初ロケの思ひ出ぽろぽろ
塾の講師に転職した友人が、
デビュー戦を無難に終えてホッとしたというメールが来た。
「最初が肝心だから」と綿密に下準備をし、
リハーサルまでやっていた彼を見て、
「自分のデビュー戦はどんなんだっけ?」と思い返してみる。
そういやとんでもないデビュー戦だった。
結論から言うと、
カメラマンを激怒させ、ついでにタイアップ先まで激怒させ、
ストロボを崖からポロリと海の中へ落っことし、
最後は車を大破させて半ベソかきながら帰ってきたっけ。
我ながらすごいな(笑)。
入社1年目の取材デビューは「伊豆海洋公園・富戸」特集。
そりゃ初体験ともなれば下準備も1週間がかり。
夢だった未知の世界に、ドキドキと緊張し、
純粋にワクワクと胸を躍らせ、真剣に準備をした。
初エッチと同じ
今ではあの手この手でマンネリに刺激を与えるために四苦八苦なのも
エッチと同じ。それにはやっぱりローションが一番手軽で……ゴホン。
そういう話ではない。
話を戻して取材デビュー戦。
すべてが空回りのテラ青年だった。
【カメラマン激怒】
ダイビングサービスの集合写真を撮ろうと、
テラ青年は立ち位置を指示するために右往左往。
カメラマンの目の前を行ったり来たり横切るもんだから、
カメラマンもイライラして「テラちゃん、チラチラ入らないで(怒)」。
さらに、「は〜い、笑ってくださいね〜」とシャッターを押す瞬間に限って
何度もフレームインしてくるもんだから、
しまいにゃカメラマンも激怒。そりゃそうだ。
帰ってきて上がったフィルムを見ると、
めでたくテラ青年の横顔や手がフレームインしたカット満載。
今度は編集長が激怒。
【タイアップ先激怒】
取材前の打ち合わせで編集長から
「『マリンダイビング』ってのは初心者向けの雑誌なんだから、
現地のマニアックなガイディングに引っ張られ過ぎるなよ」
ときつく言われるテラ青年。
「めったに見られないようなハナダイとかじゃなく、
かわいいクマノミとかよく見られるキタマクラだっていいんだぞ」
という編集長の例え話を、
素直な(空っぽともいう)テラ青年は何も考えずに実践。
「今、〜が出ていておもしろいですよ」とか
「たまにはこっちの切り口でどうですか?」と、
ネタをおさえておいてくれたり、
提案をしてくれるガイドさんの気持ちなど考えずに、
「いや、キタマクラ撮りましょう」というテラ青年。そりゃ怒る。
ガイドさんは
「何なんだあの変なのは!
キタマクラ見せろとか言いやがって。変えてくれ!」
と電話で会社にクレーム。正しい行動です。
折り返し会社から電話がかかってきて怒られるテラ青年。
会社は「とりあえず、ガイドさんの言うとおりにガイドしてもらえ!」というので、
そこはやっぱり素直な(空っぽともいう)テラ青年は、
またまた何も考えずに実践。
ガイドさんは水中スクーターを取り出し「ついてこい」と。
言われるがままに水中スクーターで20分。潜降ポイントに到着。
そして、言われるがままに潜降していくと水深53㍍……。
そこには辺り一面にオキノスジエビの大群がびっしり。
「お〜すげー!!!」と感動し、
「そうか、取材とはこういうことか!」と勝手に納得。
しかし、帰ってきて、上がったフィルムを見せると、
「誰も潜らないところ撮ってアホかー! 読者殺す気か〜!!」
とやっぱり編集長が激怒。
【ストロボころり】
カメラマンと別行動のテラ青年。
つり橋が絵になるように現地でカップルをナンパしてモデルをやってもらう。
「いいね〜、いいね〜、表情かわいいね〜」
とインチキ・カメラマンと化してノリノリで撮影しているとフィルム切れ。
フィルム交換をするためにカメラを横に向けた瞬間、
ストロボがポロリと断崖絶壁をコロコロと……。
当然、帰ってきて、
人一倍機材のことには厳しい写真家でもある編集長に
「商売道具、何やっとんじゃ〜!」と激怒される。
ついでに、「何でつり橋の写真、こんなに撮ってるんじゃ〜」。
【車大破】
当時、50軒くらいあったダイビングサービスを全部回って
話を聞こうと張り切るテラ青年。
しかし、てんぱるバカが張り切るとろくなことがない。
サービス取材の時間がなくなってきて焦るテラ青年。
車を止めて地図でサービスの確認をし、
急いでアクセルを踏む。
すると、あろうことかバック!
やばいと思ってさらにアクセルを踏む。すると、さらにバック!
バックギアに入れてアクセル踏むという典型的な失敗。
民家の縁石をぶち倒しつつ乗り上げ、
車の後ろのバンパーやマフラーは大破し、
車の下側もめくれる。
この状態を何と言えばいいのだろうか。半壊?
編集長の鬼の形相が頭に浮かぶテラ青年。
あろうことか即座に思いついたのは「よし。なかったことにしよう」。
ガソリンスタンドに持っていき自費で直して証拠隠滅をしてしまおうとしたが、
「これは、バンパーやマフラー総取替えのレベルですよ……」と言われ、
やっと会社に報告することに。
電話で状況を聞かれると、
この期に及んで、「マフラーとかがちょっと……」と過少報告。
全然、ちょっとじゃない。
たいした事故じゃないと思った会社も「じゃあ、とりあえず乗って帰ってきて」。
車を見たカメラマンは
「これ、本当に乗って大丈夫なの?」と顔を引きつらせる。
「大丈夫、大丈夫」とただ願望を口にしているだけのテラ青年。
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ
車内は、
何かが引きづられる音と小刻みに椅子が震える恐怖のサラウンドシステム。
バックミラーを見ると、
変な液体がチョロチョロと流れ出して車の後にラインを作り、
マフラーはプランプランという、ヴィジュアル的演出まで……。
その後、車内で言葉が交わされることは一度もなかったのでした。
当然、帰ってきて車を見た編集長は、
「どこが軽いんじゃ〜!」&「こんな危ないもんに乗って帰ってきやがって〜!」
と当然過ぎる激怒。
おしまい。
全部真実なのが怖い。入社させた会社に拍手〜〜。
ただ、ある意味、最初に全部失敗したおかげで、
その後何も怖くなくなったので、「最初が肝心」は成功したのかもしれない。
でも、後輩が取材で失敗したときに、
「寺山さんに比べたらマシ」というなぐさめ方は、そろそろやめてほしいです(笑)。
あのころ君は若かった