再圧治療の保険点数改定に伴う、再圧治療費補助制度の制度変更について
ダイビングをする際、ダイバーは小さな可能性ですが減圧障害のリスクから逃れることはできません。
発症が疑われる場合には再圧治療が必要となるため、診療報酬の点数(いわゆる医療費)は気になるもの。
2018年4月1日付で再圧治療の診療報酬点数が改定されることとなり、それに対応して、DAN JAPANの再圧治療費補助制度も変更となります。
それぞれの変更点やバックグラウンドについて取り上げます。
実は恵まれていた!
日本人ダイバー
現在の日本の医療保険制度は、すべての国民が何らかの公的医療保険に加入し、お互いの医療費を支え合う「国民皆保険制度」です。
日本においては、国民誰もが保険証1枚で医療機関にかかれること、保険により自己負担額以外は負担しないことが当然のことだと思われています(現在働いている人が医療機関の窓口で支払うのはかかった医療費の原則3割です)。
しかし、海外に目を向けると必ずしも皆保険制度は当然ではありません。
さらに、日本人ダイバーが恵まれていたのは、再圧治療の診療報酬点数が非常に低く設定されていました。
2018年3月31日までは、救急的な高気圧酸素治療(再圧治療)は第2種装置で6000点(60,000円)、第1種装置で5000点(50,000円)である一方で、非救急的な再圧治療はたったの200点(2,000円)でした。
この金額に対し、上記の働いている人は3割負担となるため、18,000円、15,000円と600円となります。
海外では1回の再圧治療で100万円を超える地域もあります。
「救急」と「非救急」とは?
問題点は?
では、この「救急」と「非救急」の再圧治療の差はなんでしょうか?
「救急」は発症から1週間以内、「非救急」はそれ以降と区分されています。
減圧障害においては、早期に治療が行われることで、必要な治療回数が少なくなること、後遺症が残りにくくなることが期待されます。
ところが、前述の治療自己負担額の大きな差から、症状が出ている場合でも1週間は我慢し、その後非救急の区分となってから受診するダイバーの存在が懸念されました。
DAN JAPANのレジャーダイビング保険の補償は、減圧障害を含む国内で発生した傷害に対して日額補填となるため、救急の再圧治療などの高額な治療の場合、補償が限定的でした。
なぜDAN JAPANは
「救急」の再圧治療費を補助するの?
このため、DAN JAPANでは早期の治療を促すため、2013年に再圧治療費補助制度を発足させました。
補助により救急の再圧治療費をカバーすることが可能となり、支払いの不安から非救急の区分になるまで待たずに再圧治療にアクセスできるようになりました。
前述したように、早期の再圧治療はダイバーに大きな利益をもたらすため、減圧障害が疑われる場合には、ためらわずに受診できる環境づくりが重要と考えています。
2018年4月、診療報酬点数が改定!
前述のとおり、日本における再圧治療では診療報酬点数が非常に低く、ダイバーには大きな利点でした。
しかし、ダイバーが受ける再圧治療は、突発性難聴や一酸化炭素中毒などで行われる高気圧酸素治療と比較して治療に要する時間が長いため(例えば、米国海軍再圧治療表6の治療時間は約5時間)、特に非救急の200点では病院側として受け入れが困難でした。
このため、本年4月1日より以下のとおり診療報酬が改定されます。
●高気圧酸素治療(1日につき):
減圧症又は空気塞栓に対するもの 5,000点(50,000円/自己負担額15,000円)
*高気圧酸素治療の実施時間が5時間を超えた場合には、30分又はその端数を増すごとに、長時間加算として、500点を所定点数に加算。ただし、3,000点を限度とする。
*減圧症又は空気塞栓に対して、発症後1か月以内に行う場合に、一連につき7回を限度として算定する。
この改定によりダイバーの負担は増える反面、病院側は受入体制を整えやすくなり、より多くの病院がダイバーの受入に積極的になることが期待されます。これは多くのダイバーにとって好ましい状況です。
再圧治療費制度はどう変わるのか
上記の改定に伴い、DAN JAPANの再圧治療費補助の枠組みが変更になります。
変更点は、①補助の対象となる再圧治療が、「発症の原因になると思われるダイビングから2週間以内に行われた治療」であること、②「救急」の区分が消失したことに伴う補助金額の改定、の2点となります。
◆再圧治療費補助の内容◆
対象:DAN JAPAN一般・インストラクター会員の方
期間:各年4月1日~3月31日に実施された再圧治療(年度内1会員1回を上限)
条件:発症原因と疑われるダイビングから2週間以内に再圧治療を受け、治療後3週間以内に申請された場合
●発症原因と疑われるダイビングを行った時点と、発症した時点ともに会員資格が有効
●ダイビングにより発症した減圧障害の治療
●健康保険を使用していること
補助金額:上限20,000円(年度内1会員1回を上限)
(詳細は→https://www.danjapan.gr.jp/news/saiatuchiryouhi)
より高まるダイバーの意識改革の必要性
今回の診療報酬改定以前も同様ですが、まず減圧障害の発症リスクを減らすための知識を各ダイバーが持つことが重要です。
DAN JAPANのホットラインで受けるダイビング事故の相談では、水面休息時間が短く、深い/長いダイビングをしていたり、浮上後に短時間で飛行機搭乗や高所移動をしていたりするケースが多く見られます。
また、減圧障害の症状に関する知識が乏しく、酸素による応急手当を受ける機会を逸したり、受診までに長い時間が経過したりしている場合もあります。
診療報酬が改定になり、非救急でもダイバーが大きな負担をしなくてはならなくなったからこそ、減圧障害を未然に防ぐために自覚を持ち、さらには万が一発症しても症状の重症化を防ぐ可能性のある酸素吸入に関する知識を持つこと、早期の治療を行うことが重要です。
特に注目しなくてはならないのは、条件として付記されている「発症後1か月以内に行う場合に、一連につき7回を限度として算定」という部分で、この条件は発症1か月以降の治療が行われない可能性、および症状が残存していても最大7回の治療が限度となる可能性を示唆しています。
もし症状が残存した場合にこれを超える治療を行おうとすると、一連の治療が全て自由診療となり、医療費が非常に高価になる可能性も考えられます。
このため、前述の「発症を未然に防ぐ」「発症した場合に重症化を防ぐ手立て」、および「早期の治療」が極めて重要となります。
DAN JAPANでは、減圧障害を疑う場合に相談することができる緊急ホットラインコールサービスや、再圧治療費補助、さらにはレジャーダイビング保険でダイバーの安全を支えてゆきます。ぜひ、万が一の際にはこれらのサービスを積極的に活用していただきたいと考えています。
潜水事故や潜水後の体の異常(潜水障害など)、緊急を要する案件に対応しています。
ダイバーや医療関係者に対して、重症化を防ぐ手立てや再圧治療施設の紹介等の情報提供を行います。
*DAN「潜水事故における酸素供給法」講習
減圧障害を認識し、必要に応じて酸素を使用した応急手当を実施するためのトレーニング。「誰かがやってくれる」ではなく、ダイバー自身が減圧障害の知識を持ち、必要に応じて酸素供給の判断や、受診するかどうかの判断ができるようになることが大切です。
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DAN JAPANでは、会員のみなさま向けに、潜水医学、および安全に関連する情報を詰め込んだ会報誌「Alert Diver Monthly」を月に1回提供しています。
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