世界自然遺産登録目前!?沖縄本島北部「やんばる」の海の知られざる魅力に迫る [前編]

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世界自然遺産への再推薦が2019年2月1日に行われ、その登録の可否に注目が集まる沖縄本島北部に位置する「やんばる」。この「やんばる」と呼ばれる地域には多くの希少な動植物が暮らしていることから、“奇跡の森”と呼ばれている。「ヤンバルクイナ」や「ヤンバルテナガコガネ」など、地域名を冠した固有種も生息しているため、「やんばる」という言葉には聞き覚えのある方も多いかもしれない。

では対照的に「やんばるの海」と聞いて、何かイメージが湧くだろうか?実は、沖縄本島北部の名護市に暮らしている僕でも、この夏やんばるの海を初めて潜るまで、そのイメージはほぼゼロだった。

やんばるというのは、広義には沖縄本島北部全体を指しており、名護市はその玄関口とも言われている。一方、世界自然遺産に推薦されているのは国頭村(くにがみそん)、東村(ひがしそん)、大宜味村(おおぎみそん)の3村の一部、つまり狭義のやんばるであり、一般的な「やんばる」のイメージはこちらである。

そして、狭義のやんばるの特徴・魅力は、何といっても豊かな森だ。

沖縄なので当然だが、やんばるの森は海に囲まれている。しかしながら、その海は世界自然遺産の候補地には入っておらず、ダイバーにとっても馴染みがあまりない。いったいそこには、どんな海が広がっているのだろうか?そんな思いを抱きながら、この夏、やんばる3村の中のひとつ「国頭村」の海を初めて潜った。

ここでは、やんばるの海の魅力を前後編に分けて紹介したい。前編の今回は、沖縄本島最北端の辺戸岬周辺に点在するユニークなダイビングポイントを紹介しよう。そこには、他の沖縄のどことも似ていない、唯一無二の景色が広がっていた。

神秘的な光景が広がる水中鍾乳洞

やんばるの海にイメージがわかなくとも、「辺戸岬ドーム」だけは知っている、または聞いたことがあるという方も多いかもしれない。ここは国内でも数少ない、ファンダイビングができる水中鍾乳洞なのだ(正式名称は宜名真海底鍾乳洞)。

僕自身は暗い所が得意でないということもあり(心臓がバクバクしてしまう)、洞窟ポイントのようなところは普段積極的には潜らない。そのため、と言っていいのかは分からないが、これまで水中鍾乳洞に興味を持つこともなかったし、その存在もおぼろげにしか知らなかった。

そんな僕だからこそ言えることがひとつある。

地形好きじゃなくても、カラフルな海が好きでも、この辺戸岬ドームは一度潜って欲しい。これほどまでに神秘的なポイントは、沖縄広しと言えども他にはないだろう。

岸壁近くに船を寄せエントリーし、水深15m付近に広がる鍾乳洞の入り口を目指す。入り口となっている穴は大きく、ここまでは通常の地形ダイビングと変わらない。

洞窟に入り、徐々に狭くなっていく穴を恐る恐る10mほど進んでいくと、そこにはもう真っ暗な世界が広がっている。ガイドさんについて行っているだけだし、何かの調査をするわけでもないのだが、なぜかこのポイントは自分が開拓者になったような不思議な気分にさせてくれる。
(ちなみに、ガイドロープも張ってあるので迷う心配もない…。)

洞窟の壁面をライトで照らしてみて、はっとした。岸壁のごつごつした感じはなく、なんだかヌルっとしている。そう、そこはもう鍾乳洞の中だったのだ。

途中から、鍾乳石も見かけるようになった。少し緊張する。

この水中鍾乳洞は、元々は陸にあったものが海面上昇によって水中に沈んだもの。鍾乳石は、水中では成長しない。つまり、そこにある鍾乳石をうっかり折ってしまったりなどしたら、もうそれっきりで、珊瑚のように復活することはない。そんなことがないよう、普段よりも控えめのフィンキックで、周囲に気をつけながらゆっくりと泳いで行った。

ドキドキしながら洞窟内を進んでいくと、間もなくこのポイントのメインとなるエアドームに到着。少しずつ水深を上げ、水面から顔を出してみる。
なんて厳かな空間なんだろう。風も波もなく、水中と陸上の境界が曖昧に感じられる。僕は、この空間の静けさがたまらなく好きだ。

写真はストロボを使って撮影していることからも分かるように、実際にはドームの中は真っ暗で何も見えない。普段だったら少し怖くなってしまうのだが、ここの闇はなぜだか心地いい。ドームの中には真水も入っているため水温が外の海に比べて低く、そのことも何か心に影響していたのかもしれない。

水中写真家がこんなことを言うのもなんだが、はっきり言ってこのポイントの魅力は写真や文章では伝わり切らない。是非一度、ご自身で潜りに行って欲しい。

群生するイソバナに目を奪われる大物ポイント

潮通しが良く、大物遭遇率も高いポイントである「辺戸岬キャニオン」。水底40m前後のドロップオフを、潮の流れに乗りながらドリフトダイビングで流していく。

取材時、いわゆる大物との遭遇はなかったが、所々に群生しているイソバナが印象的だった。イソバナ自体は珍しいものではないが、ここのはとにかく大きい。そして、それぞれ色や形が少しずつ違っていて、ついつい近寄ってじっくり撮りたくなってしまう。

6月から8月にかけて、計3本「辺戸岬キャニオン」を潜った。おそらく時期も良かったのだろう。たくさんの小魚たちがイソバナに隠れるように暮らしていて、何度撮影しても飽きることがなかった。

特に岩の亀裂にひっそりと咲くイソバナの周辺を、キンメモドキが所狭しと渦巻いている光景は今でも強く印象に残っている。個人的には、大物との遭遇を期待しながらじっくり撮影も楽しめるという、潜っていて一番楽しいポイントだった。今後も継続的に潜って、その魅力を深掘りしていきたい。

他の沖縄本島のポイントとは違うサンゴが群生

「沖縄本島にこんなポイントがあったのか…」。初めて潜った時、そう感じた。

沖縄にはサンゴの群生が綺麗なポイントはたくさんある。そして沖縄で「サンゴ」と言えば、一般的にはエダサンゴやテーブルサンゴなどのハードコーラルだ。

国頭村の別のポイントで撮影。詳細は次回解説。

「茅打ちバンタ」もサンゴが魅力のポイントと言って間違いない。しかしここに群生するのは、潮の流れにゆらゆら揺れているソフトコーラルなのだ。ソフトコーラル自体は沖縄の他のポイントでも見ることはできるが、ここまでの群生を目にしたのは初めてである。

もう10年近く前だろうか。西伊豆大瀬崎の「先端」というポイントで、ソフトコーラルの周りを小魚たちが乱舞している光景に出会った。「この光景をワイドレンズで切り取りたい」と、ソフトコーラルを見てそう思ったのは、その時以来かもしれない。

この記事では辺戸岬周辺の代表的なダイビングポイントを3つ紹介した。どのポイントも基本的にはドリフトダイビングになるので、必要なダイビングスキルは身につけた上で行ってみるといいだろう。

次回、後編ではやんばるの海の全く別の側面を紹介しようと思う。
是非楽しみに待っていてほしい。

取材・撮影協力:Sea Life/Dive Journey/Win Island

上出俊作さん
プロフィール

水中写真家上出俊作氏

2014年、かねてから抱いていた沖縄移住の夢が抑えきれなくなり、製薬会社を退職し沖縄本島に移住。現在は「水中の日常を切り取る」をテーマに、海で暮らす生き物たちの姿を撮り続けている。

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PROFILE
1986年東京都生まれ。
2014年、かねてから抱いていた沖縄移住の夢が抑えられなくなり、沖縄本島の名護市に移住。
「水中の日常を丁寧に切り取る」というテーマで、沖縄を中心に日本各地の水中を撮影。
ブログ「陽だまりかくれんぼ」や写真展などのイベントを通して、水中写真と沖縄の海の魅力を発信し続けている。
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