【インタビュー】水中写真家・上出俊作氏の写真展「The Whales Are Coming」6/3より開催、写真集も発表!

(写真/上出俊作)

上出俊作氏の写真展「The Whales Are Coming」が6月3日(火)~14日(土)に東京・銀座、そして7月15日(火)~26日(土)には大阪のキヤノンギャラリーにて開催。また同タイトルの写真集も発売される。沖縄本島と奄美大島で上出氏が撮影してきたザトウクジラの作品が満載の写真展、写真集の見どころや、作品の発表に至るまでの思いを語っていただいた。

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クジラを撮りたいのではなく、「クジラがいる世界」を撮りたい

オーシャナ編集部(以下、――) 6月3日から写真展「The Whales Are Coming」が開催され、写真集も6月1日から発売になるそうですね。まずは、写真展開催と写真集発表までの経緯について教えてください。

上出俊作氏(以下、上出氏)

クジラの撮影は沖縄本島と奄美大島で2018年から始めていて、今年で8年目になります。本当は10年やってから発表しようかと漠然と思っていたんですが、2024年1月に奄美大島に行ったときに、自分のやりたいことがわかったんです。自分はクジラをただ撮りたいんではなく、「クジラのいる世界を撮りたいんだ」と。その後2月に沖縄に帰ってきて、ある場面で親子のクジラの写真を撮ったんですが、そのとき「自分のやりたいことはこれだったな。これはもう発表しよう」って。
ちょうど9月にキヤノンギャラリーで写真展をすることが決まったので、2025年のシーズンは写真展を意識しながら撮影に取り組んでいました。2024年にやりたいことの方向性が決まって、2025年に発表することになったという感じです。

ザトウクジラの母子

ザトウクジラの母子(写真/上出俊作)

――ちょうどベストなタイミングで写真展開催が決まったんですね。

上出氏

メーカーのギャラリーなので、自分の希望だけでは開催は決まらないので、よかったですね。また時期も6月開催にできたので、今シーズンの作品を滑り込ませることができました。あと、この「The Whales Are Coming」というタイトルなんですが、これはある曲からインスピレーションを受けているんです。このエピソードは、初めてお話しするんですが…。

――タイトル、とてもいいですよね。どのような経緯でこのタイトルに決まったのか、気になっていました。どのように決められたんですか?

上出氏

僕は沖縄本島の北部に住んでいるんですが、美ら海水族館の駐車場からは陸からクジラの姿が見られるんです。2024年の1月5日だったかな、「タイミングが合えばクジラを見られたらいいな」と思って行ってみたんです。夕方1時間くらい車を停めて海を見てたんですが。結局見られなくて。1月はまだクジラが少ない時期なので、まあいいかと(笑)。

その時、車で家に帰る途中、ふと頭に浮かんできた曲が、U2 とGREEN DAYがコラボした「The Saints Are Coming」※1という曲だったんです。

――突然、その曲がひらめいたんですね(笑)!

上出氏

20年近く前の曲ですが、学生の頃に好きだったんです。そして頭の中に「The Whales Are Coming」というタイトルが浮かんだんですね。「クジラがやって来る!」って。これはクジラの作品を発表しようと決意する前なんですが、「クジラの写真集を作るならタイトルはコレだ!」って決めてました(笑)。

――内容が決まる前にタイトルが決まっていたとは驚きです。

※1 「The Saints Are Coming」は2006年9月にU2とGREEN DAYが、2005年8月のハリケーン・カトリーナで甚大な被害にあったニューオーリンズのミュージシャンを救うためにチャリティ・シングルとして発売。1978年に発表されたザ・スキッズの曲のカヴァー。

時代や場所を大切にした「クジラのドキュメンタリー」を意識している

――クジラを撮影されている写真家は多いですが、上出さんはほかの方の作品などはあまり意識しないですか?

上出氏

僕はほかのだれかを意識するということは、そんなにありません。ほかの方との対比で言うんだとしたら、この「The Whales Are Coming」というタイトルを付けられる写真家は、僕以外にいるんだろうかってことは思います。僕はナチュラルに「クジラたちが来る」と思ったけれど、沖縄に根を張って、クジラを待って、毎日見続けて撮影している写真家はいないんじゃないかなと思ってます。

――足掛け8年、シーズン中毎日のようにクジラを撮られているって、すごいことだと思います。

上出氏

今回のクジラの作品に関しては「この時代に、この場所で」ということをかなり意識しています。前回の「陽だまり」の作品は、時代性やこの場所だからという意識はあまりなかったんですが、クジラに関しては「今、この場所で」ということを大事にしています。極論を言ってしまえば、「迫力のあるクジラの写真」は、AIでも作れるわけですから、ただ「こんなスゴイのが撮れた」というだけではちょっと違うと思うんです。僕はドキュメンタリー作家という意識はないんですが、クジラの作品に関してはドキュメンタリーなのかもしれません。

クジラの写真は迫力があることも大事ですが、自分がやりたいのはそこじゃなくて、もうちょっと引いた視点で撮ったものも必要かなと。客観的な視点を取り入れて、クジラの現況や課題についても伝えるために、写真集には沖縄美ら島財団の研究者の方に寄稿文を書いていただいています。

ザトウクジラ

マクロレンズで撮影した作品も(写真/上出俊作)

――ザトウクジラの現状については、いろいろな見解があるように思います。上出さんが8年にわたり撮影されてきて、クジラの見られる数や様子などに変化を感じることはありますか?

上出氏

一般的な見解としては、捕鯨が1960年代に世界で禁止されて、1990年頃には大分ザトウクジラの数は復活してきて、そこからホエールウオッチングも発展してきていると言われています。しかし、沖縄や奄美に来ているクジラに関しては、増え続けているとは言い切れません。一部のデータでは増えているように見えるかもしれませんが、本当にどうなのかは僕にはわかりません。

――数的な変化以外に、クジラの撮影をしていて気付かれることなどありますか? もっともクジラはずっと変わることはなくて、観察したり、撮影したりしている人間が変わってきているだけなのかもしれませんが…。

上出氏

まさにそうですね。僕も撮影をしてきて、クジラがだんだん慣れてきているのかなと思ったりしたんすが、多分そういうことではなくて、僕個人だけでなく、クジラに接する人間全体が変わってきているというのがあるかもしれません。クジラから見れば、大勢でウオッチングしに来ることで、“人間の群れ”が大きくなってきていると感じているのかもしれませんね(笑)。

――今後、ホエールスイムなどが規制される流れもあるようですが、そのあたりについてはどのように思いますか?

上出氏

2026年からは、沖縄本島北部地域はホエールスイムが禁止されます。僕は正直、それはそれで良かったと思っています。撮影をしてきた自分の立場からすると残念ですが、この地域を守るためにはやむを得ない判断だと感じています。

「心の距離を軸にしたストーリー」を写真展や写真集から感じていただきたい

――上出さんの8年間の思いの詰まった今回の写真展、写真集の見どころを教えていただけますか?

上出氏

今回は写真集も写真展も、どちらにも同じストーリーが展開されています。写真集ではあとがきである程度の伏線回収をしています。

――どんなストーリーか気になります。

上出氏

ストーリーの軸になっているのは「距離」です。僕とクジラの心の距離、物理的な距離。それがどう変わっていったのかを、4つの段階で表現しています。心が近づいていけばいくほど、距離が遠くなっていく…。最初に「クジラがいる世界を撮りたい」と言いましたが、最終的にはそこに近づいていく感じです。後半に向かって盛り上がっていくというよりは、切なくなるようなストーリーかもしれません。あとは実際に写真展や写真集で作品に触れて、感じ取っていただきたいと思います。

――ますますどんな作品が見られるのか、興味深くなってきました。

上出氏

クジラがドーンと写っている写真ももちろんありますが、クジラが写っていないけれど、気配が感じられるような写真や小さく写している写真も掲載していて、これは撮るのが難しかったですね。しかし、何カットかは作品として成立しているものが撮れました。なんで撮れたかというと、自分の心が動いていたから撮れたのではないかと思います。数は多くないですが、大事な写真です。どこにクジラが写っているか、探してみていただくのも面白いかもしれません(笑)。

船上から撮影したカットにもそれぞれのストーリーが(写真/上出俊作)

――こうしてお話を聞いていると、クジラの写真を撮るのって大変なんだなと思いました。

上出氏

そこまでやろうとしなければ、簡単ですよ(笑)。ただ撮るだけだったら、ライティングも必要ないですし。だからこそ、毎日その場にいて、撮影することが大事なんだと思っています。ザトウクジラを取り巻く環境は年々変化しているので今までと同じように撮影ができるかどうかはわかりませんが、状況を見ながら、これからもいろいろな形でクジラを撮り続けていきたいですね。

最近、ずっと考えているんですが、野生生物にカメラを向けるとき、彼らは“この瞬間”を生きているわけじゃないですか。僕はクジラと向き合っているとき、一番自分が「生きてる」って思えるんです。だから、未来はどうということはあまり考えず、その瞬間を大事にしたいと思っています。

また、多くの日本人が自分が生まれたこの日本で、クジラと海の中で出会えるなんて思って生きてこなかったと思うんです。こういう奇跡のような状況があるってことが、すべてというか。そういうことが表現できたらいいなと思っています。写真展にはふらっと入って来る方が多分たくさんいると思うんですが、今、この時代の日本でこんな場面が見られるのかということに驚いていただけたら、それはそれで嬉しいですね。

――最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いいたします。

上出氏

ぜひ写真展に来てください。キヤノンギャラリーは暗い中に写真が浮かび上がるような展示方法ができて、すごくかっこいいんです。1500㎜×1000㎜のかなり大きなプリントを展示してますので、クジラの迫力も感じられると思います。ほかにも大きめのプリントが結構ありますので、楽しんでいただきたいです。東京では6月6日と7日に、大阪では7月19日にはギャラリートークも行います。6日は写真家の岡田裕介さんがゲストで、この日のみ事前予約が必要になります。
会期中はずっと在廊しているので、ぜひ話しかけてください。クジラの写真は、話を聞きながら見たほうが2倍楽しめると思いますので、質問などあれば遠慮なく声をかけていただければと思います。

写真展開催を間近に控えた上出氏のインタビュー、いかがだっただろうか? ぜひ多くの方に写真展会場へ行って、上出氏が作品に込めたストーリーを感じていただければと思う。また。写真集は会場で購入できるが、オンラインストアでも予約受付中とのこと。こちらもチェック!

上出俊作写真集「The Whales Are Coming」(直筆サイン入り)

沖縄本島在住の写真家、上出俊作が刊行する三年ぶり、二冊目の写真集。
2018年から2025年までに奄美大島、沖縄本島で撮影した、ザトウクジラたちの記録。

発売日:2025年6月1日
(2025年5月27日まで先行予約受付中:先行予約特典 ポストカード2枚付き)
価格:¥6,600 (税込)
判型:A4変形 ハードカバー
頁数:96ページ
印刷・製本:八紘美術
編集:山本晴美
特別寄稿:小林希実
あとがき翻訳:大橋未歩

陽だまりスタジオ Online Store
https://hidamaribook.base.shop/items/96360074

上出俊作 写真展「The Whales Are Coming」

【東京】
■開催期間:2025年6月3日(火)〜14日(土)
■開館時間:10時30分~18時30分(日・月・祝休館)
■会場:キヤノンギャラリー銀座
東京都中央区銀座3-9-7

■アクセス
都営地下鉄 東銀座A7、A8出口より徒歩2分
東銀座駅(日比谷線)A2出口より徒歩3分
銀座駅(銀座線・丸ノ内線・日比谷線)A12出口より徒歩3分
■入場料:無料

★トークイベント
①ギャラリートーク
日時:2025年6月6日(金)19時~20時
ゲスト:岡田裕介さま(写真家)
定員:先着20名
観覧方法:事前予約
申し込みはこちら→https://forum1.canon.jp/public/seminar/view/11719

②ギャラリートーク

日時:2025年6月7日(土)14時~15時
定員:なし 
観覧方法:事前予約不要
※座席の用意なし。希望者多数の場合、入場規制あり

【大阪】

■開催期間:2025年7月15日(火)~26日(土)
■開館時間:10時~18時(日・月・祝休館)
■会場:キヤノンギャラリー大阪
大阪市北区中之島3-2-4 中之島フェスティバルタワー・ウエスト1F

■アクセス
地下鉄四つ橋線「肥後橋」駅、京阪中之島線「渡辺橋」駅直結
地下鉄御堂筋線「淀屋橋」駅徒歩5分
JR東西線「北新地」駅徒歩8分
JR「大阪」駅徒歩11分
■入場料:無料

★トークイベント
③ギャラリートーク
日時:2025年7月19日(土) 14時~15時
定員:なし
観覧方法:事前予約不要
※座席の用意なし。希望者多数の場合、入場規制あり

上出俊作Profile

水中写真家 陽だまりスタジオ代表

1986年東京都出身。大学4年生の冬にダイビングと出会い、卒業後はノボノルディスクファーマ株式会社に営業職として入社。働きながら週末は伊豆、連休は沖縄に通い、ダイビングと水中写真にのめり込む。「沖縄の海の近くに住みたい」という夢が抑えきれなくなり、会社を退職。2014年沖縄本島に移住をする。その後、沖縄県名護市を拠点に水中写真家としての活動を開始。「水中の日常を丁寧に切り取る」というテーマで、沖縄を中心に日本各地の海を撮影し、ダイビングメディアでの執筆活動や写真展等のイベントを通して、水中写真と沖縄の海の魅力を発信し続けている。

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PROFILE
大学時代に慶良間諸島でキャンプを行い、沖縄の海に魅せられる。卒業後、(株)水中造形センター入社。『マリンダイビング』、『海と島の旅』、『マリンフォト』編集部所属。モルディブ、タヒチ、セイシェル、ニューカレドニア、メキシコ、タイ、インドネシア、フィリピン、マレーシア、オーストラリアなどの海と島を取材。独立後はフリーランスの編集者・ライターとして、幅広いジャンルで活動を続けている。
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