レギュレーターホースが水中で破裂してエア漏れ!? ホースの劣化を防ぐ使い方と定期交換のススメ
ダイビングポイントに向かう船の上で「パンッ」と音がしたと思ったら、レギュレーターとタンクを繋ぐホースが破裂していた!という場面に遭遇したことはないだろうか。時々見られる器材トラブルかもしれないが、水中でもしこれが起きていたら…?
今回のテーマはダイビング用ホース。普段何気なく使用しているホースだが、タンクとダイビング器材を繋ぐ、ダイバーの生命線となる大事なパーツの一つ。
でもホースって正直メンテナンスや交換のタイミングがよくわからない…。そもそもどういうものなの?そんな疑問を抱えるダイバーも少なくないはず。
そこで、ダイビングの安全啓発を行う「日本スクーバダイビング協会」の協力を得て、会員であるダイビング器材メーカー「株式会社ビーイズム(以下、ビーイズム)」の営業部の志立健さんと技術開発部の里吉源二さんへ、ホースの基礎知識や、劣化を防ぐ使い方、交換について取材。水中でホースが破裂するとどうなってしまうのかもプールで実演していただきました!
ダイビングに使用するホースとは?
ダイビング用ホースは中圧ホース、高圧ホースの2種類。中圧ホースはレギュレーターのセカンドステージ、オクトパス、インフレーター、ドライスーツに、高圧ホースは残圧計に繋ぐために使用される。素材はゴムと樹脂の2種類に分けられる。
ホースの構造
種類や素材に関わらず、ホースの構造は内管、補強層、外皮の三層構造となっている。
・内管:中の空気が漏れないようにする。ゴムか樹脂でできている。
・補強層:内管が膨らむのを抑えるため、編み上げた細い糸でできている。樹脂製であることがほとんど。
・外皮:補強層の糸が擦り切れないように保護をする。ゴムか樹脂でできている。
中圧ホースと高圧ホースの違い
中圧ホースと高圧ホースは、耐圧性能が異なる。通常使用される時は、中圧ホースは10気圧、高圧ホースは200気圧前後の圧力がかかることが想定されているが、性能としては大体その3〜4倍の圧力に耐えられるように作られている。具体的には補強層が異なる。中圧ホースは糸を荒目に編んであるのに比べ、高圧ホースは密に編まれ、何層も重ねられている。そのため高圧ホースは中圧ホースの20倍の圧力でも耐えられるようになっている。高圧ホースは内径が細いため、耐圧性能が高いからといって残圧計以外にも高圧ホースを使用すると、レギュレーターへの空気の流量が不足してしまうためNGだ。
ゴムホースと樹脂ホースの違い
一般的に、内管と外皮がゴムでできているものをゴムホース、樹脂でできているものを樹脂ホースと呼ぶ。耐油性や耐熱性はゴムの方が高く、樹脂は軽さや衛生面に優れ、紫外線による劣化に強いといわれている。用途に合わせて選ぶのが良いとされているが、レジャーダイビングでは重油の中を潜ったり80度以上の環境下にホースをさらしたりする可能性は低いと考えられるので、樹脂でも耐油性や耐熱性に問題はないといえる。
ホースで見られる二つのトラブル
ホースが原因で起きるトラブルは大きく分けて二つ。「エア漏れ」か「エアの供給が止まる」かのどちらかだ。
ホースのエア漏れ
ホースは経年劣化や強い衝撃により穴が空いて、そこからエアが漏れるケースがある。また、劣化したホースに何度も圧力がかけられることにより、ある日突然破裂することも。今回は破裂してエア漏れするとどうなるのか、実演して見せていただいた。水中でホースを破裂させるのは危険なため、あらかじめ切ったホースを用意し、水中でエアを供給するという手順で実験を行った。
ご覧いただくように、水中で破裂してエア漏れが発生すると、空気が勢いよくそこから出てホースが暴れ回っている。エアがみるみるなくなるだけでなく、暴れるホースにぶつかって怪我をする恐れもある。また、注目して欲しいのが中圧ホースと高圧ホースのエアの出方の違い。中圧ホースの方が勢いよくエアが出ているのがわかる。これは、空気が通る穴の大きさの違いで、中圧ホースの方が大きく、漏れる量も多いためである。
エアの供給ストップ
近年、ホースの内管が劣化により破損し、破損片が詰まりエアの供給がストップする事例も発生している。
ホースの劣化を防ぐには?
ホースは何もしなくても空気中のオゾンに反応するなどして少しずつ経年劣化し、それに紫外線や熱、海水などにさらされることで劣化が促進される。だが、普段の使い方を少し気をつけるだけで劣化を遅らせることもできるのだ。その使い方を理由とともに解説していこう。
使用後はきちんと真水で洗う
海から上がって塩が付着したままだと、ホースについている金具やその隙間からサビが発生しやすくなってしまう。金具はホースが抜けないようにぎゅっと咥えさせているが、サビが進むと隙間ができてエア漏れしたり抜けてしまうことも。ホースガードやインフレーターホースの先のカプラー部分も動かしながら、真水できちんと塩を落としておこう。また、プールで使用した場合も、塩素が劣化の原因になるため、真水で洗うことが大事だ。
日陰に輪っか状にして干す
劣化の一番の原因と言われているのが紫外線。同じ日本国内でも本州に比べ、紫外線の強い沖縄で使用されるホースは劣化のスピードが速いといわれるほど。屋根があるかないかだけでも大きく変わるそうなので、レギュレーターを洗ったら日陰に干しておこう。また、ホースの付け根が折れ曲がらないよう、丸めて干すのが良い。
ホースガードを正しい位置に
ファーストステージとホースを繋ぐ金具の付け根部分は折れ曲がりやすく、折グセがついてしまうことがある。そこからヒビなどの劣化が起きてしまうため、なるべく折れ曲がらないようにすることが大事だ。ホースガードがその役割を果たしているので、ダイビング中だけでなく、干すときやパッキングをする時も、きちんとホースガードが金具の付け根にきているか確認しよう。
風通しの良い冷暗所に平置きして保管する
紫外線を避けるのはもちろんのこと、熱でも劣化は進むため、冷暗所への保管が推奨される。夏場の車内など、温度が極端に上がる場所は絶対にNGだ。また、湿気の多いところでは加水分解やサビに繋がることもあるため、風通しの良い場所が良いとのこと。保管の際も吊るしておくと残圧計やセカンドステージの重みでホースの付け根に負担がかかるため、平置きすることをおすすめする。
信頼できるメーカーのホースを使用する
安心安全なホースを提供するために、日本スクーバダイビング協会の会員をはじめ、ダイビング器材専門メーカーが作るホースはヨーロッパの「EN250」や、 アメリカの「ANSI」といった工業規格に沿って作られている。
中圧ホース:100kgのひっぱりに耐えられるか、5分間30気圧、20秒間100気圧に耐えられるか
高圧ホース:100kgのひっぱりに耐えられるか、最大使用圧力の4倍(200気圧であれば800気圧)に耐えられるか
しかしホースの中には、どこで作られたのかわからないものも売られているのが現実だ。その規格に沿っているかの確認も難しいため、ダイビング器材メーカーのホースを選ぶことが、安全なホース選びに繋がるのだ。
今すぐ交換が必要なホース
今使っているホースを大事に使おう…そう思っていただけたところかとは思うが、もし下記のような兆候があれば、すでに劣化していて破裂や詰まりの危険があるホースなので、すぐに交換をしよう。
ホース表面のしわ、亀裂、ひび割れ、ささくれ
紫外線やオゾンの影響で外皮が劣化している状態。
内部補強材の露出
こちらも外皮の劣化。特に金属との接合部は、ホースが何度も折り曲げられることで切れやすくなってしまう。
かしめ金属部に変形やクラックが見られる
ホースを金属で繋いでいる部分を「かしめ」と呼ぶ。ここが変形したりクラックができたりしている場合は、タンクに強くぶつかったりつぶされたりした可能性がある。
かしめ金属部に緑青や赤錆が見られる
メッキに傷がつき、そこからサビが発生している。通常メッキが付いていればそこまで錆びることはないので、サビが出ているというのは使用年数が長かったり、管理状態が悪かったりすることを表すので、すぐに交換した方が良いだろう。稀にサビが原因でホースから金具が抜けてしまうことも。
継続的な気体漏れが見られる
空気が漏れるということは、内管が傷ついているということ。
ただし、外皮に小さく空いているスパイキングホールという人為的に空けた穴からの微細な空気漏れは正常なので、どこから空気が出ているのか、どれくらいの量が継続的に出ているのか確認しよう。
加圧時(空気を通した時)に膨らみが見られる
補強層が一部弱って破裂寸前となっている、スパイキングホールが正常に空いていないなど不具合の可能性がある。
ネジ溝の摩耗が見られる
オーバーホールを数十回繰り返すなど何度も取り外しをしたり、無理やり締めたりすると摩耗することがある。ネジ部は普段使用する時には動かす部分ではないが、ご自身でメンテナンスをされている方は確認すると良いだろう。
ネジ部に緑青や赤錆が見られる
メッキが薄くなって水没している可能性がある。
使用中に極端な負荷がかかった
エントリー時に船に引っかかって体重がかかった、タンクなど重量物につぶされた、はさまれたなど極端な負荷がかかった場合も破損している可能性がある。
カプラー部分の動きが悪い
塩や砂を落としてもカプラー部分の動きが悪い場合、中が錆びている可能性がある。
折りグセがついている
ホースが折れ曲がった状態や折りグセがついている場合は、内管や補強層も折れて一部に負荷がかかりやすい状態になっているのですぐに交換しよう。
定期交換のすすめ
中圧ホース、高圧ホースはどんなに大事に使っていても、また使用せず保管していたとしても経年劣化は避けられない。そのため、定期的に交換をすることが安心安全なダイビングにつながる。
交換の目安としては、外観からではわからない劣化もあるため、新品の購入から2~5年以内、レンタル品など高い頻度で使用されているものは2年以内での交換が日本スクーバダイビング協会からは推奨されている。しかしメーカーによっては、もっと短い交換時期を定めているところもあるため、購入した際に自分の器材やホースがどこの製品かを把握し、そのメーカーの推奨交換時期を正しく確認しておくことがもっとも重要。危険な兆候が見られるものに関しては、使用年数に関わらずすぐに新品へ交換するべきということも頭に入れておこう。
また、交換は購入した店舗やオーバーホールの専門会社に相談するのが一般的だ。年に1回のレギュレーターのオーバーホールの時にホースの状態も確認してもらうと安心だろう。ホースは工賃を除いてだいたい1本数千円から購入できるそうなので、お財布にも優しく安心だ。
タンクと器材を繋ぐ大事な役割のホース。これを機に今の自分の器材についているホースがいつ購入や交換をしたものなのか、どこのメーカーのものなのか見直してみて、交換や点検を行ってみてはいかがだろうか。大事に使って長く、安全にダイビングが楽しめるようにしたいものですね。
詳細:【PDF】日本スクーバダイビング協会「各種ホースの定期交換について」
Sponsored by 日本スクーバダイビング協会
国内のスクーバ機器製造業者、同輸入・卸売業者などによる工業会組織として1989年に「日本スクーバ協会(Japan Scuba Association:略称 JSA)」として発足。2020年 法人化し「一般社団法人 日本スクーバダイビング協会(Japan Scuba diving Association Inc.:略称 JSA)」と改称。日本で最初のスクーバダイビング専門展示会である“ダイビングフェスティバル”や、ダイビングビジネス専門商談会”Dive Biz Show”開催をはじめ、さまざまな業界振興活動とダイバーの安全性の向上をはかるために各種業界基準の作成や啓蒙活動などを行っています。