写真展等のイベントを通して、水中写真と沖縄の海の魅力を発信し続けている。

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PROFILE
大学時代に慶良間諸島でキャンプを行い、沖縄の海に魅せられる。卒業後、(株)水中造形センター入社。『マリンダイビング』、『海と島の旅』、『マリンフォト』編集部所属。モルディブ、タヒチ、セイシェル、ニューカレドニア、メキシコ、タイ、インドネシア、フィリピン、マレーシア、オーストラリアなどの海と島を取材。独立後はフリーランスの編集者・ライターとして、幅広いジャンルで活動を続けている。
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