お上の思惑#2 テックダイバーの姿勢と思考

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現在のレクリエーショナルダイビングは、指導団体が設定したレベルのインストラクター&ダイバーが量産可能なマニュアル化した講習がベース。

このシステムが大きな矛盾なく機能するよう、閉鎖環境への侵入や減圧ダイビングの禁止、深度制限、活動を講習同等の海域・海況に限定する等、様々な制約も設けられており、マニュアルが優れていれば、これは効率的で効果的な考え方だ。

しかし、このマニュアル化では、モノ事のバックボーンを悟らせる事より、標準化された結論を伝える事が重要になる。

結果、受講生は受動的で、「自身で考える」より「提供されたモノを覚え、身に付ける」が基本となりがち。
この教育方針は、白紙のノンダイバーをダイビング活動に誘うには有効だと思う。

一方、テックダイブは活動制限の枠を広げたダイビング。
不確定要素が増え、リスク要因も増加、複雑化する。

結果、活動の難易度は上がり、トラブルの可能性、バリエーションも格段に多くなる。
その対応には、スキル以前に、まず可能性のあるリスクの洗い出しとそれに対する対策が必須であり、水中では常にその時点のみならず先の段階を予想した動きや、早期にトラブルの可能性を予知し、やはりその時点の状況のみならず、その先の展開にも思いを馳せた対応が必要になる。

つまり、テックダイブには、知識や経験に加え、鋭い注意力・思考力・想像力・判断力等が不可欠で、その結果としての、その時々に応じた臨機応変な対応が求められることになる。
こうした活動に対して、マニュアル化は有効だろうか?

テクニカルダイビング

テックダイブの活動テーマ、フィールドは様々。例えばこんな落とし穴のような入り口からハシゴ伝いに水面に降り、そこから何キロも伸びるケイブを潜るよう なケースも。

テクニカルダイビング

こうしたテクニカルダイビングに関して、そこで起こりうる可能性のある諸々の全てをマニュアルだけでカバーすることは難しい。

こうしたパターンの活動を標準化された結論を重視するマニュアルでカバーするのは不可能。
必要なのは、自分がトライするダイビングそのもの、本質部分に対しての理解の追求と、自分自身の能力範囲の客観的な把握、そして進化への意欲&努力だ。
これがテックダイバー的な姿勢、考え方で、これを身に付けることが大切だ。

マニュアル化の前提となる、受動的な姿勢から、自身で考え、常に物事の本質、バックボーンを知ろう、進化しようとする能動的で積極的な姿勢への意識の変革が必要だと私は思う。

よって、テックダイブにレクリエーショナルダイビング同様のマニュアル化を流用するのは難しい。
さらに、現存するマニュアルには説明不足や、紹介される手順が未完結であったり、生存に関しての重要な情報の欠落があったり、さらには執筆者自身が、モノ事の本質を理解していないのでは、と思われるような記載までが揃っている。

例えば器材に関して。器材選択や器材構成にはその正当性・必然性の理解が必要。
なぜなら、器材選択や器材構成が不適切であったり、必然性に対しての理解度が低い状態での使用は、それがリスクの要因となり、また、器材や器材構成がトラブル解決の可能性を左右する要因のひとつともなるからだ。

しかし、例えば、マニュアルにおける器材、器材構成のセクションで語られる内容はほんのおサワリ。
本来テックダイバーが知らなくてはならない器材選択、器材構成のバックボーンに関しては十分にカバーされていない例が多い。

従って、器材はこう選び、こうセットする、というマニュアルの記載に「ハイ」と素直に答えちゃうのは、テックダイバーの姿勢としては×。
この器材を選ぶ理由は? この器材構成の必然性は? という質問やそれに関しての自分なりの回答に思いを馳せるのがテックダイバーの姿勢だ。

バックボーンを知る事無く、マニュアルに書いてある、とか、誰々がそうしているから、というのは、テックダイブにおいては、答えの範疇に入らない。

と前置きして、とりあえず器材に関して、テックダイバー的な考え方を説明するためのとっかかり問題をひとつ。
これは、ライトを使うテックダイバーなら知ってて当然、レクリエーショナルダイバーの中にも、答えが分かる人がいるでしょう、という質問だ。

「テックダイブでは、ライトが重要なサイン用の器材となる。レクリエーショナルダイビングのような音によるサインはほとんど使われない。これには2つの決定的な理由があるのだが、さて、それな何と何でしょう?」

テクニカルダイビング

テックダイブでは、音ではなく、ライトをコミュニケーションツールとして使う場合が非常に多い。もちろん、それには理由があるわけで・・・

長くなったので、答えは次回に。
さらに次回はテックダイブ的な考え方に関して、よりディープなお話を展開していみたい。

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PROFILE
テクニカルダイビング指導団体TDIとサイドマウントの指導団体RAZOR のインストラクター・インストラクタートレーナー。
フルケイブ、レックペネトレーション、トライミックスダイブはいずれもキャリア800ダイブ以上。
-100m以上の3桁ディープダイブも100ダイブ以上、リブリーザーダイブでは1000時間以上のキャリアを持つ等、テクニカルダイビングの各ジャンルでの豊富な活動経験の持ち主。また、公的機関やメーカー、放送業界等からの依頼による特殊環境化での潜水作業にも従事。話題のTV ドラマ『DCU』にもリブリーザー監修として撮影に参加している。

■著書
おタハラ部長のお上手ダイバー養成新書
続・おタハラ部長のお上手ダイバー養成新書
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