世界自然遺産登録目前!?沖縄本島北部「やんばる」の海の知られざる魅力に迫る [後編]

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前回の記事では、辺戸岬周辺のユニークなポイントの魅力を紹介した。日本でも数少ない水中鍾乳洞や、ある意味沖縄らしくないソフトコーラルの群生など、意表を突くような内容も多かったように思う。まだ前編をお読みでない方は、ぜひ先にこちらの記事を読んでみて欲しい。

今日紹介するやんばるの海の魅力は、豊かなサンゴである。前回とは打って変わって、「THE沖縄」という直球勝負の内容だ。

沖縄のいたるところでサンゴの群生は観察することができるし、皆さんにもそれぞれ好きな島、好きなポイントがあるかもしれない。僕自身も、石垣島、西表島、水納島、伊江島…など、色々な島でサンゴを撮影してきた。そして、まだまだ行けていない場所、行きたい場所もたくさんある。

ダイバー同士で話していると、ついつい「○○のサンゴが一番綺麗!」なんて話になりがちだが、僕自身はどこが一番という意識はない。それぞれ魅力が違うし、その時の条件にもよるし、そもそもどんなサンゴ礁が好きかは人によっても違う。綺麗ごとを言うようだが、みんなそれぞれ違っていいと思っている。

石垣島 米原ダブルリーフ

僕自身がそんな考え方なので、この記事でも「やんばるのサンゴが1番だ!」と言う気は全くない。しかし、「やんばるのサンゴも一度見てみる価値はある」とは自信を持って言える。というか、それをこの記事で伝えたい。

8月初旬、たった1日だけではあるが、国頭村辺士名(くにがみそんへんとな)周辺のポイントをいくつか回り、サンゴを撮影してきた。ここでは、その日に撮影した写真をご覧いただきながら、僕が感じた「やんばるのサンゴ」の魅力を紹介できればと思う。

人よりでかい!?群生するテーブルサンゴ

SNS全盛の現代、「どこどこのサンゴが凄い」という情報を目にすることも多い。(僕がフォローしているのがダイバーばかりというのもあるが…。)しかし、やんばるのサンゴに関しては、情報をアップしている人があまりいない。

「写真映えするようなサンゴの群生があんまりないのかな…。それとも、潜っている人が少ないだけだろうか?」そんな思いを抱きながら、半信半疑でやんばるのサンゴの撮影に向かった。

僕の不安を最初に吹き飛ばしてくれたのは、テーブルサンゴの群生だ。やんばるのテーブルサンゴは、とにかくでかい。

ここまで育つのに何年かかったんだろう?というサイズの、ダイバーより大きなテーブルサンゴがいたる所で群生している。しかも、広範囲に群生しているので、じっくり撮影していると1本のダイビングでは到底回りきれない。

今回、元々の目的がポスター用の素材撮りだったため、サンゴの密度の濃い場所を選んで撮影したのだが、密度を気にしなければもっと大きなテーブルサンゴもたくさんあった。

「野性味あふれるサンゴだったな。原始の海っていうのはこういう雰囲気なのかな。」

そんなことを考えながらエキジットしようとしていた時、サンゴの塊が目に入った。テーブルサンゴではないが、これも大きい。そしてなんだか巨大バルーンのようで、可愛い。

ガイドを担当してくれたSeaLifeの森さんをだいぶ待たせてしまい、悪いなとは思ったが、ひとまず気にしないことにして撮影に集中した。

パワー溢れるエダサンゴの森

「エダサンゴが綺麗な、ポップなイメージのポイントもある」。そう聞いて、ワクワクしながら次のポイントに向かった。朝一であのテーブルサンゴを見せられた以上、もうワクワクしかない。この時点ですでに、僕の頭の中は「やんばるのサンゴをもっと見てみたい」という思いでいっぱいになっていた。

しかも、エダサンゴである。これは勝手なイメージかもしれないが、沖縄本島周辺のサンゴが群生しているポイントで、エダサンゴばかりというのはあまり見ない気がする。「エダサンゴの群生」と聞いてパッと頭に浮かぶのは、西表島だろうか。

西表島 崎山ノースコーナー

沖縄本島周辺は、様々な形のサンゴが混ざりあっているポイントが多いような印象だ。

伊江島 サンゴモリモリ

ポイントに着くと、丁寧にアンカーをかけて船を停めた。風は弱く、空は薄っすら雲がかかった晴れ。サンゴの撮影には最高のコンディションと言えるだろう。

一分一秒が惜しい気がして、すぐにエントリー。水中に入った途端、キラキラ輝くサンゴの森が目に飛び込んできたあの時の感動は、今もはっきりと覚えている。

「こんな場所が沖縄本島にあったんだ…」、そう思いながら、夢中でシャッターを切った。

少なくとも、僕がこれまで沖縄本島で見てきたサンゴの群生とは、全く雰囲気が違っていた。もちろん色々な種類のミドリイシが群生しているのだが、圧倒的にエダサンゴの割合が多い。

「どこか西表に似ている気もするけど、ちょっと違うかな…」、ついついそんなことを考えてしまったが、本来、どこと似てるかなんてことはどうでもいい。目の前の圧倒的な光景を、そのまま見て感じることの方がずっと重要だ。

お天気も海況も良かったが、潮がまあまあ流れていた。その分撮影は少し苦戦したのだが、サンゴの上をフワフワ流されるのはそれはそれで気持ちよかった。
ガイドの森さんもなんだか気持ちよさそうに見えないだろうか?

エダサンゴが密集している範囲はそれほど広くないので、同じエリアを行ったり来たりして、少しずつアングルを変えながら撮影した。不思議なもので、どれだけシャッターを切っても「これでいいのかな…」と、自分に自信が持てない。被写体のパワーがあって、しかもじっくり撮影できる時ほど、こういう不安がつきまとう気がする。

今回の記事では、ダイビングメディアでもSNSでも情報の少ない、やんばるのサンゴについて紹介した。

原始の海を思わせるような巨大なテーブルサンゴ。楽園を絵に描いたようなエダサンゴの森。

前回紹介した辺戸岬周辺のポイントと同様、辺士名周辺のサンゴポイントも唯一無二という印象を強く受けた。ここでは紹介しきれなかったポイントも、やんばるの海にはまだまだある。

沖縄本島北部が世界自然遺産に登録されれば、このエリアを訪れる人も増えるだろう。静かにやんばるの海を楽しみたいなら、今のうちに潜りに行くのがいいのかもしれない。

開発が進む沖縄本島の中、やんばるにはまだ沖縄の原風景が残っている。数十年前と比べればその景色は変わってしまったのだろうが、それでも僕はそう思いたい。

やんばるの海にどんな光景が広がっているのか、皆さんの目で直接確かめてみてほしい。

取材・撮影協力:Sea Life/Win Island

上出俊作さん
プロフィール

水中写真家上出俊作氏

2014年、かねてから抱いていた沖縄移住の夢が抑えきれなくなり、製薬会社を退職し沖縄本島に移住。現在は「水中の日常を切り取る」をテーマに、海で暮らす生き物たちの姿を撮り続けている。

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writer
PROFILE
1986年東京都生まれ。
2014年、かねてから抱いていた沖縄移住の夢が抑えられなくなり、沖縄本島の名護市に移住。
「水中の日常を丁寧に切り取る」というテーマで、沖縄を中心に日本各地の水中を撮影。
ブログ「陽だまりかくれんぼ」や写真展などのイベントを通して、水中写真と沖縄の海の魅力を発信し続けている。
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