台風はダイバーの味方?「水の惑星」地球のしくみ

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ホワイトサンズのプールサイドの奥に広がる青空と雲(撮影:越智隆治)

みなさん、こんにちは!
台風8号、本当に大変でしたね。

「今までに経験したこともないような台風」が日本に襲ってきました。
被害に遭われた方、お見舞い申し上げます。

また、もしかすると夏休みの旅行で沖縄に行くつもりで泣く泣く中止という方もいらしたかもしれませんね。
悔しさ、よくわかります。私も何度か経験していますから。
しかし、台風があるから、日本付近の海も豊かになっているし、珊瑚も正常に成育するので、大きな目で見て許してあげてください。

どうしてお天気は変わるのか

さて、まずはお天気の話の基礎の基礎、「どうしてお天気って変わるの?」というところからお話を始めましょう。
皆さん、こんな風に思ったことはありませんか?

「毎日、いい天気が続くといいのになぁ。雨なんか降らずに、真っ青な空と、風も波もなくまっ平らな水面…」

特にダイバーはそう思いますよね。
でも、もし、本当にそんなことが全世界的にあったら大変です!

風が吹かなくて雨も降らなかったら、赤道はどんどん暑くなり、極(北極や南極)地方はどんどん冷たくなって、地球はとても住めた環境ではなくなってしまいます。

月の太陽に向いた面は、ものすごく暑くて、逆に太陽から隠れた面はものすごく冷たいということは聞いたことがあると思います。

地球には大気があるから、それほどひどくはありませんが、それでも、もしその大気が赤道の熱を極地方に運んでくれなかったら、おそらく人間は生きていられないでしょう。

ためしに、あらためて日向に出てみてください。
この季節日向にちょっと出ると、数分でももう暑くてたまらないでしょう?
あるいは、寒い冬であっても、北風さえ避けられれば、日あたりは意外にぽかぽかです。

つまり、太陽の光というのは、そのくらい強いんです。

逆に言うなら、地上のほとんどの熱エネルギーは太陽によるものと言っても過言ではありません(一部の火山エネルギーや、人工的なエネルギーはありますが)。
そして、これを地球上に広げて、地球上のほとんどの地域を住みやすくしてくれているのが、実は水なのです。

不思議な物体、水

私達の周りに、どこにでもある水。
ダイバーは特に水に親しんでいます。
しかし、水は実はとっても不思議な物体なのです。

水は固体(氷)にも、気体(水蒸気)にもなるし、もちろん液体としての水の状態もあります。
それを「三相」といい、それぞれの相が変わることを「相変化」というのですが、実は、地球上の物体で三相全部に人間が触れることができるものはそう多くはありません。

水と天気

天気を作るのは 水の相変化による太陽エネルギーの輸送。 水は、人間が居られる温度範囲で三相存在する、珍しい物体

例えば、鉄などは熱すると溶けて液体になりますが、とても触れません。
逆に、ガソリンなどは気化しやすいので、気体や液体の状態には触れることができますが、固体は冷たすぎて触れません。

窒素や酸素は液体ですら、無理です。
この三相全部に普通に触れるのが水なのです。

言い換えると、我々が暮らしていける温度の範囲内で、水は固体になったり気体になったりすることが出来る稀有な物質だということです。

そして、水のもう一つの性質として、蒸発して水蒸気になる時に1℃温度が上がる場合の約540倍のエネルギーを吸収します。
もし、蒸発しなければ0℃の水が540℃の「水(実際には起こりえませんが、超高圧にして)」にならないと運べない熱エネルギーということです。

これは、簡単に言えば、(液体としての)水の時には分子がくっついて動き回っていますが、(気体としての)水蒸気になると分子が飛び回るわけで、その分(温度は同じでも)エネルギーが必要になると考えてください。

つまり、25℃の海水面から蒸発した25℃の水蒸気は、同量の海水が26℃になるときの実に540倍ものエネルギーをためこんでいる、いわば、太陽エネルギーの貯蔵庫のような働きをしているのです。

水のエネルギーは雲になって放出される

では、次に、そのエネルギーが放出されるのは、どういうときでしょうか?
それが、雲になる時です。

雲は、水蒸気ではなくて水滴です(氷のこともありますが)。
細かい水滴が上昇気流に乗って落ちてこずに空に浮いているのが雲です。
水蒸気は透明の気体なので目に見えませんが、水滴になると見えるのです。

それでは、雲はどのような時にできるのでしょうか?
これは、主に上昇気流ができた時です。
ある程度以上の水蒸気を含んだ空気が、上昇を始めると上空に行くので気圧が下がって膨らみます。

気体は、暖められたわけでないのに膨らむと、その分、分子が飛び回るエリアが広くなるのでそちらにエネルギーをとられてしまい、気温が下がります(断熱膨張という)。

気温が下がると水蒸気は水蒸気で居られなくなって、水滴になります。
この時に、気温が1℃下がるときの、実に540倍もの熱を放出します。

こうして、赤道付近で温められた海水からのエネルギーは、水蒸気になることで風にのって運ばれ、温帯域やもっと極の方まで運ばれていくのです。

では、上昇気流はどんなところにできるでしょうか。
それは主に次のような場所です。

  • 山(島)の風上側
  • 地上が上空に比べて暖まった時
  • 広範囲にわたって暖かな海水からエネルギーが供給されているとき
  • 温かい空気の塊が、別の冷たい空気の上に乗り上げたとき
  • 冷たい空気の塊が、別の温かな空気の下にもぐりこんで押し上げたとき

これらのうち、前者の二つは、よく見ることがあると思います。

島に行ったとき、風上側だけ雲に覆われているのは見たことがあるでしょう。
あれは「雲が溜まった」のではなくて、「雲がそちら側だけ発生している」のです。

さらに、上昇気流の中で雲が出来ると、熱が放出されます。
水の温度が一度下がる場合に比べて540倍もの熱が放出されるわけです。

もし、十分な量の水蒸気がある場合は、周囲は温められてさらに上昇気流ができ、まだ水になっていなかった水蒸気が水になります。

そしてさらに熱エネルギーが放出されるという繰り返しが起きます。
雲は連鎖反応的に大きくなっていきます。

夏、地上が極端に温められると、入道雲がもくもくとわきおこり、夕立やゲリラ豪雨になることがあります。
これは、地上が温められたせいで積乱雲が発生した例です

この水蒸気を大きな規模で運んでいるのが、低気圧です。
熱帯低気圧は主に南方の暖かい海水面からの水蒸気をエネルギー源として発達します。
強い上昇気流ができる結果、渦を巻きます。
渦を巻き始めると、周囲の水蒸気や熱エネルギーをさらに吸収します。

こうして、熱帯低気圧が発達して、中心付近の風速が17mより強くなった場合、「台風」と定義されます。
ですから、台風は、実は、赤道付近の暖かなエネルギーを温帯付近まで運んできてくれる重要な役割をはたしているのです。

また、温帯低気圧はさらに規模が大きく(よく間違われますが、台風は直径200km~1000km程度、温帯低気圧は直径500km~3000km程度で、温帯低気圧のほうが規模は大きいのです)、温帯の暖かな空気と、亜寒帯の冷たい空気がぶつかり合って互いに混ざり合おうとして上下にもぐりこみあう力がエネルギー源になっています。

ですから、温帯まで来たエネルギーは(非常に大雑把に言うと)、温帯低気圧によって亜寒帯まで運ばれるということです。

「水の惑星」地球のしくみ

地球は「水の惑星」とよく言われます。
実際、海水がなければ、私達はダイビングをすることすらかないません。

しかし、その「水」は、単に美しかったりとか、あるいは、動植物の体内に必要とされるから重要というわけではないのです。

水が「水蒸気」に姿を変えることで、実に大きな役に立っているということがおわかりいただけましたでしょうか?

ですから、ダイビングの機会を奪ってしまい、時にはそれどころではない被害をもたらす台風も、私達が快適に暮らすために重要な、太陽エネルギーの運び手なのです。
私達は、「水の惑星」に生まれてきてよかったですね。

さて、次回は、じゃあ、なんで台風が渦を巻くのかについて、考えてみましょう。
台風だけではなくて、この「渦を巻く」という原理は、およそほとんどの気象現象に関わっている重要なキーなのです。

乞うご期待!
また、同時に、気象予報士に聞いてみたいことがあれば、お気軽にご質問も送ってください。

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PROFILE
日本気象予報士会会員。
国際基督教大学(ICU) 理学科物理卒。
1995 年 よりダイビングを始める。
外見が「熊」なダイバーなので、魚の名前に因んで「くま呑み」を名乗る。

中学の理科の授業で、先生が教卓で雲を作る実験をしてくれたのを見て以来、気象学、天文学、地学に興味を持つ。
ダイビングを始めてからも海と空を眺めるのが好きで、2002年、気象予報士を取得。

ダイビングのスタイルは、「地形派」。
ドロップオフやカバーン、アーチや地層の割れ目などを眺めるのが好き。
特に、頭上のアーチなどをくぐった先で、水面からの光が見える瞬間に萌えてしまう。

ダイビング以外の趣味は、オーガナイズド(組織)・キャンプ、合唱、キャリア
・カウンセリング。
現在は、国際基督教大学にて学生や子ども向けの組織キャンプのディレクターも
努める。
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