ダイビング用タンクが突然破裂する!? 安全なタンクの見極め方を検査現場から知る
初めてダイビングをしたとき、海の景観や生き物にはもちろん、「水中で呼吸ができる」ということに感動しなかっただろうか。水中で呼吸ができない私たち人間にとって、水中に空気を持ち込むためのタンクはとても大事なもの。
一方で、このタンクが私たちの健康を脅かしたり、怪我をさせたりすることがあるという。しかし、タンクは自分で保有せず、ダイビングサービスなどから借りて使う方がほとんどだろう。安全にダイビングを楽しむために、タンクが孕んでいる危険を知り、安全なものかどうかをどうやって見極めていったらいいのか。「日本スクーバダイビング協会」会員である日本アクアラング株式会社(以下、アクアラング)の検査現場からお伝えしていこう。
ダイビング用のタンクとは?
ダイバーが使用するタンクとは、水中での呼吸に必要な空気が圧縮・充填された容器のことを指す。日本国内ではスチール製とアルミニウム製の容器が一般的で、シリンダーと呼ばれることも。ダイビング時にはレギュレーターを取り付けて圧力を下げ、呼吸ができる仕組みになっている。
何気なく使用しているタンクが実は危険かもしれない
ダイビングには欠かせないこのタンクだが、過去に痛ましい事故の原因となったことも。
徳島県阿南市で、充填中のタンクが破裂し、店に客としてきていた阿南市の男性が頭などに怪我をして意識不明の重体に。警察の調べによると、男性は自分で2本のタンクに充填していたところ1本が突然、破裂したそう。
2011年1月23日 サバニ漁船船上でのタンク破裂事故
事故者が乗り組むサバニ漁船、他4隻で午前7時頃に港を出港し、スクーバ器材を使用した追い込み漁を行っていた。その際に同船の船上でタンクに空気を充填していたところ、充てん中のタンクの底が破裂した。破裂したタンクの破片等により、1名が上唇の裂傷、右足骨折および左足裂傷を負ったが、生命に別状はなかった。破裂の衝撃で船底も破壊された。
事故事例を見ると、タンクが破裂し、飛び散った破片による怪我がほとんどだ。では実際に破裂するとタンクはどのようになってしまうのか、アクアラング官公庁事業部の力石心さんに新品の小型タンクで実演して見せていただいた。
※2:45あたりで破裂
新品のタンクですら破裂すると衝撃音とともに大きな亀裂ができてしまうことがわかる。実験用に水で圧力をかけたことと新品で素材に劣化がないために破片は飛び散っていないが、これがもし空気で、自分の背中で破裂が起きたらと思うとぞっとしないだろうか。
ではどうしてタンクが破裂してしまうのか。原因はタンクのサビやヒビ、また素材の見えない劣化だ。タンクは通常、充填の圧力に十分耐えうる強さに作られているが、錆びて肉薄になった部分やヒビの入った部分はその負荷に耐えられず、割れてしまう恐れがあるのだ。さらにサビはタンク内の空気に混ざって吸引すると、健康被害につながる可能性も否定できないという。
タンクのサビやヒビは保守管理で防げる
タンクの危険性について言及してきたが、実際は保守管理がきちんとされていれば、サビやヒビは防ぐことができる。たとえば、雨を凌げる乾燥した冷暗所に、空気を詰めた状態で保管されていれば問題はないと言えるだろう。なぜなら、高温多湿な場所に容器を長時間放置すると外面が錆び、タンクを空のまま放置すると空気中の水分がバルブを通して中に入り、内面のサビにつながってしまうためだ。
また、5年に一度の容器再検査(耐圧検査)と1年ごとのネジ部の検査(アルミ製のみ)が法律で義務付けられており、その検査をクリアしているかどうかも大事だ。耐圧検査では圧力に耐えうるかだけでなく、内面や肉厚もチェックされる。この検査をクリアしたタンクでなければ空気を充填すること自体が違法行為となってしまうのだ。
耐圧検査で確認されている項目を詳しく見ていこう。
耐圧検査の項目①タンクの外観
外観検査では、容器に膨らみや反り、大きなサビや傷、割れがないかを確認する。ダイバー自身でも確認できる部分だが、検査所ではスケールと呼ばれる定規のようなものを側面に当てて、反りがないかを確認することも。
サビや割れが発見された場合、検査不合格となる可能性がある。
耐圧検査の項目②タンクの内面
タンクの内面はライトと歯科医で使われるインスペクションミラー、内視鏡カメラを使ってサビや割れがないかチェックする。
アルミ製のみに義務付けられた1年に1回のネジ部の検査でも、同様にネジ部の内側を見ていく。アルミはその素材の特性上、ネジ部に「クラック」と呼ばれるヒビが発生する場合がある。日本でも2000年6月に沖縄県にて充填中の容器がクラックを原因として破裂した事例も。
普段目に見えないタンクの内部。検査をクリアするものとそうでないものを比較すると、その違いは一目瞭然だ。
耐圧検査の項目③タンクの肉厚(浸食の深さ)
錆びていなくても、経年劣化や切り傷・摩耗でタンクの厚さも徐々に薄くなっていく場合がある。そのため肉厚も検査対象となっている。検査は超音波肉厚測定器や傷の深さを測るデプスゲージを使って行われる。容器の規格ごとに定められている基準を下回ると不合格となる。
耐圧検査の項目④タンクの耐圧
外観と内部の検査に合格したら、タンクに圧力をかけて、耐圧検査を実施する。普段使用するときにかけて良い圧力の、3分の5倍の圧力をかけて容器を膨らませたあと、水を抜いて元の圧力に戻し、膨張と収縮の差を測る。10%以内に収まれば耐圧検査は合格となる。検査は専用の装置を使い、空気ではなくタンクの外側と内側に水を充填して、外側から出た水の量で判断する仕組みだ。
この耐圧検査はタンクを保有する個人、事業者は必ず受けなければならないものなので、ほとんどのダイビングサービスではこの検査をクリアしたタンクが提供されているだろう。しかし、ごく稀に検査を受けていないタンクが紛れていることもあるので、ダイバー自身で潜る前に確認することが大事だろう。
安全なタンクを選ぶには?
正しく保守管理、検査がされているタンクの見極め方
では、タンクを借りて潜ることが一般的なダイバーは、安全なタンクをどのように見極めていったらいいのだろうか。潜る前に確認すべき項目を力石さんに教えていただいた。
①タンク外側が錆びていないか
サビは破裂の原因の一つ。また、タンクの外側が錆びているということは、高温多湿な場所に保管されていたり、塩水がついたまま放置されていたりした可能性がある。つまり管理状態が良い状態とは言えず、内部も錆びているかもしれない。
②タンク外側のタンクブーツ接触部が帯状に錆びていないか
タンクとタンクブーツの溝には水分が溜まりやすく、サビが起きやすいため、要注意。
③タンクの外側に大きなキズやへこみがないか
見るからにわかるキズに加え、タンクを触ってみて凹凸がないかも確認しよう。
④タンクの検査期限が切れていないか
耐圧検査を受けたタンクには必ず検査を受けた月と年が刻印されている。写真にあるように「2-20」と刻印されていれば、2020年の2月に検査を受けたということ。使用する日からさかのぼって、5年以内に検査を受けていないようであれば、そのタンクの使用はやめよう。
⑤アルミタンクについては毎年のネジ部目視検査がなされているか
アルミタンクは年に一度のネジ部検査が義務付けられており、その検査をクリアしたものにも刻印がされている。通常の耐圧検査でされる刻印のように、検査した月と年に加え、「Short」を意味する「S」の文字も同時に刻印されているので、この表記が使用する日から1年以内か確かめよう。
⑥バルブのハンドルが軽く回り、不自然な動きをしないか
ハンドルがスムーズに動かない場合、ハンドルの内部も錆びたり変形したりしている可能性がある。
また、バルブなど付属品も耐圧検査時に不具合がないか検査されており、クリアしたものには刻印があるのでこちらもチェックしよう。
⑦バルブのOリングに劣化や変形がないか
Oリングにキズやささくれがあるとエア漏れの原因となる。
以上の7項目は、日本スクーバダイビング協会からも必ずチェックすべき項目として発信されている。
ダイバーにとって必要不可欠なタンク。潜る前にきちんとチェックし、安全にダイビングを楽しんでいただけたら幸いだ。タンクを提供する事業者側も、保守管理や耐圧検査を続けて、安全に潜れる環境をこれからも提供し続けて欲しい。
詳細:日本スクーバダイビング協会「スクーバ容器の取扱いについて」
Sponsored by 日本スクーバダイビング協会
国内のスクーバ機器製造業者、同輸入・卸売業者などによる工業会組織として1989年に「日本スクーバ協会(Japan Scuba Association:略称 JSA)」として発足。2020年 法人化し「一般社団法人 日本スクーバダイビング協会(Japan Scuba diving Association Inc.:略称 JSA)」と改称。日本で最初のスクーバダイビング専門展示会である“ダイビングフェスティバル”や、ダイビングビジネス専門商談会”Dive Biz Show”開催をはじめ、さまざまな業界振興活動とダイバーの安全性の向上をはかるために各種業界基準の作成や啓蒙活動などを行っています。