古見きゅう写真集「WA!」出版記念インタビュー
第2回:写真、そしてプリントへのこだわり
いぬたく
古見さんって動画はやらないんですか?
古見
動画ね(笑)
いぬたく
個人的には、ダイビングをしてない人や海を知らない人にとって、モノが動いていることの説得力とかパワーってすごいと思っているんです。それをプロの方のテクニックで撮るとすごいだろうなーと思ってるんですけどね。どうでしょう。
古見
(少し挙動不審になりながら)動画、動画、いや、あの、今みたいな時代だと動画って「やるべき」だとは思うんですよ、僕も。ハッハッハ(笑)
でも基本的にそうこう言う前に僕は写真家なので、海に入るときに動画を撮ろうって思うことがない、撮ろうという感覚がなくって。やっぱり写真というものがすごく好きなので今は写真しかやってない、というのは正直あるかな。だから動画はちゃんとムービーカメラマンの人たちにやってもらった方がいいんじゃないかなと思ったりもする。
いぬたく
写真に特にこだわりがあるということなんですね。その古見さんの写真に対するルーツというか、それはどういうものなんでしょう?
古見
写真って一瞬を切り取るわけじゃないですか。昔から、そんなに集中力がある方じゃないんですよ。いろんなことに興味があってけっこう気が散りやすいというか(笑) 写真ってすごく集中できて、シャッターを切った瞬間に結果が出るという方が自分には合っていて、すごく心地よくて。
ムービーってある程度前後のこととかを考慮しながら回したり、“連続”なわけじゃないですか。ムービーを回してたこともあったりしたんですけれど、なんか違うなという感じがあって。
やっぱり写真を撮っていて印刷物にすることや、そもそも本が好きであったりとか、プリントしたものがすごく好きなんですね。だから自分はやっぱり写真家であって、簡単に「ムービーも回せますよ」とかはあんまり言いたくないんですね。プライドというか、そういう風になってきてしまうんですけど。意地というか、そういう感じです。
いぬたく
古見さんって小さい頃はお魚少年だったわけじゃないですか。
古見
そうですね。
いぬたく
小さい頃から写真集もよく見られてたんですか?
古見
写真集自体は、そんなには見てないですよ。ただ父親の仕事の関係で美術展にはよく一緒に行っていました。ミレーの展覧会やってるとか、モネが来るとか、ルノワールが来るとか…。その当時は好きではなかったんだけど(笑)、そういうものは観てはいました。
いぬたく
お父様のお仕事は何をなさってるんですか?
古見
工芸家ですね。
いぬたく
昔はそのお父様のお仕事にそこまで興味があったわけじゃないんですよね?
古見
うん、ぜんぜん興味ない(笑)
うちの父親がやってるのは鍛金(たんきん※1)って言って、鉄板を丸めたりとかしながらものを作っていくんだけれども、そんなのって子どもが見てもわかんないじゃん。でも昔手伝わされたりして、バーナーをかけてとか、そんなのはやってましたけど。最近になってようやくそういうのが分かるようになったかなという感じですね。
いぬたく
当時は出来上がった作品にもそこまで興味がなかった?
古見
全くなかった。
いぬたく
僕の話になって恐縮なんですけれど、僕はうちの両親ともメディアの中の人間で、特にうちの母親はテレビのドキュメンタリー番組を制作したりしてるんですけど、昔は全く興味がなかったのに気づいたら自分も似たような仕事をしていて。今は親の仕事にもすごく興味を抱くようになってきたんですね。
そういうのはなんなんでしょうね、なんか影響を受けるんでしょうかね。
古見
やっぱりあるんじゃないかなと思いますよ、そういうのって。
いぬたく
不思議ですね。
古見
だから、だからというわけじゃないんだけど、今後の展開の一つとして、さっき作家として生きていきたいって言ったじゃないですか。いわゆる現代美術の世界に行きたいなというのはあるんですよね。美術という世界の中に水中写真を価値あるものとして見てもらえたらすごくいいなと思うので、そういうアプローチもしてはいきたいなと思いますけどね。
いぬたく
それは大きい話ですね。
古見
うーん、まあ、でも自分のやりたいことなんで。簡単ではないと思いますけど、うん、でもやっていかなきゃいけない、自分がやりたいことなんで、うん。
いぬたく
現代美術の中というのは、具体的にはどういうことになるんでしょう?
古見
要は自分の展覧会を美術館でやったりとか、そういう方向性ですよね。
やっぱり生活の中に生きる美術ってあると思うんですよ。「あー、この絵がほしいな」とか「子どもが生まれたからこの写真を飾ってみよう」とか「季節が変わったからこの写真を飾ってみよう」とか。そういう生活の中に根付いた美術の中に水中写真がほしいなと思いますね。なんかあるじゃないですか、「あー、この写真見てるといいなー」とか。
立体の作品展とかあったりすると、「なんじゃこりゃ」っていうものも多くて(笑)、でも響くものは響く、分かる人には分かる、というのも良いなと思うんですよね。
例えば写真専用のギャラリーと美術のギャラリーだと展示の仕方も違うんですよね。プリントの仕方やフレームの付け方もどんどん自由になってきてるから、すごく面白いんじゃないかとは思いますけどね。
美術に関しては僕もまだぜんぜん勉強してるところなんで、大きなことは言えないんですけれども。
いぬたく
「写真を買う」っていう芸術とかアートに近い分野って、日本ではそれほど浸透してないじゃないですか。
古見
うんうんうん。
いぬたく
その時に海外っていう可能性とか視野ってどれぐらいあるんですか?
古見
すごくありますよ。やっぱり。
後々の話なんですけれど、外国の出版社から本を出したいっていうのももちろんありますし。外国の美術館やギャラリーって、日本よりも活動的じゃないですか。だからいつかはやりたいなとは思うんですけれど、今は僕もようやく足場を固めてるところなので、こつこつやりながら、こう、やっていきたいなと思います。
いぬたく
海外っていうところで言うと、このサイトも海外ソースネタを意図的に多くしているところがあって。
古見
うん、見た見た。
いぬたく
あ、ありがとうございます。単純な話、写真とかムービーっていうコンテンツは言葉はあまり関係がないし、(見つけてくるのが)海外だと可能性も広がるし。そうやっていると名前も知らなかった海外の写真家とかを「発見」したりするんですよね。それを逆に考えると、古見さんが英語で作品をウェブ上にアップしていてそれが「発見」されるっていうのもあるでしょうし、とても可能性を感じますよね。
古見
うん、だからflickr(※2)で僕が作品を上げ始めたのもそういうところがあって、あれは僕の中では最初はもっとちゃんと頑張って、もちろんまだ途中なんだけど、英語で全部やるつもりなんですよね。まあ、こういうことを言い訳にしちゃいけないんだけどなかなか時間がなくて(笑)
いぬたく
Flickr、かなり止まってるじゃないですか(笑)
古見
そう、そうなんです…。いろんな可能性はあると思うので…(笑)いろんなことを思いついて全部同時進行しようと思うから全部ダメになってるんだよね(爆笑)
※1 鍛金:金属工芸に用いられる技法の1つ。金属に熱を加え槌(金槌)で叩き加工する技法。(鍛金 – Wikipedia より)
※2 古見きゅうさんのFlickrはこちら。
Flickr: Photographer Kyu Furumi’s Photostream