バディダイビングの心得「名ばかりバディ」を卒業しよう!

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みなさんは、いつも決まったバディと一緒に潜っていますか?1人でツアーに参加し、その場でバディとなったダイバーと一緒に潜ることも多くないでしょうか。「バディ」の価値を再確認し、命を預ける仲間として、ダイビングを楽しんでいただきたいと思います。「名ばかりバディ」を卒業し、バディと本当の「チーム」になるために、1人1人のダイバーが気をつけるポイントをまとめました。
監修=矢部拡 イラスト=田端重彦

Profile矢部拡氏

DAN JAPANトレーニングディレクター。都市型ダイビングショップ店長、専門学校講師として日々ダイビングの楽しみをダイバーに伝えつつ、ダイビングの安全性向上のための活動をしている。PADIコースディレクター

※本記事はDAN JAPANが発行する会報誌「Alert Diver」2019年5月号からの転載です。

「バディ」とは?

「バディ」という言葉は何を示しているのでしょうか?ダイビングの安全性を高めるシステムとして、楽しみを共有する仲間として「バディシステム」を有効利用しましょう。

2名1組のチーム「バディ」で行う

多くのダイバーは、「バディ」という言葉をエントリーレベルのトレーニングを受けるとき、初めて聞いたのではないでしょうか。日本語に訳しにくい言葉ですが、英語の「buddy」の意味を辞書で調べると、「仲間・相棒」「2人組の1人」というような意味があります。ダイビングでは、2名(もしくは3名)のダイバーで1組のチームとなり、お互いの安全を確認するシステムをとります。それを「バディシステム」と呼び、それぞれの相手を「バディ」と呼びます。

レジャーダイビングは、水中という環境下で、器材に命を預けて環境を楽しむ遊びです。ダイナミックな地形や風景、浮遊感、極彩色の生命、自身より大きな生物や群れを成して泳ぐ魚など、地上では得ることができないすばらしい体験をダイバーにもたらします。

しかし、その反面、適切な安全管理を怠ると、事故が発生する可能性もあります。ダイビングでは多くのトラブルが発生しますが、それらは、事前の点検や準備、そして、バディシステムによって、トラブルから事故に移行することを防ぐことが可能です。そして、事故防止にはバディとの事前、及び水中でのコミュニケーションが極めて重要です。

バディはどうやって決まる?

一緒にダイビングをするチームの中には、体力、メンタル、トレーニングレベル、経験値などが異なるさまざまなレベルのダイバーが含まれます。ダイバーの経験値は、自然界の環境や潜る頻度などによって大きく異なり、体力やメンタルなどの状況も加味されます。このため、ほかの人とまったく「同じ」経験値・レベルを持つダイバーはいないと考えられます。

チームリーダーとなるダイバー(多くの場合はガイドやインストラクター)は、海況や水中環境、スキルレベル、人間関係などを総合的に判断し、バディチームを組みます。このとき、初めて一緒に潜るダイバーがバディとなった場合には、身近で助け合うためにも、情報交換の重要性が高まります。より安全にダイビングを楽しむためにはこのバディシステムを活用しなければいけません。

正しくバディダイビングを行うための心得を、「ダイビング前」と「ダイビング中」のシーンに分けて説明していきます。

バディチェックリスト

ダイビング前
□トレーニングレベル・経験本数は?
□前回はいつダイビングした?
□ダイビング中に気になることはある?
□ダイビングスタイルは?
□どんなハンドシグナルを使ってる?
□水中の位置関係は?
□水中でロストしたらどうする?
□バックアップ空気源はどんなタイプでどこにある?

ダイビング中
□水深を確認する
□残圧確認する
□減圧不要限界(NDLs)に注意
□バディの様子を確認する

自分のバディをよく知ろう

初めてバディとなるダイバーの場合、まずはバディにどのようなスキルがあって、どんなダイビングを希望するのか確認しましょう。


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トレーニングレベル、経験本数は?

トレーニングレベルは、単なる目安でしかありません。しかし、ダイバーの知識やスキル、経験をある程度推測することができます。トレーニングレベルと経験本数の情報は重要です。

前回のダイビングはいつ?

どれだけ本数を潜っていても、ダイビングから数年間遠ざかっている場合には、手順を忘れていたり、勘やコツを忘れていたりする場合もあります。現に、DANで編纂している「DAN Annual Report」では、ダイビングツアー初日の1本目に事故が発生する確率が突出しています。

気になることはある?

多くの場合、気になることは言い出しにくいものです。しかし、お互いに助け合う存在のバディには、知っていてもらうべき情報です。「エアの消費が早い傾向があります」「ダイビングの最後に浮きがちで……」「耳抜きしにくい」など、もしバディから聞かれなくても積極的に伝えるようにしましょう。結果、伝える必要がなかったという状況になるかもしれませんが、バディが知っていると思うだけでも安心感が増します。

ダイビングスタイルは?

ダイビングスタイルは、ダイバーによって大きく異なります。写真撮影ダイバー、地形派ダイバー、中層派ダイバーなど、バディがどのようなスタイルを好むのかお互いに伝え合いましょう。特にウミウシやダンゴウオなどマクロ生物を好むダイバーは、小さな生物に集中することが多いため、バディ同士の連携が必要です。

器材装着・エントリーは助け合おう

ボートやビーチでダイビング器材を装着するとき、マスクの中に髪の毛が入っていたり、インフレーターがBCに巻き込まれていたり、ウエイトをつけ忘れていたり、ドライスーツのインフレーターホースが外れていたりなど、ダイバーが自分自身で気づかないこともあります。潜る前にお互いの器材装着を手伝い、エントリーの際にも協力しましょう。体力的にも安全性の向上にも、さらには安心感からメンタル的にも良い影響ばかりです。


水中の手順を確認しよう

バディの情報を確認したら、ハンドシグナルやトラブルが発生した際の手順も確認しましょう。チームのトラブル対応能力の向上に役立ちます。


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どんなハンドシグナルを使ってる?

特に「トラブル発生」「エア切れ」「エアをください」などのシグナルは、トラブルを伝えるのに必要不可欠ですが、シグナルはダイビングをする国や指導団体で異なる場合があります。以前、バディチームで「エア切れ」のサインが共有されていなかったために、急浮上するしかなく、動脈ガス塞栓症を発症したケースがありました。めったに使わないからこそ、事前に確認しておくことが重要です。

水中の位置関係は?

バディチームが水中でバラバラ……。これでは、助け合うことも難しくなってしまいます。ダイビングでは上下、前後、左右などさまざまな寄り添い方がありますが、どのくらいの距離を目安にして行動を共にするか、陸上で確認しておきましょう。

水中でロストしたらどうする?

多くの場合には、緊急の対応方法として事前にブリーフィングで指示が出されます。しかし、もし、ブリーフィングで指示がなかった場合には、バディとはぐれてしまった時の対処法を事前に相談しておきましょう。透明度(透視度)が低い水中環境や、強いカレントが予想される状況ではダイビングチームを見失う可能性が増えるため、重要性はより高まります。

バックアップ空気源はどんなタイプでどこにある?

ダイビングにおいて、もっとも致命的なトラブルのひとつはエア切れです。エア切れはパニックや急浮上を引き起こし、潜水障害の引き金(トリガー)となる可能性を秘めています。バディシステムがきちんと機能していれば、エア切れに冷静に対処し、事故を回避することが可能となります。

エア切れの対処方法はいくつかありますが、多くの場合、バックアップ空気源(オクトパスやポニーボトルなど)を使用するのが一般的です。バディのバックアップ空気源がどのようなタイプで、どこにあるか、実際に器材を目で見て(可能であれば実際に呼吸してみて)確認しておきましょう。

バディシステムを守ろう

事前の確認が終わったら、いざエントリー。ここでもバディシステムは大活躍します。ずっと目を離さずに見ている必要はありませんが、潜降中、ダイビング中、エキジット中はバディで協力し、トラブルを未然に防ぎましょう。


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水深を確認する

透明度(透視度)が高いとついつい離れて潜りがちですが、ダウンカレントなどにより、知らない間に深く潜っている場合も。お互いに水深を確認するようにしていれば、おのずと定期的に自分の水深を確認することになります。

残圧を確認する

「自分の残圧が十分残っているので、バディも当然大丈夫だと思っていました。チェックすればよかったです……」これは、以前、エア切れで急浮上したダイバーのバディから聞いた言葉です。せっかく自分の残圧を確認したのであれば、バディの残圧も一緒に確認することをおすすめします。

減圧不要限界(NDLs)に注意する

「ダイブコンピュータでDECOの表示が出たら、緊急減圧停止をすればいい」というのは、非常にリスクの高い潜り方です。これは、DANが推奨する飛行機搭乗前の手順で、「DECOの表示が出たあとに必ず実施する『緊急減圧停止』後は、24時間以上のインターバルを開けること」となっていることからもリスクの高さがわかります(減圧不要限界内で潜水の場合は、複数本潜っても18時間以上のインターバル)。

このため、減圧不要限界を超えないことが重要となります。ダイビングを開始してから一定の時間が経過したらダイブコンピュータをときどきモニターし、必要に応じて水深を浅めにするなどの対処が必要です。ダイビングの後半には、残圧とともに減圧不要限界もバディと確認し合いましょう。

バディの様子を確認する

水深が深くなると、窒素酔い(ガス昏睡)の危険性があります。窒素酔いは、個人差が大きく、比較的浅い深度でも酔っ払ったような状態になることがあります。また、酸素中毒などによる痙攣や、その他内因性疾患(心臓発作や脳梗塞など)による突然の意識喪失のような状況も、急を要します。命に関わる可能性があるため、なるべく早くに気づいてもらえれば大きな助けになります。

潜降時のトラブル

案外、潜降が苦手なダイバーは多いもの。特に初心者は潜降する際にバランスを崩したり、ウエイト量が足りずに潜降に手間取ったり、反対にウエイト量が多すぎて急スピードで潜降してしまったり、とトラブルが発生しがちです。

また、体質や体調などによって、耳抜きがしにくい場合もあります。耳が抜けなくて潜降したくてもできず、バディが先にどんどん行ってしまったら…。そのように、焦ったり、無理をしたりして潜降すると、鼓膜を痛める可能性が高まります。必要なときにはサポートできるよう、バディと一緒に潜降するよう心がけましょう。

ダイビング中のトラブル

水中の位置関係で推奨されるのは「one breath away」の原則、つまりバディに一息で近づける距離感です。バディ単位でダイビングすることにより、格段にトラブルの対応能力が高まります。バディが困っていないか、ときどきアイコンタクトなどをしながら、つかず離れず潜るよう心がけましょう。08ページの項目を、ダイビング中にバディ単位で確認することをおすすめします。

浮上・エキジット時のトラブル

ダイビングの終了時には、特に初心者の場合、急浮上の可能性があります。急浮上は減圧障害の原因となるばかりか、水面に障害物(ボートの底やプロペラなど)があった場合には大きな事故につながりかねません。バディが近くにいれば、浮上し始めた際に気づき、対処することができます。また、エキジットの際も、たとえば手を空けるためにフィンやカメラをいったん持ってもらうなど、バディが協力し合うことで安全でスムーズにエキジットすることができます。

水面休息中やダイビング後も要注意

 

水面休息中は、バディに異変がないか、気にするようにしましょう。減圧障害のうち、動脈ガス塞栓症(AGE)や重篤な減圧症は浮上後すぐに発症しますが、重篤な減圧症以外はしばらく時間が経過してから発症することが多いためです。異常な疲れ、握力の低下など、ダイビング後の疲れと勘違いしやすい症状が出ていることに気づくことができるのは、バディ同士なのかもしれません。

バディと同じ体験を共有しよう

 バディはお互いを助け合う存在です。しかし、ダイビング本数や年数が増えるに従い、「そんなことわかってるよ」とついつい基本的な確認や、水中でのアシストを忘れてしまいがちですが、バディはそれを不安に思っているかもしれません。多くの事故は、その引き金となった原因のうちに対処すれば、単なるトラブルとして終了できるケースです。
 
今回の特集では、安全を最優先事項としてバディシステムのお話しをしてきましたが、バディの一番大切な機能は「同じ体験を共有する」ことです。

すばらしい体験を共有する仲間でもあり、トラブルが起こったときに助け合うチームでもある、バディシステムを活用して、ダイビングを楽しんでいただきたいと思います。

酸素やAEDの場所を確認しよう!

ダイビング中、もしくはダイビング後に、バディに異常が見られたら、症状が悪化する前に早急に対処しなければなりません。その時のために、使用するダイビング施設に「酸素」や「AED」などの応急手当ができる設備があるかないか、もしくはどこに設置されているかは把握しておきましょう。

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今回転載した記事はDAN JAPAN会員向けの会報誌「Alert Diver」に掲載されているもの。もっと詳しい内容や最新の潜水医学、安全情報を知りたい方はDAN JAPANの会員情報をチェック!会員にはダイビングに特化した保険や医療関連サービスも。
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