ABECUP2019開催レポート!フォト派の闘志に火が付く、ストイック過ぎる大会とは?

こんにちは。水中カメラマンの堀口です。
2019年12月7日、和歌山県の須江でABECUP 2019(読み方:アベカップ2019)が開催されました。今回私は初めて大会に参加してきましたので、ご紹介したいと思います。

ABECUPとは?

アベカップ2019集合写真_堀口和重
毎年12月の第2週の週末になると、フォト派ダイバーなら誰もが知る大きなフォトイベントが、和歌山県串本町須江で開催されます。
そのフォトイベントの名は、ABECUP

ABECUPの「アベ」は写真家・阿部秀樹さんのお名前からとったもので、串本の須江ダイビングセンターの主催により、2011年からスタートしました。

通常のフォトコンテストとは違い、ある特定のルールのもとで参加者が撮影を行い、得点を争う大会で、毎年12月の第2週に開催されています。

イベントには、各地域のフォトコンテストの入賞者やグランプリを取った方、カメラメーカーのコンテストで入賞した方、入賞経験がなくても相当な練習を重ねた方など、多くのダイバーがこの日のために積み重ねたものを出し切ろうと集結します。

開始当初は9チーム・競技者23名だった大会も、参加者が徐々に増えていき、2019年は全国から19店のダイビングショップがエントリー。25チーム・競技者69名が参加するという大きな大会となりました。さらに、チームの引率ガイドやサポートスタッフ、運営スタッフを含めると、総勢120名ぐらいになります。

規模・参加者の集中力ともに、私が見た中でもダントツに素晴らしいイベントであり、日本ナンバーワンの水中フォトイベントと言っても過言ではないでしょう。

闘志に火が付くABECUP
大会のルールは?

前述しましたが、ルールはかなり細かく制約が多いのが特徴です。

●ABECUPの基本的なルール

大会当日に潜水コース、審査対象となる被写体などが発表されるほか、潜水本数制限(2ダイブのみ)・時間制限・深度制限・残圧制限などもあります。

潜水コースはINコースとOUTコースの2つがあり、それぞれ1本ずつ潜って撮影します。各コースで指定されている被写体は5個。つまり、2本潜って10個の被写体を撮影していきます。(※被写体の数は、毎年変更の可能性あり)

1つの被写体の撮影にかけられる時間は2〜3分、エキジット後に写真を選定をする時間は30分程度です。

ABECUPコースの一例(※配布資料より一部抜粋)

アベカップコース説明

コース内にはブイが設置され、そこにお題となる被写体がいる。順番通りに撮影しなくてはならない

作品はパソコンでの編集は一切なしで、いわゆる“撮って出し”。
ルールに則って指定された被写体、指定された枚数を制限時間内に提出して得点を競います。

●ABECUPの参加方法

ABECUPへの参加は、個人ではできず、チームでのエントリーになります。
チームはガイド1名+撮影者2~3名で一組となっており、ダイビングショップ単位(都市型ショップ、現地サービス問わず)でエントリーします。なので、まずはこのチームが組めるかどうか、というところも重要になってきます。

ぜひチャレンジしてみたいという方がいましたら、須江ダイビングセンターへ問い合わせをしてみるのがいいと思います。

●参加者のレベルや使用機材

撮影に使用する機材はデジタルカメラのみというルールのため、参加者はデジタル一眼レフやミラーレスを使うユーザーの方がほとんどです。
写真歴は40年のベテランから一眼レフを持って数カ月という人もいるし、フォトコンテスト入賞常連さんもいれば初心者もいる、幅広い層となっています。

ABECUPの醍醐味は、経験がある方が勝つのではなく、まったく無名の方でも上位に入ることが可能なところです。当日のモチベーションの持って行き方、集中力などが勝負を左右しているように思えます。

同時に、入賞者の男女比も2019年は半分半分でした。今までフォトコンテストというと男性の割合が多かったのですが、近年は女性の方も一眼レフユーザーが増えたからでしょう。いろいろな方に入賞のチャンスがあるイベントといえるのかもしれません。

●ABECUPの審査方法

審査委員である写真家・阿部秀樹さんが、すべての写真を細かく見て点数を出していきます。
審査基準は、技術基礎点(ピント・露出・構図)、芸術評価点(被写体理解度・ストーリー性・芸術性)の合計点数です。

■審査採点方法
<技術基礎点>
1作品につきピント、構図、露出、の3項目で各5ポイント満点。合計15ポイント(最高点は5作品×15=75ポイント)
<芸術評価点>
1作品につき被写体理解度、芸術性、ストーリー性の5項目、合計15ポイント (最高点は5作品×15=75ポイント)
※技術基礎点と芸術評価点とを合算し、最高点は5作品×30=150ポイントとなります。

また、残圧が30以下だと減点になるほか、水中への指示棒やそれに類する物を持ち込んだ場合、最大水深を越えた場合や減圧停止を必要とする潜水をした場合、環境保全・順守マナー等の違反が認められた場合などは、完全失格対象になります。安全と環境に配慮して行われるというのも、大きな特徴でしょう。

●ABECUPの賞と結果発表

賞は個人賞とチーム賞とがあります。
個人賞は、1~5位までの入賞のほか、阿部秀樹賞、新人賞、ヤングレジェンド賞があります。チーム賞はチーム全員の合計ポイントから順位が決定します。

表彰式は翌日の朝。昨年までは当日に行っていたようですが、阿部さんが1枚1枚写真を審査されるので、前回大会では夜の2時までかかってしまったとのこと……。今年から翌日になったようです。

しかし翌日になったと言っても、深夜まで審査をする阿部さんやスタッフの疲労は相当なものです。スタッフの皆様、お疲れ様でした。

難しく過酷なルールの大会
阿部秀樹さんの思いとは

上記は基本的なルールの紹介になりますが(本当はもっと細かいです笑)、概要を聞いただけでも相当難しいのだなと感じていただけると思います。

それゆえ、参加者の方々も相当なプレッシャーがかかり、当日本気で「帰りたい……」と言う人や、緊張に負けてエントリー口で嘔吐してしまう人などまでも出てくるぐらいです。また、二度と出ないと言い出す人や、中には自分の点数に納得がいかずに審査委員とぶつかる人もいます。

しかし、なぜかその方たちも次の年になると再び参加しているんですね。昨年より成績を上げたかったり、入賞を目指したり……不思議な魅力がABECUPにはあるようです。

ではそもそも、なぜこのような(ドSな!笑)大会を始めたのか、阿部秀樹さんに伺ったところ、ストイックさを微塵も感じさせない、とても優しい回答をいただきました。

photo by スージー

阿部秀樹さん(photo by スージー)

阿部さん:「沖縄など各地の海に遊びに行ったとき、残り5分で珍しい被写体と出会ってしまった、残圧が少ない状況になってしまう、ということがありますよね。そのときに、“上手く撮れずに後悔した”ということを良く耳にします。そこから、多くのフォト派ダイバーに「失敗しない・楽しんでもらいたい」と思うようになりました。その思いを須江ダイビングセンターの倉田さんに話したところ、フォトコンテストのようなイベントをやりたいとおっしゃっていただき、ABECUPが誕生しました。また、通常のフォトコンテストで時間をかけて撮り溜めた写真を出すのも大事ですが、瞬間的な撮影のスキルアップとして考えると、あまり役に立ちません。フォト派ダイバーのみなさんにより上手くなってほしい、そんな気持ちもあります」

そんな阿部さんも、開催当初は約3年でこのイベントを辞めるつもりだったようです。
しかし、周囲から「来年もやってほしい!!」との声があまりにも多かったようで、今年でなんと9回目を迎えられました。

単なるイベントではなく、阿部さんの優しさに答えようと奮起した方々が多かったんだなと、私は思っています。

ABECUP2019
大会の様子をレポート

それでは、先日行われたABECUP2019の大会の様子をご紹介しましょう。
当日は私も参加していたため、写真でのレポートになりますが、大会の緊張感や参加者の真剣さを感じていただけると思います。

アベカップ2019_準備中やブリーフィング

潜る前のブリーフィング。緊張やら気合いやらで、参加者の表情もみな真剣だ

 

アベカップ2019_エントリー

エントリーの様子

 

アベカップ2019_写真の確認

エキジット後に急いで自分が撮影したデータを確認する

 

チームでも撮影データの確認。データの編集はできない

チームでも撮影データの確認。データの編集はできない

 

アベカップ2019_写真の提出

制限時間内に受付にデータを持って行き、提出する

アベカップ2019阿部秀樹さん_堀口和重

審査中の阿部秀樹さん。近くに置いてある栄養ドリンクが、審査の壮絶さを物語る…!?

アベカップ2019夜の親睦会_堀口和重

夜は親睦会も開催される。みな、大会を終えてリラックスした表情

特別枠でチーム堀口も出場!
果たしてその結果は…?

そして今回、私堀口も特別にABECUPに出場させてもらえることとなりました。
私自身も元々は大瀬崎の大瀬館マリンサービスのスタッフで、阿部さんも大瀬館を長年使っていて良く知っているということもあり、特別枠でチーム堀口を結成してみないかと直々にお話をいただいたのです。

「審査委員長の直接の話だったのでこれは断れない!」と思い受けたのですが、初戦はなかなか思うようにいかず大変でした。

スケジュールが合わず、お誘いしたメンバーも数人「難しい」との返答。中々メンバーが集まらずの状態だったのですが、原澤宏さん、そして落合克弘さんが受けてくれました。

お二人は大瀬崎のフォトコンテストの2018年・2019年のグランプリの経験を持ち、各地のフォトコンテストでも多大な功績を残している方たちです。
心強いメンバーが見つかりました。

アベカップ2019_チーム堀口_堀口和重

堀口チーム結成! 真ん中が私(堀口)、右が原澤宏さん、左が落合克弘さん

しかし、大瀬崎での練習や本番前日の撮影では、時間制限や“撮って出し”のルールに苦戦を強いられました。
撮影する側もですが、ガイドする側も時間の配分やどの被写体にどれくらい時間を割り当てるかなど、ガイド力を問われるので難しいのです。

さらに当日は、難易度が高く、そしていやらしく組んであるコース設定に苦戦を強いられました。
ハレーションの出やすいマアジ、クロアワビと間違えそうなメガイアワビ、芸術的にと言われると難しい水中のゴミなど、難しい被写体も登場しました。

そして“生き物(被写体)ロスト”というイレギュラーにも見舞われて、終了時間1分前ギリギリでの写真提出で、なんとか大会を終えることができました。

*

翌日の結果発表では、チーム堀口の結果は個人賞で初参加の原澤宏さんが「新人賞」をいただきました!

非常に難しい大会で、チームでの入賞はできなかったものの、参加していただいたお二人には感謝しかありません。

アベカップ2019結果_新人賞_堀口和重

新人賞を受賞した、チーム堀口のメンバーの原澤宏さん(左)と、記念品としてご自身の作品を贈呈する阿部秀樹さん(右)

実は数年前にも今回のメンバーでABECUPに出場したいという気持ちがあったので、時間が経ってまさかこんな機会があるとは思ってもいませんでした。

今回の「チーム堀口」が大会に出るのは終了となりますが、私自身は次回のABECUPに今回とは違う形で皆様の前に現れるかもなので、そのときはよろしくお願いします。

ABECUP2019結果発表

新人賞は原澤さんが受賞されましたが、このほかの結果の一部もご紹介したいと思います。

●個人賞 1位

個人賞で優勝されたのはダイビングショップNANA Bチームで参加された、渡辺亨さんでした。

アベカップ2019結果_個人優勝_堀口和重

個人賞で優勝された渡辺亨さん

●チーム賞

チームでの優勝は、葉山のダイビングショップNANA Bチームのみなさんです。

アベカップ2019結果_チーム優勝_堀口和重

チーム賞で優勝されたダイビングショップNANAさん

その他、
●阿部秀樹賞:小栗真由美さん(須江ダイビングセンター Bチーム)
●ヤングレジェンド賞:小倉直子さん(シーアゲイン Aチーム)

などの方々が入賞されました。

ABECUPの今後は?

ABECUPは来年の2020年で記念すべき10回目なります。
ABECUPの反響は大きく、伊豆でも獅子浜ABECUP、来年には長崎でもカステラカップ(ABECUP長崎版!?)なども開催予定のようです。

阿部さん自体も新しい企画をいろいろ考えているようで、コンパクトデジタルカメラのみで行うABECUPベーシックや2人1組のバディの信頼関係が重視されるアベカップルなどの開催も考えているとか。ちょっと変わった企画が楽しみですね。

今後のABECUPにも、ぜひご注目ください!

取材協力/阿部秀樹様、須江ダイビングセンター
撮影協力/海遊 木村様フィッシュアイ 池田様

堀口和重さん
プロフィール

horiguchi_profile

伊豆の大瀬崎にある大瀬館マリンサービスにチーフインストラクターガイドとして勤務後、2018年4月にプロのカメラマンに転向。
現在は伊豆を拠点に水中撮影から漁風景や海産物の加工まで海に関わる物の撮影を行っている。
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writer
PROFILE
日本を拠点に活動している⽔中カメラマン。カメラマンになる以前はダイビングガイドをしながら数々のフォトコンテストで⼊賞。現在はダイビング・アウトドア・アクアリストなどに関連する雑誌やウェブサイト、新聞などに記事や写真を掲載、水中生物の図鑑や教書にも写真提供している。2019年に日本政府観光局(JNTO)主催の“「⽇本の海」⽔中フォトコンテスト 2019”にて審査委員、2020年には“第28回 大瀬崎カレンダーフォトコンテスト”の特別審査員も務める。近年は訪⽇ダイビングツーリズム促進を⽬的として“NPO 法⼈ Japan Diving Experience”としての活動も⾏っている。
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