Covid-19罹患後のダイビングに関するDANヨーロッパ医師たちの現場での経験
以下の内容は、DANヨーロッパからの情報で、DANヨーロッパの了解を得て翻訳したものです。
また、この情報は現時点(投稿日:2021.12.21)におけるものであり、今後の新しい情報に注意願いますとともに、ダイバーに有益と思われる海外DAN等の情報に接した方は、DAN JAPANまで連絡願います。ダイバーの安全等に係る情報については、極力、翻訳・発信させていただきます。なお、海外DANの発信する情報には著作権があり、無断で利用することはできませんので、ご注意ください。
※本記事はDAN JAPAN公式ブログからの転載です。
COVID-19についてはまだ分からないことがたくさんあり、このウイルスについての知見とダイバーに対する影響については、なお、完全にはわかっていません。
そのため、各種のダイビング団体と高圧医学会が編集した医学的勧告の統一見解(“What You Should Know About Diving After Covid-19:Covid-19罹患後のダイビングについて知っておくべきこと“を参照)を再度公表するのに加えて、何人かのDANヨーロッパの医師たちに連絡し、COVID-19に罹患した後でダイビングに復帰したいと思っているダイバーを現場で診た経験について尋ねてみました。
具体的には、以下の医師たちに聞きました:Oscar Camacho(ポルトガル)、Peter Germonpré(ベルギー)、Ole Hyldegaard(デンマーク)、Jacek Kot(ポーランド)、Anne Räisänen-Sokolowski(フィンランド)、Adel Taher(エジプト)、Ulich van Laak(ドイツ)、Jürg Wendling(スイス)です。
この医師たちは、それぞれCOVID-19に罹患したダイバーを2名から20名を治療しています。Dr. Germonpréは、軍のダイバーしか診ていませんが、Dr. Camachoはコマーシャルダイバーもレクリエーショナルダイバーも診ています。以下に、その発言を記します。
DANヨーロッパ:Covid-19罹患後にダイビングに復帰したいという人たちを診て全般的にどうだったか教えてください。
Oscar Camacho (OC):
コマーシャルダイバーは全員、この急性疾患で無症状か嗅覚不全/味覚不全(臭いと味の感覚がない)のような軽症でした。レクリエーショナルダイビングに関して言えば、2名のダイバーが重篤でした。2名とも入院しました。1名は一般病室に収容され、非侵襲的換気療法で治療を受けました。もう1名は、集中治療室に6週間収容されました。ダイバー全員(コマーシャルとレクリエーショナルの)が、自分の肺の能力をとても心配し、ダイビングに復帰できるかどうかとても不安がっていました。入院した2名のレクリエーショナルダイバーは、肺のスキャンで両肺の線維症を示唆する画像が得られ、また、すぐに疲れるようになりましたので、私は彼らをダイビングに復帰できないと診断し、6か月後にもう一度診察するつもりです。
Peter Germonpré (PG):
全員が軍の医学的基準に従って健康診断を受けました(すなわち、SpO2を計測しての運動負荷試験、肺機能検査、心臓機能検査、肺のCTスキャン)。何人かは、ダイビングの再開が許されるまでに3か月以上の“陸上勤務”になりました。
Ole Hyldegaard (OH):
全く問題がないか、大きな呼吸器系の問題はありませんでした。
Jacek Kot (JK):
私は、ダイビングに復帰することを希望する1名の医学コンサルタントとして活動しました。
Anne Räisänen-Sokolowski (ARS):
全員が軽症で、できるだけ早く潜水に戻りたいとジリジリしていました。
Adel Taher (AT):
ほとんどの人は、両側とも空気の入りがよく、臨床的に問題ないように見えました。病歴をとると、COVID-19に罹患したことが判明するか、自分でわかっていて前もってそうだと申告しているかでした。疑わしい場合は、肺のCTを要請しました。感染して2か月未満の場合の数例では、スリガラス様陰影(GGO)が生じているようでした。たいていが基底側に。感染してから4か月から6か月の期間をおいてフォローアップすると、GGOが消失していることが示されました。
Ulich van Laak (UvL):
3例全部が、統一見解の勧告に従うのを渋っていて、“手っ取り早く”許可をしてほしいと望んでいました。
Jürg Wendling (JW):
ほとんどのレクリエーショナルダイバーと何人かのプロフェッショナルダイバーは、我々の勧告を守ってくれました。急性のCOVID-19の軽症から重症患者の全員が、スイス・フローチャートによる検査で後遺症の徴候はまったくありませんでした(我々は、パルスオキシメトリを使った症状が出ない程度の運動負荷試験/ボディプレチスモグラフィ(肺気量、気道抵抗測定)およびDLCO(肺拡散能力)検査を実施)。ここでの私のコメントは、毎月自分たちの経験についてオンラインミーティングで報告している「スイス水中・高圧医学会(SUHMS)」の最も活動的な潜水医学の専門医の経験をまとめたものであることをお断りしておきたいと思います。
ダイバーが意識しておくべき何か問題になりそうな領域はありますか。
PG:
DCS(減圧症)の‘奇妙な’症例は目にしていませんが(‘安全な’ダイビングの後で)、これはおそらく私たちが早期に課した制限のせいかもしれません(オランダ潜水・高圧医学会(DSDHM)ガイドラインは2020年4月に早くも公表されています)。
OH:
COVID-19感染で肺の症状が見られたら、ダイビングを再開する前に肺機能検査をするように勧めます(最低でも)。
JK:
肺組織の不可逆性変化(コンプライアンスの低下)と運動能力の低下。
ARS:
肺が問題になる場合があります。
AT:
運動時の酸素飽和度!スパイロメトリ(肺機能検査)における明らかな変化。呼吸器内科医のセカンドオピニオンを要請する場合もあります。
UvL:
「ベルギー潜水・高圧医学会(BSDHM)」やその他から出されているような公開された懸念は、特にスポーツダイビングコミュニティには広く受け入れられてもいませんし、理解されてもいません。科学ダイビングと軍事ダイビングでは全く違っています。
UvL:
「ベルギー潜水・高圧医学会(BSDHM)」やその他から出されているような公開された懸念は、特にスポーツダイビングコミュニティには広く受け入れられてもいませんし、理解されてもいません。科学ダイビングと軍事ダイビングでは全く違っています。
JW:
驚くような経験はありませんでした。ダイバーたちは、ほとんどが身体的能力の低下という形で現れる潜在的な危険についての情報を得ています。私たちはBSDHMグループの警告を共有しています。
ダイバーは、ダイビングに復帰する前に何に注意し、気を付ける必要があるでしょうか。
OC:
肺機能!
PG:
現在のガイドラインを使えば、明らかな肺/心臓の損傷があるダイバーはダイビングに復帰できないと言って差し支えないと思います。このガイドラインが厳しすぎるといえるかどうかは難しいところです。
OH:
COVID-19感染症の重症度によると思います。
JK:
運動能力(肉体的なパワー)、スパイロメトリ(肺機能検査)の低下、レントゲン検査の変化、例えば、高解像度コンピュータ断層撮影(HRCT)
ARS:
ダイバーの身体的状態がCOVID感染前のレベルに戻る必要がある。
AT:
身体的適性がその人の‘正常の’レベルに次第に戻ることですが、これには予想より長くかかることがよくあります。
UvL:
身体的適性と心理的適性がCOVID感染前のようになっていることを、医学的に遂行能力を分析することで確認されていること(スポーツ医学、心臓、肺の専門医によって)
JW:
アップデートされた私たちの「スイス水中・高圧医学会(SUHMS)フローチャート」を見てください。
様々な症状を伴う“長期のCovid”を経験したダイバーに対する何か特別なアドバイスはありますか。
OC:
ダイバーに心臓の問題があるとか、これまで心疾患になったことがあるなら、肺機能と心臓の検査をしてもらうべきでしょう。
PG:
明確な治療方法がありませんので(身体のリハビリプログラムと時間の経過は除く)、ダイバーは我慢してスクーバダイビングを控え、担当の潜水専門医が許可するのを待つことが重要です。プールでのトレーニングはやってもかまいませんが、圧縮ガスを使うトレーニングでは、たとえ非常に浅いところであっても、エアトラップのリスクがあるので、肺機能検査が正常でなければなりません。
OH:
肺機能検査と負荷心電図(ECG)検査が正常で、潜水専門医のアドバイスを受ければ、ダイビングを再開できます。
JK:
COVIDが長い目で見てどういう結果になるかわからないため:ダイバーはより慎重な(保守的な)ダイビングをし、水中での動きを少なくすべきです。
ARS:
ダイバーの身体的状態がCOVID前に戻る必要があります;心臓-呼吸器系を完全に検査することが必須です。
AT:
ここシャルムでは、“長期Covid”の症例は診ませんでした。
UvL:
私たちが経験した2例の重篤なケースと“長期Covid”のケースに対する勧告は、6ヶ月間はダイビングをせずに、前もって心臓血管系と肺に焦点を絞った潜水医学的検査を受けるというものでした。
JW:
現時点でわかっている範囲では、「長期Covid」症候群は、体の中心に生じる体調不良がほとんどであり、自覚症状はあっても他覚症状のない一種の身体症状の出現を示しています。そういうわけで、早期に心理療法を行うことが重要です—リハビリに対する多様な取り組みです!「長期Covid」の患者の中には、身体的後遺症(肺と心臓)がある人がおり、「スイス・フローチャート」に基づく潜水適性検査をパスしないでしょう。
どのような状況だと、Covid-19に罹患したダイバーが主治医に加えて、DANの潜水医学専門医に追加相談をするように勧めますか(メンバーの特典)。
OC:
重篤度にかかわらず入院した場合。重篤度にかかわらず慢性の呼吸器疾患の既往がある場合、あるいは、入院歴がある場合もない場合も。Covid-19罹患後症状が残っている場合。
PG:
私は実際の(対面での)医学相談がDAN会員の特典の一部だとは思いません。しかし、主治医が実施した、あるいは、指示した医学検査の結果について遠隔で助言を得ることは、疑わしいすべての症例で可能でしょう。
OH:
肺の症状がある患者、あるいは、普通のインフルエンザとは思えないような症状のある患者は、感染して12週間後にスパイロメトリと可能ならばHRCT(高分解能CT)を行うべきでしょう。
JK:
COVID-19によって呼吸器関係、心臓関係、神経関係のどれかの症状で入院した場合はすべてのケースで。
ARS:
必ず行う。
AT:
主治医がcovid-19の症例を診察したことがないか、COVID-19がダイビングにどんな影響を持つかについての知識のない場合はすべてのケースで。
UvL:
症状のあるCOVID-19に罹患したDAN会員は誰もが、できれば自分の症例についてDANの潜水医学専門医に相談すべきでしょう。
JW:
COVID-19感染症に罹患して、ダイビングを再開しようと望む人は、潜水医学専門医に連絡して診てもらって意見をもらうべきでしょう。スイスでは、私たちの地域をカバーする有能な潜水医学専門医のネットワークがありますので、DANの潜水医学専門医に追加で相談するのは、セカンドオピニオンが必要なときだけになるでしょう。
ダイバーは、ダイビングを再開し始めたら、何に注意や心配をすればよいですか。
OC:
すぐ疲れるとか、息切れのような呼吸器系の症状があるかどうか。
PG:
ダイビングは次第に負荷が高くなるようにします。間違いなく運動/習慣不足と身体機能の低下の両方があるからです。
OH:
運動誘発性の呼吸困難(息切れ)があればさらに検査を行うべきです。
JK:
肺の圧外傷のリスクが高まっていること、水中での運動能力に制限があることを認識させること。
ARS:
肺の傷害、たとえ軽症の感染であっても。
AT:
息切れ、特に水中で頑張りすぎたとき。また、水中で頑張ってもいないのに息切れがおきるならば、さらに注意が必要!ダイバーは自分の呼吸回数と呼吸ガスの消費に注意すべきです。感染前と比較したCOVID-19から回復した後のダイビング後の疲労度。
UvL:
“大がかりな”ダイビングメディカルチェック。ボティプレチスモグラフィ、および、結果/以前の肺の症状次第で、HR-CT。
JW:
ダイバーは潜在的な危険を認識していなければなりません。特に圧外傷、酸素中毒、DCIのリスクですが、これらについては本当のリスクはまだ分かっていません。今のところ、リスクが高まるというエビデンスを示す発表は一切ありません。
Covidに罹患したダイバーがワクチンを接種する際に知っておくべきことはありますか。
OC:
ワクチン接種が、最終的に存在している後遺症を変化させるとかよくすることはないでしょう。
PG:
ワクチン接種は、COVID-19に罹患した人にも勧められます。
OH:
ありません。できるだけ速やかにワクチンを接種してください。
JK:
COVID-19とワクチン接種の間の期間については標準的な勧告に従ってください。ワクチン接種は防護と伝播を100%保証するわけではないことに注意してください。標準的制限(距離をとる、消毒、マスク)を守ってください。
ARS:
COVID後のワクチン接種については、それぞれの国の「保健当局」の指示に従ってください。
AT:
私が個人的にアドバイスしておきたいのは、1回目のワクチンを接種するダイバーは2回目の接種が終わるまでダイビングをしないことと、抗体検査まで待つようにということです。‘悪意のない’保菌者になる可能性を最小限にすることで、自分自身と周りの人に対してより安全になります。
UvL:
現在のところアドバイスはありません。
JW:
ワクチン接種を強く推奨します。というのも、ダイビングは社交的な活動で、そこでは、ウイルスに感染しないために必要な注意事項を厳格に守ることが必ずしも可能ではないからです。
OC:
ワクチン接種が、最終的に存在している後遺症を変化させるとかよくすることはないでしょう。
ご自身の経験として、「ベルギー潜水・高圧医学会(SBMHS-BVOOG)」の勧告をアップデートする必要はありますか。
OC:
特に提案はありません。
PG:
ないですね。あれは少し厳しいかもしれませんが、他のもの(たとえば、カリフォルニア大学・サンディエゴ校(UCSD)ガイドライン)はさらに厳しいです。
JK:
今のところ、ないです。さらにデータが必要です。
ARS:
あの勧告は現在も有効だと思っています。
AT:
新しい情報がどんどん出てきていていますが、フェイクニュースの量もそれに劣らずものすごいです。ですから、SBMHS-BVOOGかDANが3か月ごとに声明を出すといいと思っています。単に、考慮すべき変化があるかどうかを述べるだけでよいのです。コロナウイルスの変異株には最大限注意する必要があります。
UvL:
注意事項についてアップデートするだけの確証あるデータはありません。
JW:
あります。スイスの医療機関や専門医によるエビデンスでは、入院して酸素療法を行った人には完全回復まで3か月以上かかっていることがわかっています。ですから、ダイビングの再開のための再評価まで6か月待つよう勧めています。肺圧外傷症候群のリスク、酸素中毒、減圧症に関しては、理論的危険性に基づいて(現在のところ、報告されたエビデンスはないので)注意が必要であると、はっきり述べるべきです。ですから、リスク(合併症の確率と重篤度によって決定される)は、今はまだ決定できません。
COVID感染症で肺病変のあったダイバーの評価に関して:SUHMSのワーキンググループは、CTスキャンはダイビングを再開する判定には有用ではないと表明しています。肺病変がある人たちは、治療を受けている間に1度以上CTスキャンを間違いなく受けています。ダイビングの再開に関する結果を評価するために重要なことは機能的能力です。ですから、拡散能の検査を加えることによって肺機能検査を強化する、また、酸素飽和度をモニタリングしながら最大負荷までのエルゴメーター検査を行うように勧めます。また、こうした検査の前後にスパイロメトリを行うことがよいかもしれません。
心事象の評価に関して:勧告された手順を支持します。しかし、潜水医学専門医による再評価の際に、入院期間中の詳細な臨床データ、特に、トロポニンの値と変化およびPro-BNP値を利用できるようにすべきであることに言及しておくべきです。
皆様、本当にありがとうございました!
COVID-19罹患後にダイビングを再開するための医学的な統一見解、” What You Should Know About Diving After Covid-19:Covid-19罹患後のダイビングについて知っておくべきこと“を公表するのに加えて、私たちは、「スイス水中・高圧医学会(SUHMS)」が開発し、2021年1月29日に改定した容易に理解できるdownloadable flow chart of these recommendations:ダウンロードできる勧告フローチャートを公表したことに留意してください。このフローチャートに示されている勧告は、全体的な勧告より少しばかり厳しい(保守的な)ことに留意してください。
原文はこちら:【DAN Europe Physicians’ Field Experience Regarding Diving After Covid-19】
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