海難救助のプロ・海上保安庁に聞く!水難救助やダイビング時における安全管理【後編】
日本の海の警察・消防として、日夜人命の保護および救助に尽力されている「海上保安庁に聞いてみた!」シリーズ。
前編では、任務内容から実際に使っているダイビング器材、任務時の安全管理について伺った。
後編となる本記事では、一般の海水浴客やダイバーにもできる安全管理の方法についてご回答いただいた。内容についてさっそくみていこう。
【海で活動するすべての人向け】自己救命策の確保について
編集部(以下、—)
一般の海水浴客や海上でなんらかのレジャーや作業をする人ができる安全管理の方法について教えてください。
海上保安庁
ダイビング事故に限らず、海での痛ましい事故を起こさないため、まずは「自己救命策3つの基本」についてご覧ください。
① ライフジャケットの常時着用
② 防水パック入り携帯電話等の連絡手段の確保
③ 118番の活用
この3つの基本にくわえ、もしもの場合に備え、家族や友人に「目的地や現在地」「帰宅時間」を伝えることが重要です。
基本の1つめ、「ライフジャケット 常時着用」をみていきましょう。
船舶からの海中転落者について、過去5年間でみるとライフジャケット非着用者の死亡率は着用者の約5倍となっていることから、海で活動する際は、ライフジャケットの着用が生死を分ける要素となります。潜水時以外の洋上を船で移動する際等は、適切に保守・点検されたライフジャケットを正しく着用することが重要となります。
次に基本の2つめ、「携帯電話等 連絡手段の確保」についてです。
海難に遭遇した際は、救助機関に早期通報し救助を求める必要がありますが、携帯電話を水没させ、通報できなくなってしまった事例があります。対策として、ストラップ付の防水パックを利用し、携帯電話を携行し、連絡手段を確保することが重要です。
最後に基本の3つめ、「海の緊急通報用 電話番号118番」についてです。
救助を求める際は、携帯電話のGPS機能をONにした状態で118番に直接通報することで、正確な位置、迅速な救助に繋がります。加えて、海に行く際に、家族や知人に行き先と帰宅時間を伝えておくことも、万が一事故が起きてしまった場合に、家族や知人が早く気づくことができ、迅速な救助に繋がります。
【ダイバー向け】自己救命策の確保について
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レジャーダイバーやインストラクター、ダイビングショップができる安全管理の方法について教えてください。
海上保安庁
ぜひ実行、意識してほしい安全管理法を7つにまとめましたのでご覧ください。
(1)外部に自分の位置を伝える道具を携帯する
レジャーダイバーの皆様には、漂流や海底から浮上できない状況に陥った場合に備えて、緊急用のフロートの装備は必須であると考えます。このような緊急用具の色はオレンジ等の着色がされており、捜索機関への視認がされやすくなっています。
また海上保安庁では夜間での潜水をする場合、水中において自身の位置を示すためにシュノーケルにケミカルライトを付けて潜水を行っています。これにより、バディに対して自身の存在位置を明確にできる効果があります。
(2)インストラクターに頼り切らない
決してインストラクターを否定する訳ではなく、インストラクターも人間であるため、ダイバー各々でしっかり責任を持って安全管理をしましょう。Cカードを持っている方は、最低限、自分自身の安全管理ができる必要があります。なお、体験ダイビングの場合は、インストラクターがしっかりと管理する必要があるので除きます。
(3)器材の整備・取り扱い慣熟に努める
各自が強い責任を持って器材取り扱いの慣熟に努めてください。また、器材のチェックとメンテナンスを行い、オーバーホールはしっかりと受けましょう。
ダイビングショップ等の受入側も、利用者の個人保有の器材でもオーバーホールを受けていないようであれば、器材を使用させない対応が必要になる場合もあると思います。定期的な器材チェックやメンテナンスは大切です。マスクやフィンのストラップなどの消耗品は、不安があれば事前に交換しておきましょう。
(4)健康状態の把握、体調管理の徹底をする
海上保安庁が認知しているスクーバダイビング中の事故のおよそ8割が、溺水か病気が事故原因となっています。
体調不良が原因の溺水や、心臓や脳の病気が原因で亡くなる方もおり、普段から高い意識を持って体調管理をする必要があります。水中では浮遊感があり、あまり負担がかからないような錯覚に陥りがちですが、心肺機能にかかる負荷は想像以上に大きく、普段から基礎体力をつけ、万全な体調で臨む必要があります。
(5)気象、海象、周囲の状況を把握する
地形による潮の流れや波などの情報を予め収集し、把握しておきましょう。加えて、流されてしまった場合の対処法など、事前情報に併せて打合せを実施することが大切です。
自然の力に人間が立ち向かうことはとても困難なことなので、状況を十分に把握した上で、かつ得られるバックアップも考えて行動を検討する必要があります。
(6)バディやチームで事前にミーティングを行う
バディやチーム同士で、目的や時間、ハンドシグナルなどを打ち合わせましょう。
「空気消費量が多い」、「体調の異変」等、普段との違和感を同行者へ早期共有を図ることで最悪の事態を避けることにも繋がります。
(7)事故情報の認識
海上保安庁では、海難の種類別に現況、防止対策を取りまとめ、年に一度「海難の現況と対策」として発表しています。
スキューバダイビングについても事故傾向、事故事例等を取りまとめておりますのでこれらの情報を事前に確認して、潜在する危険を事前に認識することが安全管理として重要となります。
「令和2年 海難の現況と対策_本編_スクーバダイビング」から抜粋した以下資料をご覧ください。
ウ スキューバダイビング中における海難の防止対策
(ア)傾向
a スキューバダイビング中の事故者数は36人で、このうち死者・行方不明者数は17人でした。事故内容別にみると、溺水が最も多く26人(72%)で、続いて病気7人(19%)の順となっています。
(イ)事故事例
(ウ)分析
a 潜水経験(本数)が多い者の事故も一定数発生していますが、10本未満の潜水経験の少ない者による事故者数の割合が相対的に高くなっています。
b 60歳以上の事故者にあっては、溺水の発生率が高く顕著であり、健康状態や実施中の活動に対する不注意に端を発する事故が発生しています。
(エ)対策(当庁の取り組み)
海上保安庁では、スキューバダイビングの事故防止のため、体験ダイビングやライセンス取得等のために初心者が利用するダイビングショップ等事業者への安全啓発や(一財)日本海洋レジャー安全・振興協会などスキューバダイビング関係団体へスキューバダイビング事故情報の提供を行うとともに、関係団体主催の安全講習会において講演等を実施しています。
スキューバダイビング中における事故原因の一つに、健康状態に対する不注意もあり、各スキューバダイビング事業者は事前のメディカルチェックを実施しています。体調に少しでも異変を感じた場合は、実施を控えましょう。
水難救助の最前線で日夜戦う海上保安庁から、わたしたちレジャーダイバーへ向けての貴重なアドバイスはいかがでしたか?
海での事故を引き起こさないためにも、各自が責任をもって必要な知識を身に着け、安全管理についてできることは日頃から実行していきたい。
前編では、海上保安庁の任務内容から、実際に使っているダイビング器材、任務時の安全管理など、なかなか知ることのできない内部の事柄についてもご回答いただいている。前編のくわしい内容はこちらからチェック!