漂流体験記☆後編 〜事故の経験から学んだこと〜

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前編で紹介した生々しい漂流体験から3年以上の月日が経過。
漂流直後、「今後やりたいと思うこと」として挙げていたことを、
現在どのように生かしているか漂流体験者である伊藤祐一さんに聞いた。
漂流直後、伊藤さんが今後やりたいと考えたこと。

 1.レーダーフロートの携帯と、それを陸上(船上)に残る人に伝える。
 2.海面着色剤を携帯し、昼間の空からの捜索とサメに備える。
 3.もっと長いシグナルフロートに買い替え波間から確認できるようにする。
 4.温暖な海でもスーツを着用する。
 5.DANへの加入を勧める。
 6.水の携帯。
 7.この経験を伝え、事故防止に役立てたい。
 8.この事故をきっかけに、
  さらに安全にダイビングを楽しませることができるインストラクターになりたい。

1.レーダーフロートの携帯と、それを残る人に伝える。

現在、伊藤さん自らのレーダーフロート携帯率は100%。
伊藤さんのみならず、ダイビング事故関連に詳しい人のほとんどが、
昨今、このレーダーフロートの有効性を強調している。

ただ、陸上で待機する人に伝えることに関しては、
海外では100%伝えているものの、
国内ではいつも利用しているお店に何度か言っている程度。

この違いは、伊藤さんがとある講習会で、
海上保安庁 の海猿指導員と話した内容が関係する。
海猿によれば、日本近海なら(つまり、海保の範囲内なら)、
通常のフロートでもレーダーに小型船程度に反応するのだそうだ。
なので、精度の劣る、あるいはよく事情のわからない海外のみ、
自らレーダーフロートを携帯していることを必ず伝えるようにしている。


2.
海面着色剤を携帯し、昼間の空からの捜索とサメに備える。

海外では必ず携帯するようにしているが国内では携帯しない。
フロートと同様、海外での漂流リスクの方が高いため。

3.もっと長いシグナルフロートに買い替え波間から確認できるようにする。

伊藤さんが強調するのは「フロートにはお金をかけるべき」ということ。
陸上で手に持つと長く見えるフロートも、
波間ではよほど長くないと船からは驚くほど見えない。

実際、漂流時、伊藤さんはガイドの肩に乗って、必死に振って存在をアピールしている。
そういう意味では、手で持って振ることを前提に密閉式のフロートの方がいいという。
下部が開放しているフロートだと給気口を手で塞いで持つ必要があり、
さらにその分短くなるからだ。

ちなみに、伊藤さんは水や水面で使う安全グッズはジッパーポケットにまとめて入れて、
タンクバンドに入れるようにしている。
 

4.温暖な海でもスーツを着用する。

漂流時、高水温ということもあってスーツを着ていなかった伊藤さんが困ったのは、
まずは大量のクラゲ。そして、体温の喪失。
漂流以来、いつ何時でもスーツを着用するようになった。

5.DANへの加入を勧める。

伊藤さんの場合は捜索費用が請求されることはなかったが、
空と海から捜索してもらったことを考えると
「捜索救助費用までカバーしているので絶対に入っておいた方がいい」とのこと。

また、緊急ホットラインについてもミノカサゴに刺された時に電話したところ、
適切なアドバイスで事なきを得たという話を聞き、
捜索救助費用以外にもメリットは大きいと感じたという。

伊藤さん自らがDAN酸素トレーナーでもあり、「今まで以上に勧めて行こうと思います」

6.水の携帯

減圧症予防、もしくは単純な水分補給という観点から
ボートやエントリー口までの携帯率はとても高いが、
漂流対策として近海で持って潜ることはほぼないとのこと。

単純に、ペットボトルはとても邪魔で、漂流との兼ね合いを考えて、
そうしたリスクの高い海のみ、水を携帯して潜りたいとのこと。
「ただ、その際は、かさばるペットボトルではなく、
経口補水液を持っていこうと思っています」。

7.この経験を伝え、事故防止に役立てたい。
8.この事故をきっかけに、さらに安全に
  ダイビングを楽しませることができるインストラクターになりたい

事故後、伊藤さんは、より安全への意識が高まり、テクニカルの考え方を
リクリエーショナルにも多く取り入れた。

テックダイビングと違い、何かあっても浮上できる環境なので厳密には行ないが、
考え方の基本に1/3ルールを採用し、バディ同士のプレダイブチェックをしっかり行ない、
水中でリークチェック(※1)やエアシェアチェック(※2)を採用することもある。
※1 バディ同士でエア漏れ(フロー)チェック(1st、2nd、インフレーター等)
※2 陸上でテストしたものを再チェック、ホースの絡まり等なくスムーズに渡せるか

以上、伊藤さんの今のダイビングを紹介したが、すべてをマネしろというわけではない。
どう生かすかは、読んだダイバー次第。
自ら考え、自ら選択できることがまずは大事だと考える。

この記事が安全ダイビングの一助となることを願い、
最後は伊藤さんの言葉でしめたいと思います。

  安全に対する意識は間違いなく数年前以上になっています。
  インストラクターを認定する立場で、より深く、
  より多く人のインストラクションを観察するようになったり、
  大半をCCRで潜るようになり、
  今までと違った形で安全意識が変わってきたと思います。

  今年も身近でバルブ絡みのアクシデント、インシデントが計2件起こっています。
  ともにバルブを開けずにエントリーし、1件は死亡事故。

  本来バルブを開け忘れても浮力を確保していれば
  そういった事故は起こりえないですし、
  レギユレーターを吸っていれば異常に気が付くはずです。
  私は初心者や中級者を引率する際は、
  「ゲージ見ながら吸ってね。 針が大きく動いていない?」
  「BCDに空気入ってる?」と、うるさいくらい確認します。

  そんな私たちの横を無理に追い抜いて
  エントリーしていったダイバーが転倒し溺水。
  マスクも付けず、レギュレーターもくわえず、
  浮力も確保せず、バルブも空いていなかったようです。
  その方はレスキューダイバーだったそうですが、
  きっと怖さも自分の能力も知らないのでしょう。

  私は自信もありますが怖さもあります。
  99.9%大丈夫! と聞くとすごく安全な気がしますが、
  全体の確率論だけでいうと1,000本ダイバーなら
  いつ事故が起こっても不思議ではありません。
  引率する側なら人数をかけていくと、確率はどんどん上がります。

  また私はエントリー口までや乗船中にCCRで数分間呼吸します。
  これはその数分間で問題を洗い出すこと、
  ダイビング中にトラブルが起こっても原因の特定と
  対策を早めるためにやっています。

  とくにかく、エントリーするまでにトラブル要素を見つけ改善。
  次はいかに安全な水深でトラブルを見つけて処理、もしくは中止。
  そして重大なトラブルが起こった時、
  いかに早く全体に伝えるかが大切だと思っています。

  3.11以降、水中マイクを導入し、津波発生時にリコール
  (水中のダイバーに、エグジットするよう知らせること)を
  かけられるようにしたサービスもある一方、
  たしかグアムのブルーホールだったと思うのですが、
  減圧症の疑いのあるダイバーが水面で待機しているのに、
  水中でダイバーがリコールに気づかず、
  対応が遅れたという話を聞いたことがあります。

  また、私自身も、リコールなしに船が救助活動に行ってしまわれたことがあります。
  浮上途中で、定置ブイが途中で緩くなっているのを見て、
  係留していた船がいなくなったことに気が付きました……。

  私は「ダイビングはルールを守れば安全で楽しいスポーツ」と表現します。
  しかしルールを無視した時には事故が起こりやすく、
  さらに、すべてのダイバーとクルーが、
  事故が起こった時の手順の共通認識を持っていないと
  対応が遅れやすいと思っています。

  そういったルールやリコールについても業界全体でしっかり考え、
  迅速な対応を取れるようにする必要があると思います。

■伊藤祐一さんのホームページ
http://ccr-power.com/

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writer
PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
https://divingman.co.jp/profile/
〇NPOプロジェクトセーフダイブ
http://safedive.or.jp/
〇問い合わせ・連絡先
teraniku@gmail.com

■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
http://safedive.or.jp/journal
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