ドライスーツの故障原因No.1は?正しい使い方や注意点を定期点検の現場からお伝え
水温が下がり始め、そろそろドライスーツへ衣替えを考えているダイバーのみなさま、久しぶりに使うそのドライスーツ、不具合はありませんか?
久しぶりに潜ったら穴が空いていて水没した…なんてことが起きないよう、どんな故障が多いのか、普段気をつけられることはないのか、ダイバーの安全性向上を図り日々活動を行う「日本スクーバダイビング協会」へ取材を敢行。会員のスーツメーカー各社ではスーツの製造販売に加え、購入後の定期点検も受けており、日々スーツの故障と向き合っている。そこで会員であるスーツメーカー・株式会社ゼロ(以下、ゼロ)木更津工場を訪れ、小林さんと名和さんに聞いてきました!
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左:所長 小林一幸さん 右:製造部課長 名和大輔さん
ドライスーツのよくある故障
原因と普段気をつけられることは?
年間数百着のドライスーツを点検しているというゼロ。受け取るドライスーツの中でも、よく見かける故障とその原因について教えていただいた。
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ドライスーツのよくある故障①ピンホール
ピンホールは目に見えないほどの小さな穴のこと。岩など鋭利なものにぶつかったり、ウニの棘が刺さったりすることで発生する。中性浮力を保ってダイビングをすることはもちろん、普段以上にウニなどに触れないよう気をつけよう。
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意外にも原因として多いのが胸の給気バルブのノズル。ノズルが剥き出しのまま折り畳むと、生地を擦ってしまうのだ。そのため、保管の際にはきちんとキャップを閉めることが大事だ。
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ドライスーツのよくある故障②ネックシール・リストシールの破れ
首と手首部分のシールの破れもよくある故障の一つ。着脱の時に引っ張ったり、爪を立てたりしてしまうと破れやすいので注意しよう。また、着脱に注意していても経年劣化で生地が薄くなることも。ドライスーツの主な素材であるゴム全般に言えることだが、皮脂や紫外線などが原因でどうしても劣化してしまうのだ。使わないほうが劣化しないのかというとむしろ逆で、しばらく放置した輪ゴムがすぐに切れてしまうのと同様に、固まって劣化が進んでしまう。
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左が劣化が進んで薄くなってしまったシール
なるべく劣化を防ぐためには使用後にきちんと水洗いをし、裏返して陰干しし、完全に乾いてから、湿気や太陽光を防げる場所で保管するのが理想的だ。
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ドライスーツのよくある故障③ファスナーの折れ・破損
ファスナー部分の故障でもっとも深刻なのが、金属製ファスナーの折れ。着脱時や運搬、保管の際に折れてしまい、浸水につながるケースが多発している。
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ファスナーを中途半端に開閉して無理やり着脱したり、強い力を加えたりすることは避けよう。保管の際は折りたたまず、ファスナーを閉めた状態でハンガーにかけよう。配送のために梱包が必要な時などは、ファスナーを開けた状態で畳むことで、運搬中の衝撃によるファスナーの折れを防ぐことができる。
また、樹脂製のファスナーについてはエレメント部分の欠けや傾きといった破損に注意。ファスナーがたわんだ状態でスライダーを移動させると破損リスクが高まるので、真っ直ぐ伸ばして開閉を行おう。
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ドライスーツのよくある故障④ファスナーのサビ
ドライスーツのファスナーが開閉しづらくなってはいないだろうか?故障とまでは言えないかもしれないが、ファスナーが硬くなりサビが増えてくると、浸水の原因となる。
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ファスナーのサビを防ぐには、きちんと水洗いして乾かすことはもちろん、専用のワックスをお手入れ時に塗り込んでおくことが大事だ。金属製であればこまめにファスナー全体に、樹脂製であればファスナーを閉じる最終地点の部分の動きが悪くなったと感じたらその部分に塗ろう。
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金属ファスナーは全体に
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樹脂ファスナーは終着点に
ドライスーツのよくある故障⑤ファスナーの加水分解
棚の奥にしまっていた靴を久しぶりに履こうとしたら、ソールがボロッと取れてしまったということはないだろうか。水分や空気中の湿気を吸って素材がボロボロになってしまう「加水分解」という現象が、ドライスーツのファスナー部分でも起きている。
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加水分解が進んで切れてしまった
加水分解は金属ファスナーよりも樹脂ファスナーのほうが起きやすいとされているが、いずれもきれいにして、完全に乾かした状態で、湿気の少ない場所で保管することで劣化を防ぐことができる。
ドライスーツのよくある故障⑥バルブの塩噛み
バルブ部分の塩噛みもよくある故障。海水が乾いて塩が付着し、ボタンが動かなくなってしまったり、誤作動してしまったりする。
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ボタンが押された状態で動かなくなってしまっている
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分解すると中身のパーツが塩で錆びてしまっている
こちらも使用後に真水でしっかり洗うことが大事。ただし、浸けおきしてしまうと乾かすのが大変なので、洗い流すのみでOKだ。
ファスナーへシリコンスプレーをかける
ファスナーの動きが悪くなった時に潤滑剤としてよく使用されるシリコンスプレー。これらには有機溶剤が含まれていることがあり、ファスナーやその周りの素材を劣化させてしまうのだ。
ピンホールや破れを市販の補修用ボンドで塞ぐ
小さな破れならば自分で対処したいと考え、補修用ボンドなどで修理をする方も少なくないだろう。しかし、メーカーに点検や修理に出した際に、その部分はくりぬいて修理しなければならず、結果的に高くついてしまうのだ。突然空いてしまった穴に対して応急処置をしたいという気持ちもわかるが、応急処置にならないように、日頃からチェックしたり定期点検に出したりすることが大事だ。
即実践!ドライスーツを長持ちさせる使用方法
よくある故障の原因と対策について言及してきたが、正しく使用することが長持ちさせる近道。
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着脱を見せてくれた名和さん
いま一度正しい「使用前のチェック」、「着脱」、「保管」の方法についても教えていただいたので、おさらいしていこう。
ドライスーツ使用前のチェック
①ネックシール・リストシールの状態
破れがないかチェック。また、シワが多いものは、生地が薄くなって破れやすい状態なので交換を検討しよう。
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②ファスナーの開閉
スムーズに動くか。動かない場合は折れや欠損がないか確認しよう。
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③バルブの動作
ボタンがきちんと押せるか。固かったり動かなかったりする場合は塩噛みしているかもしれないので、メーカーへ修理に出そう。
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④ブーツのすり減り
ブーツも自分でチェックしやすい箇所のひとつ。ソールがすり減っていないか確認しよう。
久しぶりにドライスーツを使用する場合、潜りに行く3〜4週間前に状態をチェックしよう。そうすれば、何か不具合が見つかってもメーカーに修理に出して、潜りに行くタイミングには間に合わせることができる。チェックは早いに越したことはないので、早め早めに確認を。
ドライスーツの正しい着方
①膝のあたりまでドライスーツを裏返す。
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②足を通す。サスペンダーを足の間に入れてしまわないよう注意。
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③リストシールに指をいれ、しっかり広げて腕を通す。バディがいる場合はバディに広げてもらおう。爪を立てないように注意。
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④頭を通す時は親指でネックシール部分を大きく広げる。
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⑤水没を防ぐためネックシールを内側に織り込む際も、破れやすいので爪を立てないようにしよう。
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⑥ファスナーを閉める。たわんだりインナーが噛んだりした状態で無理矢理閉めないよう注意。
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☆バックファスナーの場合の注意点
バックファスナーはバディに閉めてもらい、最後に自分でも引っ張ってきちんと閉まっていることを確認しよう。
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ドライスーツの正しい脱ぎ方
①ファスナーを開ける。もしくはバディに開けてもらう。閉める時と同様、たわみや噛みに注意。開ける前に真水で塩を落とすのを忘れずに!
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②ネックシールを外側に折り込み、前部分を大きく広げて頭から脱ぐ。フロントファスナーの場合は頭を真っ直ぐにして真上にシール部を引き上げるイメージだ。
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フロントファスナーならバディに首の後ろを広げてもらうとなお良し。
☆バックファスナーの場合の注意点
バックファスナーの場合は頭を前傾させ、前方ななめ上にシール部を引っ張り、頭を抜くイメージ。
③腕を抜くときも着る時と同様に、リストシールを大きく広げて抜く。バディに手伝ってもらう場合は、両手を使って広げてもらい、前から見て三角形になるように広げるのがコツ。
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④着た時のように、膝までひっくり返して足を抜く。
ドライスーツの正しい保管方法
①完全に乾いた状態で、紫外線の当たらない風通しの良い場所に保管する。
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②肩まであるハンガーにかける。
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肩のところまでない場合、そこで生地が折れ曲がり、そこから劣化しやすくなってしまう。
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左の肩部分が折れ曲がっている
③ブーツ部分が地面に着く場所にかける。足が浮いていると肩にテンションがかかり、その部分から薄くなったり破れやすくなったりする。
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足がつかないのはNG
④ネックシールやリストシールも負担がかからないよう、折り込まないようにする。
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ネックシールが中に巻き込まれているのもNG
⑤ファスナーが開いた状態も型崩れが起きやすくなるため、きちんとファスナーを閉めて保管しよう。
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開けっぱなしはNG
メーカーの定期点検で細かく状態をチェック
正しく使用しチェックをしていても、経年劣化は起こるもの。故障が起きてしまう前に、定期点検に出して、いざダイビングにいったら浸水してしまったということがないようにすることが大事だ。今回は特別にゼロでの点検の様子も見せていただいたのでご紹介しよう。
外観検査
ドライスーツが到着したら、点検のプロがすみずみまで不具合がないかチェック。
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外観検査が済んだらドライスーツを裏返して気密検査へ。
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気密検査
ピンホールなど目に見えない穴や破れを確認するのがこの検査。ゼロでは専用のルームで、一着ずつこの作業を行っている。
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裏返したドライスーツのリストとネック部分を密閉し…
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空気を注入しパンパンにする。
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空気でパンパン
このとき、穴が空いていると少しずつ空気が漏れてしぼんでいくのだが、この状態ではどこにピンホールがあるかを特定するのは難しい。そこで使用するのが専用洗剤。ドライスーツ全体を濡らし、洗剤をブラシで塗っていく。
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すると、穴が空いている箇所に泡が立つ。
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今回取材のためにわざと穴をあけていただいたのだが、図らずも違う箇所にピンホールが見つかった。
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目印をつける
ちなみに、補修した箇所はこんな感じ。
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点検が終了したら、きれいに洗剤を水で流して乾燥させる。
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メーカーによって水に沈めるなど気密点検のやり方に多少違いはあるが、自分たちでは見つけられない不具合を早めに見つけて補修してくれるので、安全なダイビングのためにも定期点検は必須だ。
点検のタイミングは100本に1回、50本に1回など推奨内容はメーカーによって差異があるが、基本的には1年に1回は販売店を通して点検に出すことをおすすめする。購入時に、そのお店に出し方やタイミングを確認しておくのがベストだろう。
①乾いた状態で送る
濡れたまま送るとスーツの加水分解が進む上、臭いも大変なことに…。
②ファスナーを開けておく
ファスナーを閉めた状態で畳んで送ると、少しの衝撃でファスナーが折れやすくなってしまう
今回教えていただいた内容は基本的な内容となるが、お持ちのドライスーツの種類によっては迷う点も出てくるだろう。そんな時は改めてメーカーのサイトや取扱説明書などを見ることをおすすめする。
ドライスーツを使用する機会が増えるこれからの時期。ぜひ日頃から正しい使い方やチェック、定期点検を実践し、寒い時期も安全にダイビングを楽しんでいただけたら幸いだ。
Sponsored by 日本スクーバダイビング協会
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国内のスクーバ機器製造業者、同輸入・卸売業者などによる工業会組織として1989年に「日本スクーバ協会(Japan Scuba Association:略称 JSA)」として発足。2020年 法人化し「一般社団法人 日本スクーバダイビング協会(Japan Scuba diving Association Inc.:略称 JSA)」と改称。日本で最初のスクーバダイビング専門展示会である“ダイビングフェスティバル”や、ダイビングビジネス専門商談会”Dive Biz Show”開催をはじめ、さまざまな業界振興活動とダイバーの安全性の向上をはかるために各種業界基準の作成や啓蒙活動などを行っています。