山見信夫先生に聞く!今ブームのサウナ、ダイビング後に入って大丈夫?

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世の中でサウナブームが巻き起こっている中、オーシャナ編集部内である一つの疑問が生まれた。それは、「そもそもダイビング後ってサウナに入っていいの?」。そこで、昨年『ドクター山見のダイビング医学』を上梓された減圧症研究の第一人者で、多くのダイバーの体のトラブルを診察してきている山見信夫先生にお伺いしたところ、素朴な5つの質問に答えて下さった。

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そういえば知らなかったかも!ダイビングとサウナの関係

超初心者ダイバーである私は、ある日「今、海辺サウナも流行っているみたいですが、ダイビングとサウナの相性ってどうですか?ダイビング後にサウナに入って帰るの楽しそう!」と編集部スタッフに連絡したところ、「そもそもダイビング後って、サウナに入っていいの?」という疑問が浮上した。
その他にも、「減圧症を誘発するかもしれない」「私はダイビングの後、普通に温泉入っていました」「ダイビング仲間でサウナーの方結構いるかも。それって大丈夫なのかな?」など、編集部内でダイビングとサウナに関する会話が膨らんでいったが、結局何が正しいのか答えが出なかった。そこで、読者の方でもそもそも気にしたことがなかった方も多いのでは?ということで、「今ブームのサウナ(温泉)とダイビングの関係について」気になることを山見信夫先生にお伺いした。

実験データを元にした、ダイビング医学の第一人者 山見先生の見解

Q1.ダイビング後のサウナ、温泉は良くないって本当でしょうか?

山見信夫先生(以下、山見先生)

体に窒素をたくさん溜め込むダイビングをしたときは、減圧症を発症させる誘因になると考えられます。ダイビング後の加温が、減圧症発症に影響するかについては、Mekjavicらが行った実験が参考になると思います。
Mekjavicらは、ダイビング後の寒冷曝露と熱いシャワー浴について検討しています。水深30fsw(9.14m)圧のチャンバー内(呼吸ガスは空気)に12時間滞在したあと、安全停止をせずに減圧した実験です。大気圧復帰後、ひとつのグループ(寒冷群)は気温10℃の場所に、もうひとつのグループ(加温群)は気温40℃にそれぞれ3時間滞在します。寒冷群のダイバーは、加温群のダイバーと比較して、直腸温は低下しませんでしたが、皮膚温は低下していました。ダイビング後、血液中の気泡は、寒冷群では4名中3名、加温群では1名に観察されました。また、寒冷群のうち、熱いシャワーを浴びた1名にI型減圧症の症状が見られました。
この実験から推測することは、ダイビング後は保温したほうがよさそうなこと、ダイビング後、冷えた体を急激に温めると減圧症が発生しやすくなるかもしれないということです。

Q2.ダイビング後に体を温めると、減圧症を誘発する原因になると言われていますが、それはなぜでしょうか?

山見先生

冷えた体を高い温度で急激に加温すると誘因になり、適度な温度で保温するとリスクが減ると考えられます。
ダイビング後、十分窒素が排出されていない段階で、冷えた体を過剰に高い温度で急激に加温すると、それまで溶解していた窒素が一気に気泡化するからかもしれません。

Q3.ダイビング前は、サウナや温泉に入っても大丈夫ですか?

山見先生

ダイビング前にサウナに入ると、ダイビング後に発生する気泡が少なくなるため、減圧症は発生しづらくなるかもしれません。
サウナとダイビングとの関係については、Blatteauらが行った実験が参考になります。Blatteauらは、チャンバー内で加圧される前にサウナに入ったダイバーの血液中の気泡を観察しました。16名のダイバーが、ダイビングをする1時間前から30分間、 65℃のサウナに入り、その後400kPa(4気圧)に25分滞在。毎分100kPa(1気圧)の速度で減圧して、130kPa(1.3気圧)で4分間の安全停止を行いました。すると、ダイビング前にサウナに入ったダイバーでは、ダイビング後の気泡形成が少なかったと報告しています。

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Q4.ダイビングの前後ではなくとも、日常でサウナや温泉に通うことは体に影響はありますか?

山見先生

日常に入るサウナや温泉は、健康な体を維持するうえで有益に働くこともあるとの報告もあるようですが、減圧症の予防効果は知られていません。おそらく減圧症の発症にはほとんど影響しないのではないでしょうか。

Q5.ダイビング後に、どうしてもサウナや温泉に入りたい場合、減圧症のリスクを下げる入り方のコツはあるのでしょうか?

山見先生

サウナも温泉もダイビング前に入ることをおすすめします。ただし、ダイビングは、クールダウンしてから開始するべきと思います。血液循環が良すぎる状態でダイビングを始めると、ダイビング中、窒素の分配が促進される可能性があるからです。
ダイビング後、すぐに温泉に入る場合は、熱すぎる温度は避けたほうがよいと思います。ぬるめの温度でも、体が冷えているときは十分気持ちいいですしね。
ダイビング後、体を冷やしたダイバーより、保温したダイバーのほうが気泡発生は少なくなりますから、冷えた体を適度に保温し、緩やかに窒素の排出を促すことが大切と考えます。あと、何より重要なのは、ダイビング中に窒素を溜め込みすぎるダイビングをしないことと思います。

まとめ

①冷えた体を高い温度で急激に加温すると減圧症の誘因になり、適度な温度で保温するとリスクが減ると考えられる=冷えた体を適度に保温し、緩やかに窒素の排出を促すことが大切

②ダイビング前にサウナに入ると、ダイビング後に発生する気泡が少なくなるため、減圧症は発生しづらくなると考えられる。ただし、クールダウンはしっかりと。

③ダイビング後、どうしてもすぐに温泉に入りたい場合は、熱すぎる温度は避ける。(ぬるめの温度でも、体が冷えているときは十分気持ちいい。)

④何より重要なのは、ダイビング中に窒素を溜め込みすぎるダイビングをしないこと。

山見先生、ありがとうございました。
一概にダメ・危険というわけではなく、サウナや温泉の入り方やダイビング中のスキルを上げることによってうまく付き合っていくことができそうだ。サウナーや温泉好きの方、温泉が観光名所のダイビングスポットへ行く際は、ぜひ参考にしてほしい。

医療法人信愛会山見医院 院長・医学博士 山見信夫
杏林大学医学部卒。宮崎医科大学医学部附属病院、東京医科歯科大学医学部准教授、同大学院准教授等を経て現職。
DAN Japan緊急ホットラインドクター、警視庁水難救助隊講師、海上保安大学校研修科潜水技術課程講師、日本高気圧環境・潜水医学会理事・専門医認定委員・広報委員長などを歴任。現在も海上保安庁の潜水アドバイザー、NHK潜水撮影研修講師、DAN Japan運営委員等を務める。日本高気圧環境・潜水医学会専門医・評議員、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本医師会産業医・認定健康スポーツ医、DAN Japan DDNetドクター・インストラクター、CMASマスターインストラクター・コースディレクター

ダイバー必読!体のトラブル対処法がわかる、山見信夫先生の新刊
ドクター山見のダイビング医学
山見先生が長年にわたり研究・診療を続けてきた減圧症をはじめ、ダイバーに多く見られる耳や鼻のトラブル、めまいや船酔い、窒素酔い、酸素中毒、シニアダイバーの注意点など、内容は多岐にわたる。症例と原因、予防法を網羅した本書は、安全にダイビングを楽しむために、ぜひおすすめの一冊だ。

  • 山見信夫 著
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  • 発行:成山堂書店

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PROFILE
奄美在住。高校生の時にブラジル留学を経験。泳ぐのが苦手で海とは縁がない人生だと思っていたが、オーシャナとの出会いを通じてOWD(BSAC)を取得。オーシャナを通じ、環境問題や海のことについて勉強中。
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